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爆走! 玉座ドリフト・プリンセス ~巻き添えにされた男子高校生、地上最速の王女とランデブー!~ 【玉座レース編】  作者: 正座回転ドリフト王子
第2章 玉座グランプリ

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1 玉座の魔改造

 ハミデール王国の中央に位置する大きな公園。

 通称『クリスタル・ヒロシくん記念公園』。


 数多(あまた)の功績が認められ、勇者ヒロシの名を冠した公園が作られたのだった。


 ヒロシ自身の銅像の前で、ヒロシはカトレアの到着を待っていた。


 時間ピッタリに、筋肉少女カトレアがやってきた。


 牛がスッポリ入りそうな巨大なリュックを軽々と背負っている。


 迷彩柄のスポブラ、スポパンという健康的な装いは、スポーツジムに赴くボディビルダーのようだ。


 カトレアは、唐草模様のでかいリュックを地面に下ろす。


 オイッスぅ~! 13歳とは思えない、背中を痛めたゴリラのような声を発すると、カトレアはゆっくりとベンチに腰掛けた。


「ピーチ姫はまだ来ていないのですね」

「呼んでないからね」

「いいんですか?」

「玉座に『ヒロシ・センサー』が搭載されてて、俺がどこにいるか分かるっぽい」

「ピーチ姫って、ストーカーですか?」

「ストーカーより質が悪い。あいつは暗殺者だな。そういえば、変態水着を誰かに売った?」

「はい。ズリオチールの王女さまに」

「やっぱりおまえかい!」

「今年の流行だとウソをついて、王族に変態水着を売り歩いてました」

「そのズリオチール王国のアデライドってヘンタイの姫が乗り込んできてね__」


 石畳をゴリゴリと削るような音が、ヒロシたちの耳を襲った。

 騒音の主は、王女専用の新型玉座『レイジング・ブル』を巧みに操るベルティーナだ。

 王女の派手な登場に、道行く人たちから拍手喝采がわき起こる。


 玉座から降りたベルティーナが、笑顔で民衆に向かって手を振った。

 大きな音に迷惑しているかと思いきや、人びとの顔からは笑みが溢れ出ている。


 “おねえちゃんって、おじいちゃんみたいなニオイがするぅ”と言われながら、街のチビッ子に小石をぶつけられるベルティーナの姿は、いつみても微笑ましい。


 別の子どもからカンチョーを食らったベルティーナは、心なしか頬を赤らめている。


 ベルティーナからカンチョーのお代わりを催促された子が、少し引いている始末だ。


 気さくを通り越したド変態のベルティーナは、ハミデール王国の民草から人気があるようだ。


 玉座に戻ると見せかけて、ベルティーナが、ヒロシに特攻をしかけてくる。

 ヒロシに抱きつこうと、両手をいっぱいに広げる。


「おまたせっ! ピロすぃ~、会いたかったぞなっ!」

「やめてくれ。恥ずかしい……」


 Sランク冒険者パワー!


 ヒロシは、乙女モードらしきベルティーナの顔面をわしづかむ。

 残り少ないワサビを、チューブから絞り出すかのように、じんわりと。

 魔力が送り込まれた右手の握力は、400キロ。最高で600キロとちょっと。


「ピロシ。照れなくてもいいんだぞっ! イダダダ……顔が……」

「恥ずかしいのは、新型玉座だ」


 数日かけて改造したというベルティーナの玉座『レイジング・ブル』。

 なにやら、魔改造を施したようだ。

 屋根とハンドルがついたほかに、ドリンクホルダー、全く機能しないカーナビなど、わけのわからないものが大量に搭載されている。


「シートベルト付きの玉座なんか見たことがない。どうでもいいけど、やたらと大きくなったな」


 以前と比べて、いまの玉座は超ワイドになっている。

 スキー場のリフトくらいの幅だろうか。


「ピロシキとイチャこらできるように、キングサイズにしたんだぞっ!」

「足回りもイジったのか?」

「わかる? 私の脚力をフルに引き出せるように改造してもらったの!」


 ベルティーナは輝かせた目を玉座に向ける。


 言い終わるが早いか、ベルティーナが玉座に搭乗する。

 虹色に光るシートベルトを装着すると、恐ろしい速度で走り出した。

 ヒロシが瞬きをする間に、ベルティーナは百メートル先に到達していた。


「楽しそうですね、ピーチ姫」


 カトレアは、バキバキな笑みを浮かべて暴走王女の後ろ姿を眺めている。


「それは何よりだが、走り屋にクラスチェンジしたほうが良さそうだよな」

「シートベルト、切れないといいですね」

「さすがに大丈夫だろ」

「ベルトが切れる確立は『1/1000』ですから」


 ヒロシとカトレアが話している間、ベルティーナは爆走を続ける。

 四輪ドリフトでヒロシの銅像辺りを一周すると、すぐに元の場所へと戻ってくる。


 急ブレーキ(ベルティーナの足)をかけた途端、やっぱり切れるシートベルト。

 すっ飛ぶベルティーナ。

 勢いあまって、ヒロシの銅像を粉砕する。


「なんでお兄さんは半笑い?」

「ドワッフルの職人は、いい仕事したなと思って」

「ですよね~」


 カトレアは、なんだか嬉しそうだ。


「ドピン子。塗装し直したのか? なんか目が痛い……」

「キレイでしょ? 夜でも目立つようにしたのっ♪」


 ベルティーナは、抱えていた銅像のアタマを置いた。


 揚々と語るベルティーナの言葉のとおり、玉座は蛍光ピンクに塗り替えられている。


「ドピン子、銅像を弁償しろ。おい、人のはなし聞いてる?」


 ベルティーナの玉座トークは、しばらく続いた。


「見て、ピロシ。長旅になりそうだからトイレも付けてもらったの。ちなみに、私が出したものは、イスの後ろから出てくるんだぞっ!」


 見た目だけは高貴なベルティーナが、超ド級の笑顔でシモの話しを繰り出してくる。

 玉座の後ろから突き出る太いマフラー(排気管)のようなものを指さした。


「ボットン式の便器自動車かよ……」


 ヒロシが玉座の座面のフタを開けると、U字型の便座が顔を出す。


「出発するか」

「エモーション・ドラ~イブ!」


 ベルティーナは、自身のヒザにヒロシを搭載した。

 新型玉座を動かすには、恋愛感情が必要だ。

 ヒロシが王女に恋愛感情を抱くことで、玉座が走行する。

 その名も『エモーション・ドライブシステム』。


 余談だが、カトレアは、玉座に搭載された便器スペースに格納されている。


「カトレア。座り心地はどうだ?」

「良いわけねぇだろ!」


 ベルティーナの新型玉座をレース仕様に改造してもらうため、ドワッフル族の集落を目指して出発した。


「玉座のスピード遅くね?」


 肌の保湿をしながら、退屈そうにヒロシが呟く。


 玉座は時速3キロで走行中。


 エモーショナル・ドライブシステムが機能していないため、玉座はボットン式便器自動車に成り下がっている。


 ベルティーナが玉座を押して走行させたのは、言うまでもない。



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