聖剣、抜いちゃいました。
初めての投稿になります。よろしくお願いします。
聖剣伝説、それは、ここ聖都リーンバルクにて、今から150年前、人類の救世主「伝説の勇者ルガル」が、この地で聖剣を抜き放ち、魔王討伐へと旅立ったことに始まる。
見事に魔王を打ち取り、その勇者亡き後、不思議な力でこの丘に戻ってきた聖剣は、今も静かにこの地で時を刻んでいる。
さぁ、次の勇者は誰だ!
大人気!「勇者なりきり念写」
今、聖都で一番ホット。聖剣の柄を握り、引き抜こうとするポーズで記念撮影を!
聖都一番の念写師ホルムが撮影。
オプションでエフェクト魔法(光や雷光)を合成して撮影できます。
一枚たったの1000G
追加オプション 300G
俺は右手に持ったパンフレットに目を通した。
聖都へ来た記念に聖剣の丘で記念撮影をする予定だったのだ。
…風がその紙を軽く揺らした。
「…どうしてこんな事になるんだ?」俺は悪くない。きっと何も悪くない。
自分に何度も言い聞かせた。
ちらり、正面に目を向ける。
途方に暮れた顔の上司。ガレリア団長の顔が急に怒りに赤く染まる。
口パクで「キ・サ・マ…」と言いながら手でスッと首を払う仕草をする。
「え?クビ?待ってください! これ俺のせいじゃないです! 」と心の中で叫ぶ。
思わず左手で口元を抑えようとして、そちらを見た。
そこにはしっかりと煌めく刀身が握られている。
聖剣伝説 その伝説の根幹 勇者の剣
「聖剣リーングリン」
そう、俺の左手に、その柄が握られていた。
「なんでなんだよ。ただ、記念撮影をするのに柄を握っただけだよ?」
それで抜けるとか。ないわー。マジないわー。
空気読めよ…なぁ。と心で言いながら聖剣に目をやる。
ピカピカとした煌めきが目に眩しい。
その時に閃いた。そうだ元に戻せばいいんだ。
俺は勢いよく、聖剣が刺さっていた大地へ剣を突き立てた。
ガっと音を立てて剣が弾かれる。そこに有った筈の剣の穴が無い。
「えっえっ。なんでなんで無い?」勘弁してくれよー。
一度抜けたら穴も閉じるのかよ?どんな魔法なんだそれ??「いいから戻れーー」
と、俺は心の中で繰り返し叫んだ。
「……え?」どこかで誰かの声が漏れた。
さっきまで、念写の順番待ちをする観光客の喋り声や、「名物聖剣チュロス」を揚げる油の音と売り子の声。音で溢れていた丘が、一瞬にして静まり返った。
カツッ、カツッ。
俺が必死に、聖剣の剣先を「そこにあったはずの場所」に突き立てる音だけが、やけに響く。 だが、どれだけ突いても、ただの石の大地が虚しく剣を弾くだけだ。
周囲の視線が俺に集まる。ちらりと周囲を見るが、無視だ無視。構ってる余裕なんてない。
正面では、念写師のホルムが目を見開き魔導カメラを構えたまま固まっている。
さっきまで「キ・サ・マ」と呪いの言葉を吐いていたガレリア団長が、見たこともない速度でさっと人混みの後ろへと隠れた。
その目は「お前、マジで許さん」と言っている。
その直後だった。
「……ぬ、抜けた。聖剣が抜けたぁああ!!」
「勇者だ! 勇者が現れたぞ!!」
「見たか!? 左手一本で軽々と引き抜きやがった!!」
ドォォォォォン! と地響きのような大歓声が丘を揺らす。
それを感じながらも、俺はただ剣を持つ手を握ったり開いたりを繰り返していた。
「離れろよ、おい。なんでだよぉぉぉーー」
そう、手を開いても剣は手のひらに吸い付くように離れない。
そのまま、ぶんぶんと手を振り回す。聖剣は振り回されるたびに謎のエフェクトをまき散らす。辺りに煌めく光が降り注ぐ。
「おおお、見ろ! 勇者様が聖剣で辺りに祝福を授けてるぞ」
「なんて神聖な儀式なんだ...! 尊い……っ!」
違う、ただ離れてほしい。それだけ! 俺が慌てて剣をぶんぶんと振り回すと、今度は周囲の人間が一斉に地面に伏せた。
「おおお。尊きひかりがぁぁぁ」 「聖剣の輝きで目が、目がぁぁぁ!」
「お、おお俺にも祝福をくれー」「あ。あたしにも。勇者様ぁ」
煌めく刀身、降り注ぐエフェクト。ひれ伏す人達。叫ぶ声。周囲は大混乱だ。
その時、ホルムの横の男が「念写師! 撮れ! 撮りまくれ! 一枚一万Gだ、全部買い取ってやる!!」と叫ぶ。
カメラのフラッシュ魔法がパシャパシャと炸裂し、拍手と雄たけび、そして吟遊詩人が、誰もが知る勇者の歌を「勇者降臨」に仕立てて歌いだす。
「再び勇者が降臨した!大地を闇で覆い、人の世を滅ぼさんとする魔王の軍勢も、聖剣の輝きの前には――」
高らかに歌う声に、周囲の群衆が次第に旋律をなぞり、感極まる泣き声まで混ざる。
まさにカオス!
「もう勘弁してくれよぅ」ついに口に出して叫んだが、周囲の喧騒にかき消される。
「勇者様万歳!」「こっち向いて!聖剣を掲げてみてください」
降り注ぐのは歓声と、念写師ホルムが放つ猛烈なフラッシュ魔法の光。
俺の左手には、意思を持っているかのように吸い付いて離れない聖剣リーングリン。
団長は少し離れた場所から微笑みを浮かべているのが見えた。しかし、目は全く笑ってない。相変わらず口パクで俺を呪詛する言葉を吐き続けている。
「・・違うんです。そんなつもりなんて、ただ剣が勝手にーー」
俺は心の中で叫びながら、ガックリと膝をつこうとした、その時。
「道を開けよ! 聖都衛士隊だ!」
硬質な金属音が響き、熱狂する群衆が割れた。 現れたのは、磨き上げられた鎧に身を包んだ一団だ。その数、およそ20。あっという間に俺の周囲を取り囲む。
観光客の浮ついた空気とは一線を画す、公権力の登場だった。
「……ひっ」
俺は口から引きつった声が漏れる。 だって考えてみてよ。俺は今、聖王国の国宝であり、最大の観光資源である聖剣を、勝手に(俺の意思じゃないけど)引き抜いて振り回している不審者なのだ。
ああ。俺の人生終わった…。「重要文化財窃盗」「公序良俗違反」……脳内に不吉な罪状が並ぶ。
「貴殿が、聖剣を抜いた者か」
中央から、鎧を着た男が進み出てきた。衛士隊隊長だろうか。
兜の奥にある鋭い眼光が俺を射抜いた。
俺は慌てて、左手にくっついた剣を隠そうと背中に回した。
手から離れない剣は俺の動きに合わせて不格好に宙を舞った。
周囲に再びキラキラとエフェクトが舞う。
「あ、あの、違うんです! これには深くはないけど‥、浅い事情が!そうだ!写真、写真を撮ろうと手をですね。そしたら勝手に手が、あ、いや、剣が抜けて…!」
「…………ほう」
隊長は無言で俺の左手――に輝くリーングリンの刀身を凝視した。
一秒、二秒。静寂が痛い。 後ろの方では、観光客たちが固唾を飲んで見守っている。
すると突然、隊長はカシャン! と派手な音を立てて、その場に膝をついた。
「勇者様。聖剣の主となられたこと、心よりお喜び申し上げます」
「ないないない。勇者なんて、とーんでもない」
「剣、そうだこの剣。おおおお…お返ししまっす!」
俺は勢いよく背中に隠していた左手を前に差し出した。
吸い付いたままの聖剣が再びきらりと輝き、隊長の頭の上にもエフェクトをまき散らす。
その光の中でゆっくり隊長は立ち上がり、小さな声で言った。
「ははは。これが祝福ですか、いやーめでたいですね」
先ほどまでの威厳が消えて、意外と若い男の声がした。
「…まぁ、その、なんですね。これも形式ですから。詳しい話は詰め所で…」
「たた、 逮捕は!? お説教は!? 穴に戻していいって許可は!?」
「…逮捕も許可もしませんよ。とりあえずはご同行お願いします。勇者様」
隊長は周囲を見渡し今度は威厳たっぷりの大きな声で叫んだ。
「衛士隊一同、新たな勇者の降臨を祝し、これを警護いたします!」
隊長の叫びに合わせ、20人の衛士が一斉に「ハッ!」返答する。
揃いすぎた掛け声が丘に木霊する。
「さあ、我が王がお待ちです。勇者殿ご一緒に!」
「待って! 行けない! 団長が、団長――――!」
俺の叫びは、後方で苦虫をつぶしたような顔をして事態を見守っていた団長に届いたようで、しぶしぶと言った風情のままこちらへやって来た。
「貴殿は?」
そう問う隊長に、団長はゆっくり頭を下げて丁寧な礼をして答えた。
「私共はそこの…勇者…殿。アルトという名ですが、その同行者です。名をガレリアと申します。」
団長はちらりと俺の方を見る。その張り付いた笑顔が怖い。
「北方山脈の彼方にある小国、ルリアス共和国から、ここ聖王国へ通商条約の使節団として参りました」
再び沸き起こった大歓声に二人の会話もかき消されそうな勢いだった。
このままここに居ても仕方ない。そういう事で詰め所に移動することになった。
衛士たちに担ぎ上げられ、俺は無理やり馬車へと押し込まれる。
窓の外、大観衆はまだ大騒ぎをしている。
勇者誕生を叫ぶ声と吟遊詩人の歌声がこだまする。
俺は左手に聖剣、右手にシワくちゃのパンフレットという有様のまま。
観念した面持ちの団長と共に詰め所へと向かうのだった。
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