32話 みんなでサウナ
僕は相変わらず、サウナで働かされている。
最初は嵌められたわけだけど、働いているうちに楽しくなってきている。汗をかいて気持ちよくなっている人達を見ると、僕まで気持ちが晴れるようだから。
それに、ここが僕の居場所だと思えるから楽しい。
「滉斗! ぬるいわ! もっと熱くして!」
「はーい。それでは、仰ぎますね」
会長が頻繁にサウナにやって来るようになった。暑さに慣れてきたのか最近では熱波にハマってしまっているようなのだ。かなり強めに熱波を送られるのが好きという。今まで熱波が好きな女子はほとんどいなかったというのに、会長が熱波をリピートしまくるものだから、熱波にハマる女子が爆増中だ。
サウナの中は、いつでもぎゅうぎゅう。サウナの外も、会長と一緒の熱波を浴びたいという女子が長蛇の列を作っている。全校生徒が来てるんじゃないかというくらい大盛況だ。
「はぁー……。いい熱波ねぇー……。サウナって気持ちいいものね!」
会長は汗をかいてスッキリしているのだろう、清々しく僕に言ってくる。気持ち良さそうであれば、それに越したことはない。僕もやりがいがあるってものだ。会長の隣にいるのは女原さんと、副会長。生徒会のメンバーもしっかりお供としてサウナを利用してくれている。
身体の弱い女原さんもサウナに慣れてきているかもしれない。長時間サウナに滞在出来るようになっている。
「…………会長の汁が、この部屋に充満してる。スーハー……スーハー……」
滞在時間が長いのは、ただ単に変態なだけかもしれないか……。
「あの、女原さんはすぐに体調悪くなるんで、過度な深呼吸は控えてもらっていいですか……?」
女原さんはメガネを曇らせながら、辛そうに呼吸している。けど、とても生き生きとしているようです。サウナにいる時の女原さんは、いつもと違ってすごく楽しそうなのだ。……理由は言わずもがなだけど。
一旦冷静になって、こちらを見つめてくる女原さん。
「私は、あなたを信頼していますから」
「あ、ありがとうございます」
女原さんと目を合わせると、少し気まずそうに目を伏せてスーハーと深呼吸する。
「……なので、ピンチになったら、またお願いします。はぁはぁ……。信頼している人がいるから、私、限界まで吸えます……!!」
キメ顔でカッコよく言い切ったところで、大きく深呼吸を繰り返す。やってる行為は変態と変わらないんだよな……。
信じてくれてるのは嬉しいですけれども。
女原さんが止まらないので呆れていると、急に副会長が立ち上がり、僕の元へと歩いてきて肩を組んでくる。ガタイの良いビックボディが密着する。体育会系のマッチョな身体つきをしているけれども、柔らかないところは柔らかい。
豪快でカッコイイのだけれども、自分が女子だっていうことは認識して欲しいな……。バスタオル一枚に隔てられて、すぐそこに裸体がある状態なのに全く気にしてないんだよな……。
「アタシも、お前を信用してるから! 湯乃をよろしくな!」
「よ、よろしくって……、どういう意味で言ってます?」
「そりゃあ、そのままの意味だろ。夜露死苦!」
肩を組みながら、空いた片手でグーを突き出してくる。地元のヤンキー先輩みたいな絡み方だな……。僕も応えるように、副会長と拳を合わせる。すると、副会長はギュッと僕を抱きしめてくる。
「やっぱりお前、良い奴だよな! アタシの下僕にしたいくらいだよ! ははは!」
「ちょ、ちょっとバスタオル姿で抱きつかないで下さいよ。……なんか恥ずかしいのと、汗べちゃべちゃですし……」
副会長はムッとした表情をすると、さらに強く抱き締めてきて、スリスリと自信の身体を僕に擦り付けてきた。
「ほれ、アタシ汁でマーキングしておくから。匂いが取れるまで、下僕の証な」
「思いっきり汗擦り付けないでくださいってー……」
「副会長、はしたないので辞めなさい」
会長が立ち上がり、僕の副会長の間に無理矢理入り込んできて制止してくれる。副会長は「うす」とすぐに引き下がって、自分が座っていた位置へ戻って腰を降ろした。
「滉斗、しっかり断るところは断りなさい」
「は、はい」
「あなたは私の下僕だから……」
そう言いながら、会長は僕に抱き着いてきて、副会長がやっていたように自身の身体をすりすりと擦り付けてくる。何をやってるのかって、マーキングっていうヤツだろう。会長の思考が単純すぎるよ……。
「あっ!? 会長ずるっ!? そいつ、私の下僕にしたいし!」
一度離れた副会長も抱き着いてくる。
「……私は会長の下僕になりたいので、間に入らせてもらいます……」
女原さんは僕と会長の間に無理矢理入ろうとするが、会長はさらに僕と身体を密着させて、女原さんの入る隙間を与えなかった。そのおかげで、僕は会長の身体を思いっきり感じております……。
こんな賑やかな状態なのに、会長はあらたまって言ってくる。
「滉斗、ありがとう」
「こ、こんな状況で、なんですか……?」
「私、今すっごく楽しいから」
「は、はい……?」
「サウナでくらい、本音をさらけ出してもいいんだよね?」
「それは、その通りです。サウナは、なんにも羽織っていないですから?」
会長は一呼吸おいて力を抜いた後、あらためてギュッと僕のことを抱きしめる。
「私、貴方のことを、一生下僕にしたいかも!」
「はいぃ?」
ロウリュにお酒なんて入れてないんだけれども、みんな頭が火照っているのかもしれない。副会長は僕に抱き着いていた手を緩めて、僕の身体を会長へと押し付ける。
「よし、滉斗。男を見せろ!」
「私は認めないですよ。私が会長の下僕になるんです」
女原さんはどうにか、副会長を食い止めようとしている。
どこまで行っても下僕扱いは変わらないかもしれないけど。それでも、僕に居場所をくれているのであろう。
いつか下僕を脱して、同じ目線に立てるといいな。
そのために、僕ができるのは……。
「皆さん下がってください。僕にくっ付いてのよりも、もっと熱くしてあげますから!」
僕は熱波を送る。
この学園を無事卒業できるまでの間は、サウナ室の奴隷として働くことになるだろう。
それで良いと思っている。
ここが僕の居場所で、湯乃さんが作ってくれた場所。
ここで皆が気持ちよくなってくれると、僕も気持ちいいから。
皆の気持ちが整ってくれると、僕も嬉しいから。
第一部、完。




