第二十五話 転生したら異世界最強になれるって本当ですか? 鉄壁のガーゴイル
「それでは次にいきますよ。左側の容器にガーゴイル、右側の容器にプラチナスライムを入れました。ガーゴイルは石像から変異した魔物ですので、物理攻撃に対しては非常に強い魔物です。一方、プラチナスライムはオークと同じように知性は低いのですが、その硬さたるや他の魔物の追随を許しません」
「ほう、防御力に特化した魔物を生み出そうというのだな?」
「はい、魔王様。この組み合わせなら、きっと魔王様を安全にお守りできる鉄壁の戦士が転生されるかと」
「おおっ、それは心強いな。サキュバス、俺はお前が傍にいれば、とりあえず安心なのだが、お前も女だからな、お前も含めて俺達を守ってくれる屈強で勇敢な近衛騎士は必要だと思っていたのだ」
「まあ、魔王様。私のことまで心配してくれるなんて、とっても嬉しいです。さて、それでは転生装置を起動させますよ。スイッチオーン!」
サキュバスは嬉しそうな笑みを浮かべながら転生装置を起動した。転生装置はゴゴゴッと唸りをあげピカッっと光ってから停止し、やがてプシューッっと音を立ててパカッっと中央の容器の扉が開いた。扉の中からはもくもくと白い煙が溢れ出す。
・・・・・・・・・。
あれ? 出てこないな。
「サキュバス、転生後の容器から魔物が出てこないみたいだが・・・」
「おかしいですね。ちょっと中の様子を見てきます」
サキュバスも怪訝な顔をしていたが、俺の声を受けそう言うと、転生後の魔物の様子をうかがおうと白い煙の充満した容器の中に入って行った。
「魔王様、大変です!」
しばらく待っていると、サキュバスがそう声をあげながら慌てて戻ってきた。
「ど、どうしたというのだ?」
何かの異常事態だろうか? まさか、転生に失敗して魔物の体がぐちゃぐちゃになってしまったとか?
「今、転生して金属の体になったガーゴイルと念話で話してきたのですが、彼が言うには、体がカッチカチに硬すぎて全く動けないと」
「な!? ・・・それではただの銅像と変わらんではないか」
がっかりだ。動けなければ何の役にも立たん。俺が額に手を当てて落胆していると、サキュバスもさすがに気落ちした様子だった。
「そ、そうですね。どうしましょう?」
「元に戻してやれよ。動けなければどうにもならんだろう?」
「わかりました。プラチナガーゴイルにもそのように伝えてきます」
サキュバスはそう言うとまた転生装置に走って行ったが、少し待つとこっちに戻ってきた。
「魔王様、プラチナガーゴイルは転生前に戻りたくないと言っています」
「は? どうしてだ?」
「はい、彼が言うには、転生後の金属の体がピカピカ光って格好いいので皆に自慢したいから、魔王城のどこかに置いて飾って欲しいと」
「え? でも、全く動けないんだろ?」
「それが、魔王様。ガーゴイルは元々数千年もの間、野ざらしにされていた石像に魂が宿った魔物ですので、動けなくても平気なのだと言っています」
「そ、そうなのか? ・・・ふむ、それならばそのように、あ、いや、しかしな」
転生後の魔物がそうしたいと言うなら、そのようにさせてやりたいところだが、一つ問題がある。
「なあ、サキュバス、そいつをその容器の中からどうやって運び出すんだ? 石でも重いのに今は金属に体が変わっているのだろう? 怪力のミノタウロスやオークは転生していなくなってしまっている。俺とお前で運ぶのか? 俺はご免だぞ」
「あー、確かに運び出すのは厳しいですね」
「もうそこから動かさずに元に戻すしかないんじゃないのか? 装置を逆転動作させれば、転生前にもどれるのだろう? そうしてやってくれ、ガーゴイルには申し訳ないがな」
「そうですね。わかりました。プラチナガーゴイル、そう言うことですから、すまないけど元に戻ってもらいますよー」
サキュバスは俺に返事をすると、転生装置の方へ呼びかけた。
「それでは、転生装置を逆転動作させますね。えーっと、確かここをこうしてと、スイッチオーン!っと」
・・・・・・・・・。
「・・・動かないな」
「あれ? おかしいですね」
サキュバスが操作した後、転生装置は黙ったままだった。
「どうしたんでしょうねえ? 操作は間違っていないと思うのですが・・・。うーん、ここをこっちに変えてみましょうか、あ、いや、こっちのレバーをこうして・・・」
サキュバスが困った表情を浮かべながら転生装置をいじりだした。大丈夫だろうか? こうなっては、やはりワイトを捜してきた方が良さそうな気がするが。
「・・・様、魔王様」
俺がサキュバスの様子を心配そうに見ていると、ふいに蚊の鳴くようなか細い声で俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。しかし、周りを見渡しても誰の姿も見えない。気のせいだろうか?




