39話 『歯を突き立てて、覇を唱える』
少しずつ見えてきます。
しっかりと聞いたことが無いので漠然としたモノなのだが、エリザ嬢の通う学園は6日通学して1日休み、という体制をとっているらしい。
元の世界と似たような仕組みではあるものの、習っていることはまるで違うのだろう。
そういえばエリザ嬢が勉強しているところは夢に見ないな。
見せたくないのだろうか。
とまぁ、そんなの直接聞けばいいじゃあないかと言われりゃそうなんだが。
エリザ嬢がフランツを諦めてから、やっと1週間。 こっちで1週間と言う名を使っているのかは知らないが、とりあえず1区切りついたわけで。
いやぁ長い1週間だった。 色々あって色んな意味で。
「エリザ様。 あの……えっと、いくら同性とはいえ私は伯爵家でして……」
「伯爵家だから、と言って体を休めない理由になるんですの? ディニテ様のようになるには休息も大事ですの!」
「いやあの! それは重々承知しているのですが……」
「フレイさんに伝言を出しておきました。 さ、寝るですの!」
そんで8日目の夕方である今。
エリザ嬢が連れ込みをしてきたでござる。
『あら……ミルトさん?』
『……』
ここは学園か? なんかたまに見る場所より古い感じだけど。
中央学園は歴史があるんですの。 増設に増設を繰り返していますのよ。
……あれ。
『……? どうしたんですの、ミルトさん』
『あ……れ……? でん……』
『ミルトさん!?』
うぉ、倒れた。
びっくりしましたの。
……さっきの……?
『熱……は、ないようですけれど……。 えっと……フレイさん!』
『ここに』
……なに、侍女ってみんなニンジャなの?
ニンジャ?
ここは……。
『ミルトさんを休ませたいので、公爵家に連れて行きたいですの』
『では、運びましょうか。 お嬢様はシャルルー家に帰ると休みたがりませんので、エリザ様が強制的に眠らせてくださらないでしょうか』
『……それは。 はい! わかりましたの! 責任を以て眠らせますの!』
何か話飛躍しすぎてねぇ?
フレイさんとは何か通ずる物が有りましたの。
フレイ……余計な事を……。
『それでは、エリザ様。 お嬢様をお願いします』
『はいですの。 また夜に来てほしいですの』
『御意』
なんつーんだろ……。 こう……ユリアやペイティより侍女らしいっていうか……礼儀正しいっていうか……。
黙秘しますの。
フレイはそろそろ50を越えますので、あれくらいで普通かと。
は?
『あの枕なら、ミルトさんもぐっすりですの』
『おかえりなさい、エリザ様』
『おかえりなさい、エリザ様』
『ドゥス、メルクマルク。 ミルトさんを私の部屋に運んでほしいですの』
『わかりました。 メルクマルク、カバンを』
『わかりました。 ドゥス、ミルト様を』
こいつらはブレないな。
たまにどっちがどっちだかわからなくなりますの。
……オレイユの分家?
『シャルルー家の令嬢だよ、メルクマルク』
『相容れない血だね、ドゥス』
おや。 なんか物騒な事言ってるけど。
私が目を離した隙に……大丈夫でしたの、ミルトさん!
外傷はないと思いますが。
『今代と先代は武闘派だよ、メルクマルク』
『じゃあ大丈夫だね、ドゥス』
先々代とはダメだったって事か? っていうかシャルルー家ってエルフの家系なんだろ?
そしてペイティも……。 この2人がオレイユ家とどのような関係なのかは知りませんが。
髪色からしてオレイユ家の分家でしょう。 公爵家に居たとは思いませんでしたが。
『ありがとうございますの。 さ、ミルトさん。 寝るですのー』
『う……あれ……エリ……。 エリザ様!?』
『飛びあがっちゃダメですの! 寝るですの』
うわ、もうドゥスとメルクマルクいねぇし。
オレイユ家を知ってるんですの?
シャルルー家とオレイユ家は元々は同じ家ですから。 貴族となったのは母の代からですので、知らないのも無理はないかと。
『エリザ様。 あの……えっと、いくら同性とはいえ私は伯爵家でして……』
『伯爵家だから、と言って体を休めない理由になるんですの? ディニテ様のようになるには休息も大事ですの!』
『いやあの! それは重々承知しているのですが……』
『フレイさんに伝言を出しておきました。 さ、寝るですの!』
「それで今に至る、と。 最近エリザ嬢行動力有り過ぎじゃねぇ?」
「……今思えば少しはしたなかったですの」
「あの……エリザ様。 ここは……?」
いつものログハウス。
大樹の葉がざわめき、現実の寒さとは違う涼しさたる風が通り抜ける。 打ち付ける草原の波打ち際。 木陰。
「ようこそミルト嬢。 枕の中の真っ暗な世界へ」
「今は真っ暗じゃないですの」
「枕の中……? もしや、先程から聞こえる声はアナタですか?」
ここの季節は変わらない。
気温や気候は最善の時に止められ、ただただ箱庭の中で物が動いていく。
それを変えられるのは、枕を媒介とした彼女達だけ。
「YSE! YES! YES! 俺が枕です」
「なんだか今日の枕さん、元気ですの」
「枕さん……? もしやコレは、夢?」
テンションの高い枕。 なんとも寝辛そうだ。
というか疲れそうだ。
「夢だな」
「夢ですの」
「……いえ、痛覚がありますね。 しかし……怪我が出来ない?」
ミルト・シャルルーが突然左腕に右手の爪を立てた。 もう少し安全な確認方法は無いのだろうか。
「そりゃミルト嬢が覚えてる痛覚だな。 記憶にある痛みを引っ張って来てるだけだと思うぜ」
「というか、もし怪我したらどうするんですの!」
「あ……すみません、エリザ様の前で……。 しかし、記憶にある痛み、ですか……」
枕の言うとおり、この世界における感触は記憶にあるモノを追体験しているようなものだ。 触られた感覚、温かい、冷たい、美味しい。 身体は現実のものではないので怪我をする事が出来ないのだが。
「いつもその方法で意識覚醒とかしてるんじゃねぇの? その痛みを覚えてて、この場所で再現したって感じ」
「……ミルトさん?」
「はい。 確かに眠気が迫る時など、この方法で眠気を飛ばしています」
いくら治りが早いとはいえ、それはどうなのだろうか。
ディニテ・シャルルーの教えか、リーフデ・シャルルーの教えか。
どちらも戦闘に傾向しているから判断が出来ない。
「あれ? でも先程ミルトさんはフラフラしてましたの。 眠気ではなかったんですの?」
「あー、さっきの記憶の最初のトコか。 確かにふらついてたな。 しかもエリザ嬢の前で倒れたし」
「先程……エリザ様の前……? 確か、殿下の所へ……」
ブゥン、という音がして、スクリーンに光が宿る。
いつのまにかログハウスはその形を崩し、枕の言うとおりの真っ暗な空間へ……本来の無意識空間へと戻っていた。
やはり現在は枕が主導権を握っているという事か。
そして、映像が再生される。
『フレイ、あなたはここで』
『承知。 しかし、お気を付け下さいお嬢様。 埒外の気配がします』
『……私に何かあったとしても、絶対に出てこないで。 即座にお母様に連絡しに行きなさい』
『……甘い。 ですが、承知しました。 お嬢様の願いを叶えましょう』
この人が50歳過ぎ……? 見えねえ。 若作りしすぎだろ。
お父様より御年を召しているようには見えませんの……。
フレイの姓がオレイユである、と言えば納得してくださいますか?
こいつもエルフか。 エルフ多過ぎだろ!
『……フランツ殿下』
『あぁ……ミルト・シャルルーか。 入っていいよ』
『失礼します』
すんげー疲れてる声だな。 やっぱり寝不足なんだろうか。
フランツが出てきた夢、というのですの?
……それは?
『やぁ……珍しいね、シャルルー家は僕達王族に関わりたくないのだと思っていたけれど』
『えぇ。 伯爵家となった今でもそれは同じと、母から聞いております。 ですが、私は必要とあらば行動しますので』
『……そうかい。 それで、何用だい? 私はこれでも忙しいんだ』
私? アレ、フランツって自分の事『僕』って言ってなかったっけ。
私の覚えている限りそうですの。 スクアイラが公式の場くらい『私』で通せ、と嘆いていたのを覚えていますの。
……エリザ様、殿下の目元……酷く隈が出来ています。
『質問と……忠告があって、参りました。 まず質問です。 何故ジェシカ・ライカップと共にいる時間を優先するのですか? 殿下の婚約者はエリザ・ローレイエル様だと存じていますが』
『……優先なんかしていないさ。 でも、彼女は虐められているようでね。 僕のような学園に於ける最高権力が近くにいなければ、傷ついてしまうんだ』
『失礼を承知で言いますが、貴族間における虐め程度跳ね除けられない様では社交界に出て苦労します。 学園はその力を培うための場所でもあるのです。 殿下はジェシカ・ライカップを貴族として何の役にも立たない、『弱い存在』にするおつもりでしょうか』
おおおおお! ぐいぐい行くね、ミルト嬢!
……かっこいいですの。
い、いえ! そんな、憧れられるほどの事では……。
『……そんなつもりはないさ。 だが、守ってやらなければ彼女は傷ついてしまうんだ』
『それが余計だと言っているのです。 まぁ、ジェシカ・ライカップの事については正直に言えばどうでも構いません。 潰れるのなら勝手に潰れるだけですから。 しかし、エリザ・ローレイエル様の事については違います。 何故かわかりますか?』
『……どうにも私が責められているように感じる言葉の選びだね。 それで、エリザの事……と。 正直な所、私にとってエリザは既に興味を引く対象ではないのさ。 何故なら私には、ジェシカ・ライカップを守るという使命があるのだから。 そんなことに時間を割いていては、彼女が傷ついてしまうだろう?』
やっぱクソ王子か。 ……って、思うよな。 これだけ聴くと。 だが……。
はい。 今の私ならわかるですの。 これは……フランツの言葉じゃないですの。
……この辺りから、私は何も覚えていませんね。 おかしなことに。
あれ、本人が覚えてない記憶って再生できたっけ?
『そうですか。 ところで殿下。 忠告なのですが……』
『なんだい?』
『エリザ様を敵とするなら、シャルルー家の全てが敵に周ると思ってください。 最悪国が割れるような事になろうと、シャルルー家はアイガム王家と闘います』
『堂々とクーデターの宣言かい? あはは、面白いね。 先代から貴族になっただけの浅い血筋が、調子に乗ってしまったのかな?』
おいおいおいおい、物騒過ぎじゃね!
でも……やっぱり、フランツの喋り方じゃないですの。
ふむ……覚えてはいませんが、同じ状況であれば私もこういうでしょう。
『いえいえ……殿下の後ろにいるアナタ程ではありませんよ。 使い魔を従えて、調子に乗ってしまったジェシカ・ライカップ』
『……何の事だい? 私の後ろには誰もいないが……』
『見えてますよ、蛇と猫の使い魔。 隠す気の無い――』
『……やれ』
うお! なんだ、白と群青色の蛇!? 気色悪っ! あの猫もいるが……。
あ、ミルトさんが! 巻きつかれてしまいましたの!!
……流石に無策過ぎましたね。 フレイが甘いと言ったのはコレでしたか。 反省です。
『ぐ……な……』
『馬鹿な女。 とりあえずウチに……』
『にゃぁ。 んにゃぁあ』
『口答えするな。 ……う。 速く、行……ぐ』
なんだ? というか誰も見てないからって口調隠す気ないな?
えぇ……確実に女。 というか……。
ジェシカ・ライカップ、ですね。 やはり魔法ですか……。
『……ふぅ。 また、めまいか……。 ……? ミルト・シャルルー? 何故僕の部屋に……』
『あ……かえら……ないと……』
戻った?
えぇ……コレはフランツですの。
すみません、そのような魔法には心当たりがありません。
『あ、あぁ。 帰ってくれて構わないよ。 僕は少し体調が悪いようだし、何か用があったのならば、また今度にしてくれると助かる』
『……はい』
この後エリザ嬢と合流する、ってことか?
恐らく。 ……フランツはどうしてしまったんですの?
何やら、よくない事が怒っているのは事実のようですね。
少し変な所で区切りです。




