第三十七話 戦士、パーティーやめるってよ 盾という役回り
「あ、魔術師さん、おはようございます。実は、朝から心が折れそうなほどの問題を抱えてまして・・・」
私は、そう魔術師さんに挨拶しました。はい、本当に心折れそうなんです。戦士さんがいなくなったら、どうやってこのパーティーを継続していけるのでしょう? たぶん、必然的に戦士さんの後継は私になると思います、だって、他に常識人がいませんから。あ、賢者さんがいますか。・・・いえいえ、彼女はまだ子供ですから、そんな重荷を背負わせるわけにはいきません。
「げ、戦士っちがこのパーティーを抜けるかもしれないってーの? うわー・・・、それってヤバイわよねーえ・・・」
魔術師さんに、この朝からの武闘家さんとのやり取りを話したところ、この反応です。ですよねー。
魔術師さんはこう見えて、打算的な考えをする人です。彼女のことが男の人からはどう見えているのかは判りませんが、私から見たら、只だらしないだけなのです。ですが、何故か彼女にご執心な男性が後を絶ちません。武闘家さんもそのうちの一人だと、私は推測しています。まあ、彼女も容姿は綺麗ですよ。私に次いでですけど。
「うーん、困ったわねーえ。まだわかんないけどー、戦士っちが抜けた時の戦闘編成も考えとかないといけないかもー? 戦士っちがいなくなるってーことはー、盾役がいなくなるってーことよねー。うわー、まじやばげなかんじー」
そうですね。まだ戦士さんが抜けると決まったわけではありませんし、私も彼が残ってくれるように全力で説得するつもりではありますが、もしものことも考えておかないわけにはいきません。
「戦士さんが、もしいなくなるとすると、前衛は武闘家さんと勇者さんの二人になるんですよね。勇者さんはアレなので、盾役なんて任せられませんから、武闘家さんを頼ることになるでしょうか」
「ぶふっ、あの馬鹿に盾役なんて勤まるわけないわよー。アイツ、猪みたいに敵に突っ込んで暴れまわるくらいしか能がないんだからあ。そんな時にアタシ達がいる後ろのことなんて、頭にないわよ。あ、アイツに頭が付いてることがこの世界の七不思議の一つだわね。・・・ぶふっ、今のちょっとうけるーう、きゃはははははっ」
確かに、言われてみるとその通りだと納得してしまいます。武闘家さんには奇跡的に頭が付いていますが、その肝心の中身が筋肉で出来ているらしいのです。
「勇者っちはほんとは盾役やれる筈なのよねーえ。だってーえ、伝説の装備の勇者シリーズ一式を揃えちゃってるんだからあ、戦士っちよりもよゆーで硬いんだけどねーえ」
「では、やはり勇者さんに頼るしかないのでしょうか?」
「あー・・・、勇者っちは盾役やりたがらないのよ。アタシ、前に盾役やってくんないって言ってみたんだけどお、そしたら、「はあ? 俺、盾役なんて面倒くせえ役回り、やんねえぞ。俺は攻撃役やりたくてここにいるんだ。つーか、攻撃役って言ったら竜騎士だよなあ。俺も竜騎士に転職できねえかなー。竜さんマジすげーっス、とか言われてー」 とか言ってたわねーえ」
はあ・・・、このパーティーの男の人たちは、どうしてこんななのでしょうか? いえ、戦士さんは別ですけどね。・・・となると、やはり戦士さんには残ってもらわないと、このパーティーは成り立たないということです。いえ、パーティーの為だけではなく、私としても、いつも頼りにしている戦士さんがいなくなるのは寂しくてたまりません。
「そうねーえ。戦士っちがいなくなっちゃうなら、王様の近衛騎士様でも雇っちゃうーう? 盾役としては、もってこいじゃなーい?」
「え? そんな人を雇えるわけないじゃないですか」
「ぶふっ、アンタ馬鹿ねーえ。魔王討伐は王様からの勅令よ。とはいっても、王国には魔王軍に抗う決定的な力はなく、勇者頼りになってんのよーお。だから、無理っぽい要求だって通るってーの、きゃはははっ」
はい、そうですか。そうかもしれませんね。というか、今、私のことを馬鹿と言いませんでしたか? いえ、いいんですけどね。
「そうね、うん、我ながら良いアイディアだわーあ。あのつまんない戦士っちよりも、騎士様の方がずっといいわねえ、捕まえちゃえば地位も安泰、老後もあんしーんってねえ」
「あの、魔術師さん! 戦士さんの悪口を言うのはやめてもらえますか! それに形式ばった訓練ばかりしている王国の騎士なんかに戦士さんの替わりなんか勤まるとは思えません!」
「なによーお! やっぱアンタもつまんないわねえー。ぶふっ、同じつまんない仲間がいなくなっちゃって寂しくなるわねーえ、きゃはははっ」
「魔術師さん! ちょっと言い過ぎじゃありませんか!」
「ふふん、あーあ可哀そうに、フられちゃったわねーえ」
「え!? ・・・どういう・・・意味ですか?」
「そのまんまよーお、アンタは戦士っちに捨てられちゃったってことお、アンタに何にも言ってないのがその証拠よお、ぶふっ、きゃははははっ」
「・・・黙りなさい」
「アンタもお高く留まっちゃって、男に何にもさせないから逃げられるってーの」
「・・・おい、黙れよ」
「まあ、アンタみたいな真面目腐った女なんか、男は求めていないってことよ。ぶふっ、どうせモテないから、僧侶なんかになったんじゃないのーお? 言い訳できるもんねー。私は神に仕える身でありますからなんとかっつーて、ぶふっ、きゃはははははっ」
・・・・・・・・・ブチッ。
「テメー!! 黙れっつってんだろうがっ、この豚女! ブーブーブーブーうるっせえんだよ! テメーが結婚できねえからって人にあたってんじゃねえよっ、この行き遅れ年増豚女!! いつもいつも男に媚び売りやがって、見ててイライラすんだよ! いつまでも男にちやほやしてもらえると思うなよ! テメーはもう落ち目なんだぜ! せいぜいあの脳筋鳥頭野郎と仲良くやってろや! あー、あのチキン野郎も言ってたな! テメーの乳も尻もだるっだるに垂れちまったってなあ! あのチキンももうテメーに飽きたんじゃねーかあ!? そうだな。テメーよりは賢者の方がいいんじゃねえかっ? あのチキン、見境ない猿だからな! 幼女でもいけんじゃねっ? ま、年増豚女よりマシだな! あははははははっ! あーっはははははははっ!!」




