第三十六話 戦士、パーティーやめるってよ 戦士の決意
「なあ賢者、俺、決めたよ」
「そうなのですか・・・。考え直してはもらえないなのですか、戦士ちゃん?」
「ああ、俺の決心は固い。もう覆す気はないよ」
「うにゅ、それはとても残念なのです」
「そもそも俺なんかには無理だったんだ。やはり俺は俺らしく生きようと思う」
「そんなことはないなのです。きっとうまくやれた筈なのです。それに、戦士ちゃんが辞めるというのなら、後はどうすればいいなのですか?」
「ふっ、ありがとうな、賢者。大丈夫だ、新しく誰か他の奴を誘えばいいさ」
「うにゅ、決意は固いなのですね」
「ああ、俺はこのパーティーを辞める」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「このパーティーを抜ける? 本当に戦士さんがそう言ったんですか、武闘家さん?」
「ああ、そうだぜっ、僧侶。俺は頭の方はちいっと自信ねえが、耳はいい。間違いねえぜっ、戦士は 「パーティーを辞める」 って言ってたぜっ」
「戦士さんが? ・・・そ、そんな」
武闘家さんが、私にとってはとてもショックな情報を持って来ました。この人は、いつも有益な情報は碌に持っていないのに、どうしてこのような心が重くなってしまう情報は早くに持ってくるのでしょうか。
ここは私たちが泊まっている宿屋のロビーです。そこの円卓に座って、私は今日の予定などを考えていました。そこに武闘家さんがやってきて、こんな話になったのです。
「俺もあれを聞いた時はびっくりしたぜっ。なんか戦士と賢者が二人で暗い顔しててよお。だから、近づき難かったもんで、少し遠巻きに様子を見てたら二人の会話が全部聞こえてきちまって。・・・えっと、こーいう耳がよく聞こえるのってなんて言ったっけ? あ、深刻耳だぜっ」
「 ? ・・・えっと、たぶん、地獄耳です・・・かね。ですが、小声で話したくなるような深刻な話も聞けてしまいそうなので、ある意味正解ですけど」
「それにしても、おめえがこのことを知らなかったのにも驚いたぜっ。このパーティーで戦士と一番仲良かったのは、おめえじゃねえかっ。戦士はおめえに何も言ってなかったのかよっ?」
「私は、・・・何も聞いていません」
私は肩を落としました。そうです。戦士さんとは懇意にしています。そうなるのは必然のことでした。なぜなら、私は僧侶、専らこのパーティーの回復役です。そして、戦士さんはパーティーの盾役をやってくれています。私は後衛、戦士さんは前衛というわけですから、私は戦闘では魔物と離れた位置にいるのですが、実は回復役は魔物に狙われやすいのです。知性が低く弱い魔物は別ですが、そうではない凶悪な魔物ほど、その傾向は顕著になります。
「あ、なんかわりかったな。戦闘でも息の合ってるおめえらのことだから、僧侶は聞いてることだと思って話したんだがなあっ」
「そうですね。何故、戦士さんは私に相談してくれなかったのでしょうか。何か悩みを抱えていたなら、私に話してくれてもよかったのに・・・」
戦士さんは責任感の強い人です。だから、盾役なんて大変な仕事を率先してやってくれているんです。そして、私はその戦士さんに何度も何度も助けられています。そうですね。責任感の強い人であるからこそ、一人で悩みを抱え込んでしまったのかもしれません。神よ、気づいてあげられなかった私をお赦しください。
「あー、で、でもよおっ。戦士だって、おめえに話し難いこととかもあるんじゃねえかっ? 俺だって魔術師に話せねえことは山ほどあるぜっ。例えば、一年前より少し胸と尻が垂れたとかさっ」
「はあ・・・、あのですね、武闘家さん。私も女ですからね、本人がいないとはいっても同じ女としては、そんなデリカシーのない言葉は聞きたくありませんねっ」
「え? お、お前が怒ることないだろっ」
私がムッとした顔で武闘家さんを嗜めると、彼は悪びれもない様子でした。全くこの人は・・・。
「僧侶、ま、まあ、あんまり気を落とすんじゃねえぞっ。俺も戦士に抜けられるのは嫌だからよおっ。あいつを見つけたら、思いとどまるように説得してみせるぜっ。じゃあな、俺は戦士を探してくるぜっ」
武闘家さんはそう言い残すと、「うおおおーっ」と気合の入った雄たけびを上げながら宿屋の外へ走って行ってしまいました。あの人は普段から無駄に声が大きいのですが、朝からあんな雄たけびを上げて・・・、もう公害の域ですね。神よ、罪深き武闘家さんをお赦しください。
「騒がしい人はいなくなりましたが、心の休まらない問題を置いていってくれましたね」
私はそう呟いて、考えに耽りました。
戦士さんは本気でこのパーティーを抜けるつもりなのでしょうか? いえ、本気なのでしょう。あの人は、普段は割と無口で、冗談めいたこともなかなか言えない気性です。ですので、逆に口にしたことには真実が多分に含まれているように私は感じます。有言実行を体現しているというところでしょうか。
「あら、僧侶っち、今日は浮かない顔してるわねーえ。どうしちゃったのーお?」
そう声をかけられ、振り向くと、そこには顔なじみの女性が気怠そうにこちらを向いて立っていました。魔術師さんです。




