3.分断―10
推測。
そうだ。二人には、霧崎の『声が聞こえていない』。
「ってわけで、俺の『能力』で『監視員共』に声を拾われない様にしてるの。さっきの機械をいじったのも能力があったからこそ」
「なるほど……」
霧崎に言われて、佐伯は納得した。
「それにしても、そんな便利な事になるんだねぇ」
「あはは。確かに聞こえは良いよね。超能力みたいなモノだし。だけど、手に入れるのは『正直運が絡んでくる』し、命の危険も侵さないといけない。まぁ、そんな原理になっているからこそ、こんなテストが開催されるんだけどね」
二人は山を登りながら、そんな会話を交わす。急いではいなかった。寧ろ少しだがあの機械の部屋を早めに出たつもりで霧崎はいて、もう少し遅く登山しても良いと考えていた。
「あと、今回のテストも、って推測だけど、……ゲームが開催されてるんだよね」
「ゲーム?」
テストが、ゲーム。どういう事か、と佐伯は答えを問う前に考えみるが、答えは浮かばなかったし、浮かんだとて答え合わせは霧崎なしに出来ないため、結局、霧崎の返答を待った。
「そう、ゲーム。簡単な話しだよ。このテストの事情を知ってる人間達――まぁ、所謂『お偉方』だよね。大きな話しをすれば、総理もいるとかなんとか」
「総理ぃ!?」
「そう。このテストは国絡みどころか世界が絡んでるのは先に説明した通りだからね。そんなお偉方が賭けてるんだよ。誰が生き残る、誰が何匹倒す。誰が死ぬ、誰がテストに合格する、とかね。動いてるお金は莫大で莫大だって噂だね。俺は参加した事ないからわからないけど。ほら、それにお偉方なんて顔は世間に知れ渡ってるでしょ? あの人達パチンコなんか出来やしないからさ、そういうのがギャンブラーとしての満足感を満たしてるんじゃないかな」
聴いてこそ、佐伯は現実離れした話しだ。と思いつつもなんとか納得する事が出来た。
が、問題はそんなゲームではない。
やはり、このテストに関わっている人間。
国だの世界だのとこの場合ではチャチに聞こえる程の言葉である。が、しかし、霧崎が佐伯にもわかりやすいようにそういう言葉を使ったのであって、嘘をついているわけではない。
このテストは、世界の問題である。世界の問題を解決するための、兵士を育成するためのテストなのである。
「お、先に来てるみただな」
山頂に近づいた時点で、霧崎がその先にいる人物達に気付いたようで、そう声を上げた。
それを聴いた佐伯は、やっと成城達と合流できるのか、と安堵した。
だが、しかし、霧崎の足は止まった。
「ん?」
佐伯が足を止めつつ、首を傾げた。
「敵だ」
「敵!?」
佐伯の顔が引きつった。安堵から、一気に気持ちは悪い方向へと叩き落とされる様に転落した。
相変わらず木々が乱立していて先の光景を一切みせず、その先にどんなモノが、誰がいるのか判断出来ないが、砂影、成城と見てきた佐伯だ。霧島が同様の力を持っている、という事は容易に想像でき、それを信じる事がすんなりと出来た。
(この場所って事を考えると、あの成城君と別れてすぐ、成城君を追ってた敵かな。……だとしたら、成城君は逃げ切ったか。いや、追いかけ切った、だな)
霧崎はそう考えつつ、首だけで振り返り、口下に人差し指を立てて「静かにしてて」と佐伯に指示を出した。佐伯は全力で頷き、息を潜めた。
霧崎がゆっくりと歩きだす。佐伯も一歩分遅れて極力足音を消すように歩いて続いた。
そして、
「来た!!」
霧崎が右手を横に大きく開き、佐伯を無理矢理に止めた。
佐伯がはっとして前を向く。
見えた。
霧崎越しに、木々を薙ぎ倒しながら、まるで戦車が如く、ずかずかと突き進んでくる巨漢。
見れば分かった。表情に張り付く人間を見下す不気味な笑みと、そして、その直進の仕方が、明らかに、人間じゃない。
「な、ななななななッ!?」
驚きのあまり佐伯の口からは言葉がまともに漏れなかった。
異様な光景。真っ直ぐ霧崎達へと向かってくる男は、手を意図的に降っている様子もない。ただ、全身しているのだ。まるで、障害物なんてないかの如く、だ。
男が通ると、男に触れた木々がまるで男から逃げるかの如く、なぎ倒されて行く。自ら倒れている様に見える程である。
「なんだこれッ!?」
佐伯の口からやっと出てきた言葉は、それだった。
言葉そのまま、疑問を吐いただけである。
宇宙人の見た目は完全に人間だ。人間の形をしている以上、いくら笑顔が不気味だろうが、いくら人間とは違う雰囲気を醸し出していようが、見てくれを直視出来る。
だが、光景は、直視していられない。
今すぐにでも、振り返って、逃げたかった。
「一旦逃げるよ!」
「了解!」
佐伯と霧崎はすぐに振り返り、山を下る。全力で下る。相手が歩いてきている光景しか見ていなかったが、踵を返して背中を見せた時点で、駆け下りて来る足音と木々が薙ぎ倒される音が響き、反響し、すぐに理解出来た。
全力で、追ってきている。
この時、逃げる、という選択肢をとったのは、
(場所が悪い)
からである。
霧島條。過去のテストクリア済みの、三位と呼ばれる事もあるこの男は、知っている。今、追ってきている男は、霧崎の知る、監視者の知る、佐伯の教えられた、このテストの中に潜んでいる最強の敵ではない、と。
故に、確信を得ている。勝てる、と。
乱立する木々を避けながら山を下る二人と、その二人を真っ直ぐに、直線的に追う男とでは、移動速度が圧倒的に違う。
が、
「よっし!」
二人は、山を降り切った。
砂浜。澄み切った海、そして振り返れば、大男。
砂浜の半ばまで進んだ二人は、そこでやっと足を止めて振り返った。急いで足場の悪い山を下ったせいか止まった時点で急に足の骨が痛み始めたが、それは、佐伯だけだった。
「よし、じゃついでだから、さっき言った『宇宙人から奪った能力』、見せるから、佐伯さん少し下がってて」
そう言う霧島の表情には、自信の笑みである。
男も、山を降りてきた。男が通った後は、道が出来ている。木々が開けるように薙ぎ倒されるだけでなく、足元も重機で掘り返しているのではと思う程にぐしゃぐしゃに荒れていた。
砂浜に足を踏み入れた時点でも、足を踏み込む度に、砂が舞い上げていた。
見て、理解出来る。
「あいつの能力は、なんだろうね。単純な力の強化か、それとも、触れたモノに鑑賞する力なのか」
数歩下がった佐伯に聞こえる声で霧崎が言う。
そして、不気味に笑みつつ、ゆっくりと、霧崎のそれとよくにた自信に満ちた笑みを浮かべつつ歩いて向かってくる男を見て、霧崎は呟く。
「ま、俺にはそんな事関係ないけどね」
この時、霧崎は待っていた。
(一歩、二歩、三歩……、)
敵である男が、
「よし来た」
山から、正確には木々から、離れるタイミングを。
突如として、だった。
霧崎が右掌を男へと見せつけるように開き、突きつけると同時、その掌から、一瞬、何か恐ろしいモノが、飛んだ。閃光と例えるのが一番か。いや、佐伯の目に焼き付いた光の残像を確認して、それが何か、理解出来た。
「……稲妻……?」
空気が炸裂する爆音が、砂浜を支配する程に響いていた。霧島の足元の砂が放射状に振動し、舞い上がった。そして、振動が、光景から遅れて佐伯を襲った。
この時既に、霧崎が放った稲妻と思われる昼間でも確かに見る事の出来た閃光は消えていて、霧崎の右手も降りていた。そして、敵も、既に、まるで最初から死んでいたかの如く、倒れ落ちていた。
「これが、能力、なのか……?」
まだ、理解は追いついていなかった。




