3.分断―9
霧崎がそこまで言ったところで、電気が点き、部屋に明かりが戻った。突然真っ暗な状態から明るくなるモノだから、思わず瞼を閉じたが、すぐに慣れた。状況は、何も変わっていなかった。すぐに霧崎が機械をいじろうとするが、
「ダメだ……。起動しない」
どうやら、機械だけが遠隔操作か何かで電源を断ち切られたようだ。
「どうするの?」
佐伯が問うと、霧崎はうーんと唸り、しばらく考えるような素振りを見せた後、応える。
「起動しないモノはしょうがない。これでテストを強制終了させるつもりだったけど、これがいじれないんじゃ、手は一つしかない」
「あぁ、さっき言ってた敵を倒す事か」
「そう。何にせよ、敵が全滅すれば、このテストは終わるんだ。さっき言ったとおり、その後生き残るのは『条件』があるけどね。……その条件も、突破できるように頑張るさ」
霧崎は笑う。自信がある、というよりは、やってみせるさ、という口調と、笑みであった。
問題は山積みだ。成城達の様に無理矢理連れてこられた人間も、そう。そして、霧崎の様に、自らここへと足を踏み入れた人間も、そう。
二人は部屋から出る。当然向かう先は、成城に伝えた『頂上』である。
暗い階段をゆっくりと登る。下りは下の明かりが全然見えなかったが、登りであると入口からほんの僅かに差し込む光が見えて、ある程度は登りやすかった。
登りつつ、霧崎が言う。
「とにかく、生き残りを集めないと。さっきの成城君と、あともう一人、砂影君だっけ。二人は間違いなく俺と同じだね。既に力を持ってる。尚更、集めないと。さっきも言ったとおり、今回のテストには『ヤバイのがいる』からね」
「そうだったね……。そいつが、一番危ないよね……」
階段を上りきり、二人は外に出て蓋を戻す。自動的にカモフラージュされるそれを見て佐伯は思わず関心したが、霧崎は目にも留めなかった。
二人はそのまま、頂上を目指す。
「霧崎君がいて頼もしいよ」
「そうでもないよ。俺の『上に二人まだいる』からね」
成城達が分断されていたその頃。
「うーん。成城悟はともかく、砂影玲衣は『どのタイミング』で力を手に入れたんでしょうね。っていうか最初の一匹を倒した時も、既に力を手に入れていたような動きだった気がしますけど」
「確かにな。砂影玲衣おかしなところが多い。知ってる事が、多すぎる気がする。……まさか『アイツ』じゃないだろうな?」
「アイツ……? あぁ、彼女ですね。彼女ならまだ本部で待機休憩していますし、違いますよ。砂影玲衣は、砂影玲衣ですね」
「まぁ良い。砂影玲衣がテストに合格すれば、わかる事だ。『既に第一条件はクリア』してるんだからな。あとは霧崎もいる。人間側が生き残るだろうよ」
男が二人、いた。
一○畳程度の部屋に二人。部屋はごちゃごちゃとしていて、どこを向いても何か使用用途の分かりにくいモノが置いてある。唯一ハッキリと使用用途がわかるモノは、パソコンの本体とモニター、キーボードにマウスくらいだた。そして、それを置く机と正面で腰を落ち着かせるための椅子くらいか。
デスクは一つ。椅子は二つ。それぞれ、若い男とそれなりに年を取った年配の男がいた。
見た通り、年配の男の方が若い男よりも地位を持っているようである。
若い男は至って気楽そうで、口調も心なしか軽く聞こえる。対する年配の男は対極的で渋く、硬いという印象である、が、若い男のその口調にも気を留めていないようである。
「それにしても、今回、滅茶苦茶ですよねー。霧崎君の参加を許した上の考えもわからないし、あの馬鹿みたいに強い敵を投入したのもおかしいし、砂影玲衣も、おかしい」
「砂影玲衣と三位の参加はともかく、強い敵を投入したのは、このテストが最後だからだ」
年配の男のその説明に、若い男は目を見開いて驚いた。
「えぇ、これで最後? 何故」
「兵士がこのテストで一○○人を超えるからだ」
「あぁ、なるほど」
納得した様に若い男が唸る。
二人には、この会話は当然理解出来ている。
「……問題は、また別だ」
年配の男がそう言いつつ、マウスとキーボードを操作して画面に映る映像を変えた。すると、そこには女が一人、映っていた。
その女を見て、若い男は再度、驚いた様に目を見開いた。
「えぇ、なんで彼女が?」
声色は、落ち着いている。対して驚いていない、と言った様子を伺えるのだが、本人は、これでもない程に驚いていた。
「おかしいよな。私の許可はない。が、参加しているという事は、上が許可を出したのだろう」
「彼女がいるという事は、島にいる人間は全部で『一二人』という事に?」
年配の男が頷く。
「あぁ、そうなるな。……そして、気になる、と言えばもう一人」
「清瀬亜樹ですね。異常ですよねー」
「まさに。今まで、テスト中気が狂ってしまって味方を殺したり、手元が狂って意図的にではなく殺してしまった事例はあったが、清瀬の様に自ら、挙句最初から敵の存在もわかってて味方であるはずの人間を殺すっていうのはすごいな。目的がさっぱりわからん」
「確かに。っていうか敵の存在がわかってるって事は、敵の殲滅が目的だって事くらいは理解してますよね? だったら尚更、生き残るために必要な味方を殺す理由はないはず」
「その通りだ。だからこそ、理解が追いつかないんだ」
「最後のテスト、テスト投入じゃ今までで最強の能力を持つ宇宙人、謎の力を持つ砂影玲衣、テストクリア済みの人間の参加、仲間キラーの清瀬亜樹。そして、砂影玲衣に何故か買われてる成城悟。……今回のテストは大分見ごたえがありそうだ。……、で、『ゲーム』の方は、どうなんでしょうねー」
そう言っていたずらに笑んだ若い男は、いやらしく視線を何度か年配の男へと投げた。その視線を睨みつけて返す年配の男だったが、はぁ、と深く嘆息し、そして、渋々と言った様子で、応えた。
「お前の予想通りだろう。なかなかに盛り上がっているようだよ。理由はお前が今、並べた言葉の通りだ。今までにない異常性だからな。……お前は、参加していなかったのか?」
年配の男の問いに、若い男は自嘲して応える。
「いやぁ、参加したかったんですけどね。やはり最後だからでしょうか。掛金が跳ね上がってて、参加できませんでしたよ」
「そんなにか。……まぁ、確かに、今回ばかりは参加したい気持ちも分かったさ」
年配の男は溜息と共にそう吐き出した。
ゲームにあまり乗り気でなかった年配の男が参加したいと思う程の、今回のテストである。
この異常の中の異常を観察する二人は、画面の右下に表示される数字を見て、椅子を立ち上がった。
画面の右下に表示される文字は、
『人間:8 宇宙人:11』
という文字と数字だった。
それらは当然、『残りの数』である。
元の数を考えれば、人間が圧倒的優位に立っていると見てわかる。もとより三倍の数の差があったのだから。当然だ。だが、それでもまだ、敵の数は多い。上回っている。
そして、その11という数字の中には、『歴代テスト最強』の能力を持った敵が潜んでいるという。
まだ、どうなるかはわからない。
二人が腰を上げたのは、どちらにせよ、もうすぐ終わる、と思ったからだ。
「さて、三位がどこまで働くかな。歴代テストの中で最強だとは言ったが、全体で見ても、かなり強い部類に入る宇宙人だ。三位でも倒せるとは限らん」
「どうでしょうね? でも、仮に霧崎條が死んでも、砂影玲衣、成城悟、最悪清瀬亜樹もいますしね。それに、霧崎條はそれを想定してるからこそ、『推測ですけど』、仲間を集めようとしてるんでしょう?」




