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何はともあれ、魔王は討伐され魔族は滅び世界は救われた。
とても良いことだ。
では、魔王という敵がいなくなった世界に聖剣に選ばれた勇者は必要か。
残念ながら答えはNoだ。
ましてや、大口叩いて王族を要らないと切り捨てた挙句、本当にその役目を果たしきってしまった勇者なんてむしろいてもらっては困る。
だから、歴代でも最強の勇者とその従者は原因不明の病に倒れ、あっという間にその命を失った。
そして明るみになるのは本当は魔王を討伐したのは王子だったという証拠の数々。
こうして勇者ララは大口叩きの大ウソつきとして歴史に名を残すことになった。
◇◆◇◆◇
「あ、あの……いいのでしょうか? ララさん、凄く不名誉な扱いをされていますが……」
魔王討伐を祝うお祭りで大騒ぎの王都。
そこでの買い出しを終えて戻ってきた魔王、もといマオがおずおずと話す。
「良い訳ないでしょ!!! 人のこと嘘つき呼ばわりして!!! 絶対殺す!!!」
「ひっ!? ごめんなさい!! ごめんなさい!!!」
ララが好き放題をして王族から恨みを買った時点でこうなることは想像がついていた。
だから、魔王討伐を終えた後、面子を潰された王族から命を狙われても問題のない状況を作る必要があった。
そしてその点、マオと敵対関係にならずに済んだのは僥倖だった。
世襲制で継いだ魔王という立場。魔法において高い才能を持ちながら攻撃がまるっきりできない平和主義な彼女との取引は実に円滑に進んだ。
ララは魔族を殺さない。代わりに僕とララの影武者と人間から見つからない場所を用意してもらう。
これによって死の偽装と安全地帯の確保ができた。
「あんたに言ってないわよ!! というかハイト!! あんたこうなること分かってたでしょ!? なんで言わないのよ!!」
「……だって、言ったら絶対に嫌だって言うじゃないですか」
「当たり前でしょ!! なんで私があんな雑魚共に馬鹿にされなきゃいけないのよ!! その気になれば皆殺しにできるのに!!」
こうなることが予想できたのでララには「秘密基地、欲しくないですか?」とだけ言ってある。
たしかにララなら逆らう奴を皆殺しにできるのかもしれないが、確実に巻き込まれる身としてはあんまり血生臭いのはごめんだ。
殺すのは必要な時に必要な数だけでいい。
「まぁまぁ、そう言わず。ほら、コーヒー淹れましたよ」
「んっ……砂糖とミルクは?」
「角砂糖三つにミルクたっぷり。いつも通りですよ。……よければマオさんもどうぞ」
「え、え、い、いいんですか?」
「えぇ、どうぞ。砂糖とミルクはどうしますか?」
「あ、えっと……じゃあ、ミルクだけ」
「ハイト! おかわり!」
ミルクの入った容器を手渡すとペコリペコリと頭を下げてマオは受け取る。
そうして空いた手は瞬く間にララから押し付けられた空のカップで埋められる。
うまく生きていきたいと思った。
派手さはなくとも堅実で、誰から奪われることも悪意を向けられることも利用されることもない穏やかな人生を今度こそは送りたいと思った。
残念ながら今のところそれはまるでうまくいっていない。
うまくやろうとしただけなのにわがまま放題の暴君に目をつけられるし、魔王討伐なんて危険しかないものに駆り出されるし、挙句の果てには国に命を狙われてしまった。
前世以上に酷い気すらする。
「はいはい。たまにはブラックでも飲みますか?」
「いやよ。苦いじゃない」
けれど時折、本当に時折彼女と過ごす時間を楽しいと思ってしまう。
その一点においてはこの人生も悪くない。
べーっと舌を出して提案を拒否するララの姿にそんなことを思った。
ご愛読ありがとうございました。




