38話 『寒さ溢れて道ばかり』
ミジカイ!
「ふぅ、少し寒いね、メルクマルク」
「寒いけど頑張ろう、ドゥス」
最近昼間っから枕を使う奴が多いが、当然ながら毎日毎日ベッドメイクがある。
この所ユリアもペイティも情報収集に出かける事が多いので、もっぱらドゥスとメルクマルクがその役目を担っている。
この2人、いつでもセットで動いているのだろうか。
「うぅ……」
「寒い? メルクマルク」
この国……というか世界に明確な四季があるかわからないのだが、気温的には冬であると言えるこの時期。 日を増すごとに寒さも増しているようで、メルクマルクの口から漏れる白い息がその寒さを物語っていた。
ふむ。 なら、せめて水だけでも温めてやるか。
もうセシリア母ちゃんに気付かれた事だし。
いやぁ、呼びかけられたときは本当にびっくりした。 まぁ俺を覚えていたってよりは、俺の存在に気付いたって感じだったけどな。 恐らく俺という人格は全く覚えていないのだろう。 枕格って言った方がいいのか?
「あれ、冷たくない? ドゥス」
「手が麻痺している? メルクマルク」
夢世界から帰る時、セシリア母ちゃんは『頑張れば乗り越えられる』と言っていた。
つまる所……『断片的にしか情報を持って帰れない』というのは法則ではなく、本当にただ単純に忘れてしまいやすいから、というだけの事という事だ。
セシリア母ちゃんのやったとおり、頑張れば俺以外の事は全て覚えていられる……と言うこと。 だと思うんだが……。
そんな『頑張る』なんてこと、エリザ嬢やユリアがやってないはずないんだよな……。
俺が断片的にしか持って帰れないって言ったから、先入観が凝り固まってるのか?
それともセシリア母ちゃんが特別なのか?
「お湯になっている。 ドゥス、これ」
「この寒さで、どういうこと? メルクマルク」
セシリア母ちゃんのミドルネームである『シオン』ってのが関係してるのか?
そういやエリザ嬢やミカルスにはミドルネーム無いんだよな。 親子なのに。
ミドルネームってどういう条件で付くんだろ。
「絶対に水だった。 汲んだ時は。 だよね、ドゥス」
「うん、水だった。 ……わからない事は、わかる人に聞くべき。 メルクマルク」
ぐぇ!
メルクマルクの掌底が……案外力が強い!
「洗いやすい。 温かいから。 良い事、ドゥス」
「メルクマルク、原理がわからない。 もしかしたら魔法かもしれない」
え?
さらっと言ったけど……魔法って言ったよな。
もしかしてこいつら、手がかりか?
「お嬢様……じゃなくて、ペイティに相談する? ドゥス」
「お嬢様……じゃなくて、副長は今いないよ、メルクマルク」
おぉ?
お嬢様、とな。
これは……ペイティにも嬢を付けなければいけないフラグか!
ペイティ嬢。
うーん、しっくり来ないな。
「ドゥス。 それに、副長には知らせるなって言われたはず」
「メルクマルク。 忘れていた。 お嬢様は肝心なところで鈍いね」
「ドゥス。 不敬」
ふむ。
アレか。 こいつらはペイティがエルフって事を知っているのか?
そしてソレはペイティに言っちゃいけないと。
すみません俺がバラしました。 あ、出す舌が無ぇや。
「やっぱりまだ1人に出来ないね、ドゥス」
「そうだね、メルクマルク。 私達が見ていてあげないと」
ははーん。
つまりこいつらは、フランツでいう所のスクアイラ的ポジションか。
お付きの者、みたいな奴なんだな?
そういやペイティはオレイユって姓があるし……もしかしたら、それなりにすげーとこなんじゃ。
「……偉そうな事言うと、お嬢様に聞こえちゃうよ、ドゥス」
「蹴られるのは嫌。 もう覚えてないだろうけどね、メルクマルク」
ここにチクれる枕が1人。
次にペイティが俺で寝た時に、色々聞いてやろう。
「じゃ、洗濯終わらせようか。 ドゥス」
「わかった。 メルクマルク」
心無しか力が強くなった気がする。
痛いって。
さて、天日に干されている内にまた夢世界へ潜ろう。
さっきはセシリア母ちゃんが俺で寝た事で中断したが、一応検証? の最中だったのだ。
俺がどういう性質を持っているか、という検証の。
「さーて」
エリザ嬢の制服!
パサリ。
「うむ。 で、なんだっけ? ロザリア関係のモノが出るんだっけか。 つってもな……ロザリアの特徴なんて三つ編み黒髪眼鏡くらいしかしらねーし」
……。
ロザリアの服!
何も出てこない。 大雑把過ぎるって事か?
――……。
「なぁ、出て来いよー」
何かがいる気配……? みたいなのはするんだ。
人間だった頃で言うなら、喉にビー玉程度の大きさの何かが詰まっているような異物感。
すぐそこに有るのに、取り出せないようなそんな感じが。
しかし、返事は無い。
恥ずかしがり屋なのかな。
――……!
抗議の声が聞こえた気がした。
「うーむ」
無い顎を無い手で摩ろうとして、届かなくて諦める。
というかココ顎なんだな。
多分だけど、俺の意識の方が異物なんだろうなぁ。
偶然俺が宿っちゃって、元々あった意識とか官制機構みたいなヤツが追いやられた、みたいな。
本来の意識が戻ったら、俺は消えるのだろうか。
……ま、そこまで気にする事でもないか。
人間だった頃の記憶だってほとんど希薄だし、死んだ記憶も無い。
今の俺よりもう少しガラが悪かった気がしないでもない。
むしろ……一生枕に宿ったままって方が怖い。
だって枕だぜ?
今でこそエリザ嬢っていう美少女が使ってくれてるからいいけど、もし……こう、油ギッシュなおっさんの手の元に渡ったらどうだ。
俺はめちゃくちゃ冷たくなるか、めちゃくちゃ熱くなる呪いの枕になる自身が或るぜ。
前にも考えたが、俺は処分……つまり焼却されたりしたら、死ねるのだろうか。
熱いまま、痛いまま……生き続ける。
そう考えると、消える事が出来るときに潔く消えたいよなぁ。
出来るのなら、エリザ嬢と一緒に生きて……一緒に死にたい。
なんか告白みたいだな。
――……!
おや、また抗議の声が聞こえた気がするぞ。




