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夢見の良い枕  作者: 劇鼠らてこ
前章
28/59

27話 『夢の中の王と魔法。 あと猫』

久しぶりに6000文字!

「ん?」

「お?」

「あらー?」


 白を基調とした、豪華絢爛な装飾の為された廊下。 床に敷かれた赤い絨毯が、この場所の高貴さを示している。 

 

 俺達――つまり、枕である俺、ユリア、ペイティはそんな廊下のど真ん中に立っていた。


「なんだここ……。 これがあの魔法使いが渡してきたモノか?」

「あー……なんか見覚えのある紋章が……ってか」

「ここ多分王城の中ですねー。 入ったことはありませんけどー」


 言われてみれば、エリザ嬢の部屋という、公爵家の中でも特段に豪華であるはずの場所より更にランクが上な気がする装飾品、美術品が目に入る。

 窓枠一つとっても高価そうだ。 根っから庶民な俺にはその価値を測ることはできないのだが。


『シルバーアイズ殿。 如何されましたかな?』


 と、俺達の背後からえらく荘厳な声がかかる。 その荘厳さの割に、こちらを伺うような声色であったのが印象的だ。 というか呼びかけられたのはシルバーアイズって魔法使いか。

 そういえばこの空間、俺の視覚が全範囲じゃない。 他人の記憶だから、か?


 誰が話しかけてきたのかと振り向いてみれば、そこにいたのは顎鬚を蓄えたアトゥー父ちゃんよりも更に年上であろうおっさん。 50代だな。

 そのおっさんを認識してすぐ、右横からザっという音。 何事かと視線を向けてみれば、そこには(ひざまず)くユリアとペイティの姿が。


『いえ……一瞬視線を感じたモノで。 気のせいとは思えませんので、少々警戒を強めておきます』

『ふむ……こちらも近衛兵に警備を強める様言っておきましょう』


 今度は後ろ……つまり、左隣からの声。 振り向けば、そこにはペイティの夢に出てきたシャイニングスター・シルバーアイズが。 おっさんと会話しているというのに、その目線はある一点……丁度廊下の曲がり角になっている部分を見つめていた。

 

『【レコード】』


 魔法だ。 先程の夢で聞こえた単語はムーヴ。 移動だった。 その後、本当にコイツはあの魔女の婆さんの家から消えていた――移動していた。

 つまりこの魔法は、何かを記録する魔法。 記録したのは今見えている物か。


『リロイ様、お話の続きに戻りましょう。 殿下とライカップ家のご令嬢についてです』

『うぅむ……。 スクアイラの報告を聞く限りでは、もうフランツは……』


 お、なんだか久しぶりにクソ王子(フランツ)の名前を聞いた気がする。

 2人は話し合いながら、おっさんの後ろに合った巨大な扉に入って行った。 あれ、俺達は付いていけないのか。 どうにも今までの夢と勝手が違うな。


「で、お前らどうしたんだよ。 いきなり跪いて」

「……」

「……」


 何、寝てるの? 夢の中で?


「あのおっさんとシルバーアイズって魔法使いはもう行ったぞ」

「……ふぅ」

「び、びっくりしましたー」


 ユリアは大きな溜息を吐きながら、ペイティは非常に挙動不審に顔を上げる。

 

「あのおっさんは何? 宰相とかか? シルバーアイズに下手(しもて)に出てたけど」

「ばっかお前、今のはリロイ様だよ」

「王様ですねー。 この国の」


 What? オーサマ? King?


「ってことは、クソ王子(フランツ)の父親か」

「まぁそうだが……あのクソバカ王子(フランツ)とは比べ物にならん切れ者だぜ」

「私達庶民では滅多にお目にかかれませんがー」

「切れ者ったって……エリザ嬢とアホ王子(フランツ)を繋いだ張本人だろ?」

「まぁ、そうなんだが……」


 つまり元凶じゃないか。

 あ、でもさっき扉に入っていく時に『もうフランツは……』とか言ってたな。

 そもそも監視役のスクアイラつけてる時点で見限ってたんだっけ?


「それより、ここからどうするんだ? 多分シルバーアイズが魔法で記録した記憶を見せられているんだって話なんだろうが、あの2人は扉の中だ」

「んー……、なぁ枕」

「ん?」

「ここ、まだ夢の中なんだよな。 お前がどうこうできないのか?」

「無理。 元の真っ暗な世界やログハウスじゃ全方位見えてた視界も、今は前しか見えん。 自分でもどっちが前なのかわかってなかったが、いまお前を見ている方が前らしい。 正確には表か」

「そりゃなんともどうでもいい情報だ」


 いやぁ、前しか見えないというのは中々に新鮮だ。

 人間だった頃なら当たり前だった事。 どうやら俺は随分とマクライフに馴染んでいたらしい。

 

「んー……もしかしたら、ですけどー……。 わっ!」

「ん、どうしたペイティ……って、お前腕!」


 何やら思案顔で先程王様とシルバーアイズが入って行った扉に近づいていたペイティが、驚きの声を上げた。 何事かと視線を向けたユリアの驚き声につられてそっちを向いてみれば、そこに見えたのは尋常ならざる光景。

 ペイティの右腕の、手首から先が消えていた。


「ペイティ!」


 ユリアがダッシュでペイティの胴を掴み、扉から後ずさる。 胴を掴まれたペイティは潰れたカエルのような声を出していた。 擬音で言うならぐえっと。


「うぅ……侍女長……心配しすぎです……」

「心配しすぎってお前! 腕が! ……あ、る?」

「ありますよー。 ほらー、両手ともにありますからー」


 そう言って両手をグーパーして見せるペイティ。

 と、いうことは……。


「なーるほど」

「枕? ……あれ、枕そんな小さかったか?」

「いやちげーよ。 透過してんだよ。 俺の半身は扉の向こう側だ」


 半身というか、半分というか。

 二つに分かれた視界の部屋の中側で、未だに議論を続ける王様とシルバーアイズの姿が見えた。 つかここ、謁見室か? やけに豪華な椅子があるが……。


「……」

「ほら侍女長―、大丈夫ですよー。 あはー、夢って面白いですねー」


 ゆっくり、ゆっくりと扉を抜けてきたユリア。 その横で、出たり入ったりを繰り返すペイティ。 俺はこういうものは創作物として知っているからそこまでの忌避は無かったのだが、一切の耐性がなければこういう反応なのだろうか。 俺からしてみれば気配だのあんな速力で走るだのの方が信じられないのだが。

 

『バンボラとリーヤンには、やはり例の魔法がかかっているのか?』

『十中八九そうでしょう。 バンボラ様には欠片程の意識が見られましたが、リーヤン様はもう……。 アレは、既に人間では……』


 何やら不穏な単語がちらほらと。 口調も対等な感じになってるし。

 やけに静かだと2人を見てみれば、また頭を下げている。

 うん、そろそろ気づけばいいのに。


「多分あの2人に俺達の事は見えてないぞ。 つか、これは夢だって言っただろ? 過去の出来事なんだってば」

「あぁ……そうだった。 いや、反射的というか。 国民の(さが)というか」

「私達は単なる庶民ではなく、公爵家に属する侍女なのでー、私達が粗相をすればそのまま公爵家の顔に泥を塗ることになるんですー。 だからあんまり偉い人の居る所には来たくないんです……」


 なるほど、だから過敏に反応してしまうと。

 

 漸く顔を上げる2人。


『そうか……。 よし、機を見てライカップ家を調べさせることにしよう。 そうだな、ここは――』

『リロイ様。 口を閉じてください 【アロー】』


 何かが飛来する。

 狙いは……俺!?


「ッ! ペイティ!」

「我慢してください、ね!」

「グァ!?」


 飛来物より先に、横合いからの凄まじい衝撃。

 普段のエリザ嬢のホールドや最初のユリアの蹴りなんて比べ物にならない。 まるで、トラック大のものが俺だけを狙ってぶつかってきたかのような衝撃を受けて、俺は吹っ飛んだ。


 吹っ飛ぶ事で、何が起きたのかを把握する。


 まず、飛来してきたのは木の棘のようなもの。 それは、扉へ深々と刺さっている。

 次に、俺を吹っ飛ばしたもの。 まぁ状況を省みればわかると思うが、ペイティだ。 ペイティの脚が腰より高い位置にあった。 蹴りであんな威力をだせるのか……。


「あ、夢なんだった」

「忘れてましたー」


 夢でも痛いんですがそれは。


『【チェイス】、【レコード】!』

『……何事かね』

『鼠……いや、猫です。 魔法の気配がしました。 恐らく盗聴目的……今の会話を聞かれた可能性があります。 【サイレント】は効果範囲に入ってしまえば意味がないのです』

『猫……? まさか、ライカップ家か!?』

『恐らくは。 今の【アロー】に追わせますが、とりあえず警備兵に連絡を』

『うむ。 ……まさか、盗聴などという直接的な手段に出てくるとは思わなんだ。 ……ジェシカ・ライカップ……。 我らの手に負える相手であれば良いのだが……』


「よっと」

「ぐぅ……」

「強く蹴りすぎましたー」


 天井にビタンと当たり、跳ね返った俺をユリアがキャッチする。 天井は透過しないのか。 まぁ床も透過してないんだから当たり前っちゃ当たり前、か?

 ユリアにキャッチしてもらってすぐ、扉に刺さっていた木の棘が震えだす。

 

 そのまま、棘は扉をスルンと抜けて行った。


「え!?」


 それと同時に、俺達の周囲にも変化が起こる。

 周りの景色が流れ始めたのだ。 それも、凄まじい速度で。

 変わらないものは、俺とユリアとペイティ。 そして、木の棘だけ。


「これは……この木の棘に、追従してるのか?」

「おいおい。魔法ってのはなんでもアリかよ……。 ロザリアだってこんな魔法使わなかったぞ」

「でもこれなら私が全力で走った方が速いですー」


 それはおかしい。


 木の棘は何か指針があるように、廊下を突っ切っては角を曲がったりを繰り返す。

 その間、俺達は壁に当たるわけでもなく階段の段差にガクガクなるわけでもなく、強いて言えば王城の中の観光ツアーをしていた。 高速だが。


「あの口ぶりから察するに、この木の棘……いや、矢か? これは猫――多分群青と白の猫を追いかけてるってことだよな」

「なんで矢なんだ? 棘でいいだろ」

「シルバーアイズが【アロー】って言ってたろ。 多分木の矢を飛ばすなり生成する魔法なんだよ」

「ん、なんだって? 聞き取れなかった」

「枕さん、いまなんて言いましたかー? 言ってたろの前ですー」

「【アロー】だが」

「……何語だ?」

「マエルド語じゃないですー。 なんて意味なんですかー?」


 うん? 特別な言語を使ってるつもりはないんだが……。 


「矢って意味だよ。 俺としちゃ、マエルド語っての方が知らないんだが」

「はぁ? いまお前が喋ってる言葉だよ」


 それは初めて知った。

 へぇ、この国の公用語はマエルド語って言うのか。

 それを俺が喋れている理由は……俺がマジックアイテムだからかな?


「あ! 前方のアレ、群青と白の猫じゃないですかー?」

「ん? おぉ、あの尻尾間違いない。 凄まじい速度で走ってるな。 ほんとに猫かよ」

「……やっぱアイツか……。 俺で寝てたのも、なんか探りに来てたからなのかな……」


 少しだけ悲しい。

 悪意が有って、エリザ嬢の何かを……公爵家の何かを探るために来ていたのか。

 わかっていた事だが、なんだかなぁ。


「この棘……いや、矢だっけ? どこまで追えるんだ? 王城の外に出ても追えるのか?」

「俺に聴かれてもな……。 って、言ってる傍から!」

「窓から出ちゃいましたよー? 誰ですかあそこ開けておいたのー」


 追えなくなるならここで止まるのかと思ったのだが、そんなことは関係ないとばかりに木の矢は外へ出た。 俺達は壁を透過する。


「おぉ、高性能だな」

「だが、速度は同じくらいだぞ。 これじゃ仕留められねぇ」

「むぅ……この場に私がいればあんな子猫の一匹……」


 うわぁ、この2人あの猫を殺す事に躊躇がないよ……。

 そもそもあの猫って仕留められるのか? エリザ嬢の夢でミルト嬢が簪を投げた時に、すり抜けたような……。 この木の矢も当たらないんじゃないか?


 景色はどんどん流れていく。 既に王城の敷地内から出て、街中だ。 正確には屋根の上。 


「ん、あのでっかい建物は……」

「あれは騎士団の詰所ですよー。 ミカルス様のいるところですー。 反対に、あっち側にみえるのは軍の訓練所ですー。 アトゥー様のいるところですー」

「なんかもう観光だな。 しかし、そうか。 枕は外の世界を見たことがないのか」

「エリザ嬢の夢で学園も少しだけ知ってるけどな。 最近はお前らの夢のおかげで色々見聞が広がってるよ。 ここまで広い世界を見たのは初めてだけど」


 元の世界でも、屋根の上を高速で移動するなんてこと無かったし。 


「ん……おいおい、そろそろ街を抜けるぞ……? つか、ライカップ家とは全く違う方向なんだが」

「これは……アドラシコーズ霊峰の方ですねー。 やっぱり性悪婆の使い魔なんでしょうか……?」


 街の外壁を軽々と飛び越える猫。 いやいや、3,40mあったぞ今の壁!

 どんな脚力だよ……。


「むぅ……この高さのジャンプは私にはむりですー」

「別に跳ぶ必要ないだろ。 外壁は出っ張り多いんだからのぼりゃいい」

「そういう問題?」


 外壁を越えると、森。

 内外の差が激しいな。


「こっちの方向に森があるだけだぞ枕。 反対側にゃポツポツと村があるし、草原みたいな感じだ」

「こっちは森と丘と山と霊峰を挟んでエリィクロス共和国がありますねー。 ロザリアさんが行った国ですー」

「へぇ。 なんともまぁ、起伏の激しい大陸だな」


 猫が森に入る。 木の矢もそれを追う。

 森の樹木も俺達を透過していくのだが、いやぁ心臓に悪い。 すり抜けるのがわかっていても、目の前に高速で木が迫ってくるのは怖いんだ。


「どこまでいくんでしょう……。 結構時間経ってますよー?」

「アドラシコーズ霊峰までだとしたら、この速度でも3,4時間かかるな」


 この夢、早送りとかできないのか?


『グルルルルルル』


 ! この声は……。


「魔物……? いや、聞こえてるのは前から……まさか」

「これ、騎士団とかに報告しないとなんじゃ……」


 目の前の走っていた猫に変化が起きる。

 前足は3倍も、4倍にも伸び、筋肉の付きからその強靭さを伺わせる。

 後足は太く膨れ上がる。 なるほど、あれほどの脚ならばあのジャンプも納得……か?

 胴回りは足に見合った太さに、しかしスラリとしなやかに。


『グルルルァァァアアアアア!』


 更に一鳴き。 群青と白色の毛並は総毛立ち、先程までの子猫の様子など微塵も感じられない。


 ピューマか。 いや確かに猫科だけどさ……。


 群青と白のピューマは、急停止する。

 そしてこちらを振り向いた。


 まさか――。


 木の矢は構わずに突っ込む。


『ガウッ!』


「あっ」

「喰われたな」

「食べられちゃいましたー」


 木の矢はピューマの一噛みで砕け、まるで喰われたかのように霧散してしまった。


 すると、景色が割れはじめる。

 夢世界が消えるときと似ているが、微妙に違う。 白い光が無い。


『……消された、か……。 すみませんリロイ様。 ハイドラの森で見失いました』

『いや、仕方あるまい……。 何かわかったのか?』

『……魔物である、という事くらいですかね。 警戒態勢を敷いてください。 あの群青と白色の猫を発見したら手を出さずに、私に連絡を。 しかし監視は続けるように言ってください。 アレは下手に手を出していい物じゃない……』

『わかった。 すぐに連絡を出そう。 何か魔法的な護りはできないのかね?』

『すみません、常駐系の魔法は私では……ロザリア・クロス=クロイツ=クロワ=クローチェ=クロチフィッソか、お師匠……シャフト・ランキュニアー様であればなんとかなったかもしれませんが……』

『……ランキュニアーか……。 居場所はわかるのか?』

『はい。 マジックアイテムの発注をしておきましょう。 【メール】。 あの魔物については、直接聞きに行こうと思います』

『うむ……私はランキュニアーがどうにも苦手でな……頼んだぞ』

『はい』


 王様も魔女の婆さん苦手なのか。 


「ほら! ほら! やっぱりわかる人はわかるんですー! あの性悪婆は性悪なんですー!」

「わかったから落ち着けって。 枕、さっきの魔法はなんて意味だ?」

「あー、多分手紙、みたいな意味だと思う。 いや、伝達か……?」


 手紙ならレターか。 葉書か?


「なるほどな。 つまりさっきのペイティの夢で作ってたマジックアイテムが、ここでリロイ様の言った守るアイテムか」

「直接赴いて性悪婆に群青と白の猫の情報を聞きに行ったら、私がいたって事ですねー」

「ってことはコレ結構最近の事なんだな」


 景色がある一点へと集束する。 流れる様に、吸い込まれるように。




 そして、元の真っ暗な空間に戻った。


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