第二十九話 俺、魔王なんだけど、気が付いたら勇者と体が入れ替わっていた件2 男のあるべき姿
俺と僧侶が二人で乳を揉んでいると、そこに男が現れた。確か、この男は戦士だったな。戦士は顔を真っ赤にして困惑している。
「う、うわっ、戦士さん! ・・・えっと、これはですね。ちょっと確認を・・・。で、ですよね、勇者さんっ」
そう言われて僧侶を見ると、彼女も戦士同様、真っ赤な顔をしていた。それで、俺に助けを求めてきたようだったので、仕方なく助け舟を出すことにした。
「え? あ、そうだな、ちょっとした確認だ。戦士よ、これは女同士でのデリケートな話なのでな。お前が首を突っ込んでいいことではないぞ」
「え!? ・・・いや、ま、まあ、そう言われると、男である俺は黙るしかないのだがな・・・」
そうだ、黙っていろ。俺はお前たちにあまりかまっている暇はないのだ。
「まあ、何はともあれ、女の子同士が仲睦まじくしているのを見るのは、男としては微笑ましいことだ。これからも僧侶と仲良くやってくれよ、勇者」
戦士が柔らかな笑みを浮かべながら、俺に言った。・・・あれ? 戦士って、こんなだったか? 確か、前回はいきなり凄まれたような・・・。うーむ、相手が男と女でこうも違うもんか? あー・・・、いや、そうだな。戦士が特別女に甘いとは言い難い。それというのも、よく考えてみれば、俺だって同じようなものだからだ。俺も女には自然と甘くなってしまうところがある。それは、異性の気を引こうとの気持ちが起因というのも少なからずあるのだろうが、しかし、それよりも、弱者を守らなければならないという使命感が俺を突き動かすのだ。
「戦士よ。どうやらお前は女に甘いようだな?」
「ははは、甘いと言われればそうなるか。ガキの頃から、「女には優しくしろ、そして、守ってやれ」 と、親父に躾けられててな。こういう性分になってしまったんだ。まあ、すけべ心が全くないともいえんがな」
戦士はそう言って頭をかきながら照れたように笑った。
「なあ、戦士よ。一つ聞かせてくれ」
俺はこの男を試したくなって、質問を投げかけることにした。
「ん? なんだ勇者?」
「もし、俺と僧侶が互いに命の危機にあり、お前はどちらか一人しか助けることが出来ないとする。そんな状況でお前ならどうする?」
我ながら、意地悪な質問だ。仮想とはいっても、この場にその仮想の場の危機にある二人がいるのだ。どちらを助けると言っても角が立つ、そんな質問。
「ん? ・・・あー、そうだな。悩ましい問題だが、いつまで悩んでいても解決するわけがない。どちらかを切り捨てなければ、二人とも失ってしまう。そういう話なんだな?」
「ふっ、理解が早いな。そんな状況で、お前は何ができる?」
「そうだな、もしかしたら、何もできないかもしれないな。その場に立ってみないとわからないが、・・・ただ、全力で、可能な限りまで全力で、二人共助ける方法を探すだろうな。それで全員死んじまったらお粗末さまな話なんだが」
ふむ、まあ、及第点な答えだな。俺はこの人間の男の考えは嫌いではない。
「そうか、意地悪な質問をして、すまなかった」
「ははっ、なんだか今日は、勇者の調子がおかしいな。あ、僧侶、俺は市場に行くことにするよ。じゃあな」
「あ、待ってください戦士さん。私もそろそろ出かけようと思っていたところです。じゃあ、勇者さん、これで失礼しますね」
僧侶は俺にそう言って手を振ると、慌てて席を立ち戦士を追いかけて出て行った。
ふう、やっと一人になれたか。一息つくと俺は改めて周りを見渡す。どうやらここは、やはり前回の件と同じく勇者パーティーが身を寄せていた宿屋らしい。俺は、その宿屋のロビーに置かれた円卓の席に座っている。
「さて、どうしたものか」
「お、勇者じゃねえかっ。一人で何やってんだ?」




