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夢見の良い枕  作者: 劇鼠らてこ
前章
43/59

42話 『スタートライン』

42話にして……!




「昔はこうして一緒に寝ていたわねぇ……」

「はいですの。 お屋敷では……ずっと一緒でしたの」

「エリザももう15歳。 あと1年で結婚できる歳よ?」

「……お母様は、お父様と何歳の時に結婚したんですの?」



 ついさっきまでミルト嬢と共に寝ていたエリザ嬢と、恐らく普段は昼寝などしないのであろうセシリア母ちゃん。 案の定と言うべきか、2人は中々寝付けないでいるようだ。

 いくら(おれ)が寝心地の良い枕だといっても、眠気が無ければただの抱き心地・触り心地が最高な枕でしかない。 ……それでも十分じゃないかとは思うんだけどな?


 しかし、これはいい流れだ。 眠るときに見てしまった夢こそその人の恥ずかしい過去とかを再生できるのだが、一度夢世界で話してしまえば寝てる奴の見せてもいいと思った夢しか見られない。

 一応セシリア母ちゃんとアトゥー父ちゃんの出会いは見せてもらったが、やっぱりこういうのは当人の口からきくのが一番の醍醐味って奴だろう。



「そうねぇ……。 正式に結婚したのは……私が17で、アトゥーが24の時かしら。 告白したのはあの人が軍学校の頃だから……私が11歳の時かしらねぇ?」

「え……」



 わけぇ……!

 というかソレはもう幼いって時だろ!

 つか、あれ、もしかしてあの記憶の時がその11歳!? なんだ、アトゥー父ちゃんはロリコンだったのか……?

 


「私は身長が伸びるのが早くてね? あの人ったら、告白された時は私の事15か16だと思ってたって言ってたわぁ。 ふふ、懐かしい」

「え……でも、その、お母様は余り身長が高い方では……」

「早い時期に伸びて、早い時期に止まっちゃったのよ。 昔はディニテの身長に憧れたりもしたのよ? ほら……ディニテって、スラっとしてるじゃない?」

「はい……ですの。 かっこいいと思いますの」



 ロリコンじゃなかった。

 いや、見た目がセーフで実年齢がアウトって事は非合法ロリじゃねーか。

 ……? それ普通だな。

 


「外堀を埋めてる最中も、アトゥーの側には必ずディニテの影があったから……しかも、皆一様に『あの2人は仲が良い』、『お似合いだ』なんていうものだから……少しだけ焦っていたのよ、私。 母から受け継いだ直感(シオン)は大丈夫だって言ってるのにね」

「お母様も……焦ることがあったんですのね」

「ふふ。 その時が初めてだったけれどね。 それで……軍学校に直接赴いて、真っ向から告白して……キスをして。 ディニテに見せつけたかったのでしょうねぇ。 ふふ、あの頃は若かったわぁ……」



 エリザ嬢の顔の温度上昇を確認! 恥ずかしがってるな!

 まぁ親の馴れ初めって中々聞かないよなぁ。 しかもこんな肉食視点で。

 


「うぅ……余計眠れなくなってきましたの……」



 そう言ってエリザ嬢が顔を(おれ)(うず)める。

 少しだけ冷やしてやるか。 

 人肌から少しだけ冷たい程度に温度操作する。



「んん……」

「ねぇエリザ」

「?」



 とても優しい声。



「殿下の事……今、どう思ってるかしら?」

「ぁ……」

「恋に恋をしていた。 それに気付けた事は、あなたにとってとても大きな成長になったでしょう。 でも、本当にそれだけだったかしら?

 ――あなたが、フランツ殿下に向けていた気持ちは……本当に勘違いだけだったかしら?」



 ……まぁ、俺が口を出せる話でもないんだよな……。

 どんだけ感情を共にしたって、結局俺は部外者で。 人間ですらない、ただの枕。

 一年に満たない付き合いのエリザ嬢の、本心って部分を察するのは無理だ。 それこそ、ずっと娘を愛し続けている母親でもない限り。



「……お父様が……リロイ様への謁見と同時に、フランツと会わせてくれた時の事、今でもはっきり思い出せますの。 一番最初。 フランツは、植物園にいましたの」

「……」



 仰向けゆえに見えないが、恐らくセシリア母ちゃんはにっこりと笑っているのだろう。

 エリザ嬢の体温が戻っていく。 寒い夜だ、温度を上げよう。



「お互いこれから婚約者になる、だなんて知らなかった……。 でも、そう……その時、フランツは声を掛けてきて……」



 最初はセシリア母ちゃんに話しかけていたエリザ嬢だったが、段々と独り言のように、何かを思い出す様に小声になっていく。

 

 あ、これ……寝るな。

 まさかそれすらも織り込み済みで話し振ったのか?


 仰向けで髪が長いから顔は見えない。

 あれ、でも……んん?

 

 寝てる?



「……」



 真っ暗な世界(おれのなか)で、スクリーンが記録(きおく)を再生する――。














『ここは……植物園……ですの?』



 長い年月をかけて手入れされたであろう、広大且つ美しい植物園。

 園芸関係にゃ素人の俺から見ても、その美しさは圧倒される。



『綺麗な花……。 見た事の無い物ばかりですの……』



 沢山の花が咲き誇る中、エリザ嬢が目を止めたのは……孔雀草だった。

 色は白。 中心が黄色の、ごく一般的な孔雀草だ。

 華やかさで言えば他の赤・紫・桃といった花々に負けているように見えるソレ。



『ふふ、あなたが一番綺麗ですのね』

『――その花の名前は孔雀草。 白い孔雀草は白孔雀と言ってね……。 花言葉は、一目惚れというのさ』

『え……?』



 屈んで孔雀草を愛でるエリザ嬢の横。 気づけば、1人の少年が彼女を見下ろしていた。

 質の良い服を着た、赤味がかった金髪の少年。 


 フランツだ。



『僕の名前はフランツ。 君の名前を聞かせてくれるかい? 小さな淑女さん(リトル・レディ)?』

『あ……あ、私はエリザと言いますの。 もしかして、ここの花々はあなたが……?』

『あぁ、そこの花壇は僕が育てている。 この大きな植物園を管理しているのは僕じゃないけどね。 それと……フランツと呼んでくれると嬉しいかな。 僕も、君の事をエリザと呼びたい』

『……! はい、ですの……。 フランツ』

『うん、エリザ』



 そういえばフランツは、金色の孔雀草をエリザの為に育てたって言ってたことあったな……。 ガーデニングが趣味だったのか。 ガーデニングなんておしゃれに言っているが、ぶっちゃければ土いじりだ。 なんつーか……合わないというか。



『エリザはその孔雀草を気に入ってくれたのかい?』

『……はい、ですの。 この花が……一番輝いているように感じましたの』

『ふふ、同じだね。 僕もこの孔雀草が、一番美しいと思っていたんだ。 勿論どのコも綺麗だけれど……芯が強くて、健気で、可憐で……。 本当に美しいと思う』



 これが6歳の言う言葉かよ……。

 だが、なんだろうな。 エリザ嬢の夢に出てくるフランツと違って、とてつもなく純粋な瞳をしている。 幼いから当たり前か?

 でも、最近同じ瞳をしていたのを見たような。



『フランツは、花が好きなんですのね』

『あぁ。 知っているかい、エリザ。 花と言うのは、愛でるだけではダメなんだ。 愛してあげないと、すぐに萎れて枯れてしまう……。 でも、最上の愛を注ぐと……本当に美しい花を咲かせてくれるんだ』



 そうだ、アレは確か、あのネコの夢の中で――!?


 現実世界に、何かいる!











「なぁぉ……」


 虚空から滲み出る様にして現れた、群青と白色の猫。

 傷だらけの身体。 今にも倒れそうな足取り。


 そうしてふらふら、よろよろと歩いた猫は、やっとの思いで枕に触れ。


 その中に、吸い込まれるようにして消えた。





 直後に現れれたのは、鳥。

 音も立てずに天井付近を旋回していた鳥は、しかし途中で急降下する。


 狙いは一直線。 エリザ嬢とセシリア母ちゃんの頭……正確には、頭が乗っている枕。


 鳥のくちばしが、枕に突き刺さるか――というその瞬間。

 キシィン! という音と共に……鳥の身体が、全て凍りついた。


 そして、凍った鳥は溶ける様に宙へと消えていくのだった。
















「お母様」

「なぁに、エリザ」



 エリザは深夜に目を覚ました。

 自らの母へと話しかけると、即座に帰ってくる返事。

 胸に温かい物が広がる。



「私、決めましたの」

「そう。 それじゃ……あなたは、私にしてほしい事があるかしら?」



 前も同じような事を言われた。

 そんなもの、決まっている。 家族の力を頼らない、なんて発想が愚かだったのだ。



「ジェシカ・ライカップの足止めを……いえ、迎撃をお願いしますの」

「えぇ。 任せなさい。 それじゃあ、改めて聞いてあげるわ。 私の愛する娘は……何を決めたのかしら?」



 後頭部に枕の温かみを感じながら、胸に手を当てる。


 そして、祈るように……宣言するように、自らの母へと告げる。





「私は……フランツを手に入れますの!」





 愛でてもらうじゃダメだ。 愛してもらうじゃダメだ。

 振り向かせるでは足りない。 取り戻すのでは違う。


 自らの手で……一番最初に惚れた、一目惚れしたフランツを手に入れる!


 それがエリザの出した答えだった。







「ふふ、夜中なんだから静かにね?」

「あ……はい、ですの」


ようやくここが、スタートライン。

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