4.能力―5
砂影は今聴いた事だけでは完全な判断はできない、と断定した上で、思案する。
(そもそも、世界中でこんな事して、宇宙人の力を持つ人間を作り出すんだ。その力、本当に宇宙人に対抗するためだけに使うとは考えられない。……人間兵器だぞ、言ってしまえば。それを戦力、それに言葉通りの兵器として使う、って事を、上は当然考えるだろうが。日本は軍隊を持てないんだ。こうやって裏の話しでも世界的に公認されて兵器を持てるんだ。絶対、それ以外の何かがある)
山を登りながら、砂影はテストをクリアした次の段階の事について、心配をするようになっていた。
既に、砂影はテストクリアのための条件『宇宙人の能力を手に入れる』という段階をクリアしている。後は、宇宙人を殲滅するだけだ。
砂影にとって、霧崎と東雲の戦闘は、今の段階ではどうでも良い事であった。砂影はまだこの段階では霧崎を知らないし、霧崎が成城達と合流している可能性を考えつつも、確信に至れてはいない。
だが、一応にでも考える。
(もし、成城さん達が霧島さんとやらと合流して仲良くでもなってたら、面倒だな)
面倒、とは当然、成城『達』が霧島と合流している場合、砂影と東雲の二人よりも、まず霧島の連れの方が数が多くなっているからだ。そうなった場合、当然、砂影は既に二日過ごした仲間であり、数の多い成城達の側につき、この東雲を相手にしなければならない。
この場合当然、砂影は有利になるはずだが。
この時の砂影は、霧崎の能力を見ていないが、東雲の能力は見ているのだ。当然、『順位付け』された強力な能力を持った人間の能力を見れば、その強大さを直に感じて恐怖する。
人数なんて関係あるまい、と思う程の。
だが、疑問も抱いていた。
(この女……自分の強さの序列について、五位って言ってたけど、霧崎とやらは三位なんだよな……。でも、女は霧崎さんに勝てるという。勝てるからこそ、来てるんだろうけど。……そこら辺がはっきりしないな)
砂影はそこらへんには触れないで置いた。考えればある程度は理解出来るだろう。砂影は人に幻覚を見せる能力を所持している。仮に、その能力を東雲に対して発動させ、不意打ちでもすれば、序列の付けられていない砂影でも、東雲に対して勝利する事が出来るだろう。
そこに、何かがあると砂影は推測する。
そうしてこうして、歩いている内に、二人は山頂へと出てきた。視界が開け、二人は辺りを見回す。
日が沈んでいた。辺りは暗く、遠くまでは当然見えない。
「何、ここらで待ち合わせじゃないの?」
東雲が辺りをキョロキョロと見回す。
「俺達の待ち合わせではなかったからね。でも、向こうも俺を探してるはずだから、きっと来るはず」
そう砂影が言った、時だった。
轟音が、鳴った。右耳が劈かれるかと思った。砂影が見たのは、一瞬で視界が輝いたその謎の光景だけだった。まるで、真横に落雷でもあったかと思う程であった。
まさに、それであった。
砂影は咄嗟に飛び退いた。当然だ。だが、その反応では遅い。だが、しかし、その反応であっても、今回の場合は十二分だ。その攻撃は、砂影を狙ったモノではないのだから。
砂影が飛び退いて、見た光景は、特に、代わりのないモノだった。
そこには、東雲がいた。首だけで振り返って、その表情に浮かぶ不気味な笑みをそちらへと向けて、
「そっちから出向いてくれるとは。手間が省けて良いわぁ」
いた。
言った。笑った。嘲笑い、挑発していた。
砂影の表情が強張り、一瞬にして緊張が全身に広まった。身体は急に重くなり、首を動かすのもやっとだと思える程に、言うことが効かなくなる。それほど、窮地だ、いや、危険な時が、来た、と理解したからだった。
今の光景が、雷だ、と判断出来たのは当然、その何故か横真っ直ぐに飛んできた雷が、何故か東雲に当たらず弾けた後だった。今の雷が仮に、砂影へと飛んでいたら。どうなっていたか、そんな事は想像も出来なかった。幻覚を見せる見せないの次元でない、とだけは理解した。
今まで散々宇宙人を殺し、挙句本来の姿のままである宇宙人をも殺した砂影でさえ、今の一瞬の光景と、その結果だけには驚愕し、本能が臆した。
そして、同時、確信を得た。
(絶対そうだ。この宇宙人の力を得た人間は、間違いなく、対宇宙人だけでなく、兵器としての利用価値があるんだ)
それは、未来を危惧する予感。
「砂影君だっけ、少し離れててね」
東雲は視線は森の中へと向けつつ、笑んだままそう砂影に言った。だが、砂影は頷かない。砂影が見るは、東雲が見る方向。
木々が、なぎ倒されていた。それは不自然な倒され方であり、木々の幹の中腹が焦げて砕けているのが、見て分かる。
そして、先の光景。それらを思い出すと当然、砂影なら答えを出せる。
(霧崎さんか……ッ!! 雷だの稲妻だの、電撃とかそういう能力だなッ!?)
砂影はそこまで脳内で判断してから、バックステップして大きく後退した。そして、そのまま、山の木々の影へとその姿を消した。
この瞬間が、砂影にとっても問題になる。
今から、あの木々がなぎ倒されたその先から、いや、そこからでもなく、東雲の前に誰が、何人出てくるかが、問題だ。
「なぁに? かくれんぼ? なんで出てこないのかなぁ」
山頂から、東雲の楽しそうな声が聞こえて来た。
身を隠し息を潜めてありとあらゆる存在から感知されないように隠れている砂影は、その声を聴いて状況を判断する。
(霧崎さんは、まだ、東雲さんの前に出ていない)
と、言う事実から更に推測出来る。
(気配は感じない。……俺と同じように身を隠している?)
と、言う追加で考えることの出来る事実から、更に、推測が及ぶ。
(やっぱり、霧崎さんは東雲さん、もしくはその能力を恐れている?)
ここまで、推測が及ぶ。当然確信を抱くことは出来ないが、ある程度の想定は出来る。
まず、力の序列があるというのに、その上位を倒すために下位のモノが送り込まれる。つまり、それは下位のモノが上位のモノに勝てる余裕があるという事。でなければ、――砂影の推測が当たっていなければ――送り込むはずがない。
(どっちだ。……『実験』か、『実力』か)
砂影は息を飲む。辺りに気を配らせつつ、その様子を伺った。
「うわ。今のすげぇ。何これ」
そんな窮地に、闖入者が、一人。
それに一番に気付いたのは東雲だったが、東雲は闖入者に対しては、気を配らなかった。東雲の目標はあくまで霧崎だ。この場に偶然紛れ込んだ闖入者は、邪魔にさえならなければ手を出す事はないだろう。砂影のように。
「ッ!!」
その闖入者に、一番の反応を示したのは、砂影だった。
(誰だッ!?)
今の一瞬だけ聴こえた言葉では、聞き覚えのある声かどうか、判断しきれなかった。ただ、男の声だ、とだけは理解した。
声のした方向を砂影は見る。が、当然、木々に遮られて視界は狭く、短い。
が、
「ん? 人?」
「ッ!!」
自ら、砂影の前へと飛び出してくる影があった。
諸星清人。男の名はそうである。
だが、この時、砂影は咄嗟の判断を取るしかなかった。通常であれば、名前を聴いたりと互いの自己紹介を済ませ、大人しく仲間へと導くのであるが、この時、砂影はどうしても身を潜めておきたかった。それについての説明を諸星にしている暇はないし、砂影がこの瞬間で理解出来るのは、人と合流した諸星は、必ず声を上げる、という事だった。
故に、砂影は諸星に仕掛けるしかなかった。




