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抑えきれない衝動

 最後に一言付け加えると、ゴロリからの念話が途切れた。 

 サティアと獣人の娘を大切にしろってどういう意味だ? 大切することに特に異論は無いが、わざわざゴロリが言うことでもないはずだが……さっき言うのを取り止めた報告とやらに関係があるのか? 

 

 まぁ、いいや。今は獣人の娘の猫耳&尻尾とサティアの耳のどちらを先に手をつけるかが問題だ。

 目の前に居るが既に触ったことのあるサティアと、少し離れているが未体験の獣人の娘……迷うな。

 う~ん、ここは獣人の娘の方かな? やっぱり未体験ってのはなかなか無視できんし。 

 ってなわけで膝の上にいるサティアを起こさないようゆっくり移動する。ここでサティアを起こすと猫耳に触れない可能性が出てくるし、この後サティアの耳をハムハムできないからな。

 

 

 

「……ぅん、にゃ……」


 

 獣人の娘の元にたどり着いたので早速猫耳を含めて頭を撫でてみると、一撫で毎に可愛い声の反応がある。

 ふむ、猫耳は大きさのわりに肉が薄いんだな。猫耳部分と髪では毛の柔らかさが違……あれ? 猫耳部分は髪と違って毛が傷んでないんだな。

 

 耳の次は尻尾。……猫の尻尾ってかなり敏感らしいから、扱いには細心の注意が必要だ。思いっきり掴むのって目潰しするのと同じようなもんって聞いたことがある。

 

「……ねぇ、何してるの?」


 

 尻尾に手を伸ばしたその時、耳元から声をかけられた。どうやらサティアが起きたようだ。

 

 ……まずい、尻尾に触ろうと手を伸ばしたが、尻尾って文字通り尻にある。……つまり見方によっては尻を触ろうとしてるようにも見えるわけだ。 

 はい、どう見ても痴漢ですね。さあ……どう弁解するか。

 

「え~とですね、誤解をしているかもしれませんが、ただ尻尾を……「ずるいっ」」


 

 せめて最後まで言い訳させて! そりゃどう見ても痴漢な光景だけ……ん? ずるい?

 

「わたしが寝てる間に自分だけこの娘を撫でるなんて……」


 

 ……サティアもこの娘の猫耳&尻尾に興味津々だったのね。

 

「え~と、それじゃあサティア「は~い到着しましたよ」」


 

 サティアを共犯に獣人の娘を撫で回そうと提案しようとしたところでうちの別邸に到着したらしい。……ゴロリとの会話に時間をとりすぎた。

 くっそ、ゴロリめ何で今日は現実で話し掛けて来やがった! 精神世界でなら時間の経過なしで会話できたのに! おかげでサティアが起きて耳をハムハムできなかったじゃねぇか!

 

「……あ、これまたお邪魔でした?」


 うん、正直タイミングはあまりよろしくない。ついでにサーシャの操馬技術が凄すぎて馬車が止まったことにすら気付かなかったのも良くない。 ……どうやったら石畳の上を蹄の音を鳴らさずに馬を走らせることが出来るんだか。

 

「いや、気にするな」


 

 とはいえ、その辺りは貴族的に口に出せない。否定しないのがせめてもの抵抗だ。

 

「……え、お邪魔ってな………にが……ぁぅ」


 

 サティアは何の事か気付いてなかったようだが、自分の今の体勢を確認して湯気が噴き出しそうな勢いで顔が真っ赤にする。エルフの血族特有の横に長い耳まで一瞬で真っ赤に染まったな。

 

「あ~、転移法陣の起動をしてきますのでもうしばらくお待ちください」


 

「え~と、サティア様降ります?」 

「そ、そうね……」 

 微妙になった空気を察したサーシャは言い訳をしながら逃げて行った。その速やかな逃げっぷりに微妙な空気も霧散したので、とりあえずサティア膝から降ろす。いつまでも膝の上にいられたら落ち着かないしな。


 

 ……むぅ、どうしてもサティアの耳が気になる。 後回しにしたとはいえハムハムする気満々だったからなぁ。

 

 先ほどまで真っ赤だったが、ほんのり朱く染まる程度になった耳が目の前に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハムり。

  

「ふにゃぁぁぁぁあああ!!?!?」


 

 俺が耳をハムると同時にサティアが大声をあげる。

 ……ん? ……お、……あ! しまった、ついやっちまった。

 目にサティアの耳が映ると、こうムラムラとこみ上げるもんがあって……ヤっちゃったな。

 反省はしている、後悔はしてないってのはこういう気分なんだな、うん。 

 ……つーか、サティアのリアクション大きすぎじゃね?

 

「な、なななななな……何をするの、るーくん!!」


 

「あ~、いえ……その…………つい……」


 

 サティアが耳を押さえ、抗議してくるが、うまい言い訳が思い付かん。どうしよ? このままだと、どうしようもないレベルで嫌われ……あれ? 耳押さえてるけど俺から離れないのは何故だ? 警戒してるなら離れるだろ。

 膝の上に乗ってるから小刻みにピクピクしてるのがダイレクトに伝わってくるんだが。

 

「ついって何!? エルフの耳はそう簡単に触っちゃダメなの!」


「どうしてですか?」


 ハムったのはともかく、触るのすらダメなのか?


「エルフの耳はね…………な、なんでもない! とにかく触っちゃダメなの!」


 

 サティアから説教が始まったと思ったらすぐに失速し、いきなり終わった。

 

 ……エルフの耳に何か秘密でもあんのか? ……さすがに聞ける空気じゃないから後で調べてみるかな。

  

「あの、立たないんですか?」 


 それはそれとして、サティアが一向に立とうとしないので聞いてみる。

 

「……が……て……いの」


 

「え?」


 

「だから、腰が抜けて立たないの!」


 

 よく答えが聞こえなかったので聞き返すと、サティアが再び真っ赤になり叫ぶように答える。

 もしかしなくても、俺がハムった所為だよな。 仕方ない、またお姫様抱っこで……あ、そういや獣人の娘も運ばないといけないんだよな。さすがに五歳児の筋力で二人を運ぶのはキツい……けど、魔術を使えば二人とも運べるかな?

 

「立てないのでしたらぼくがお運びいたします、少し失礼しますね」


 

「え……きゃっ」


 膝の上にいるサティアの体勢を少し変え、空いたスペースに獣人の娘を抱える。そして、

 

「《念動》」


 

 無属性魔術《念動》を使って二人同時に抱えあげる。

 ふぅ、なんとかなったな。

 

「サティア様、何か不自由はありませんか?」


 

 《念動》のリソースは自力でバランスの取れない獣人の娘に割いてるので、サティアに不満がないか聞いてみる。

 

 

「……ぁぅ……な、なにも、問題……にゃいわ」 

 まだ顔が赤いし、最後に噛んでたのが気になるが、問題なさそうだな。

 発動している念動を利用し馬車の扉を開けて降り、転移の間へ歩きだす。 

 ちなみに《念動》は無属性の初級魔術で文字通りサイコキネシスだが、ぶっちゃけあまり使えない魔術とされていたりする。

 手を使わずに物を動かせはするが、制御が難しいので自分の手を使った方が早いし楽。普通は手で持てないような物を運ぶ時や、俺がやってるように支える程度にしか使わない。

 馬車の扉を開けるのもわりと大変で、例えるならマジックハンドを使って扉を開閉したような感じだった。

  

 転移の間は転移法陣を置いてある部屋で、転移法陣は瞬間移動の魔術、《転移》の術式を刻んだ魔法陣だ。 

 転移系の術はリスクが高いので、長距離転移は術者のコンディションの影響の大きく不安定な詠唱魔術ではなく、効果の振れ幅が小さく安定している魔法陣を使うのが一般的。そのため街に一つは公共の転移法陣が設置されている──利用料金はかなり高いし、運用に注意点が多いからあまり頻繁には使われないけど──し、うちには専用の転移法陣が用意してある。

 ちなみにこの転移法陣は設置と維持にかなりの金が必要なので貴族でも自前の転移法陣がある家はかなり少ない。


 まぁ、転移法陣はいつでも使える物じゃないし、そもそも設置に適した土地が少なく土地代がアホみたいに高いのも大きな理由だと思うけど。

 

 ちなみに転移法陣があるのに別邸を建ててる理由は先に挙げたようにいつもいつでも使える物ではないから。

 色んな条件を揃えなくちゃいけないし1日の使用回数に制限もあるから使えない時の為に滞在用の建物を用意してある。 


 さて、転移の間に着きサーシャに術を発動してもらい家に帰って来た。

 もうすぐ夕方か……確かパパンが帰って来るのは夜だったな。 

 今日の用事は済んだからママンの墓参りに行けるな。夜はパパンに譲らないといけないから急ぐか。 

 ったく、本当なら朝から昼過ぎまでゆっくり参る予定だったのにリオール家や王様が用事を……あ! サティアを連れて帰ってくれって言われてたの忘れてた!

 

 マズったな……転移法陣はパパンが帰って来る分位しか使用回数が残ってないから今日はサティアを帰せないぞ。

 

 しゃあない、今日はサティアを泊めるか。

 ……はぁ、また親バカ王とシスコン王子の相手をしないといけないのは面倒だな。

 

「サーシャ、サティア様は今日はうちに逗留する旨を王宮に伝えてくれ」


 

「え……え!?」


 

 王都へ転移はできないが電話的な魔道具はあるため、連絡は可能なので王宮に連絡をさせる。連絡してないと最悪誘拐したことになっちまうからな。

  

「はい、かしこまりました」

「えっ、ちょっと……」


 

 サーシャの返事を聞き、部屋へと歩きだす。

 

 突然うちに泊まることになったことに困惑しているサティアに今日はもう転移法陣が使えなくなったことを歩きながら説明する。

 元々サティアはうちに来る気だったのでどっちしても泊まることになってあたから理由を説明すると大人しくなった。

 

 さて部屋の前に到着した訳だが、今日は使用人が少ない……って言うか居ないな。

 いつもならここに来るまでに一人二人は見かけるんだが全然見てない。

 ……こんな日もあるかな? まぁいいや、とりあえずさっさと部屋へ入りサティアと獣人の娘を降ろそう。いい加減念動の維持に疲れてきたし。

 

「……相変わらず広い部屋よね」


 

 部屋に入るとサティアがポツリと一言、王女のサティアから見ても俺の部屋は広い。その広さは百畳分くらいはあるからな。

 一応言い訳しとくと、ここはイスカンダル家本家の子供全員の為に用意された部屋で、代々本家に生まれた子供で分割して使う仕様らしい。

 ……この部屋を用意したうちの先祖は馬鹿なのか? 子供が多い時の為に広めに造ったのはいいけど、俺みたいに一人しかいない時のことも考えろよ。

 イメージするなら体育館に一人でポツンといるような状態だぞ、この部屋で一人で過ごすのって。……もう慣れたから別にいいけどな。それにいろいろ手を加えたし。

 

 この大陸の家屋は土足だが、俺の部屋は現代日本の家屋のように土足禁止のフローリングで入り口に玄関を設置してあるのでそこで靴を脱ぎ、サティアのミュールを脱がせる。

 そしてベッドまで歩きサティアを降ろした後、部屋の一部区切ってある一画に向かう。獣人の娘を俺のベッドに寝かせても個人的には別にかまわんが、貴族的に奴隷を主の寝床に寝かせるのはある状況以外ではアウトな行動なんで別の場所に寝かせる。

 

 部屋の区切ってある一画、そこは──

 

「何、このお部屋?」


 

 ……アレ?

 何でサティアの声がすぐ後ろから聞こえる?

 

「え~と、サティア様、自分で歩けたのですか?」


 

 腰を抜かして立てなかったから俺が運んだ訳なんだが……。

 

「え、ええ、このお部屋につく少し前にはもう」


 

 念動の維持ってダルいから出来れば自分で歩いてほしかったんだが……まぁいいや。

 

「これは東の列島で普及している『和室』と呼ばれるタイプ部屋ですよ」


 

 元が日本人だから畳があると落ち着くという理由で造った部屋で、サティアが俺を嫌いだした後に造った部屋だからサティアは知らないんだよな。

 ちなみにサティアに嫌われて凹みまくった俺の心を癒してくれた部屋でもある。

 念動で獣人の娘を浮かせ、その間に布団を敷きそこに獣人の娘を寝かせる。週の半分はこっちで寝てるから布団は用意してある。ベッドと違って地べたで寝るって感じだからここなら獣人の娘を寝かせても問題ないだろ。

 

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