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4.能力―1


 接近されるのは、少なくとも今の時点では、好ましくない。様子を伺い、敵を探ると決めた時点で接触は好ましくない。いくら、自分の武器が近接武器だと言ってもだ。

(とりあえず、距離を取る!)

 だが、それにも制限がある。

 未だ、高無が付近で倒れている。敵の注意を高無に向けるわけにはいかない。高無はまだ動けないし、高無が向き合う事の出来る相手ではない。砂影でさえ精一杯なのだ。

 距離を取る。

 が、相手は素早い。

 八本の足が次々と地を蹴り、あっという間に後退して距離を取ったはずの砂影の目の前へと迫っていた。

「くっ!!」

 だが、しかし。

 通常で考えれば、相手のレーザーは遠距離武器で、距離を詰めすぎると、当然、攻撃を当てづらくなる。どう考えても初動は砂影の振るう刀の方が早いのだ。

 が、油断はしなかった。

 砂影はまず、危機感を抱いた。

(接近して来た以上、接近でもそれなりに仕掛ける事が出来るって事だ)

 危機感を抱いている以上、警戒をする。無闇矢鱈に攻め込み、自ら隙を作るような真似はしない。

 高無との距離、敵との距離、視線の動き等を全て把握するのには、精神力が削られていた。ものすごい勢いで、ガリガリと剥がすように体力まで奪われているようだった。

 それでも、砂影は食いつく。少しでも意識をブレさせないように、ひたすら、しがみつくように集中した。僅かでも油断すれば、殺される、そう感じていた。

 接近され、まず、砂影に迫ったのは敵の右手だった。それは掌を明らかに砂影に向けていて、砂影はまず、飛ばされるレーザーを危惧した。が、違った。

 掌の内がレーザーが放たれる瞬間に見せる輝きを放たなかった。ただ、掴みかかりに来ていたのだ。

 これは、チャンスだ。

 砂影は即座に反応して、左手の刀を振り上げて、伸びてきた敵の腕を切り落としてやろうと狙った。

 刀が半円を描くように、振り上げられた。

 だが、しかし、

「ッ!?」

 弾かれる。

 刀の攻撃が、通用しない。刃が、通らない。それほどの、肉体の硬さ、強靭さを、誇るが、宇宙人であるという。

(武器の意味ねぇ!!)

 後退して距離をとらねば、咄嗟にそう判断した砂影は、地を蹴る。だが、しかし。

「しまっ――」

 既に、宇宙人の左手が、砂影の脇腹を掴んでいた。

 そして、傷一つない宇宙人の右手が、右掌が、ずいと持ち上げられ、砂影のすぐ目の前で――強烈な光を放った。

 当然、レーザーが発射されると思った。

 もがく、離れなければと本能が叫ぶ。

 だが、宇宙人の力は強靭で、恐ろしく、強い。砂影が振り払おうと身体を激しく揺さぶったが、離れない。

 それどころか、握力が恐ろしく強く、砂影の身体を砕き始めていた。

 激痛が走る。が、気にしている余裕すらない。目の前の輝きは今にも放たれんとばかりに輝きを増している。

「やばいッ!!」

 砂影がそう叫んだのは、

「ッ! 何これっ!?」

 高無が不意に目覚め、音を立て、声を上げてしまったが故、宇宙人の意識が、そちらへと向いてしまったからである。

 顔が完全にそちらへと向いた。右掌の輝きは巻き戻るように消滅し、そして、左手は砂影を離した。正確には、放り投げた。ゴミを拾い、これは必要ないと言わんばかりにゴミ箱に投げ捨てるように、放り投げた。

 数メートル投げられ、落ち、転がった砂影はそれでもすぐに立ち上がった。だが、しかし、敵は完全に背中を向けていて、高無を視界に収めている。

「やばい」

 心から、焦った。一瞬で体中から冷や汗が吹き出した。が、気が付けば、全身に走る程の鋭利な激痛をも無視して、地を穿つ程に蹴り飛ばし、全身していた。

 敵は宇宙人だ。そして、砂影はその宇宙人から力を奪う事に成功した人間である。

 まず、前提として、宇宙人は皆、変身能力を持っている。それと同様、ではないが、宇宙人から力を奪った人間にも、能力とは別に、必ず得るモノがある。それが、超人的な身体能力だ。それらは、今まで成城や佐伯、高無達が砂影に感じてきていたそれである。気配を察知する能力が高かったり、跳躍能力が高かったり、動きが異常なまでに早かったり、判断能力が高かったり、とは、もともとの能力差はあるにしても、宇宙人から力を奪った時点で恐ろしい程に跳ね上がり、人間を超越するのである。

 砂影の一蹴りは、砂影を飛躍的に前進させた。

「高無さんッ!! 逃げろッ!!」

 そう叫んだと同時、砂影の持つ二本の刀が、敵の細く、太い背中に突き刺さった。

 強烈な悲鳴が響いた。いや、雄叫びか。

 耳を潰すのかと叫びたくなる程の重低音が炸裂していた。何か巨大な生物が悲鳴を上げていた。地を揺らし、まるで地震のように揺さぶっていた。

 言葉では表現しようのない、人間でも、地球上の生物でもない、確かな、悲鳴だった。

 宇宙人の足は止まった。当然だ。攻撃意思を持った敵が背後にいるのだ、と理解しているのだから。

 宇宙人は大きく振り返った。背後にいるであろう敵をぶん殴ってやろうと腕をふるいつつ、振り返った。だが、しかし、

「ッ!! おぉ!!」

 砂影は、敵に突き刺さった刀に、しがみついていた。正確には、柄から手を離さないように必死にしがみついていた。

 故に、宇宙人が振り返ったそこには、誰の影もいない。

 からこそ、砂影は高無の正面へと、敵の背後を取った上で、回り込む事が出来た。

 再度敵が振り返る前に砂影は敵の背中を蹴って二本の刀を持ったまま飛び降り、吹き出す緑の蛍光色の鮮血を僅かに浴びつつ、叫ぶ。

「高無さん! 山に逃げろ! そっちに成城君達がいるッ!!」

 そして、すぐに振り返った。

 その瞬間。

 強烈な輝きが砂影の胸元を貫いた。

「ッ、が……、」

 高無の目の前で、砂影の左腕から刀が落ち、そして、両膝を地面に落とした。

「砂影さんっ!!」

 高無が咄嗟に叫ぶが、

「逃げろ……!!」

 砂影が、首だけで何とか振り返り、そう声を上げた。必死さが伝わってくる、恐ろしい程の危機が高無に伝わってくる。

 砂影が、窮地に立たされている事は、すぐに理解した。それに、自身を守ろうとしてくれている事も、わかった。

 育ちがよかったのか、それとも、彼女自身が単純に良い人間なのかはわからない。だが、この時、高無は、砂影をおいていけない。そう思った。

 だが、砂影はそうは思っていない。砂影は高無を助けに来たのだ。清瀬を殺すのも、バケモノと戦うのも、高無という仲間を助ける事の二の次でしかない。

 それに、今、砂影がいる状況で高無を守りきれば、少なくとも、背中をレーザーで貫かれる事はないだろう。

 故に、叫ぶ。

「早くッ!!」

 砂影の放った大音声に、高無は思わず身体を一度、大きく跳ねさせた。だがそれは、叱責をくらって怯えるわけではない。その本心、本気が、伝わってきたのである。

 高無はすぐに立ち上がり、そして、

「ごめんっ!!」

 謝る必要もないのにそう叫んで、走り出した。

 高無が走り出した時点で、やっと、砂影は首を戻して正面を見た。

 と、同時だった。

「ぐ、っああああああああああああああああああああ!!」

 腹部に走る激痛に、砂影は悲鳴を上げざるを得なかった。

 走り、場を離れようとする高無は、そこで一度、立ち止まり、振り返り、その光景を見てしまった。

「そん、……な」

 絶句した。

 高無が見たのは、砂影が、敵の右腕に腹部を貫かれ、その腕力だけで持ち上げられている光景だった。遠くからだったが、はっきりと、明瞭に見えた。

 だから、だからこそ、高無は振り返り、走る事に徹する、としっかりと判断を下す事が出来た。砂影が逃げろと叫んだ。きっと戻れば、助けになる事もなく、ただ単純に、砂影の期待を裏切ってしまうだろうと、距離を取り、僅かでも冷静になれ、人の事を思う考え方をする高無は、そう考える事が出来た。

「ごめん。ごめんなさいっ!!」

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