28話 『フランツ・アイガム』
やっと恋愛に繋がる要素が出てきます。(遅
枕とユリアとペイティは、気付くといつもの空間に座っていた。
目の前にあるのは蓋の閉じたプレゼントボックス。 何故かリボンまでもが元通りになっている。
「さて、体感かなり時間経ってる気がするんだが……そろそろ持って帰る情報を選んどいたほうがよさそうだな」
「帰って来てすぐに落とされたから現状が把握できてないんですけどー、どうしてエリザ様はいなかったんですかー? 今日学園お休みですよねー?」
「なんか父ちゃん……アトゥー父ちゃんと一緒にミルト嬢のトコいったぜ」
不意に現れるティーセット。 テーブルと椅子も、初めからそこに有ったかのように存在していた。
「シャルルー家、ですかー? あー、だから侍女長付いて行かなかったんですねー」
「いや、お前を待っていただけだからな? ミルト・シャルルーに会いたくなかったとかそういうのじゃねぇからな?」
「わかってますよー」
煽りよるなこの舎弟。
「そういやアトゥー父ちゃんと、ミルト嬢の母ちゃんはどういう関係なんだ? 呼び捨てで呼んでたけど」
「あー、アトゥー様とディニテ様は幼馴染なんだよ。 んでウチの親父が軍学校からの付き合いなんだとさ」
「ほーん。 そんでアトゥー父ちゃんは軍団長、ディニテ母ちゃんは騎士団長になったのか。 どんな生活送ってたらそうなるんだよ」
世界が白み始める。
「さぁな。 ウチの親父も無駄に強いし、親世代はそんなもんなんじゃねぇの?」
「あー……オレイユ家も似たようなものですー」
「マジかよ……」
「あー、そろそろ起きるみたいだが、どうするよ」
「持って帰りたい情報が多すぎて選べないですー」
「漠然と覚えてればいけんじゃね? 枕の事は無理みてーだが、色々覚えてられるもんだぜ」
世界が白く割れ去った。
目が覚めると同時に、ペイティは首筋に鈍痛を感じた。 外敵による襲撃かもしれないと判断し、跳ね起きようとする。
「!?」
しかし、それは横から顎下に伸びてきている腕に防がれてしまった。
確実に首を抑え込んでいる。 これは、この腕を退かさない限り起き上がれない。
「よぉペイティ。 起きたな? どこまで覚えてる?」
不意に耳元から聞こえる、自身が敬愛する侍女長の声。 口調が崩れているということは、今は仕事中ではないのだろうか。
どこまで覚えてる、と聞かれた。 ペイティは直前の記憶を思い出す。
確か、侍女長に手刀を入れられて……否、その後に何かあったはずだ。
ぼんやりと浮かぶ2つの人影。
「……リロイ様?」
口に出してみて、その人影が鮮明になる。 この国の王様であるリロイ様と、シャイニングスター・シルバーアイズ様。 そして木の矢と魔獣。
「侍女長……?」
「そうだ。 あたしとペイティは、同じ夢を見ていた。 いつもは忘れてたが、今回はかなり鮮明に思い出せている。 似たような経験あるだろ?」
言われ、思い出す。
確かに、この枕で寝た時だけ不意にワードが転げ落ちたりした。 そして今なら思い出せる。 それがどんな夢による衝動だったのかを。
「マジックアイテムに魔法……。 ペイティ、お前もう一度ランキュニアー様のトコ行ってこい。 あたしは今度アトゥー様がセッティングしてくれるっていうシャイニングスター・シルバーアイズ様との謁見で聞いてみるからよ」
「えぇ……。 あの性悪婆のトコにもっかい行くんですか……」
「エリザのためだ。 いけるよなぁ?」
「ぇぁい!」
ユリアの腕が首を絞めつける。 ペイティはすぐに返事をした。
完全な返事にはなっていなかったが。
ユリアの記憶力が凄まじいのか、それとも俺の、マジックアイテムとしての能力が変質しているのか。 枕の事は覚えていないものの、ここまでの情報量を持って帰れるのか。
もしくは、あのシャイニングスター・シルバーアイズの魔法が特別な性能を持っていたか、だ。
さて、2人は起きてすぐに業務に戻ってしまった。 勿論ベッドメイクをして。
つまり、暇になったという事だ。
「な?」
ん? なんか今聞きなれた声が……。
「なぁ~」
近い……でも、俺の全方位の視覚には何も……!?
「にゃっ」
ぐえっ。
いきなり俺の真上に物体が――猫が現れる。
猫は酷く疲れたような様子で丸くなり、そのまま寝息を立てはじめた。
『うん? おや……これは珍しい。 なんて美しい毛並をした猫なんだ』
先程シルバーアイズのプレゼントボックスで見た王城と同じようなデザインの一室。
そこに、赤味のかかった金髪の男がいた。
男はベッドに腰掛け、酷くやつれた目でこちらを見ている。
『はは……。 もしかして僕を労わってくれているのかい? ……うん。 そうじゃないって事はわかっているけれど……、少しだけ気が楽になったよ』
猫の視界なので人間のソレより歪みがきついが、この顔はわかる。
クソ王子だ。
フランツはその目の下に深い隈を作り、青みがかった唇で言葉を紡ぐ。
『君に言っても仕方のない事かもしれないけれど……、愚痴を聞いてくれないかい?』
『にゃぁ』
『はは、ありがとう』
フランツは、エリザ嬢の初期の記憶で見せていたような柔らかい笑みをこちらに向ける。
『最近ね……いや、今学期が始まってからかな。 悪夢を見るんだ。 その悪夢で、僕は誰かと一対一で話している。 真っ暗な空間で、何もない空間で、僕は誰か――いや、何かと話しているんだ』
『にゃあ』
フランツが話し始めた悪夢。 それは、とても聞き覚えのある内容。
『それが何なのかはわからない。 そこだけ靄がかかった様に思い出せないんだ。 その夢の中で僕は、常の僕ならば考えられない程に口汚い言葉を使って、そのナニカを罵っている。 でも、言葉を発するたびに僕の心は軋んで悲鳴をあげているんだ』
『なぁぉ』
『最初の頃は、夢の内容なんて覚えていなかった。 ただ心の軋みだけを覚えていて、それがとても苦しかった。 最近だよ。 ここまで明確に夢の内容を持って帰ってこれるようになったのは』
『ぬなぁー』
非常に気になる話だ。 だってソレは、先程のユリアと同じだから。
『にゃっ』
視界が動く。 恐らく猫が何かに飛び付いたのだろう。
飛びついた物。 それは何か、ピンク色の布……。
『あぁ、だめだよ。 それはジェシカから貰った枕なんだ。 入学祝いにね』
『にゃ?』
ジェシカ・ライカップから貰った枕。 猫が丸くなってすっぽり収まるほどの大きさ。
『あぁ……でもどうしてかなぁ。 貰った時の事はよく覚えていないんだ。 ひどく甘い香りがして……確かあの時、エリザと――』
ぐらり。 フランツの身体が倒れる。
『にゃ!』
『あ、あぁ……。 すまない。 悪夢のせいで、ずっと寝不足なんだ。 ……そうだね、君はそこで眠るといい。 僕はこのまま仮眠を取るから……』
言うが早いか、フランツは瞬時に眠りに就く。
余程眠気が溜まっていたのか、呼吸も深い。
『にゃ……』
猫は眠る事をせずに、起き上がる。
そして開いていた窓の淵へと飛び移った。
猫視点で見るとこんなに怖いんだな……。
『……』
フランツの寝息は正しい。 どうやら悪夢を見てい無いようだ。
『なぁ』
猫は一鳴きすると、窓の淵から下へと飛び込んだ。
ってかなり高い場所だった――!?
あくまでジャンルは恋愛なんです!!




