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ムラクモ

私がどうやって こうなった のか、もうお分かりでしょう?


さあ、次に進みましょう。


本当の問題は

「次に何が起こったのか?」ではありません。


それは…


「どうやってこうなったのか?」です。


よく聞いてください。

退屈な話はもう終わりです。


さあ、これからお見せしましょう。

私がどのようにして今の私の存在を築き上げたのか。

あなたの愚かなために。


では、始めましょう。


すべてが変わりました。

一夜にして。


何の伏線もありませんでした。

移行もありませんでした。


ただ…


ひっくり返ったのです。


完全に180度変わりました。


私は何者でもなかった…


ザ・サムシングの器になったのです。


目に見えない存在から崇拝される存在へ。

見過ごされていた存在から神に近い存在へ。


あまりにも速すぎて、現実のこととは思えませんでした。

まるで自分が人間でなくなったかのようでした。


しかし…


この新しい人生には恩恵がありました。


非常に重要なこと。


ついに、私はそれをどう「使う」のかを学ぶことができた。


この力。

私の中に流れるこの狂気。


長老たちはそれを理解していた。

私よりも深く。


彼らはそれがどこから来るのかを知っていた。

彼らはそれがどのように機能するのかを知っていた。


すべては制御にかかっていた。

ザ・サムシングを制御すること。


訓練は…奇妙だった。


肉体的なものではなかった。

最初はそうではなかった。


それは内面的なものだった。


彼らは私に「感じる」ことを教えてくれた。


世界を微視的なレベルで感じ取ることを。

あらゆる粒子を。

あらゆる振動を。

空気を。

地面を。

すべてを。


そしてついに――

私はそれを感じた。


そのうなりを。


静かで、絶え間ない振動を。

存在そのものの振動を。


そして――

私のアスペクトが広がった。


そしてそれと共に、何か別のものが現れた。


飢え。

暴力。

飽くなき欲望。


ザ・サムシングの影響。


能力は自然と身についた。


血液操作。

精神知覚。

物質操作。

細胞レベルまで。


最初は――

圧倒された。

恐ろしかった。


だが、そんな力は――

人を変容させる。


まるで無敵になったような気分にさせる。

無敵になったような気分にさせる。

無敵になったような気分にさせる。


……でも、私はそうではなかった。


まだ。

おそらく永遠に。


ある日、見知らぬ男がやってきた。


そして、まるで魔法のように――

村のリズムが崩れた。


彼は商人ではなかった。

巡礼者でもなかった。

見覚えのある人物でもなかった。


彼のすべてが…どこか違和感があった。


黒いローブをまとい、

赤い絹糸が織り込まれていた。


麦わら帽子を深くかぶり、

顔を完全に隠していた。


そして、彼の動き方――

あまりにもゆっくりだった。

あまりにもわざとらしく、

不自然だった。


彼が広場に足を踏み入れた瞬間――

すべてが止まった。


会話は途中で途切れた。

視線が一斉に向けられた。

静寂が訪れた。


そして――

彼は口を開いた。


静かに。

しかし、重々しく。


声は大きくなくても

人々の注意を惹きつけるような声だった。


「彼女を探している。」


彼が中に入った瞬間――

何かが変わった。


冷たさ――

鋭く、瞬時に――


その時、私は悟った。


彼はここにいるべきではない。


彼は頭を下げた。

しかし、それは敬意の表れではなかった。


まるで演技のようだった。


そして――

私はそれを感じた。


彼のエネルギー。


暗い。


亡霊のように混沌としているわけではない。

荒々しいわけでもない。

不安定なわけでもない。


これは違っていた。


集中している。

制御されている。

古の。


それは彼から放射されていた――

炉から発せられる熱のように。


重く。

抑圧的。


それは私に押し寄せた。

私の感覚を刺激した。


濃密で。

息苦しい。


まるで嵐の中に立っているかのよう。

まだ嵐が始まっていない嵐の中に。


まるで存在してはならない何か。


それでも――

彼は人間だった。


肉体。

血。

男だった。


しかし、何か別のものに包まれていた。

何か不気味なものを。


その矛盾――

恐怖が私を襲った。


すると、彼は再び口を開いた。


そして、それまで感じていた不安は――

さらに深まった。


なぜなら、彼が次に尋ねたことは――

さらに奇妙だったからだ。


ムラクモ。


男は私の前に立っていた。


その顔は影に覆われた仮面のようだった。

正体を隠している…


あるいは、もっと恐ろしい何かを隠しているのかもしれない。


彼の存在そのものが

世界に重くのしかかるように感じられた。


彼が口を開くと、

低く、かすれた声で、

響き渡るような轟音だった。


本質的に恐ろしい声でありながら、

紛れもなく力強かった。


「久しぶりだな。

だが、こうして君に会えた。

長い間探し続けた甲斐があった」


彼はゆっくりとした口調で言った。


一言一言に

ぞっとするような、最後の脅威が込められており、

私の胃が締め付けられるような感覚に襲われた。


重苦しい沈黙が訪れた。


聞こえるのは、

私の乱れた呼吸音だけだった。


「あなたを知っているのか?」


長い沈黙の後、私は尋ねた。


なぜなら、私の内なる何か――

根源的な何か――

すでに真実を叫んでいたからだ。


私はこの男を知っている。


顔を隠していても、

まるで感じ取れるようだった――

冷たく、残酷な、

悪意に満ちた笑みの曲線。


「ああ…」


彼は答えた。


「君とは昔からの知り合いだ。」


彼の声は奇妙だった――

どこか興奮しているようだった――

しかし、皮肉に満ちていて、

そして、もっと危険な何かが潜んでいた。


悪意。

捕食者の声。


「何が望み?」


私は尋ねた。


今度は隠しきれなかった――

不安が私の平静を破った。


彼の存在感は圧倒的だった。

古の。


彼と戦う?

選択肢にすら入らなかった。


そして、彼が私を知っていると言った瞬間――

すべてが繋がった。


前の器。

私にこの力を与えた女。

彼女の死。


この男は…

あの過去と繋がっていた。

その結果だった。


そして、もしかしたら――

彼はあの時始まったことを終わらせるためにここに来たのかもしれない。


「私と一緒に来てほしい」


彼は言った。


彼の声が変わった――

今は滑らかだ。

まるで…誘っているかのようだ。


「君の力の使い方を教えてあげよう」


「この愚か者たちには決して理解できない――

制御できない力だ」


私はゆっくりと、落ち着いた呼吸をした。

自分を落ち着かせた。


「あなたは誰だか知らない」


私は言った。

声を冷たく、鋭く、

抑えた声で。


「でも、あなたとはどこにも行かない」


「出て行け」


一言一句に重みがあった。

命令だった。


一瞬――

何も起こらなかった。


それから――

ゆっくりと…

意図的に…


彼は顔を上げた。


そしてついに――

彼の顔を見た。


息を呑んだ。


彼の目は――

人間の目ではなかった。


鮮烈に輝く深紅。

知性に燃え盛っていた――

しかし、それは人間の知性ではなかった。


もっと暗い何か。

もっと残酷な何か。


彼の口は――

巨大な傷跡に引き裂かれ、

目まで達していた。


そこから――

牙が突き出ていた。


歯ではない。

何か怪物のようなもの。


彼の肌には痕跡があった――

複雑で漆黒の模様で覆われていた。


それは古代の模様のようだった。

儀式のシンボルのように……


あるいは、もっと恐ろしい何か――

まるで彼の一部であるかのように。


彫られたものではない。

生まれたものだ。


まるで彼の存在そのものが

人間の理解を超えているかのように。


彼は人間ではなかった。

もはや。


もしかしたら、最初から人間ではなかったのかもしれない。


そして――

彼は笑った。


大きく。

非人間的。


グロテスクで、獲物を狙うような笑み。


それは生きている者のものではない表情…

獲物を狩る者の表情。


殺す者。

必要に迫られて殺すのではなく――

ただ、その快感のために殺す者。


殺人者。


そして今――

私はその獲物だった。


「それなら、お前を連れて行くしかないな」


「そして、他の奴らは全員殺す」


恐ろしいほどの明晰さが私を襲った。


戦わなければ。


しかし、体が動かない。


恐怖が私をその場に釘付けにし、完全に凍りつかせた。


なぜなら、真実は――

この力の使い方が全く分からなかったからだ。


ザ・サムシングを呼び出す方法が分からなかった。

発動させる方法が分からなかった。


さらに悪いことに――

反応しないかもしれない。

純粋な嫌悪感から拒否するかもしれない。


彼は全く別の次元の存在だった。


無理やり呼吸を整えた。

冷静さを保とうと。


私は拒否した――

毒のように私の中に湧き上がる恐怖を彼に見せるわけにはいかなかった。


たとえ…

彼は既にその匂いを嗅ぎつけていると確信していたとしても。


彼が動く前に――

私は行動した。


必死の、本能的な決断だった。

私は衝動的に行動した。


ありったけの力を振り絞り――

たとえそれが不安定で、不完全であっても――

眩いばかりの、集中したエネルギーの奔流を彼に向かって放った。


彼の周囲の地面が爆発した――

激しい勢いで爆発した。


そして――

塵が収まり始めた。


ゆっくりと。

徐々に。


空間が晴れた。


そして、私が見たもの――

新たな衝撃が私を襲った。


彼は消えていた。


完全に消えていた。


どうして…?

どうして彼はあれを回避できたのだろう?


そして――

冷たい圧力が喉元に襲いかかった。


彼は私の背後にいた。


彼はそこに現れた――

音もなく、いとも簡単に――

まるで距離など彼にとって意味をなさないかのように。


すべてはほんの一瞬の出来事だった。


私の頭では処理しきれないほど速かった。

あまりにも速すぎて、感覚が追いつかない。


彼の手が私の気管を締め付けた。


そして――

彼の長く湾曲した爪が私の肉に食い込んだ。


「残念だったな」


彼の声は変わっていた――

滑らかで、ほとんど退屈そうだった。


見下すような皮肉がにじみ出ていた。


まるで私が今したことが

ちょっとした迷惑に過ぎないかのように。


しかし、その無関心の裏に――

私はそれを感じた。


面白がっている。

彼はこの状況を楽しんでいた。


「だが、お前は今から私と一緒に来るんだ」


そして――

動き。


一瞬の残像が視界を駆け抜けた。


久影。


彼は爆発音を聞いたに違いない。


彼はためらうことなく突進してきた――

その顔は純粋で、決意に満ちた怒りに染まっていた。


彼の姿は既に形成されつつあった。

攻撃の準備は万端だった。


彼は前方に飛び出した――


そして…


すべてが止まった。


叫べなかった。

最初は。


衝撃があまりにも大きすぎた。

体が麻痺した。


時間が…


引き伸ばされ、

ねじれ、

耐え難いほどゆっくりと流れた。


そしてその歪んだ瞬間――

久影の頭が――

体から切り離された。


彼の傍らの地面に――

柔らかく、湿っぽく、ぞっとするような鈍い音を立てて。


崩れ落ちる胴体のすぐ隣に。


そして――

声が戻った。


喉の奥から絞り出すような、生々しい叫び声が私の口から溢れ出た。


彼の頭が埃まみれの地面をゆっくりと転がっていくのを、私は見つめていた。


そして――

熱く激しい血しぶきが――

私の顔に飛び散った。


私の親友が――

消え去った。


瞬きする間もなく。


理解できなかった。

速すぎた。

突然すぎた。

現実とは思えなかった。


男は微動だにしなかった。


一体どんなアスペクトが――

こんなことができるのか?


私の訓練には何もなかった。

書物にも何も書いてなかった。

私がこれまで学んだこととは全く違う。


そしてその瞬間――

最終的な悟りが私の魂の奥底に深く刻まれた。


冷たく。

避けようのない。


伝説や悪魔は実在した。


そしてそのうちの一人が……

私のすぐ後ろに立っていた。


激しい戦闘の残響に引き寄せられ、さらに多くの担ぎ手たちが盲目的に中庭に駆け込んでくる中、

私にかろうじて発せられたのは、

荒々しく、絶望的な叫び声だけだった。


「やめて!」


しかし、もう遅かった。


それは瞬時に始まった。


死体――

いや――

死体の断片――

が空中に吹き飛ばされた。


手足がねじれ、

胴体が裂け、

血が石造りの中庭に飛び散った――


地面、壁、

あらゆるものを――

血の筋で染め上げた。


すべてがあまりにも圧倒的な速さで展開したため、

彼らの誰一人として――

一人として――

わずかな抵抗力さえも持ち合わせていなかった。


私の体は震え始めた。

激しく。

制御不能に。


彼は動いていなかった。


一歩も動かず。

身じろぎ一つしなかった。


呪文はなかった。

目に見える技もなかった。


それなのに――

彼らは皆死んでいた。


まるで目に見えない何か――

ありえない何か――

が彼らの中を駆け巡っているかのようだった。


目に見えない力。

物質を歪め、

空間を引き裂き、

押し潰し、

分裂させ、

肉体をグロテスクで原型をとどめない形へと変貌させていた。


想像を絶する速さで、

完璧で容赦のない精密さで、すべてが起こっていた。


背後から、深く響く笑い声がこだました。


「哀れな奴らだ」と彼は嘲笑った。


その声には満足感が、

喜びが込められていた。


「奴らは、継承者界で最も強い一族の一つだとでも言うのか?」


彼の口調は歪んだ――

感心した様子もなく、

面白がっている様子もなく――

苛立ちが滲んでいた。


まるで彼らの弱さが彼を侮辱したかのように。


私の心は――

凍りついた。


まるで氷の塊のように。


考えることができなかった。

反応することもできなかった。

目の前の光景を理解することさえできなかった。


私は彼らを守るべきだった。

それが私の役割だった。

私の責任だった。


逆ではない。


それなのに――

私は何もできなかった。


何もできなかった。


情けない。

無力だ。

役立たずだ。


「なぜ出てこないんだ――くそっ!」


叫び声が喉から絞り出された――

生々しく、絶望的で、壊れそうだった。


しかし、返事はなかった。


ザ・サムシングは沈黙したままだった。


さらに多くの魔術師たちが押し寄せてきた――

何が待ち受けているのか、知る由もないまま。


そして、私はそれを見た――

あの変化を。

彼の中に、あの微妙な変化を。


彼の深紅の瞳が揺らめいた。


集中してではなく――

むしろ、面白がって。


サディスティックに。

飢えているように。


ほんの一瞬――

ほんの少しだけ――

彼の注意が私から逸れた。


警戒心が緩んだ。


ほんの少しだけ。


それで十分だった。


私はためらわなかった。


私は全てを集めた――

私のアスペクトの最後の欠片まで――

そして、それを解き放った。


必死の、強烈な一撃――

私の体から激しい球体となって噴出した。


その衝撃が彼に直撃した――

彼の体は吹き飛ばされ――

背後の石壁に激しく叩きつけられた。


そして――

悲鳴が聞こえた。


族長だ。


私は振り返った――

そして彼を見た。


彼の腕は――

なくなっていた。


無残な切り株と化していた。


血が激しく、規則的に噴き出し、

そのたびに地面に飛び散った。


「逃げろ!」


彼の声は震え、

苦痛にむせ返った。


絶望に満ちていた。


私は凍りついた。

完全に。


理性は私に戦えと叫んだ。

その場に踏みとどまれと。


しかし、もっと深い何か――

もっと冷たい何か――

真実を告げていた。


私たちは勝てない。


こんなやり方では。

彼には勝てない。


我が家で最も強い者たち――

精鋭たち――

彼に傷一つつけられないのなら…


私に一体どんなチャンスがあるというのか?


希望――

それはただの幻想に過ぎなかった。


私の心は必死に何かを探し求めた。


何でもいいから――

最後の抵抗を。

自殺行為を。

この状況に意味を持たせる方法を。


しかし、その考えが形になる前に――

それは遮られた。


激しく。


またあの笑い声が。


今度はもっと大きく。

正気を失っている。

サディスティックだ。


「お前たち担い手は皆同じだ…」


彼の声が混沌の中を這いずり抜けた。


「構造と力を混同している…」


沈黙。


「…そして安定を。」


彼の口調は鋭くなり、

突き刺すように。


「そんな誤解ばかりで…」


空気が張り詰めたように感じられた。


「…お前たちは気づいていない――」


低く、ほとんど喜びに満ちた息遣い。


「――真の力は…」


沈黙。


「…純粋で、構造のない混沌の中にあるのだ。」


見覚えのある顔、

口にした名前――

消え去っていた。


原型をとどめないほどに。


肉片。

砕け散った骨。


まるで最初から人間ではなかったかのように、中庭に散乱していた。


そして、彼――

そこに立っていた。


薄れゆく光に映る影。

静止。

無傷。


彼の目――

底知れぬ悪意――

私に釘付けだった。


さまようこともなく。

気を散らすこともなく。

ただ私だけを。


彼は準備万端だった。


私を連れ去る準備。

あの庭で息をしているすべての魂を消し去る準備――


理由もなく…

壮大な計画のためでもなく…


ただ、できるから。

それが彼を楽しませるから。


そして、そのことに気づいた瞬間――

私の心の中で何かがカチッと音を立てた。


一つの道が。


はっきりと。

絶望的。

しかし、現実。


彼は彼らを狙って来たのではない。

彼は私を狙って来たのだ。


もし私が逃げ出したら――

もし私が背を向けて荒野に逃げ込んだら――


彼の注意は追ってくるだろう。

彼の執着は移るだろう。


「獲物」は移動するだろう。


そして彼らは……

生き延びるかもしれない。


少なくとも、もう少しの間は。


私の視線は下へ落ちた。


ヤコジョンへ――

族長へ。


私の傍らに立っている。


動揺していない。

毅然とした姿勢。

揺るぎない存在感。


彼は少しだけ首を傾けた――

私の目と合うように。


そしてその瞬間――

すべてが語られた。


言葉はなかった。

ためらいもなかった。


ただ理解があった。


深く。

重く。

決定的。


普段は厳格な彼の顔が、ほんの少しだけ、

わずかに、

悲しみと…

そして決意を刻んだ。


そして彼の瞳に――

私はそれを見た。


そのメッセージを。


まるで言葉のように明瞭に。


行け。


次の瞬間――

彼は動いた。


ヤコジョンは突進し――

純粋な運動エネルギーの集中した爆発として、その力が外へと噴出した。


族長級の技。

要塞を瓦礫と化すほどの攻撃。


それは空気を切り裂き――

激しく。

容赦なく。


悪魔は微動だにしなかった。


退屈そうな表情で――

彼は片手を上げた。


何気なく。


そしてそれを止めた。


その力は接触と同時に消滅した――

まるで霧が石に触れるように。


しかし、ヤコジョンはまだ終わっていなかった。


彼は最初から勝つつもりなどなかった。


彼は知っていた。


最初から――

これは戦いではなかった。


これは時間稼ぎだった。


彼は命をかけて時間を稼いでいた。


彼の次の動きは違っていた。


より鋭く。

より速く。


一つ一つの攻撃は計算され尽くしていた。

一つ一つの打撃は正確だった。


彼は信じられないほどの敏捷さで動いた――

歳月を背負った老人のようにではなく――

全盛期の捕食者のように。


流れるように。

致命的に。


自分よりはるかに危険な獲物を追い詰めるジャングルの猫のように。


そして初めて――

悪魔が反応した。


変化。


微妙な――

しかし、確かに。


彼は一歩後ずさり――

頭蓋骨を狙った鋭利な一撃をかわした。


体をひねり――

胸を貫くはずだった追撃の爆発を回避した。


ほんのわずかなものだった。


でも、それで十分だった。


あの瞬間だった。


私が得られる唯一の瞬間だった。


ほんの一片。

極めて微かな。

でも、確かに。


私は振り返った。


振り返らなかった。

振り返れなかった。


なぜなら、もう分かっていたから――

もし振り返ったら…


もうここから出られなくなる。


罪悪感は既にそこにあった。


重く。

毒のように骨の髄まで染み渡っていく。


分かっていたこと――

一生背負っていくもの。


そして、振り返れば――

それが永遠に続くだけ。


だから、私は走った。


混沌の中を。

恐怖に怯え、打ちひしがれた民の残骸の中を。


彼らは私の周りを動き回った――

後退するのではなく――

むしろ、私を支えていた。


必死に、崩れかけた盾を彼らの族長の周りに築き上げていた。


残されたすべてを捧げて。


ありったけの力を。

力の全てを。


全てはただ一つの目的のために――

時間を稼ぐために。


私のために。


私の背後で――

戦いは続いていた。


激しい。

無益な。

壮麗な。

そして、破滅へと向かっていた。


悪魔にとって――

それは何の意味も持たなかった。


彼の動きは滑らかだった。

ほとんど怠惰にさえ。


まるで虫を払いのけているかのように。


この必死の、英雄的な闘いは――

ほんの一瞬の気晴らしに過ぎなかった。


子供の遊びに過ぎなかった。


そして――

終わった。


空気が一瞬だけ変化した。


あまりにも速すぎて、追いつけなかった。

あまりにも速すぎて、見ることができなかった。


閃光――


そして――

音がした。


湿った。

激しい。

最後の。


骨。

砕ける音。


静寂が訪れた。


そして、私は悟った。


終わった。


ヤコジョン家の族長は倒れた――

体の半分だけがかろうじて残っていた。


残された体は、まるで世界そのものに拒絶されたかのように、

重く、不規則に地面に叩きつけられた。


顔は上を向き、

その場で凍りついたように――

原始的な恐怖の表情を浮かべていた。


二度と変わることのない表情だった。


その光景が私の視界に焼き付いた。


それが、私の目が最後に捉えたものだった。


なぜなら、その次の瞬間――

私は身を投げ出し、

残された戦線を飛び越え、

鬱蒼とした暗い森の中へと真っ逆さまに飛び込んだ。


振り返らなかった。

考えもしなかった。


ただ走った。


時間が認識できないほどに引き伸ばされた。


数分――

あるいは数時間――

もう分からなかった。


肺が激しく焼けるように痛み、

息をするたびに、胸が火のように擦り切れた。


自分の荒い息遣いが耳をつんざくほどになり、

他の音を全てかき消してしまうほどだった。


心臓の鼓動が肋骨を激しく打ちつけ、

速く、不規則に、圧倒的だった。


しかし、私は止まらなかった。

止まることはできなかった。


そして――

突然――

静寂が訪れた。


それは何の予兆もなく訪れた。


空気が変わった。

圧迫感が消えた。


もう彼の気配を感じなかった。


あの息苦しく、身を切るような存在感――


ほんの一瞬――

脆く、危険な考えが頭をよぎった。


私は……彼を失ってしまったのだろうか?


希望がかすかに揺らいだ。


私はよろめきながら立ち止まった。


体が少し崩れ落ち、

木のざらざらした樹皮に寄りかかった。


支えを求めて手をそこに押し付け、

肺に空気を吸い込もうとした――


そして――


彼が現れた。


私の目の前に。


いつもの木に何気なく寄りかかっている。

まるで待っていたかのように。


息を呑んだ。


息を止めた――

吸い込む途中で。


全身が凍りついた。


彼はゆっくりと動いた。


意図的に。


一滴の血――

まだ彼の唇の端に付着していた。


ヤクジョンの血。


彼は手を上げた。

長く青白い指でそれを拭った。


慎重に。

まるで…考え込むように。


そして彼は微笑んだ。


捕食者の笑み。


彼の唇が

不自然に大きく開き――

その下に伸びた牙が露わになった。


「話し合おうか?」


彼の声は柔らかかった。

穏やかだった。


まるで忍耐強いかのようだった。


「私たち二人とも、そんなことをする必要はない…」


彼は最後まで言い終えなかった。


最後の音節が口から出る前に――

私は森の地面から巨大でギザギザの岩を叩きつけた。


彼の胸に直撃させた。


その衝撃は凄まじく、

行く手を阻むもの全てを粉砕するほどの激しさだった。


衝撃は木々を轟かせた。


しかし、彼を押し潰す代わりに――

岩は砕け散った。


彼の体に当たった瞬間、岩は真っ二つに割れた。


まるで目に見えない何かが岩を切り裂いたかのように。


ほんの一瞬――

彼の表情が変わった。


一瞬の閃き。

驚き。


そして、それは消えた。


しかし、その瞬間――

それで十分だった。


私は既に動き出していた。

既に全力疾走していた。


以前よりも速く。


アドレナリンが激しく全身を駆け巡った。


心臓が肋骨に激しく打ち付け、

何よりも大きな音を立てた。


もう抵抗していなかった。

もう何も考えていなかった。


ただ走っていた。


獲物のように。


そして彼は――

捕食者だった。


その時――

彼の笑い声が始まった。


森に響き渡り――

木々の間を反響し、

空気を歪ませた。


あらゆる方向から聞こえてきた。


上から。

下から。

あらゆる方向から同時に。


恐ろしく、嘲るような笑い声。


それは私の周りを渦巻き――

すべてを歪ませた。


彼がどこにいるのか、もはや分からなくなった。


私はさらに速く走った。


盲目的に。

必死にその音から逃れようとした。


追跡から。

避けられない結末から。


その時――

私は滑った。


足が何か滑りやすいものに触れた――

隠れた岩を覆う苔の塊だった。


バランスを崩した。


急なカーブを曲がり損ねた。


勢いに任せて前へ――


そして――

地面が消えた。


崖の端からまっすぐ転落したのだ。


落下した。


世界が足元から消え去った。


激痛が全身を駆け巡った。


目がくらむほどの激痛。

耐え難いほどの激痛。


そして――

すべてが暗闇に包まれた。

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