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第8話 看板娘と愚かな男



「ぐあ…!」


これが本日の僕の第一声だった。




なぜかというと…




か、体が、う、動かん…!!


もしやまだ地球に完全には適応していなかったのか?

いやそんなバカな!


しかしベッドの上に横たわる自分の体を動かそうとすればするほど耐えがたい激痛が走った。


お、落ち着けこんなときこそ冷静になるんだ、無理に動いては駄目だ。


そう思って現状維持に努めていると、部屋の戸が勢いよく開いた。


ガチャ、ではなくバーン!といった感じだ。

蝶番ちょうつがいよ、よく耐えた!



「いつまで寝てんだ、早く起きろ!」


ダイさんだった。


「い、いやこれには訳が…」

実力行使に出られそうだったのでなんとか説明しようとしたが、


「目ぇ覚めてんなら、布団から出やがれ」

そう言って彼は僕に掴みかかる。


「ちょ、まっ!、い…イデデデデデッ!!!」

苦痛に耐えかねた僕は叫ぶ。




「なんだ、筋肉痛か?それなら…」

彼の力が一瞬緩む。


ほ、分かってくれたか…

筋肉痛が何かはあまり知らなかったが。


と僕が安心したのもつかの間、


「じゃあ、しっかり伸ばさねーとな!」



え…?




再び、力が込められた



ギャーーーーー!!!



中華街の一角に朝から悲鳴が鳴り響いた。



◆◇◆



「ったく、昨日程度で筋肉痛とは、筋力が足りねーんじゃねーか?」


あんたはありすぎですけどね…。


そう、昨日ウェイターの仕事で肉体を酷使しすぎた僕は筋肉痛なるものになってしまったようなのだ。

もとが、無重力に近い環境で暮らし、軟体生物だった僕にとっては初めての症状だった。


それに僕は頭脳派だ、筋力なんて野蛮なものは欲しくない。

知は力なりと言った地球人に大いに賛成だ。


「ま、俺のマッサージに感謝するんだな」

彼は自慢げに言う。


…あれはマッサージというのか?僕の知識ではプロレスという格闘技に近かった気がするが…


しかしあの拷問の後、なぜか体が軽いのが不思議で仕方ない。

もっとも今日ぐらいはゆっくり過ごすつもりだったが…



「じゃあ、今日も一日頑張るか!」

この一言に砕かれた。



「え、今日休みにしないんですか?」

僕は朝食のトーストを落としかけた。


「アホか、せっかく客足伸びてんだ。それにうちの定休日は日曜だろ」

彼が当たり前のように言う。



日本人の欠点に働き過ぎだということを聞いたことがある。

彼もまさにそれなんだろうか。


…そんなに儲けたいのか?

まあ、店の売り上げが良いにこしたことはないが…



仕方がないか、この人は僕の隠し財産を知らない訳だし…



え?みんなも知らない?

これも話してなかったのか。


では説明しよう。


諜報活動で欠かせないものそれはズバリ資金だ。


その使い道は必要な物資の調達や危機回避の為の金銭交渉など多岐にわたる。


だから僕もこの任務を受ける際にあるモノを大量に用意した。


ドル?日本円?それとも金?最後は惜しいがそんなものは我が故郷では手に入らない。


ならば何なのかというと…


それはダイヤだ。ダイヤモンド、日本語で言うなら金剛石だ。

大小合わせて実に5㎏。

理由は大きく二つ


一つはこの鉱石が地球では高値で取引されているとの情報が入ったからだ。


そして二つ目は簡単に手に入るものだったからだ。

以前に話したと思うが、我が故郷の星は地球とは比べ物にならないほどに灼熱で、

かつ、重力関係も異なるために

少し地殻を深めに掘るだけで、そこにはダイヤの鉱脈が延々と広がっている。


だから我々にとってダイヤとは非常に安価な装飾品でしかないのだ。


しかし持ってきたそれは今も自室の押し入れの奥に隠してある。

もちろんいざとなったら、すぐ換金できるように保存状態は完璧だ。



じゃあ、早く換金しろ?

…これだから素人は。


いきなり5㎏ものダイヤが市場に出回ればどうなると思う?


僕の目的はダイヤの価値を下げることでも、インフレを起こすことでもないのだ。



…長々とすまなかった。


「食ったら動けよ」


…了解デース☆


またダイさんの怒号が飛ばないうちに制服に着替えようか…

まだ痛む体に活を入れて僕は立ち上がった。


◆◇◆


正午を過ぎて店を開ける。


昨日ほどではないが、十分な客の入りようにダイさんも満足げだった。



しかし時刻は18時、夜の部を迎えると事態は一変する。



今、僕は目の前の光景に圧倒されている。なぜなら…



人、人、人…



いや正確には


男、男、男

と言った方がいい。



店内は男性客で埋め尽くされていた。


彼らの目的は看板メニューではない。



看板は看板でも



看板娘………そう、はるかさんである。



皆、カウンター席には目もくれずあくまでテーブル席に収まろうとする。

一人客ですらこの始末だ。


こちらとしては面倒極まりないので移動を促そうとすると、

軽く睨まれた後、明らかに初対面に見える人たちと合席あいせきをするようになった。


「ラーメン2つお願いします!」


「はーい、ラーメンお2つですね」


おお…!

笑った…

萌え…


遥さんが客の注文に笑顔で答える度に店内が変な熱気に包まれる。


これだけならまだマシなのだが、中にはこんな注文もある。


「目線くださーい」


これには彼女も少々困っていた。



…もう、なんなんだ…。



客の手前、我慢しているがダイさんの中華鍋を持つ手が震えている。


極めつけはある客が会計の際に取った行動だった。


「あ、あの…握手、してください!」

そう言って男は手を差し出した。


流石にこれには僕も反応した。


「あの、お客様!当店ではそのようなサービスは…」



しかしもう遅かった。既に彼女は困惑ぎみながらも握手に応じていた。

その客は大喜びだ。





………………………




…ず、


ズりーよォォォ!!


え、アリなの?そういうのOKなの?



じゃあ、じゃあ僕とも握手して下さい、遥さん!


そして僕は右手を差し出すが…


…ヒュン!、バシッ!!


「痛っ!」

高速で放たれた何かが手の甲に直撃する。


なんだ…?


痛みで霞む視界に入ったのは一つのレンゲだった。


直後に怒声が店に鳴り響く。

「ウチは中華料理店だ、アイドルの握手会か何かと勘違いしてる奴ぁ出ていけ!!」


シーンとなる店内、そして…




「「「すいませんっしたー!!!」」」


男性全てが平謝りした、

もちろん僕も。



その後はまるで葬儀のように粛々と食事を終えた客たちは

会計を済ませて出て行った。



◆◇◆



「あの、何だかすみません…」

片づけをしていた遥さんが呟いた。


「なんで遥ちゃんが謝るんだ、どう考えても被害者だろ」

と言ってダイさんはこちらを睨んだ。


「むしろ謝んならオメーだユーマ、何客止めるどころか混ざろうとしてんだ?」


…うう、返す言葉もない。



しかしそんな僕を天は見捨てなかった。


「まあまあダイさん、ユーマさんは一生懸命働いてお疲れだったんですよね?」


は、遥さん…貴女あなたって人は…!


「まあ、本人がいいならヨシとするか。しっかしつい怒鳴っちまったな…」


明日から大丈夫か、と彼は嘆く。


…確かに、今日の反応だとあの客たちは彼が怖くて近寄れないだろう。


僕と遥さんは顔を見合わせた。



◆◇◆



結果を言うとこの心配は徒労に終わることとなった。


異常なまでの来店はないものの、安定した客足を保ち続けたからだ。



まあ、一件落着なのだが…



僕には一つ腑に落ちないものがあった。




…握手、できなかったぞォォォ!!


ォォォーー


ォーーー


……



この虚しい僕の叫びが誰かの耳に届くことは無かった。





どうでもいいところに文章を割き過ぎましたね…

申し訳ないです。

相変わらず感想・アドバイス・リクエストなど待ってます!


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