4.能力―11
「東雲、お前は五位だ。ランキングの上位の人間だ。俺もそうだ。だから、恐らく『このまま帰っても』殺される事はない。俺達二人共、それこそ『日本という国』にとって、強力な戦力なんだからな」
「…………、」
言われ、聴かされ、東雲は押し黙って、考えた。言葉の意味、理由、理屈。信頼はできている。そして、霧崎の言葉の理屈が通っている事も分かり始めていた。
東雲の表情から、場違いで、無駄な笑みが消えていた。真摯に霧崎の言葉を受けとめ、考えている様子だった。
そんな東雲に霧崎が伝えた事は、推測した事は、『あの時』、砂影が思った事と同様だった。
――本当にそれだけなのか。
これは、このテストは、世界中で行われているモノで、その目的はどれも、『同一』である。宇宙人に対抗するための戦力の育成である。宇宙人と戦わせ、宇宙人の能力を奪わせ、手に入れさせ、対宇宙人用の兵士とする。
それは、世界中で行われているテスト。国によってその手法が違ったりこそすれど、目的は同じ、兵士を作るという事。
そうだ、超能力めいた力を持った、人間では到底太刀打ちのできない新たな人間とも言える兵士を作り出す事、である。
兵士、戦力だ。
軍隊を持つ事のできない日本が、力を手に入れるチャンスである。
そして、兵士達には序列が付けられる。強さが、測られる。
それでも、能力の相性等で『対人戦』には力の序列による矛盾が生まれ、差異が出る。
そもそも、この兵士達は対人用ではない。
だが、そうしたい。だとすれば、どうするか。簡単だ。実際に見てみれば良い。つまり、実験だ。
砂影が推測したのも、霧崎が考え、東雲に伝えたのも、この現実だった。
「……、分かった。わかったわよ。っていうか、そんな事にわざわざ乗る理由こそ、ないしね」
そう言って、東雲は、手を、下ろした。顔を上げ、しっかりとした表情で霧崎を見て、頷いた。その表情に、嘘は見えない。そもそも、霧崎は知っている。彼女は、騙して人を討ち取る様な人間ではない、と。
「よかった。だったら、早速だけど、協力して欲しい」
霧崎は望む。
この危険なテストもといゲームを、無事に終わらせる事を。
「……、俺は、あいつを倒す。霧崎君に東雲って人を倒してもらいたいからね」
「危険ですよ……!!」
成城達はまだ、霧崎が東雲と和解して仲間へと引き入れた事を知らない。だからこそ、当然、こう判断する。
相手の居場所を正確に判断する事はできない。木々が乱立していて、視界が悪いからだ。が、それは向こうとて同じ。互いが大体の敵の位置を予測できている状態。
攻撃が飛んでくる事から位置を割り出せる分、成城達の方がその面だけで語れば僅かでも有利ではあった。
だからこそ、ある程度の距離稼ぎ等が出来た時点で、成城は自身の向きを変える。
「高無さん。ここから頂上に向かって逃げて。勿論、全力で走ってね。足音とかも響かせて大丈夫、俺があいつの気を引くから。流石に、あいつだって向かってくる敵を無視して仲間と合流しようとしてる人間を追いやしないだろうから」
成城がそう言って、高無の肩に手を置いて微笑んだ。が、高無の口から出てきた言葉は当然、
「でも……、」
成城を心配する、その気持ちの現れである。
だが、成城は首を横に振る。振って、否定の行動を見せ、力強く、言う。
「大丈夫だって。ほら、俺ってもう宇宙人の能力? ってのを手に入れてるみたいだからさ。砂影君とか霧崎君と同じ様なモンだし。大丈夫だから。……高無さんは、山頂で皆と合流してくれ。流石にもう、事は終わってるだろうから」
そこまで言われると、そして、そんな言葉と笑みを見せ付けられると、高無は、
「……はい」
頷く事しか出来なかった。
成城に背中を押されると、高無は「待ってますから!」そう叫んで、山の足場の悪い斜面を、転びそうになりつつも駆け上がった。
同時、返事は返さずに、成城はすぐに敵がいるであろう方向を向いて、一気に駆け出した。高無の足音だけが響くのは当然まずい。故の、すぐの行動だった。
山を円周する様に横へと駆ける成城は、かけつつ、神経をこれでもかと尖らせていた。耳は済ませ、目は細めて先を見て、肌で僅かな空気の変化さえをも感じ取ろうとした。そうでもしなければ、
「ッ!!」
相手の放つ、巨大なビームのような攻撃を、回避する事ができない。
成城が足を止め、大きく横へと転がったそのすぐ後、先程まで成城が走っていたその場所、その道を潰すかの如く、巨大な閃光が空気を炸裂させながら通り過ぎていった。
木々が粉砕され、なぎ倒され、足元に敷かれるように生えていた雑草も全て引き抜かれるように消滅する。すぐ傍を飛行機が通ったのではと思う程の轟音が鳴り、風圧と威力が成城に伝わる。
だが、止まっている余裕はない。
成城自身、宇宙人の力を手に入れて気づいている。宇宙人は、デフォルトの状態で、人間の数倍以上感覚が良く、身体能力が高いのだ、と。そこまで理解してれば、推測は容易い。今、成城がどちらに飛んで避けたのかまで、はっきりと伝わっているだろう、と。
だからこそ、すぐに体勢を立て直して、成城は敵の方向目掛けて全力で駆ける。攻撃が飛んできたばかりだ。未だ木々の影になって敵の姿は見えず、どの位置にいるのかはっきりとさせる事はできていないが、どちらの方向にいるかは、分かった。
急ぐのは、それだけはない。
敵は直線的に、広範囲に放つ事が出来る攻撃をしてくる。そんな技を持った敵へと、真っ直ぐ突っ込んでいるのだ。近づいて、距離を詰めているのだ。当然、相手が見えない以上は、近づけば近づく程その攻撃を避けづらくなる。
出来るだけ早く、敵を見つけなければならない。
幸いにも敵は成城の予想通り、成城に狙いを定めたようで、成城は安心していた。
敵を倒せるという自信はなかった。未だ、倒したのは翼を生やし飛翔する能力を持ったあの敵だけであるし、あの時は無我夢中であまり記憶にも明瞭でなかった。
だからこそ、宇宙人の力を手に入れて、初めてのこの戦いには、より鮮明な緊張感を持つ事が出来ていた。が、それはマイナスではなく、成城にとってはプラスだった。命を賭すこの渦中でも、程良く緊張していて、必死になる事も出来つつ、冷静に現状分析をする事も出来ていた。中でも成城に勝機をもたらしたのは、敵の攻撃が放たれる瞬間の『音』と、攻撃が放たれ、届くまでのタイミングから、『この先に敵がいる』と予測出来たその事実だった。
成城が木々の合間を抜け、僅かに斜面を下ったところで、二人は顔を合わせた。
「ッ!!」
不気味に、人間を見下す笑みを浮かべた男の両掌が成城へと向けられていて、その掌のどちらもが眩いばかりに光輝いているのが、男の正面へと飛び出した直後の成城の目に入った。
咄嗟の判断ではあったが、予測出来た事で、行動はスムーズにいった。
成城はスライディングのように足から、敵の足元へと一気に体勢を落として滑り込んだ。
その直後、成城の頭上を、あの図太く、恐ろしいばかりの破壊力を持つ閃光が、空気を炸裂させながら通り過ぎていった。後方で木々が崩れ落ちる音が連続していた。
が、その時既に、後頭部にひりひりとした感触を抱えつつ、成城が男の足を掬っていた。
「おぉッ!?」
成城に足元を掬われた男は、そのまま滑り抜ける成城の頭上の方へと、バランスを崩してそのままうつぶせに倒れるように地面へと落ちた。
そこから、起き上がったのは、僅かにだが成城の方が早かった。




