表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

戻りし日常、弐


ホラーって楽しいよね


皆々様本当に閲覧ありがとうございます!!



 

「……んぅ…」


眠い。まだ眠い

一晩馴染んだシーツと布団が心地良いけれど、少し動けばひやり

狭さに甘えてギリギリまで居てしまう


壁と枕が包む様で、とてもじゃないけど起きたくない

今朝は一層身を縮めたくなった


「ああお早う よく眠れたか 真由里殿」


寝ぼけ眼で顔を上げる

燈魔だった。


そうだ、昨日。

一人は怖いって泣き付いたんだ

しかもほとんど服も着てない。

下着のままバスタオルだけ巻いて上がって、髪も乾かさずに泣き疲れて寝たらしい


「おは、よう」


彼は一晩中、ずうっと寄り添ってくれていた


「陽が昇る 但し卯の刻 早朝の まだ早い故 休まれよ」


マネキンの身体

正直、硬い。枕にしている腕もそう

少しだけ頭が痺れている

でも、自分の体温が馴染んだせいで温かい

指先がさらりと髪を梳かしてくれる

悪い気はしなかった


その内滑る指に何かが引っ掛かる

からり、と首飾りが鳴った


「その中身 我の一部や 角の片」


ああ、やっぱり。


「故に放りは ちと寂しい」


包み込む様に寄せられた

頭に顎や鼻が当たって擽ったい


深く吸えば燈魔の匂い

草木の優しさで満たされていくのが離れ難い

目を瞑れば寝てしまいそう。

それもまた気持ち良い

けれど、今は磁石みたいに重い瞼を必死に開ける


「燈魔。昨日の…あれ、まだあんなのが家にいる…?」


「既に無し 君に伝えた その通り 穢れを餌に 集いし者ら」


「そう…ねえ燈魔。」


ん、と小さな声

ゆっくりと身体を離して顔を見合わせた


「その穢れって何? 昨日のあれは、また起こる?」

 

お風呂場の女

真っ黒で赤い。ショッピングモールで見た奴とはまた違う

あそこは寒くて、胸の内側を掻き乱される感覚

それこそ"命を取られる"と本能が絶叫する


女性は少しだけ違った

沈めようとずっと引っ張っていた

例えるなら、母親が強引に子供の手を引くアレ。


頭を抑えていたのは別

掌の感触がまるで人 いや、そうとも言えない

とにかく柔らかくて人らしい。

指節から微かに見えたのは黒い毛だった様な


そんなものを引き寄せる穢れ

正体なら想像が付く

似た回答が返ったとしても、それはそれ

答えにはなる


「我が穢れ 身に溢れ出る 災厄の 糧成る餌や 湧き出ず泥成」


燈魔を起点にした連鎖

とにかく、最悪らしい

一方で燈魔が強過ぎてほとんどが近寄れない

だから魅入られた自分は、近くに居なきゃ危ないとも。


理解はしている

駐車場が正しくそれだったから


「不可思議や 穢れを貪る 怨念の 蠱毒と成るや 護りと成るや」


指先が頬をなぞる

いつの間にか涙。雫がマネキンの手に馴染んでいく

燈魔はそれをぺろりと舐め、ベッドから抜け出してしまった

それを追ってしまう。特段温い訳でもないのに


「真由里殿 そろそろ身支度 頃合いか?」


寝起きより陽が高い

窓の横、掛けてある振り子時計を見る

6:30

丁度いつも起きる時間だった


「え、あ…うん。ありがとう」


にこ、と朗らかに

朝食の準備に行ってしまった

自分も起き上がる。ここからが毎朝のルーチン

寒いからせめて、布団も一枚被って行こうと思ったけれど


「わ、あ、ぁ」


今更。そんな状況が心拍を加速させる

座ってみれば本当に下着だけ

裸同然なこれで一晩

何も無いのに顔が真っ赤に沸騰した


燈魔が振り返る寸前、恥ずかしさに跳ねて布団を深く被る

声がかかる前に大袈裟な足音を立てながら洗面台へ突撃した



───────────



「行く君よ 行ってらっしゃい 気を付けて」


忙しない彼女の背を見送る

扉が閉まり、訪れる静寂な時間

訪れるのはまた同じ日々


今日の掃除は少し念入りに。

ゆっくりと、しかし確実に部屋の隅まで埃を払う

子らの世話も欠かさない

空気も入れ替え爽やかに

 

数時間もしない内には一通りを終える

部屋は昼に差し掛かる頃合いだった


 

「……」


高い陽の中。思い起こす

昨晩の騒動

見境無し、彼等に頃合いも何もありはしない

しかし予想以上にそう在った

此処も既に坩堝となりかけている


部屋の真ん中で目を閉じる

他の感覚も同じ。一つ一つを丁寧に

角の片方へ意識を伸ばす

軽い音を立てながら二、三枝分かれ。

か細く伸びたそれをぽきりと握り砕く


細かな欠片は紙に包んで四隅へ

水場だけは大きめの欠片を小瓶に詰め飾る

その全てに角に絡んだ蔦を添えて

気休めか、祓い程度にはなるだろう




ついでに風呂の掃除。

手袋をして洗剤をかける


川や蒸し風呂。貴族とて垢擦りで終わり

比べるまでもなく便利だろう

ただ一方、子らが払う代償があまりにも大きい

摂理には相違ないのだが


しかし、ああ。何と悲しきかな


「……」


浴槽

底に溜まった物を拾う

花弁がいくつも。穢れを喰ったから

末に木に変えてしまおう、それが出来ず水草の様

場所故に仕方がない。

手袋を脱ぐ

寄る辺の無い子を桶に拾って、後程


その下に見えた

黒っぽく、短い毛の束。幾つも幾つも

花にもならず残った穢れの一部

指で掬えば朽ちて散る

嗅いでみればよく分かる。

 

遺されたそれは、獣の様な荒々しい残り香


「……ああやはり。無粋な君とは 馴れ馴れしい」


濃ゆい残穢。覚えのある主の気配

残る毛束を全て掴んでじっくり。指先へ穢れを込めていく


短い獣の毛

餌の気に揺蕩う様に踊り出す

まるで意思でも取り戻した様に、腕から肩まで

絡んではぎりと締め上げる

砕けてしまいそうな頃合いに毛束に口を付ける

猛々しい獣の様

針にも似たそれは口の先で暴れ狂う


『おまんも人喰いかえ?そんなら、ワシと勝負せい。おまんとワシ、どっちが人を残酷に食えたか。こっから永く勝負せい』


布端が酷く荒れた直垂を着崩す、錆びた様な黒い男

一方喋り尽す狒々の君

永き間のずうっと、戯れ煩く血腥い獣。

遠い処の"山の主"


そして


『ねえ、凄いね。今のどうやったの?』


『君は 花が好き?鳥が好き?それとも、歌が好き?』


小さく温い手。角を綺麗と撫でていた君

無垢な様で子らを愛で、無邪気に笑った遠き日の童




「渡さぬよ」


穢れを全て喰らい尽くす

朽ちて消える前に。その残穢に無垢を強制する

赤黒い穢れを己の薄緑の光で包み強く握った


掌に残ったのは桜の花弁

僅かに声のする死にかけた子。それもすぐ、命を散らし褪せてしまった


「さあおいで 君の行く末 安らかに」


そっと口付け。茶色く枯れた子を桶に入れる

ただ、獣の触れ様が鬱陶しくて。

熱い湯で身体ごと綺麗に清めた




─────────────


 


街を見下ろす山の中

仄暗い曇天の下で有象無象を嗅ぎながら。気に入った樹の上で背を凭れ、脚を遊ばせる


此処まで届く悪臭に鼻が曲がる

大勢喰い合う恨みや妬みが川さえ生み出す湧水の様

やはり居心地が良い。伊予や土佐にも引けを取らない


「…ほうほう。」


残穢が完全に散った

己の穢れを特別に込めた怪異。喰う前に印でも残すつもりだったのに

辿られた

末に流し込まれた彼の穢れにじゅう、と人肌が泡立つ

片腕が煙を纏う程ごっそり焼かれた


「荒々しいのお、おまん、そんなモンだったかえ?」


骨の軋む音

火傷の様な肌が黒い毛並みに覆われていく

厚くなる掌は黒く柔い

筋張る指は細く長い

爪もまた黒く丸い。姿を写すは猿の面

ずらした其処には、にやけた男の荒い歯列


「こりゃ、益々欲しくなったのう」


ひひ、と笑い声

その一声の後。黒い大きな猿が木々を伝って去っていく

不定期にゆっくり続きながら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ