第四十七話 思春期を抹殺した少年の剣(つるぎ) 我が志、天下無双 いざ征かん孤高の頂へ
ワイトが俺と魔剣士の前に、一振りの大剣を差し出した。
「その名も魂裂き。ここより遥か南方に浮かぶ、呪われた島に出現した魔神の王が持っていたとされる大剣でございます。後に、主を転々とし、最後には黒衣の騎士と呼ばれる名高い大剣使いが愛用していたものでございます」
ワイトが差し出した大剣は黒曜石のような美しい艶をしているが、禍々しいばかりの邪気を放っているのが肌で感じるほどだった。続けて、ワイトが大剣について講釈する。
「この大剣の名前の由来は、切りつけた者の魂を引き裂いてしまうからでございます。一太刀でも切りつけられれば、その者は精神を平常に保つことが困難になるのでございます。しかしながら、大剣の使用者に対しても、多大な精神的負担がかかることにございましょうな」
「ふむ、なかなか使えそうな力を持った代物ではないか。どうだ、魔剣士よ。これだけの強大な邪気を放つ魔剣はそうはないだろう。満足いく品ではないか? ただし、お前がこの魔剣の邪気に耐えられればの話だが」
「フッ、望むところだ。オレはこの魔剣を自分のものにしてみせるさっ」
魔剣士はそう言うと、早くよこせと言わんばかりにワイトから魂裂きを奪い取り、その柄を両手で握ると目を瞑った。魔剣から流れ込む邪気に備えて、精神を集中させているのだろう。
しばらくすると、魔剣から放たれていた邪気が、魔剣士を包むように彼の周りを廻り始め、魔剣士は目を閉じたまま苦悶の表情を浮かべて小さくに呻きだした。膝がガクガクと震えている。大丈夫だろうか?
「魔剣士よ、無理はするなよ。危険を感じたら、剣を投げ出してもいいんだぞ」
俺は魔剣士が心配になって声をかけるが、彼からの返答はない。苦悶の表情は変わらないが、膝の震えは治まってきたようだ。やがて、邪気の噴流も収束してしていき、魔剣士が両目を開いた。その眼の色はいつもの彼と変わらないように見える。
「ほう、なかなかやりますな。魔剣の邪気に耐えきったようでございます」
「そのようだな。どうだ魔剣士よ、その大剣は気に入ったか?」
俺は、大剣を握り、その剣先をまじまじと眺めている魔剣士に声をかけた。
「ああ、こいつはいいな。魔剣の邪気がオレの力をも増幅させている」
魔剣士はそう言うと、残忍な笑みを満面に浮かべた。おそらく、これで更に多くの敵を切り刻めるとでも思っているのだろう。 まったく呆れたやつだ。
「…だが、まだ物足りん。もっと強いのがあるのだろ? そいつもさっさとよこせ!」
「ああ、一本では満足しないか? まあ、そんなことだろうとは思ったよ。ワイトよ、次のを用意してくれ」
「御意にございます。次なる魔剣はこの刺突剣でございます」
ワイトは俺たちの前に一本の刺突剣を差し出した。それは、呪い付きの剣とは思えないほどの品格に満ちた美しいもので、華奢な籠柄には宝石まで付いている。
「これは誘惑魔の刺突剣と名づけられた魔剣でございます。どうでございますか、魔王様。なんとも美しい刺突剣でございましょう」
「いや、確かに美しい意匠ではあるが、まるで儀礼用の剣だな。こんなのが魔剣だとは信じがたいが」
「魔王様、この魔剣を侮ってはなりませぬぞ。この剣には敵を誘惑する魔力を備えているのでございます。よって、その魔力ゆえ、より一層この剣が美しく見えるのでございましょう。そして、相手を誘惑する魔力といいますと、魔王様もその恐ろしさはよくご存じではありますまいか?」
「誘惑…か、…そうか! サキュバスの精神操作魔法と同等の力が、その魔剣にはあるというのだな」
「ご明察にございます。ただ、さすがにサキュバス様と同等というほどではありません。あのお方の力も、また強大でございますからな。そういえば、サキュバス様の姿が見当たりませんが?」
「ああ、サキュバスは何か所用があったようでな。それが済めば、ここへ顔を出しに来るだろう」
「左様にございますか。おっと、話が逸れましたな。この刺突剣にございますが…」
「おい、もう講釈は充分だ!」




