13貴女の口は長年嘘と悪意ばかりを撒き散らしてきました。これからは、棘だらけの姿で二度と他人を傷つけないよう静かに暮らすようになさい
懲りもせず帝国の騎士たちに色目を使って、状況を切り抜けようと画策していた。一人の騎士が恭しく美しい小箱を運んできた。
「フロラベル様より、旧友の皆様へ差し入れです」
「やっぱりフロラベルも私たちに気を使っているのね!」
「見て、最高級の化粧水と香水よ」
「真実の美を引き出す美容液ですって!さすが聖女様、気が利くのね」
ベラたちは歓声を上げ、箱に群がった。疑いもせず瓶の蓋を開け、顔や体にたっぷりと振りかける。
「ふふ、いい香り……これなら帝国の騎士様もイチコロ」
香りは数秒後、強烈な完熟堆肥の臭気へと変貌した。
「え、く、臭い!?何よ!?」
「きゃあああ!顔が!顔が!!」
悲鳴が上がる。塗ったのは美容液ではない。フロラベルが害虫駆除用に開発した強制発芽の促進液。厚化粧で塗り固めていた彼女たちの顔から、ボコボコと緑色の苔やキノコが生え始めた。
「いやぁぁっ!鼻の頭にシメジが!」
「自慢の巻き髪が枯れた蔦になってるぅぅ!」
巨大なホログラム映像としてフロラベルが現れ、優雅に扇を広げた。
「ごきげんよう皆様。香水は心の美しさに反応する特注品。中身が腐っている方には、少々刺激が強かった?」
「フ、フロラベル!よくもやったわね!美しい顔を返しなさい!」
ベラが苔だらけの顔で叫ぶ。
「似合いですよ?いつも私に言っていたじゃないですか。もっと華やかになりなさいと。ですので、皆様自身の体を花壇にして差し上げました」
指を鳴らすと令嬢たちが着ていたボロボロのドレスが、硬い樹皮のように変質し、体を直立不動の姿勢で固定した。
「王族の方々が耕す畑のカカシ役を命じます。派手な見た目と、強烈な堆肥の臭いで害鳥を追い払うのに最適ですからね」
「カカシ!?公爵令嬢の私が!?」
「動けませんし、喋ると口から花粉が出ますけれど美容には良いんです。植物には。ですから感謝してください」
「んぐっ!?……口からタンポポが咲いて喋れない!」
令嬢たちは涙目になりながら、一本足で立ち尽くす人間カカシとして北の農場へと出荷されていった。フロラベルを嘲笑った口は、鳥を追い払うための奇声を発するだけの機能しか持たない。
様子を見ていた帝国の騎士たちは、ドン引きしながらもアーレイに報告した。
「陛下。令嬢たち我々に色目を使っていたようですが……」
「中身のない花に群がるのはハエだけだ。フロラベルの慈悲のカカシ化に感謝することだ」
アーレイは全く相手にしていなかった。彼の目には苔だらけになっても凛と立つフロラベルの姿だけが、世界で最も美しく映っていたのだから。
王国が滅び、難民キャンプとなった国境付近にはまだ懲りずにヒソヒソ話に花を咲かせる一団がいた。
中心にいるのは王国の社交界で歩くゴシップ製造機と呼ばれていたマーガレット伯爵夫人と取り巻き令嬢たち。
彼女たちは、フロラベルに関するありもしない悪評「庭で黒魔術の儀式をしている」「王太子の気を引くために媚薬を育てている」などを流して孤立させた元凶。
「聞いた?フロラベル、帝国の皇帝をたぶらかして聖女気取りですって。きっと何か汚い手を使ったに違いないのよ」
「そうね。昔から陰気で何を考えているか分からない子だったものね!」
泥だらけのテントの中でも口は止まらない。自分たちの不幸を棚に上げ、成功したフロラベルを妬むことで精神の安定を保っている。
「まだそんな面白いお話をなさっていたのですか」
突如、テントの入り口が開き、冷ややかな声が響いた。逆光の中、現れたのはフロラベルと氷の威圧感を放つアーレイ。
「ひっ……!フ、フロラベル様!?いえ、聖女様!」
マーガレット夫人は真っ青になり、媚びへつらうような笑みを浮かべた。
「誤解しないでくださいまし!貴女様の素晴らしいご活躍を噂していただけで……オホホ」
「分かっております。マーガレット様は昔からお話作りがお上手でした」
フロラベルはにっこりと微笑み、バスケットから美しい紫色のコサージュを取り出した。
「再会を祝した私からのプレゼントです。花は雄弁のオーキッド。身につけると、言葉に説得力が増すと言われている貴重な魔導植物です」
「素晴らしいものを私に!?やっぱりフロラベル様はお優しい」
マーガレット夫人は疑いもせずコサージュをひったくるように受け取り、胸元に飾った。
これがあれば、帝国の騎士たちに取り入って良い待遇を受けられるかもしれない。浅ましい計算が透けて見える。
「素敵なお話を聞かせてください……花は嘘や悪意には少し敏感ですので、お気をつけあそばせ?」
忠告を無視し、マーガレット夫人は早速、近くにいた帝国の騎士に向かって愛想笑いを浮かべた。
「騎士様、聞いてくださいまし。実は私。フロラベル様とは親友でして、昔から才能を見抜いておりましたの。オホホ……」
その瞬間だった。ブチッ!マーガレット夫人の口から、言葉の代わりにゴルフボール大の超強力な棘だらけの種(ひっつき虫)が飛び出した。
「え?……んぐっ、痛っ!?」
種は唇にベッタリと張り付き、鋭い棘が食い込んだ。
「ひい!な、何よこりぇえ!?取れないいいいい!」
焦った彼女は言い寄ろうとした。
「ち、違うの!間違いで……あの女、フロラベルが嵌めたの!陰気な庭師女が!」
ブチブチブチッ!悪態をつくたびに、口から次々と巨大なひっつき虫が発射されて顔面、自慢の巻き髪や高価なドレスに張り付いていく。
「いやぁぁぁっ!髪が!顔が痛いぃぃっ!いやあああ!」
あっという間にマーガレット夫人は全身が棘だらけの茶色い塊。巨大な歩くオナモミのようになってしまった。取り巻きの令嬢たちが悲鳴を上げて逃げ惑う中、フロラベルは説明する。
「ひっつき虫は一度くっつくと強力な粘着液を出して、絶対に取れません。無理に剥がそうとすれば、皮膚や髪ごと持っていかれますよ?」
「んぐぐ……!ふがふが!(取って!痛い!)」
口元を棘で塞がれた夫人は言葉を発することもできない。
「貴女の口は、長年、嘘と悪意ばかりを撒き散らしてきました。これからは、棘だらけの姿で二度と他人を傷つけないよう、静かに暮らすようになさい」
アーレイが冷たく言い放つ。
「安心しろ。棘は北の開拓地で獣避けの柵代わりに使えるだろう。この女を連れて行け」
全身ひっつき虫だらけになった元ゴシップ女王は、影の騎士団によってずるずると引きずられていく。通った跡には、剥がれ落ちた棘と後悔の涙だけが残った。
最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。




