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3.分断―2

「くっそ! なんでだ! なんであいつは高無さんを拐ったんだ!?」

 佐伯が絶望した様に叫んだ。表情にも絶望が浮かんでいる。視線は当然、あの男が飛んでいった方向へと向いていた。

 絶望。そう思ったが、同時、疑問も抱く。

「そうだ……そうだ。なんであの男は俺達を殺さずに、高無さんを連れて行ったんだ!? まず殺すだろ!?」

 当然、見えない所で高無が殺されている可能性も考えたが、それならば、今、二人の目の前で高度から落とすだけで良いはずだ。だとすれば、生きている可能性は当然高い。

 成城の言葉に、佐伯がはっとした。

「な、なんでだ……!?」

「さぁ? でも、だとしたら、追いかける理由がある」

 生唾を飲み込む。そして互いに見合い、深くうなづいた。当然、追うぞ、という互いの意思表示である。

 が、

「悪いけど、一人手を貸してもらえないかな」

 第三者の、声に二人は戦慄した。

 男の声だったのはわかったが、聞き覚えのない声だという事は咄嗟に理解していた。

 振り返る。反射的に振り返った。そして、見えたのは当然、見知らぬ男の姿。

 若い男だった。成城と同等かその程度の年齢だと思えた。ただし、その容姿は、どうみても、格好良い。同性の成城が見ても、この男はモテるな、と思う程の容姿。天然モノかと思う程に綺麗な金髪が太陽光を反射しながらなびいているその偶然さえもが、その男の格好良さだと思える程だった。

 が、この状況、どんな人間が出てこようが、見知らぬ限りは警戒しなければならない。

 視界に男を入れ、途端、二人は反射的に数歩下がり、武器を握り締めた。

 が、男は、引きつった笑みを二人にみせ、慌てて二人の前で否定の意味を表し、両手を振る。

「違う違う違う。俺は人間。いきなり言ってもわからないだろうけど、俺は、君達の味方」

 そう言って、男は懐から小さなナイフを取り出すし右手に構えると、左手の指先を軽く切ってその証拠を見せた。流れたのは当然、赤い血であった。

 血を出す事で証明とする。それはつまり、味方である事の証明である。

 すぐに、二人とも気付いた。この男は、砂影と似た様な立場にいる人間である、と。

「あ、あぁ……味方だってのはわかる」

 まず、成城が出たが、成城は確認するように佐伯を見た。佐伯もおずおずとだが頷く。

 そんな二人を見て、男はよかった、と思った。なぜならば、

(説明の手間は省けたようだ)

 僅かに安堵の笑みを浮かべた男は、二人に言う。

「血を見て判断出来るって事はそれなりに経験してきたって判断するよ。今、女の子がさらわれたのは理解してる。だけど、どうしても一人借りたいんだ」

「何を言って、」

 そんな状況じゃないのは、高無が拐われたという事実を知っていれば、わかるだろう。と、成城が声を荒らげようとするが、敵は、未だ待たない。

 足音。それに気づけたのは成城と男。二人の反応を見て、佐伯がワンテンポ遅れて気付く事が出来た。

「チッ、」

 と、確かに聴こえた。成城は隣の男を一瞥して、その表情に浮かぶ忌々しげな感情を察知した。敵が出てきて、面倒だ、という顔をしているのはすぐに理解出来た。

 そして、

「あぁ、面倒だ。連中は本当にタイミングが悪い。仕方ない。悪いが、一人借りる。君は女の子を追うんだ。後で戻ってくれば、イロイロと話せるから! 山頂に後で来てくれ!」

 男はそう一方的に言うと、男は佐伯を無理矢理に担ぎ、そして、走り出した。山を下るように颯爽と駆けて下って行って、あっという間に見えなくなってしまった。

 当然、追えば追いつく事が出来ただろう。だが、追えば、高無が向かった方向とは逆に走る事になる。それが、成城の足を止めた。

「なんだあいつ……ッ!!」

 そう吐き捨てるが、

(まぁ、でも、敵じゃないって事は、何かしら考えがあると考えるしかない……。今は、とりあえず、高無さんを追うしかない)

 視線は、先を見据えていた。

 訳がわからなかった。だが、進むしかないと理解していた。

 成城はすぐには進まず、一度、数秒立ち止まって、考え、そして、叫んだ。

「砂影君ッ!! 佐伯さんは仲間を見つけて山の中で別れた! 俺は拐われた高無さんを追うツ!!」

 出来るだけの大音声で、砂影と別れた方向目掛けて、叫んだ。

 聞こえてるとは思わなかった。だが、もしかすると、あれだけ人間らしく人間離れしている砂影ならば、もしかすると聞こえているのかもしれない。実際にそう思ったからこそ、そう叫んだ。伝わっていないなら、伝わっていなくとも、良いと思った。

 そして、成城は走り出す。目指すは西。

 山を走って下った。恐ろしい程に足場が悪く感じたが、足元に生い茂る雑草が良い具合にストッパーの役割を果たし、成城は転ばさずに麓まで走る事が出来ていた。

 山を下りきるまで五分強。怪我を厭わずに全力で下り、そして偶然にも足を止めずに降り切れた事がここまでの短い時間を演出する事が出来ていた。

 降りてすぐ、目の前に広がった光景は当然、砂浜だった。振り返ればあの古ぼけた建物が見えた。一日目に寝床としたあの建物だ。夢中で山を下っていたため、気づけなかったようだ。

 が、そもそも今の成城に振り返る意味はない。

 すぐに辺りを見回した。地上も、上空もだ。

 そして、見つけた。山の影へと消え去る、男の尾を。

「見つけたッ!!」

 そしてすぐに駆けた。

 駆けたが、見つけた事で興奮し、冷静さを掻いていた。

 そもそも、飛べるモノが、障害物だらけの中を駆ける人間が追いつける程度の速度で、移動しているわけがないのだ、と。つまりこれは、誘われているのだ、と、気付けていなかった。

 だが、追う。成城は追う。走り走り、そして、見知らぬ土地へと出た。

 まず思ったのは、ここは、どこだ。であった。

 広い敷地があった。そして、山に沿うように建物が並んでいた。住宅地もどき、という感覚であったが、どれも相変わらず剥き出しのコンクリートでしかなく、一列に並んでいるだけで、住宅地というよりかは、どこぞのリゾート地に形だけ近づけた、という印象だった。

 当然、成城は再度辺りを見回した。

 海、いない。海鳥一匹いない。魚なんて持っての他。振り返り、そして、見つける。横一列に並ぶ建物の真ん中だ。その二階部。古ぼけてガラスがハマっているのかはまっていないのかすらわからない窓枠の向こうに、男の不気味な笑みが写っていた。

「あいつッ……!!」

 成城はすぐに駆け出した。忌々しげな気持ちを吐き捨てるようにそう呟き、全力で駆けた。真っ直ぐ一直線にその家へと向かった。二階にそのまま飛び込みたい程の気持ちはあったが、ただの人間である成城がそんな事を出来るはずもなく、成城は古ぼけた玄関を文字通り蹴破り、そして、その家の中へと突っ込んだ。

 玄関扉が無理矢理枠からはがされ、家の中へと転がり落ちる音は激しく家の中へと響き渡った。成城の進入は、当然中にいるモノ達に知れ渡る。

 玄関と思われる段差を上がったすぐ先に廊下があり、その半分を上へと上がる階段が占めていた。成城の視線は当然、階段を見上げた。

 進む。足音が異様なまでに響く。だが、今更な事だった。存在はとっくに知られているし、成城は真っ向から仲間である高無を助け出すつもりだった。

 冷静さは欠いていた。単純に考えれば、一人で高無を救いに向かうという事はすべきでないし、この状況から敵に誘い出されている事は察知出来るはずだった。だが、できていなかった。冷静でないからだ。

 泣き啜る様な声が聴こえた気がした。それが高無の声だという事は考えずとも理解出来た。それを聴いて、助けに来ないなんて選択肢はなかったな、と思い返した。

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