第四十伍話 恋する乙女の瞳の中に魔王がいます スロットのドラムは廻る
「―――!? 偶然じゃない・・・だと?」
「うららんは、お兄さんが買い物しているところを見ていたと言っていたやんね。きっと、その時からお兄さんのことを狙っていたやんね」
「も、もしかして、あの場でのあの男とのやり取りは、芝居だったというのか?」
「にゃはは、うららんが客を取るためによくやる手口やんね」
いや、芝居だったとしても、そんなに都合良く、占い師の思い通りに事が進むわけがない。
「ちょっと待て! それはおかしくないか? あの時、俺の通りかかるのを見計らって、占い師たちが一芝居うっていたとしても、俺がそれに反応して声をかけるとは限らんだろう? 無理があると思うんだが」
「にゃははん、うららんの霊感は一級品やんね。きっと、事前にお兄さんの行動を占ってるやんね」
む、俺の行動を予測していたというのか・・・。占い師の実力が本物なら、可能な作戦だったのかもしれないな。
「ふむ、それで詐欺まがいの行為というわけか・・・。いや、しかし、感心はできん行為だが、それぐらいなら衛兵にしょっ引かれることでもないと思うのだが」
「それがやんね。うららんが入ってるナントカ学会ってのがあるんやんね」
「ああ、確か、幸福のタロット研究学会とか言ってたが・・・」
「そう、その学会やんね。うららんはそこから高額なマジックアイテムを客に売るように指示されてるんよ。そっちの方が問題やんね。幸せを呼ぶマジックアイテムらしいんやけど、高い割には効果は薄いようやんね」
「そんなことをやっていたのか? ふーむ・・・」
所謂、悪徳商法というやつだな。耳にした時から、なんとなく怪しい名前の組織だとは思ったが・・・。
「妹がそんなことをやっていても、お前は平気なのか? やめさせたらどうだ?」
「うん、あたいも妹がそんなことしてるのは嫌なんよ。ナントカ学会から抜けるように何度も説得したんやけど、聞いてもらえんけんね」
「そうか、じゃあ、当の占い師本人は、どういう考えでそんな悪徳商法に手を染めているんだ? 良心の呵責とかはないのだろうか?」
「それがやんね。本人は全く悪気がないやんね。ナントカ学会の教えを信じてて、マジックアイテムを売ることでみんなが幸せになれるって思ってるんね」
そして、踊り子は少し表情を暗くして、こう続けた。
「それと、もう一つ理由があるんね。あたいたちには幼いころに生き別れになった弟がおるんよ。うららんが頑張れば、その弟をナントカ学会で探してもらえるらしいやんね。あたいも弟のことは気がかりやんね。だから、うららんが、ナントカ学会のために頑張る気持ちもわかるやんね」
踊り子の顔からは、妹と弟を心配する姉の優しさがうかがえた。ずっとスロットは打ち続けているが。
ふむ、生き別れの弟を探しているか・・・。あれ? それなら・・・
「なあ、妹の占いは一級品だと言ったよな。それこそ、弟の行方を占ったらどうなんだ? すぐに見つかりそうなもんじゃないか」
俺がそんな疑問をぶつけると、踊り子は苦笑いを浮かべながら、はあ、と、深くため息をついた。
「お兄さん、残念ながら、それは無理やんね」
「なぜ、無理なんだ?」
「うららんの占いは自分のことになると、てんで当たらないやんね。世のため人のためと思わんと、ちゃんと占えないみたいやんね」
「そうなのか? いや、まて、それなら俺の行動だって、占いで当てることは出来なかった筈じゃないか?」
「うららんに悪気は無いって言ったやんね。たぶん、お兄さんをナントカ学会に勧誘するために占ったやんね。うららんは、そうすればお兄さんが幸せになれると信じていたやんね。でも、結局、お兄さんを最後まで引き留めることはできんかったやん? だから、うららんがお兄さんを好きになったことは本当やんね。きっと、うまく占えなかったやんね」
なるほど、私情が絡むと占いがうまく出来なくなるということか、納得のいく話だな。なんにしたって、私情が強くなればなるほど、うまくいかなくなるものだ。勝負事、つまり、今、踊り子が夢中になっているギャンブルにしたって同じことだな。
「弟のことも心配なんやけど、妹のこともすごい心配なんよ。お兄さん、いい人そうやから、妹の思いを受け止めて欲しいとは思うんやけど、まあ、さっきの様子じゃ無理みたいやん、残念やんね」
踊り子はスロットを打つのをやめると、俺の方に向き直り、悲しそうな顔を浮かべている。彼女はずっとスロットを打ち続けながら俺と話していたが、よほど妹と弟のことが心配になったのだろう。ついにその手を止めた。
「お前、家族を愛しているんだな・・・」
初めはとんだ駄目姉だと思っていたが、なんだ、家族思いのいい姉じゃないか。俺は踊り子を少し見直した。
「ところでお兄さん、掛け金が無くなってしまったやん、お金貸してくれんね? 2倍、いや3倍にしてすぐに返すけん。もうすぐ大当たりしそうな気がするやんね。貸してくれたら、お礼にこの美女と酒場で楽しく過ごすサービスがつくやんね。お兄さんの奢りで」
・・・・・・・・・。
「この駄目姉が! やっぱり俺が更生させてやる!」
「わっ、いたたたたっ、やめんね! 頭ぐりぐりするの、やめてくれんね!!」
その後、結局この双子姉妹は勇者パーティーに加わったらしい。
□ 次回予告 □
「おい、魔王! オレにもっと強い魔剣をよこせ!」
少年は、誰よりも強い力を渇望していた。それに応える魔王。魔剣の呪いが少年を苦しめるが、屈することなくそれに耐える少年。しかし、最強の魔剣を手にしたその時、ついに少年の精神力も限界を迎える。朦朧とする意識の中で、少年は魔剣の声を聞く。その時、少年が見たものとは!?
このパーティーの中に魔王がいます。次章、『思春期を抹殺した少年の剣』
この次も、サービスするやんね。
※執筆中のため、予告と内容が異なる場合がございます。ご了承ください。




