第四十六話 思春期を抹殺した少年の剣(つるぎ) 死の風を纏う獅子、その足跡を追える者無し
「おい、魔王! オレにもっと強い魔剣をよこせ!」
少年は玉座に座っている俺に鋭い視線を向けたまま言った。堪らず、傍らに控えていたワイトが少年を嗜める。
「魔王様になんという無礼な態度を! 魔王様、失礼ながら、やはり私はこの者を魔王軍に引き入れたことは間違いだったのではないかと」
「まあ、そう言わんでくれ、ワイトよ」
俺はワイトにそう答えた。この少年、魔剣士をこの魔王城に連れ込んだのは、魔王であるこの俺だ。
ここは我が魔王城の玉座の間、今ここには俺とワイト、そして、その対面の玉座の向かいに一人の少年、魔剣士が立っている。相変わらず、魔剣士はこちらに鋭い視線を向けたまま、真一文字に口を結んでいる。
「魔剣士よ、以前、与えた魔剣では不満か」
魔剣士が今腰に差している剣は、俺が彼に与えたものだ。
「ああ、もうこの剣では物足りない。だから、もっと強いのをよこせと言っている」
「しかしな、魔剣士よ。つよい魔剣にはより強い呪いがかかっているものだ。お前の精神と身体への負担も増すことになるのだぞ、それはわかっているよな?」
魔剣とは、所謂、呪われた武器の総称だ。通常は呪われた武器など、常人が扱えるわけもない。魔族であってもしかり、まともに扱えるのはアンデッドモンスターくらいだ。ただし、稀に呪いへの耐性が異常に高い者がいる。その一人が、この少年魔剣士というわけだ。
「そんなことは、承知の上だ。オレはどんな呪いにも打ち勝ってみせる」
「そうか、ならばいいだろう。お前のために、いくつか見繕ってある。己の力を試してみるがいい」
「魔王様、この者、元は人間でございます。魔剣の影響で、今は我らの眷属となりつつありますが、あまり強大な力を与えるのは、時期尚早なのではございませぬか?」
ワイトが苦言を呈す。
「いいんだ、ワイトよ。俺は魔剣士を信頼している。こいつの人間への憎しみは本物だ。その憎しみの炎が魔剣士となる才を与えたのだと俺は感じるんだ」
俺がこの少年魔剣士を拾ったのは、彼がまだ幼かった頃。廃墟と化した町の中で、一人悔し涙を流して佇んでいた。聞けば人間の大人たちに騙されて、姉と引き離されてしまったと言う。そして、その時、少年は俺が魔族であると察したらしく、俺に力が欲しいと迫ってきた。自分たちを騙した人間たちに復讐するため、そして、姉を探し出し、彼女を守れるだけの力が欲しいと。
俺は少年の人間への憎悪よりも、姉への思いに惹かれるものを感じ、彼を魔王城に連れ帰った。もちろん、幼いながら俺を魔族と見破った魔族への親和性と、魔剣士としての天賦の才を彼から感じたからというのもある。
「左様でございますか、でありましたら、魔王様の仰せの通りに魔剣を用意して参りましたので、この者のお手並み拝見といたしましょうか。しかし、魔王様、油断なさりますな。この者が魔剣の呪いに取り込まれるやもしれませぬ」
「ああ、わかっている。その時は、俺が直々に引導を渡してやろう。魔剣士もそれくらいの覚悟はあっての要望だろうからな」
「当たり前だ! オレはこれ以上強くなれないなら、死んだ方がマシだ!」
魔剣士が語気を強めて言い放った。彼は黒光りする鎧を全身に纏っている。実は、この鎧も呪いの品だ。その名を不死身の鎧という。元は、不死の王というアンデッドを統べる者が所持していた鎧で、文字通り不死の呪いがかかっている。まあ、魔剣士にとっては不死の加護と言えるだろう。つまり、あの鎧を着ている限り、魔剣士がそう簡単に死ぬことはないのだ。俺は引導を渡すとは言ったが、本気で殺すつもりはない。
そういえば、幼いころは褐色だった魔剣士の肌の色が、今は血の気の引いたような真っ白な肌になっている。恐らく、魔剣の邪気のせいで色素を失ったのだろう。その顔立ちは少女と見まがうほどの美少年なのだが、いかんせん、常に眉間に皺をよせ、たまに笑顔を見せたかと思えば、見た者の心が凍るような残忍な笑みを浮かべているので、美少年が台無しなのだが。
「それでは、まずはこの剣でございますかな」




