6.最強の能力―4
それぞれが周りを見て、生存者を確認した。
成城、砂影、諸星、橘、飯塚。この五人は、確実に、生存出来た。他の人間は――死体すら、残っていないだろう。見て確認したわけではない。が、先の最強と呼ばれた宇宙人がエネルギー補充のために捕食したと考えるべきだ。そこまでわかると尚更、里中や佐伯を殺したのは、わざとなのだ、と思えたが、今は皆、生き残れたという実感だけが、全てであった。
五人とも、そこに座り込んでそのままぶっ倒れ、寝てしまいたい程の状態ではあったが、先に腰を落とした橘でさえも、すぐに立ち上がった。
そして、言う。
「東雲さん、迎えに行かないとな」
皆、わかっている。全てが終わった。霧崎の死が東雲に心的外傷を与える可能性があると思えたが、それでも、今更この事実は変わりはしない。
皆立ち上がり、よたよたと歩きながら東雲の下へと向かった。
東雲の下へと到達するまでは当然、何事もなく事は進んだ。当然だ。敵はもう、少なくともこの島の中には、存在しない。それどころか被験者である人間以外の生物は全く存在しない。
あっという間に辿り着いた民家は、やはり、特別な変化はなかった。先の宇宙人の攻撃も到達していなかったのだろう。
民家に入り、一番奥の部屋へと戻ると、やはり、死体はなかった。玄関にも当然なく、ある程度は予測していた。東雲が食われていなかったのは奇跡的な事だったかもしれないが、結果オーライである。
東雲は未だ、起きていなかった。当然だ。怪我を治すためにここに寝かせていたのではない。怪我の悪化が少しでも遅くなるように、寝かせていたのだ。
テストは、ゲームは終わった。
あとは、ここから出て、治療させるだけである。彼女は第五位の人間だ。戻りこそできれば、即座に治療されるだろう。
「五人……いや、六人生存、と。お疲れ様」
声が、聞こえてきてやっと、五人は部屋の隅に自分達以外の人間がいる事に気付いた。単純に疲弊していて、その存在に気づけなかったのか、それとも、その人間がそういう能力を持っているのか、身体能力を持っているのか、わからなかったが、今、全員が気づけた。
警戒は当然した、が、すぐに解いた。
「あんた達か……」
無駄な警戒をした、と言わんばかりに成城がため息混じりに吐き出す。
いたのは、若い男と、年配の男だった。二人共、一度成城達の前には顔を出している人間、つまり、このテストの監視者達であった。
二人はまずは、と名乗る。
「俺はアイズ。こっちのおっさんはブレイン。知らない人もいるだろうから一応言っておくと、俺達は、このテストの監視者であり、管理人みたいなもの。第三位がこの島のモニターにアクセスしようとしたのを察知して止めたのも俺達」
そう言ったのは若い男、アイズであった。
(目に脳か……?)
話は聞いてこそいたが、ここで初めて二人を見る砂影は名前を聞いてそう思った。そして、事実そうである。当然、この名前は彼らの本名ではなく、このテストを主催した組織に与えられたコードネームなのである。
「ともかく、テストクリアおめでとう、だな。現状報告を伝えておこう」
そういったブレインは、一度見た目に良く似合う渋く聴こえる咳払いをすると、宣言の通り、伝える。
「テストクリアは成城悟、砂影怜生、橘楓、諸星清人、飯塚泉奈、東雲出雲の六名。宇宙人の能力を現時点で保持しているのは、成城悟、砂影怜生、東雲出雲の三名。この三名は本当の意味でクリアだ。おめでとう」
そういうブレイン。だが、当然納得ができるはずがない。
「……橘さん、飯塚さん、諸星君はどうなるんだ」
成城が眉を潜め、静かな声で問うた。答え次第では、この場で絞め殺してやる、とまで思い、殺意を放っていた。が、ブレインはその殺意を鼻で笑い、返す。
「安心しろ。今回のテストは最期であり、特別だ。我々よりも、君達のほうが実感しているだろう。橘楓、飯塚泉奈、諸星清人。この三人は、どう見ても、特別だ。それこそ、今までのテストの中で、歴代で、最もと言っても過言ではない。故に、殺す理由はない。この三人は、現に宇宙人の能力を所持していない。所持していないながら、宇宙人とここまで戦えるのだ。不安の残る者もいるが、有能である事には変わりない。現場に出なくとも、事務業務にでも回されるだろう」
「この後どうなるんだ?」
ブレインの話を聴いて、命の問題はないのだ、と安心した皆。砂影が早速、とその後の話を聞くが、
「あぁ、簡単に言うと、我々の同僚になってもらう。強制的にだ。が、日常というのもある程度だが保証される。……詳しい話は、『外』でしよう」
ブレインはそう突っ放して、そして、アイズに視線を送った。アイコンタクトだ。そのアイコンタクトで確認をしたアイズは、はいはい、といった様にポケットから何かリモコンの様なモノを取り出し、そこにでかでかとついていたボタンを、押した。
と、同時。
今の今まで星空を写していた空が、消滅した。ブラウン管のテレビの電源を落とした時の様な音が大きく鳴り、そして、空が『真っ暗』になった。
その光景には、参加者誰もが、間抜けにも口を開いて驚いた。
本当の意味で、空が真っ暗になった。視界が消失したわけではなく、空が、まるで、電源を落としたテレビ画面の様に、真っ暗になったのだ。
橘が、思わず、あ、と声を漏らした。
目を凝らして見てみると、天井には、画面の継ぎ目かと思われる微妙な線が、見えたのだ。
霧崎から聞いていた、ここは室内だ、という言葉の実感が、今になってはっきりと湧いたのだった。
ブレインとアイズの視線が村の向こうに向いた、と同時、二人は歩き出した。当然の如く五人と砂影に抱えられる東雲も、二人に続いた。二人はそのまま村を抜けて、島を囲む先に地平線しか見えなかった海岸へと、辿り着いたところで、足を止めた。続いて五人も足を止めた。
そして、見た。
地平線はなかった。そして、海が割れ、足場ができていて、その先にいつの間にか出現していた巨大な、先を示す空間へと、繋がっていた。それが何か、とは言葉にはできなかった。だが、それが、出口である、という事は誰もが認識した事実であった。
その光景を見て、改めて、終わったのだ、と皆が理解し、時間した。
「さて、行きますよー」
というアイズの場違いな程気楽で、今までの事なんて大して気にしていない言葉に一部の人間は苛立つが、今は希望のほうが大きく、誰もそれについては触れずに、先を歩く二人について、歩き出した。
海が割れ、出現した足場は固く、一見して何で出来ているのかわかりはしなかったが、歩いたところで崩れ落ちる素材ではなく、皆足元は気にせず、とにかく前進した。
そして、そこを出ると、先ほどまでとは打って変わって畳三畳程度のスペースに出た。見て、それがエレベーターだと理解した。
「ずいぶん小さいエレベーターだな」
島という巨大な土地がある事を考えた上で橘がそう言うと、アイズがエレベーターのボタンを押して扉を閉め、エレベーターが上昇し始めたところで、応えた。
「これはあくまで人員のためのエレベーターだから。貨物とか、それこそ島の素材とかを運ぶエレベーターは、他にちゃんとあるんだ」
「へぇ」
橘はそれを知って、なるほど、とは思ったが、大した反応は敢えて見せなかった。
エレベーターは上昇を続ける。それなりの速度である事は体感していた。
エレベーターが上昇するからか、参加者の皆は島は地下にあったんだな、と思い始めた。そして、それは事実である。
が、次、彼らが足を進めて出たそこも、まだ地下であった。




