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夢見の良い枕  作者: 劇鼠らてこ
幕間
49/59

48話 『夢見の悪い枕』

前半、非常に読み辛い作りになっています。

お気を付け下さい。


 母上が手ずから育てている植物園の一角。

 母上に与えられ、自らも楽しみを覚えた専用の花壇の前に、彼女はいた。

 僕達王族に上げられる衣服に編み込まれた金糸を生まれながらに持つかのような、くるりと癖の付いた髪。

 薄いピンク色を基調とした服に、幼いながらも覚えていた公爵家の紋章。

 その少女は、大きく丸い瞳を輝かせて、僕が育てた孔雀草を一心に見つめていた。


 少女はまるで花に意思があるかのように語りかけ、笑いかけていた。

 嬉しかった/嫌だった。

 自分の育てた花を褒めてくれるのは、父上や母上、庭師と言った身内ばかり。

 身内以外が――それも、自身と年の近いだろう女の子が褒めてくれた、という事が何よりも嬉しかった/許せなかった。


 少女の言葉に割り込むように声をかけると、驚いたように少女はこちらを見た。


 名前を尋ねる為に名前を教えると、少女は微笑んだ。

 それは、幼い心ながらに――可憐な/媚びた――瞳だと思った。


 後になって、その女の子が公爵令嬢であり、自らの婚約者になるのだと父上から聞かされた。

 当時はまだ婚約や結婚という言葉の意味を正確には捉えていなかったけれど、彼女とずっと共に在れるのだと聞かされて、とても嬉しかった/つらかった。


 それから少女と会う機会は増えた。

 少女は僕の事を好いてくれていた。

 その行動は可愛げがあり/わざとらしく、僕も彼女を好きになった/嫌いになった。


 従者として付けられた少年に、彼女がどれほど可愛いか/悪辣かを語った。

 少年は親友として、溜息を吐きながらもずっと聞いてくれた。

 そして、お前達なら絶対に幸せ/不幸になれるよ、と背中を押してくれた。


 幼等部へ上がり、彼女は少しだけ排他的になった。

 王族として、公爵令嬢として、過分に周りと関わるべきではないから、それもいいだろうと思った。

 僕と接する時は昔ながらの無邪気で/悪意のある、可愛らしい/反吐の出る顔をしていたから、大丈夫だと思ったんだ。


 幼等部の2年目に、彼女は少しだけ素直/愚かになった。

 魔法使いの友人が出来たとはしゃいでいたのを覚えている。

 

 幼等部の最後の年には、彼女は少しだけ落ち込んでいた/苛立っていた。

 魔法使いの友人が引っ越してしまうと言っていた。


 王立学園に入ってから、彼女は変わった。

 排他的な性格は完全に鳴りを潜め/今まで以上に酷くなり、周りを見て/自らだけのために行動する様になった。


 彼女の変化は僕にとっても嬉しい/嫌な事だった。

 彼女の晴れやかな/陰鬱な顔を見る度に、今日も頑張ろうと/最悪な日だと思える。

 彼女が嬉しそうに/嫌そうにしているのを見ると、僕も嬉しかった。


 










 その女/少女は僕と彼女/あの女を/僕を値踏みする様な/慈愛を込めた瞳で見つめていた。

 声を掛けて来たけれど、幼等部までに出会った事のある令嬢ではなかったから無視/丁寧に対応した。

 するとその女/少女は酷く恐ろしい瞳で怒り出し/花の咲くような笑顔で微笑み、大きな蛇/小さな犬を呼び出した。


 逃げなければ/優しい子だ、と思った。 せめて彼女/あの女を/小さな犬は可愛かった。


 でも、僕の意識はそこで暗転した。


 次に気が付いた時、僕は彼女の膝の上に居た。

 洗脳/看病されていたのだ。

 僕はその女/少女の事を快く思うようになった。 思わされた/本心から。


 そして、1つの枕を渡された。


 この枕は最悪/最高の枕だ。

 この枕にしてから寝起きは最悪/最高で、疲れも溜まる/取れる。

 

 彼女/あの女にも最低な/巧い態度をとるようになってしまった/なれたし、彼女/あの女の悔しそうな顔が心に刺さった/楽しくてたまらなかった。

 その女/少女を彼女/あの女から守らなければと思い込まされた/決意した。


 彼女/あの女がめげずに声を掛けてくれる/掛けてくるのを悉く無視してしまった/あしらってやった。

 彼女/あの女の顔が悲痛に歪んでいくのが、つらくて/面白くてたまらなかった。


 親友が何度も忠告してくれた。 身に染みる言葉ばかり/大きなお世話だった。

 父上が何度もチャンスをくれた。 ありがたいと素直に/とっとと隠居して王位を譲れと思った。

 周りの人が変わっていく僕を心配し/嘲笑い、それでも段々と諦めていくのを感じていた。


 父上とあの魔法使い/不確定要素だけが唯一の希望/気がかりだった。

 しかし、終ぞこの枕の事には辿り着けなかった。


 そして、僕は言ってしまったんだ。

 学園で、彼女/あの女に。


 婚約を破棄する、と。















『……フランツ? どうしたんですの? こんなところに呼び出して……』


『もう耐えられない。 君の横暴な言いがかりの数々に、ジェシカがこれだけ傷ついている。 君のその自分勝手な言動に、僕だってたくさん嫌な思いをしてきたんだ!』


『……!』


『だから……もう、終わりにしよう。 エリザ・ローレイエル。 君との婚約を、破棄する――』




『婚約なんていりませんの!!』




『……そう、か……』




『そしてフランツ! 私は、あなたが好きですの! だから、連れて帰りますの!』




『……は?』




『ユリア! ペイティ!』


『よっしゃあ! それでこそエリザだぜ!!』


『王子誘拐、公爵家VS王家ですねぇ~』



『お兄様! ディニテ様!』


『やれやれ……サマエラが早く行った方がいいというから何かと思えば……。 エリィのためだ。 露は全て払わせてもらうよ』


『王子誘拐に関しては軍の仕事よねぇ。 騎士団は国内に入り込んだ魔物退治ってね』


『エリザ様、こちらへ。 ペイティ・オレイユさん。 フレイと共にお二人を公爵家へお運びください』


『まさか曾孫とこんな形で共同戦線を張るとは思いませんでしたね。 殿下は私が運びますので――』


『私がお嬢様を運びます』



『おっと、お出ましのようだぜミカルス! あとシャルルー親子!』


『へぇ……これ、王国地下の封印された大蛇じゃない? どうやって……あぁ、透過していったって事ね』


『過去の英雄が封印するしかなかった大蛇ですか……上等ですね。 ミルトさん、あなたは周囲に術者……ジェシカ・ライカップがいないかを調べて頂けませんか?』


『……私では足手まとい、ですね。 わかりました。 お母様!』


『見つけても仕掛けちゃダメよ。 離脱して合図を撃ちあげなさい』


『はい!』


『それではディニテ様。 後程』


『アトゥーには、自分の娘を守っておけと伝えておきなさい!!』


『承知。 では』




『はぁっ……はぁっ……はぁっ……エリザ様!』


『私が……追いつけないとは……。 エリザ様、フランツ殿下を。 敵です』


『気を付けてください、ですの!! フランツ!』 


『ぐぇっ』


『引っ張ってでも連れて行きますのー!!』




『枕さん!!』


『エ、エリッ』


『寝るですの!!!!』

 












「ぅ……」


 夢の中で、目を覚ました。

 いつも身体にまとわりついている荊のようなものは無い。

 どころか、温もりの中で横になっている。


「起きましたの? フランツ」

「エリ……ザ……?」


 目を完全に開けると、こちらの顔を覗き込むエリザの顔があった。

 出会った頃と同じ、可憐な――いや、それよりも美しくなったと思える笑顔。

 彼女は僕の頭を撫でて、僕の頭を自身の膝に乗せてくれているようだった。


「ん、起きたな。 意識戻らねぇから何事かと思ったぜ」

「あっちの『夢見枕(ゆめみまくら)』の影響が抜けきってなかったんでしょうねぇ。 魅了の魔法を違う術者が同じ人間にかけた感じ、って言えばわかる?」

「いや、まず魅了の魔法を知らねえって」


 中性的だが、かなり荒っぽい何者かの声。

 その近くで、聞いた事の無い少女の声が聞こえた。


「なぁぉ……」

「君は……」


 頬をぺろりと舐めてくる猫を見て、その毛並を思い出す。

 いつか僕の部屋に来た、群青と白色の美しい毛並を持つ子猫だ。


「フランツ、起き上がれますの?」

「あぁ……不思議なほどに、身体が軽いからね」


 ゆっくりと身を起こす。

 身体が軽い。 いつもこの空間に来る時は、身体が軋んで重くて痛くて仕方ないのに。

 それに、真っ暗じゃないのも初めてだ。

 突き抜けるような風が心地よい、どこかの山頂。

 ログハウスのような作りをした部屋。


「ここは……?」

「ラン婆の隠れ家……を、元にしたコピー空間よ。 エリザが居るときだけこれになるのは多分、(アンタ)がエリザを一番大事に思っているからでしょうねぇ」

「一番大事ィ? エリザ嬢を一番大事に思ってるのはそこのクソ王子じゃねぇの?」

「アンタの中で一番大事な物がエリザ、って事よ」

「なーる」


 その2人……その1つと1人は、ティーチェアーの上に座っていた。

 上品な作りをしたメガネと三つ編みが特徴的な、緑色の制服を纏う少女。

 そしてその膝の上で紅茶を啜る――枕。


「ま……枕?」

「おう? なんだ、あっちの枕はこういうカッコしてねぇのか」

「私がこの恰好してる時点で察しなさいよ。 あんたは特例、っていうか異例でしょ」

「言われてみればそりゃそうだな。 おうクソ王子……あー、まぁフランツでいいか。 俺は枕だ。 枕、でも枕さん、でも好きに呼んでくれや」


 どこが顔なのか、どこが口なのか、手なのか足なのか……全く分からないその白い枕が言う。

 枕の耳の部分を器用に振っているのは、人間でいう手を振る動作なのだろうか。


「すまない……未だに状況が上手く飲込めていない。 けれど、なんだろうか……ここは夢、で合っているかい?」

「合ってますの。 ここは枕さんで眠る事で来られる、夢の中ですの」

「……僕の知っている夢の中と、随分と様相が違うね」


 一瞬、アイツが趣向を変えて来たのかと疑った。

 けれど、それは違うと確信した。


 だって、今自分は――エリザを、好きだと思えているから。


「! そ、そうだエリザ! 言わなくちゃいけない事があるんだ」

「? なんですの?」


 片膝を突き、(こうべ)を垂れる。


「――今まで、本当にすまなかった。 君を――傷つけた」


 婚約者としても、王子としても、男としても。

 最悪な行為をした。

 非の無い彼女を責めたて、傷つけ、挙句の果てにその責任を彼女へと被せた。


「だから――」

「私は、フランツが好きですの。 恋に恋をしていた自分も、それを愛してくれたフランツも、あの孔雀草を美しいと言った貴方も」


 その小さな唇から、言葉が漏れる。

 僕の言葉を遮って。

 その強引さは幼き彼女には無かった物だ。


「僕が――」

「だからフランツ。 私は、あの婚約破棄を取り消してほしい、とは言いませんの」

「……ッ!」


 拒絶だ。

 失意に、悲しみに……自責に、俯く。

 自らの行った事が、全て自分に帰ってきただけのこと。


 そんな僕を、何か温かい物が包み込んだ。


「え……?」

「フランツ。 愛していますの。 だから……結婚、しましょう?」


 唇に、温かい感触が――。





さぁ、ここから逆転――ではなく、もう一話(長くなったら2話)幕間があります。

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