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ハルくんは逃げ出したい。~男子校の姫になったらストーカー護衛からの溺愛が重すぎる!~  作者: 夜薙 実寿


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第99話 破砕音とアヴェ・マリア

 その後は残りの出場者達の紹介が続いた。なんと、数合わせの為か本当に教師までがエントリーされていた。前半の飛び入りシード枠で会場が盛り上がり過ぎたせいで、元々の出場者だった予選四位、五位の二人は何だか可哀想なことになってしまった。


「――以上、五名が本選出場者となります! これより出場者の皆様にはこちらの提示するお題を披露してもらい、特別審査員ならびに会場の皆様にも審査して頂くことになります! 第一のお題は〝特技〟! この場で見せられるものなら何でも有りのアピールタイム! 高評価を得た上位二名が最終決戦である次のお題に進めます! では、エントリーナンバー1、東雲 暁良くんから!」


 司会者の説明の間に出場者達は皆一旦袖に捌け、名を呼ばれた東雲だけが今一度ステージに戻ってきた。その手には、何故か机が一席。


「おっと、東雲くんは何故か机を持っていますね。これは一体何に使うつもりなのでしょう? 解説の生徒会長?」

「机はあるのに椅子はない……これはおそらく、机の上で片手倒立のようなバランス技を披露してくれるのではないかと」

「成程、ありそうですね! 果たして正解は!?」


 勝手な推測を立てる司会者達に苦い顔をした後、東雲は精神集中を図るように、すぅ、と深く息を吸い――。


「ハッ!」


 裂帛の気合と共に拳を机の天板に叩き付けた。重い破砕音がして、天板は真っ二つに割れ、下の金属の部分までもが〝く〟の字に折れ曲がった。


「えええええっ!?」

「なんという怪力!」


 あまりの光景に唖然と口を開いてしまったのは、オレだけじゃなかったろう。司会者以外、客席はしんと静まり返っていた。


「いや……本当は瓦割りみたいなやつがやりたかったんだが、そんなもん用意出来なかったから……先生に聞いて処分予定の机があったんで、代わりに」


 やらかしたと焦ったのか、東雲が前髪を搔きあげながら言い訳のように零した。すると――。


「すご……」

「え、瓦割り用の瓦より、断然硬いんじゃないの?」

「つっよ……」

「きゃーん♡ 男らしい!」

「ていうか、顔が良いから何でもいい!」

  

 徐々に衝撃から覚めた人々の感嘆の声が上がり始めた。それはやがて、大歓声へと変化していく。

 ホッと胸を撫で下ろす東雲に、司会者が賞賛を送った。


「いやぁ、瓦割りならぬ、まさかの机割り! なかなかに豪快なパフォーマンスでした!」

「そこまで力があるのなら、バランス技も難なくこなせるんじゃないだろうか。次は是非そちらも披露して頂きたいところ」

「生徒会長はあくまでバランス技が見たかったようですが、ともかく! 今回、力強さを見せつけた東雲くんですが、ご存知、彼は料理も得意なんですよね! ギャップが強いですよねー! 彼の美味しいオムライスは一年二組の〈女装メイド喫茶〉で食べられますので、是非!」


 気前の良い司会者は、なんとうちのクラスの宣伝までしてくれた。

 それから、改めて第一のお題の採点方法が説明された。オレ達特別審査員は渡された1~10までの数字の書かれたプレートで点数を表示。会場の人達には各自のスマホから特設サイトにアクセスしてもらい、それぞれのパフォーマンスに同じく10点満点評価で数字を打ち込んでもらうといったやり方らしい。

 とりあえず、オレは応援の意も込めて東雲のパフォーマンスには10点の札を挙げた。


「なかなか無い発想で面白かったけど、下品。7点」


 ――棗先輩はシビアだ。


「続いては、エントリーナンバー2、御影 冬夜さん!」


 次に呼ばれたのは御影さんだ。東雲と入れ替わりに登場した彼の手には……。


「おや、御影さんはバイオリンを持っていますね。これは!」


 え、御影さん、バイオリン弾けんの!?

 オレが息を呑んで見守る前で、御影さんは慣れた手つきで楽器を構えるや、静かに演奏を始めた。昼下がりの晴天の下、有名なアヴェ・マリアの旋律が厳かに鳴り響く。

 上手! てか、うっま! 御影さん、マジで何でも出来るな!?


「……嗜む程度の腕前でお恥ずかしい限りですが、ご清聴ありがとうございました。また、楽器をお貸しくださった吹奏楽部の皆様には、心より御礼申し上げます」


 割れんばかりの拍手の中、御影さんははにかむように微笑んでみせた。その照れた笑顔に、またぞろ失神する女性客が続出した。

 いや、嗜む程度ってレベルじゃなかっただろ! プロかよ!?

 オレは迷わず10点の札を挙げた。


「上手いけど意外性が無い。6点」


 ――棗先輩はやっぱり厳しい。


「お次はエントリーナンバー3、養護教諭の三峯(みつみね) 直樹(なおき)先生!」


 白衣を翻し、やって来たのは三十代の気怠げなダウナー系イケメン教師。〝保健室の先生〟なのにやたら不健康そうだが、大人の色香溢れる仕草が女性教師のみならず一部の男子生徒の心臓を掴んで離さないと評判らしい。……おい、男子生徒?


「三峯先生は何も持っていませんね。いや……ポケットから出した手に、何か握られて?」


 その何か細長い小さな白いものを口元に運んで、先生は、


「……煙草の煙でハートが作れる」


 と、ぼそり告げるや、もう片方の手に持ったライターで例の白いものに火をつけ――。


「アウトぉおおお!! いけません、先生! 学園内の敷地は全面禁煙です!」


 すかさず、慌てた司会者の声が遮った。


「は? この場で見せられるものなら何でも有りなんじゃなかったか?」

「とはいえ、学園の規則は絶対遵守です! こんな保護者の方々も見ている前で喫煙とか、マズイですよ、先生! 顰蹙(ひんしゅく)ものですよ!」

「このボクの居る空間で有害な化学物質を撒き散らすとか、有り得ない。マイナス100点。退場」


 棗先輩の鶴の一声で、敢えなく三峯先生は失格となったのだった。

 その後も第一審査のお題、〝特技〟披露は続き――。


「エントリーナンバー4、四谷(よつや)くん!」

「特技は絵を描くことです!」

「おぉ、写真みたい! 10点!」

「出来は悪くないけど、そのサイズじゃ遠くの人にはよく見えないでしょ? スクリーンとかも用意すべきだったね。観客のことも考えて。5点」

 

「エントリーナンバー5、五条(ごじょう)くん!」

「一人コント! 『膝チョップ』!」

「つまらないし、意味が分からない。まぁ、自分でネタ考えたのだけは頑張ったんじゃない? 3点」

「えぇと……7点、かな」


 そんなこんなで一通りのパフォーマンスを終えて、集計結果で勝ち残った上位二名が決定した。

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