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普通の日々 弐


ホラーって楽しいよね


皆々様本当に閲覧ありがとうございます!!



秋口。日が短い

歩く最中も手元が暗くなっていく時間帯

見上げた空は燃える様なオレンジ色。

ゆっくりと深い夜の色が追い掛けている

幻想的なのに、道は色の濃くなっていくアスファルト

左右も一軒家や電柱で埋められている。


閑静な住宅街とはいえ、正直少し怖い


「…もう暗いなぁ」

 

駅から十五分の徒歩。

すれ違っても数人

付き始めた窓灯りと街灯が心許ない

夜になれば相手の性別が分かる程度

特段気にはしない。

でも、漂ってくる美味しい匂いには思わず釣られちゃう

人の気配には思わず、身体が緩む


「んんーっ」


疲れた。今日は特に

サボった上司のツケを回されるだなんて。

仕事を片しただけでも合格なのに、これで褒められるのは"ふんぞり返る"上司

パスしてる間も本人は暇。それを『仕事が早い』なんて評価される


不条理すぎる。

背筋から上がる悲鳴には酷く納得した


「…あ」


すっかりと暗い

ふと覗いたスマートフォンには18:20

遅くは無い。いつもの時間

秋口ならこんなものだと思う。


ヒールでかつかつと帰路を歩き続け、同じく帰りらしい人達が向かいから

顔を合わせないように、伏せて通過


「………………あれ…?」


暗いのなんて当たり前

下を向けばそんなもん。

街灯で落ちた自分の影も一緒に歩いている

アスファルトの材質がちょっとしたコントラスト。

よく見える、筈。なのに


その影は酷く、黒い

いや、黒くなっていく

後ろの方から。ゆっくりと


「…え、あ…ちょ」


足を早めた

小石や落ち葉を引き離す様に

静寂。

煩い位のそれが耳鳴りの様に障る

静か過ぎる。足音は?

前に進んでいる筈なのに、意識ばかりが前へ急く

感覚がほとんど無い


ひ、ひと息がせり上って来た

息切れというより、もう。泣いてる

頬を濡らすのが冷や汗か涙か

もう分からない位。


その間も秋特有の枯れ葉の匂い

迫って来る臭気が簡単に搔き消して来る

まるで、魚を腐らせた時の様な。解凍した肉をそのまま、真夏にうっかり置いた時の様な


「う、あ あ」


一歩一歩、跳ね飛ぶ

最後にはもう走っていた


「公園…っ」


フェンスが見えた。

もう少し。もう少しでアパート

街灯の描く白っぽい円を通過する

家に帰れる。燈魔がいる

怖いはずなのに、震えた声が笑っていた


『──────みぃつけ、たぁ』


耳元で、女

年上っぽい落ち着いた、それでいて、背筋を這い上がる声

氷みたいな柔らかい何かが、首にぐるりと巻き付いて来る

髪束の感触がばちりと首元で弾けた


「ひッッ やあっっっっ」


全身で振り解く。勢いで躓いた

それでも首は冷たい。

膝を擦りむいてでも只管走る

あとほんの少しなのに、遠い。いつまでも着かない

切る風が髪を乱し、目はもう涙が乾いて痛い


アパートが見えた

なのに、暗い。誰も居ないみたい


腹や腕に冷たい物が絡み付く

目の前が一瞬、真っ暗な闇になった

息さえ忘れる黒に押し潰される


「─────あ」


からり、と首元が鳴った

ネックレスが放つ春の陽気。

首元が薄緑色に光る

クレヨンに垂らした水彩絵の具の様に、暗闇が弾けた


「っう」


足が止まった。

というより、壁に受け止められた

顔に擦れるのは柔らかいベージュ色

なのに硬い、芯のある身体


「もし、もし。真由里殿」


鈴の鳴る声

ゆっくり、震えた身体で顔を上げる

薄緑色の長髪に赤い瞳

燈魔だった


「…っ ぁぁあっ」


ぎし、と軋む音

自分で信じられない力が燈魔の腹を締めている

分かっていても離せない。

芽吹く花々の様な気配と樹脂の匂い。

染み込む涙がどうしても止められなかった


「よし、よし。怖い思いを した様だ」


すっかりと陽が落ちた道

アパートと公園の間。

いい大人が泣きじゃくっている

すっかり冷えた手先が絡んで解けない

それでも燈魔はそっと、髪を撫でてくれていた


「参ろうや 夕餉が先か 湯浴みかな」


脇腹に泣きつきながら

燈魔は何も言わず、ただ静かに肩を抱く

歩く足なんか重いはずなのに。

顔も剥がせない暗闇が只管に優しかった




───────────




深夜、煌々とした部屋

布団の盛り上がりが小さく呼吸する

中身は真由里殿

怖い思いをする度、彼女は灯りを付けて眠っている

食事も数口。泣き腫らして眠る程

今回は少しばかり響いた

 

以前より機会は減ったと言うのに。





『……………………』


小さな足指の生えた三角の布団

部屋角を背にするそれは重なる隙間から周囲を伺っている

当然、真由里殿。

影を孕む瞳が昼間でさえ黒く澱んでいた


『もし、もし。』


『……』


『昼餉には 粥を拵えた それ故に 一口のみも 食むと良い』


湯気立つ椀を手に目の前

言葉は返らない。

愛らしい足指が引っ込んだ


『…ぅ…………』


カトラリーに掬い、口元へ

小さく跳ねた

離れた顔がよく見えない。湯気立った汁気が布団に落ちる

椀に戻し、寝具横の小棚に置いた


『ここに置こう 腹の空き間に 食みなされ』


零れた粥を掬う

角や頭からさらりと髪が落ちた


『真由里殿』


『っっ』


更に小さく、震えてしまった


そして丁度、靴音がかつかつと数人分。

階を上がってくる

甲高い声らはきっと、真由里殿の友人ら

彼女もゆっくりと顔を出して来た


『訪ね人 恋文便りも 勝るかな』


緩んだ布団から手を取る

細枝の四肢が此方を支えに這い出て来た


『ゆっちゃーん』


『東坂さぁん』


『真由里ちゃーんっ』


肩が跳ねながらも歩みは止めない

ソファに一瞬崩れながら。薄暗い部屋を玄関まで

辿り着いた扉をやっとの思いで開けていた


『お見舞い来たよっ 大丈夫?』


『…うん。大丈夫』


『お、前より顔色良いわね。ご飯食べれてる?食べれそうな物、軽く買ってきたわよ』


『大した物ではありませんが、消化に優しい物を少しずつ。良かったら食べてください』


扉越し。顔は見えない

開いたそれを支えに立つ真由里殿。

ほの白い肌が陽に眩しい

表情も徐々に解けていく


『ありがとう』


ほんの数言。半刻にも満たない

白く透けた袋を置き、友人らが去っていく

きゅう、と握られる指先が小さく、震えていた




生気も無く、ただそこに在っただけの真由里殿

今は赤子の様に丸く眠る

指でも咥えていそうで愛らしい


雫が滲む

睫毛から溢れたそれを掬った

舌に乗せれば、温かい。

懸命な生命の温度

塩辛く馴染み行くのが名残惜しい


「んぅ」


眉が潜み、布団を引き寄せた

口周りに抱き込みすうと深く呼吸。

無防備な目元は緩む様が良く見える

顔を近寄せてみれば、それは更に緩んで行った


「…………」


目元にかかった彼女の黒髪を掬う

唇を寄せてみる。

それでも起きない。安心しきった顔で安らかに


ああ、惜しい

届かない。

触れはすれど、紛い物の手

首は本物なれど、こうしなければ感じられない

柔らかな(これ)が長ければ

少し位は貰えただろうに


「愛らしや」


煌々とした灯りでさえ、彼女に降りた長髪は通さなかった


不定期にゆっくり続きながら。


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