3.分断―11
佐伯は戦慄していて、呆気に取られてもいた。
今、目の前で見た霧崎の右手から放たれた稲妻。当然、普段から見れる光景等ではない。
まず、思ったのが、手品、マジックか、という言葉だったが、それはすぐに自分で否定した。この状況、そして霧崎から散々され、自分でも知ろうと散々質問をして聴いた話し、能力、とやらがこれだ、と本能は理解していたからだ。
だが、違和感が拭えるわけではない。
人間の手から稲妻が出る。そんな事は、当然ありえやしない。
人間の動きだけで生成される電気の量なんてたかが一二六V程度であり、それで稲妻を生成できるかと言えば、不可能。仮に電気の量を集める事ができても、それを放つなんてとんでもない事だ。
だからこその、能力である。
宇宙人共が持つ、個々で異なる特性という能力。それを奪う事が出来る人間は、限られていて、それを奪った結果が、これである。
「どうだった? って言っても、砂影君も、成城君も今みたいな稲妻じゃないにしろ、能力を持ってるはずだけどね」
首だけで振り返り、霧崎はそう言って苦笑した。見えたのは、佐伯の呆然とした顔で、当然か、とも思っていたが、同時に、そこまで驚かれると、その驚きに驚いてしまうよ、とまで思っていた。
一度、テストを合格している霧崎は当然、その能力を一般人に見せるような真似はしない。そもそも生活もある程度制限している。こうやって、まだ、能力を持たず、知らない人間に能力を見せたのは初めてで、そういう感想を新鮮に抱いた。
二人の先、砂浜の上にうつ伏せに落ちた巨漢は時折身体をビクリと跳ねさせるが、それ以外に動きは見せない。完全に落ちた、と見て理解出来た。よく目を凝らして見れば、煙のようなモノが身体の一部から上がっていた。顔を覗き込む真似はしなかったが、それでも、白目を向いて泡か血を吹いているだろうと容易く想像出来た。
「驚いてるところ悪いけど、頂上に戻ろうか。成城君達が来ていると思うし」
そう言って、霧崎は再度笑みを見せると、歩みを進めた。
「あ、あぁ!」
佐伯も慌てて続いた。
通り過ぎる際、男をちらりと一瞥したが、長くは目を当てなかった。死んでいるとわかっていたし、なにより、佐伯の気をとっていたのは、先程の稲妻が放たれる光景であり、そして、
(……能力を手に入れないと、このテスト、敵を殲滅しても合格にならないんだよな……)
自分も能力を手に入れ、霧崎のようにならなければ、という焦りが、あった。
砂影は不思議に思っていた。
(レパートリーすくなすぎだろ)
向き合い、武器での攻撃の応酬を繰り広げる相手の味方殺しの理由ではない。砂影が見るは、清瀬が振り回す武器である。
刀だ。砂影が持つ二つの刀よりも短い刀。
そもそも、
(俺の持つ短い方の刀だって、清瀬から奪ったモノだぞ。なのに、まだ刀が出てくるのか。佐伯さんはメリケンサック、成城さんは手斧を持っていたし、橘さんは薙刀みたいなのを背負ってた。なのに、三本目の刀。レパートリー本当になさすぎだろ。誰だよ考案したの)
呆れ、ではない。
砂影がこの時思ったのは、この武器は一体誰のモノなのか、という事と、本当にそれは、刀なのか、という不安、疑問。
砂影がこの時理解しているのは、メモに書かれた武器は支給されたという事実。そして、今まで数種類の武器を見てきた。が、メモには味方は一○人だという事も記述されていた。
だとすれば、武器は最大一○種類。
この場は何かの実験だ、と想定している砂影からすれば、同じ武器を複数用いる事は、無駄なのではないか、と思うのだ。敵が宇宙人だとしている以上、その宇宙人に通用する武器の模索等で違う種類の武器を一○種用意し、より効率的なモノを模索するのが良いのではないか、と。
と、そこまで、考えが及んだところで、砂影は気付いた。
(そうか……!! この現状は、もしかすると……)
同時に、新たな考え方で、見えてくるモノも違ってくるのだな、とこんな状況ながら、関心した。
そこまでわかると、目の前で、宇宙人のそれとはまた違う不気味な笑みを浮かべつつ、攻撃の嵐を降らせる清瀬を見て、更に考える。
本当は、何か目的があるのではないか、と。
だが、考えはすぐに、まとまる。
どんな状況にせよ、人間を殺すなんていうのは倫理的な問題に抵触する行為であり、挙句、人間が多く生き残る事が好ましいこの状況である。相手が何を考えていようと、殺す。そう、結論付ける。
「おらおらぁあああ!! おっせんだよッ!!」
隻眼の男は吠える。
だが、砂影は思う。
お前が、と。
砂影は霧崎が言う能力を既に手に入れている男だ。が、対して、清瀬は確かに動きは素早く、腕力もあり、多少不格好ではあるが、刀も触れている。しかし、超人的な砂影の動きには、追いつけていない。
「遅い」
この時点で、清瀬は三匹の宇宙人を殺していた。
が、しかし、能力は、手に入れていなかった。
ただ、人間として動きが素早く、殺しに慣れていて、場数を踏んでいるからこそ、そこまで動けている、に過ぎなかった。
それに超人的力を追加したような人間、砂影玲衣に、男が勝てる通りはなかった。それこそ、不意打ちでもなければ。
音がしたのだが、砂影でさえ、戦闘の渦中では、気付く事が出来なかった。
視界は不明瞭ではない。だが、それは、この島の大部分を占める山の中に比べて、だ。この村は、この島の中で考えれば、圧倒的に視界が悪い場所である。
三本の刃が互いを打ち合い、時折様々な古ぼけた元建造物や地面を削りながらその場を、移動していた。
戦闘の中で、足の運びが重要になるのは、当然の事で、清瀬よりは比較的考えて動いている砂影は、清瀬を手近の建造物の壁に追い詰めるように、移動していた。
そして、その時が来た、時だった。
僅かずつでも後退していた清瀬の背中が壁と接触した。が、清瀬はそれを楽しむと言わんばかりに笑みは崩さなかった。だが、一瞬だけ見せた動揺の表情の機微な動きを砂影は見逃さず、チャンスだ、と確信した。
だが、場所が悪かった。正確には、舞台が、悪かった。
今その瞬間、一対一の、清瀬と砂影だけが相対して戦う闘技場のような舞台ででもあれば、間違いなく、砂影が自身の考え通り、二本の刀で清瀬を断ち切り、殺す、殺さないはともかく、清瀬を戦闘不能にして勝利していただろう。
が、しかし、ここは、宇宙人と呼ばれる謎の生物が人間を殺そうと三○匹もひしめく小さな島である。
砂影が清瀬が苦し紛れに放った攻撃を片方の刀で弾き防御したところで、清瀬を巻き込むように、清瀬の背後の建造物の壁が、崩れ落ちた。
いや、吹き飛んだ。
手榴弾のように壁の破片が吹き飛び、清瀬を押し倒し、砂影を正面から叩くが、もとより大した素材でできておらず、挙句古ぼけていたため、大したダメージにはならなかった。が、清瀬は突如として崩れ落ちてきた大量の壁材等に一時的にだが地面に押し倒され、砂影の視界から外れた。
「何ッ!?」
砂影は咄嗟に数歩下がった。バックステップと言える程に地面を蹴って後ろに跳躍し、その間の一秒にも満たない時間で、四メートル近い距離を空けた。
だが、壁材や屋根の素材が崩れおいてきて砂塵が舞い上がり、清瀬の影を消したその砂塵の中から、二本の何かが、バックステップで着地をしたばかりの砂影目掛けて恐ろしい程の速度で真っ直ぐ一直線に飛び、そして、
「がっ!?」
砂影の横っ腹を、縦に二つ風穴を開けんとばかりに、貫いた。




