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夢見の良い枕  作者: 劇鼠らてこ
前章
39/59

38話 『寒さ溢れて道ばかり』

ミジカイ!


「ふぅ、少し寒いね、メルクマルク」

「寒いけど頑張ろう、ドゥス」


 最近昼間っから(オレ)を使う奴が多いが、当然ながら毎日毎日ベッドメイクがある。

 この所ユリアもペイティも情報収集に出かける事が多いので、もっぱらドゥスとメルクマルクがその役目を担っている。

 この2人、いつでもセットで動いているのだろうか。 


「うぅ……」

「寒い? メルクマルク」


 この国……というか世界に明確な四季があるかわからないのだが、気温的には冬であると言えるこの時期。 日を増すごとに寒さも増しているようで、メルクマルクの口から漏れる白い息がその寒さを物語っていた。

 ふむ。 なら、せめて水だけでも温めてやるか。


 もうセシリア母ちゃんに気付かれた事だし。


 いやぁ、呼びかけられたときは本当にびっくりした。 まぁ俺を覚えていたってよりは、俺の存在に気付いたって感じだったけどな。 恐らく俺という人格は全く覚えていないのだろう。 枕格って言った方がいいのか?


「あれ、冷たくない? ドゥス」

「手が麻痺している? メルクマルク」


 夢世界から帰る時、セシリア母ちゃんは『頑張れば乗り越えられる』と言っていた。

 つまる所……『断片的にしか情報を持って帰れない』というのは法則ではなく、本当にただ単純に忘れてしまいやすいから、というだけの事という事だ。

 セシリア母ちゃんのやったとおり、頑張れば俺以外の事は全て覚えていられる……と言うこと。 だと思うんだが……。


 そんな『頑張る』なんてこと、エリザ嬢やユリアがやってないはずないんだよな……。


 俺が断片的にしか持って帰れないって言ったから、先入観が凝り固まってるのか?

 それともセシリア母ちゃんが特別なのか?


「お湯になっている。 ドゥス、これ」

「この寒さで、どういうこと? メルクマルク」


 セシリア母ちゃんのミドルネームである『シオン』ってのが関係してるのか?

 そういやエリザ嬢やミカルスにはミドルネーム無いんだよな。 親子なのに。

 ミドルネームってどういう条件で付くんだろ。


「絶対に水だった。 汲んだ時は。 だよね、ドゥス」

「うん、水だった。 ……わからない事は、わかる人に聞くべき。 メルクマルク」


 ぐぇ!

 メルクマルクの掌底が……案外力が強い!


「洗いやすい。 温かいから。 良い事、ドゥス」

「メルクマルク、原理がわからない。 もしかしたら魔法かもしれない」


 え?

 さらっと言ったけど……魔法って言ったよな。


 もしかしてこいつら、手がかりか?


「お嬢様……じゃなくて、ペイティに相談する? ドゥス」

「お嬢様……じゃなくて、副長は今いないよ、メルクマルク」


 おぉ?

 お嬢様、とな。


 これは……ペイティにも嬢を付けなければいけないフラグか!

 ペイティ嬢。

 うーん、しっくり来ないな。


「ドゥス。 それに、副長には知らせるなって言われたはず」

「メルクマルク。 忘れていた。 お嬢様は肝心なところで鈍いね」

「ドゥス。 不敬」


 ふむ。

 アレか。 こいつらはペイティがエルフって事を知っているのか?

 

 そしてソレはペイティに言っちゃいけないと。

 すみません俺がバラしました。 あ、出す舌が無ぇや。


「やっぱりまだ1人に出来ないね、ドゥス」

「そうだね、メルクマルク。 私達が見ていてあげないと」


 ははーん。

 つまりこいつらは、フランツでいう所のスクアイラ的ポジションか。


 お付きの者、みたいな奴なんだな?


 そういやペイティはオレイユって姓があるし……もしかしたら、それなりにすげーとこなんじゃ。


「……偉そうな事言うと、お嬢様に聞こえちゃうよ、ドゥス」

「蹴られるのは嫌。 もう覚えてないだろうけどね、メルクマルク」


 ここにチクれる枕が1人。

 次にペイティが俺で寝た時に、色々聞いてやろう。


「じゃ、洗濯終わらせようか。 ドゥス」

「わかった。 メルクマルク」


 心無しか力が強くなった気がする。

 痛いって。













 さて、天日に干されている内にまた夢世界へ潜ろう。

 さっきはセシリア母ちゃんが俺で寝た事で中断したが、一応検証? の最中だったのだ。


 俺がどういう性質を持っているか、という検証の。


「さーて」


 エリザ嬢の制服!


 パサリ。


「うむ。 で、なんだっけ? ロザリア関係のモノが出るんだっけか。 つってもな……ロザリアの特徴なんて三つ編み黒髪眼鏡くらいしかしらねーし」


 ……。

 

 ロザリアの服!


 何も出てこない。 大雑把過ぎるって事か?

 

 ――……。


「なぁ、出て来いよー」


 何かがいる気配……? みたいなのはするんだ。

 人間だった頃で言うなら、喉にビー玉程度の大きさの何かが詰まっているような異物感。

 

 すぐそこに有るのに、取り出せないようなそんな感じが。


 しかし、返事は無い。


 恥ずかしがり屋なのかな。


 ――……!


 抗議の声が聞こえた気がした。


「うーむ」

 

 無い顎を無い手で摩ろうとして、届かなくて諦める。

 というかココ顎なんだな。


 多分だけど、俺の意識の方が異物なんだろうなぁ。

 偶然俺が宿っちゃって、元々あった意識とか官制機構みたいなヤツが追いやられた、みたいな。

 本来の意識が戻ったら、俺は消えるのだろうか。


 ……ま、そこまで気にする事でもないか。


 人間だった頃の記憶だってほとんど希薄だし、死んだ記憶も無い。

 今の俺よりもう少しガラが悪かった気がしないでもない。


 むしろ……一生枕に宿ったままって方が怖い。


 だって枕だぜ?

 今でこそエリザ嬢っていう美少女が使ってくれてるからいいけど、もし……こう、油ギッシュなおっさんの手の元に渡ったらどうだ。

 俺はめちゃくちゃ冷たくなるか、めちゃくちゃ熱くなる呪いの枕になる自身が或るぜ。


 前にも考えたが、俺は処分……つまり焼却されたりしたら、死ねるのだろうか。

 熱いまま、痛いまま……生き続ける。


 そう考えると、消える事が出来るときに潔く消えたいよなぁ。


 出来るのなら、エリザ嬢と一緒に生きて……一緒に死にたい。

 なんか告白みたいだな。



 ――……!



 おや、また抗議の声が聞こえた気がするぞ。


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