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無口で清楚なコーニャお嬢様、実は落語の話になるとグイグイくる  作者: 春風亭吉好
俺はコーニャお嬢様に、Vtuber体験をさせる
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幕間その6 上戸九、子供の頃を振り返る 中編 

「おぅ、九はよく覚えたな。ももはもっと稽古しな」

「はーい」

「……」


梅歌師匠の落語会が終わった後に家へ招かれ、お礼と言う事でお寿司とケーキをご馳走してくれた。

俺は好物のエビ、ももはカッパ巻きを食べていると梅歌師匠が感想を言ってくれた。褒められたはずなのに俺の方が悔しかったので押し黙ってしまった。


「なんだ、九。ふてくされた顔して」

「だって、ももちゃんの方がウケてたし……」

「でも九くんの方が上手かったよ!」

「ふむ……」


梅歌師匠は不貞腐れる俺と、そんな俺を褒めるももの意見を聞いて少し考えるそぶりをした。言葉を選ぶ様な間を空けて梅歌師匠は口を開いた。


「それが落語だ」

「「え?」」


梅歌師匠の発した一言が理解できず俺とももは同時に聞き返してしまった。


「だからよ、九みたいにすぐ覚えて達者なやつもいれば、ももみたいに愛嬌で乗り切るやつもいる。どっちがいいってわけじゃない。それが個性だ。笑いはももが多かったかもしれないが、感心されたのは九だと思うぞ」

「でもどうせやるなら笑ってもらった方が……」


自分が口に出した言葉に驚く。俺は今まで人前で目立ちたいと思った事はなかった。

それがこの日ももと比べられる事で初めて笑いを取りたいと思ったのだ。


「だったらもっと沢山の落語を聞いて、覚えて、マネしてみな。俺の落語会だったらいつでも上げてやるからよ」

「うん……!」

「わーい、また九くんも落語やってくれるんだー!」


それから俺はそれまで以上に楽屋に顔を出して師匠達の落語を聞いた。こういう時は寄席の席亭の子供で良かったと思った。


この頃の俺は自分の記憶力の使い方を調整できる様になっていた。

集中すれば一度聞くだけで覚える事ができる、逆にあえてボーッとすれば情報をインプットせずに済むといった具合だ。

自分が覚えたいと思ったネタが高座にかかったら集中して聞いて、それ以外の時は楽屋の師匠達と関係ない話をしていた。


「お、九くんまた来てるねー」

「おじゃましまーす」


「最近の子供では何が流行ってるんだ? 今度小学校で落語やるんだよ」

「えっとね、男子はみんなカードゲームやってるかな」


「……」

「お、九。一生懸命に聞いてるなー。饅頭怖い面白いか?」

「……」

「おーい、って聞こえてないか」


俺はまず『饅頭怖い』を覚えた。ももが楽しそうにやっていたので俺もやってみたくなったのだ。

セリフは一度で覚えたので翌日に梅歌師匠に聞いてもらう事にした。


『うーん、このあとは苦いお茶が一杯怖い』


「なるほど……」

「どうだった?」

「これは咲太がやってたやつか?」

「うん、昨日やってたから覚えた」

「1日で覚えたのか。そりゃスゲェな」

「それで、どうだった?」

「咲太のまんまだな」

「え?」

「咲太のセリフ、咲太の間、それを覚えたまんまだ。最初はそれで十分だし、それを1日でできたってのがスゲェんだが……」

「ダメなの?」

「よっぽど物覚えがいいんだろうな。そのまんま過ぎるんだよ。真似はいいんだが九は咲太じゃない。別人だ。だから少しずつ違った個性が面白さになるんだが……って難しかったか」

「ううん、なんとなくわかる……」


俺はすぐ覚える事ができてしまう。見たまんまを再生できる。だけれども演じている人間が違うわけだからそのまま喋っては個性がない。

間、表情をコピーしてもその人だから面白いものだ。

完璧に覚えているのに面白くない。そう言われて少しショックだった。


「まぁ小学生でそれだけ喋れるんだからいいんだよ。別にプロになるわけじゃなし……なりたいのか?」

「ううん、そういうのはももちゃんがなったらいい」

「そうだな、あいつはやりたいみたいだし、あと何年かして本気だったらやらせてみようとは思うが……。じゃあお前は今なんで落語を覚えているんだ?」

「え、それは……」


俺はなんでも覚える事ができた。歌でも勉強でも。それは基本的にはプラスではあった。

ただ覚えるだけではどうにもならない『落語』

そこに今までにない面白さを感じていたが当時の俺はそれを上手く言葉にできなかった。


「ま、いいや。あ、そうだ。今度お祭りで余興の仕事があるんだよ。良かったらいま覚えた饅頭怖いをやってみないか? 最初はももにって頼まれてたんだけど、その日は田舎に帰る事になってんだよ」

「お祭り……?」


近所のお祭りのステージで落語を一席やってほしいという依頼が町内会からあったという事だ。

町内会としてはプロのギャラを出す予算がないから梅歌師匠には頼めない。なら子供のももだったら町内の皆も知ってるし、お祭りの余興としては充分と考えたみたいだ。

ただその依頼より前にももの祖父母、梅歌師匠のご両親が住んでる田舎へ行く予定が入っていたそうだ。

断ろうかと思っていたところでたまたま落語ができる俺がいたから行ってみないかと声をかけてくれた。


「うん、俺でいいなら……」

「よし、決まりだな。じゃあ町内会には連絡しとくわ」

「わかった」


こうして俺は町内会のお祭りで落語をする事になった。

そこで俺はあ(・)の(・)子(・)と出会う事になるのだった。

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