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再審の男  作者: 藤澤トオル
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虚無と悪魔

 上段から下段へと振り下ろされる回転蹴り。防御は危険、バックステップで回避。爆音や粉塵と共に地面が抉り取られる。ショットガンを二連射。リロードしつつ仕切り直す。こちらも近接攻撃が得意ではあるが、向こうの手品が不明な以上、不用意に仕掛けるのは危険。中距離からの攻撃に徹し、種を明かすのが先決である。


 粉塵から無傷のカリーナが飛び出す。片眼に宿る漆黒の閃光を見ていれば対処は容易。アッパーを左腕で受け流しつつ、こめかみに向け引き金を引く。カリーナに傷はない。仕切り直し。カリーナはこめかみを人差し指と中指でトントン叩きながら首をかしげ、佐伯を凝視する。



 おかしい。佐伯陽介の得意な得物はどう考えても『竜骨剣』のはず。だが頑なに使用しない。かといって密接戦を行うのかと思いきや、拳銃とショットガンしか使わない。効かないことはわかっているはずだ。ジヤヴォールを展開しない理由は理解出来る。こちらの速度を見てそう判断したのだろう。制御に気を取られて攻撃を受けるくらいなら、しないほうがマシである、と。『起動』しない理由は別で、こちらを本気にさせないためか?


 では、こちらの動きを『高速学習』し、自らの持つ膨大なデータベースと照らし合わせているのか?それはありえない。なぜなら、カリーナの動きはほとんど『アリシア』と大差ないからだ。佐伯の使う密接格闘技術の基本形となっているソレに、彼が気づかないはずがない。



 結論が出た。カリーナは薄気味悪い笑顔を浮かべる。

「ヒントあげる。今のあなたは歯応えが無さすぎるもの」

「……聞こう」

「フフフ、正直者は好きだよ。私の力は『理解の根源にあるもの』よ」

「……は?」

「はいヒント終わり!!信じるか信じないかはあなたで決めなさい!はい再開!!」


 カリーナのチョップ突き。辛うじて回避。佐伯は試しに足首に撃つ。目を反らさず、その一部始終を見届ける。……駄目だ。突然弾丸が消失したようにしか見えない。佐伯の後頭部に回し蹴りが炸裂。前から叩きつけられるのを受け身で対処。追撃を防ぐために横に転がり、下からショットガンを放つ。その隙に立ち上がり、間合いを調整。


 カリーナは足をプラプラと振る。

「わかった?」

「いや、まだだ」

カリーナは残念そうな顔をし、構える。今度は佐伯が先手を打ってショットガンを連射。カリーナに命中……したはずなのに、彼女は何の弊害もなくそのまま佐伯の顔面を殴り、地面に叩きつける。佐伯の顔面を踏みつけ、にじりながら尋ねる。

「わかった?」

「いや、まだだ」


 カリーナは足を放し、佐伯に間合いを取らせる。佐伯は距離を取りながら引き金を引く。カリーナは腕でガードするような素振りを見せるが、それは弾丸を防ぎきれるような速度ではなかった。にも関わらず、カリーナは無傷。

「マジかよ……」

「本当に不思議ね?」

その声は佐伯の耳元で囁くように言われた。佐伯はノールックで手の甲を叩きつける。感触はなかった。

「あら、疲れてるのかしら?肩でも揉みましょうか?」


 今度は物陰からゆっくりとした歩みと共に聞こえた。佐伯は無感情に拳銃を放つ。カリーナは首を捻って回避。なびいた長い髪を撃ち抜いて終わった。

「惜しい惜しい」

カリーナは流れるようにして急速接近。そのまま佐伯の首に回し蹴り。佐伯は右腕でガードするが、勢いを完全には殺せず吹き飛ばされる。


 カリーナは佐伯が産まれたての小鹿の様に立ち上がるのを見つめながら尋ねる。

「わかった?」

佐伯は両方をリロードし、深呼吸してから答える。

「いや、まだだ」

「……ふーん」

カリーナが構える。先程までとは違う構えだ。戦闘理念から言えば、邪道の極みとも言える構え。佐伯にもそういうことをした経験があるからわかるが、この行為に『攻撃的意味はない』。単に、『相手を動揺させる』ための構えなのだ。


 だが、今回は何かは他に別な意図があるように思えた。佐伯は呼吸を整える。平常に戻すのではなく、相手に揃える。リズムが崩れた時、相手も崩れる。



「……!」

カリーナのリズムが変わった。カリーナの周囲で閃光が散る。漆黒ではない、極めて電気的な閃光だ。電撃を自身の拳に集め、カリーナが突撃してくる。佐伯は慌てずショットガンで迎撃するが、カリーナは意に介さない。だが、これには佐伯のある仮説に基づくものであった。


 カリーナの拳が佐伯の右手越しに顔面に命中。意識を立つには至らないが、相当な痛手にはなる。佐伯は吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。カリーナは地面を軽く足で掘り、足場を整える。既に次の攻撃準備に移っているのだ。だが悟られないようにカリーナは尋ねる。

「わかった?」

瓦礫から這い出し、血反吐を吐きながら佐伯は答える。

「……いや、まだだ」

「あっそ」

再び周囲に帯電。今度は足に集中させる。佐伯は再びショットガンを構える。


 カリーナは部屋にある時計を見る。戦闘が始まってから約3分。彼女の興味は失せた。

「タイムオーバー。妹には悪いけど、始末させてもらうわ」

カリーナは突進。その速度は先程とは違い、まるで閃光のようであった。佐伯は同じようにショットガンを放つ。やはり無駄に終わる。


「さようなら、元義弟」

カリーナの蹴りが佐伯の首を消し飛ばした。





 自らの得物は遠距離なのだ、わざわざ接近させてやる必要はない。手数ではなく、単純な数の暴力。それこそシンプルかつ最適、最速の答えとなる。マリーが佐伯と離れた一年間で見つけたものがそれであった。だが、彼女が見つけた答えはもう一つある。


 カルロスは攻めあぐねていた。別に彼女らが特別に強いというわけではない。むしろ仕留めようと思えばいくらでも隙があった。だが、攻めきるには違和感があった。その正体を突き止めねば倒すのは難しい。それに、アリスも戦力が低下しているとはいえ、先程とは違って冷静だ。


 マリーの放つ3連射をナイフで弾きつつ、魔術で急速接近。マリーのバックステップに合わせてアリスが前に出、カルロスの剣撃を弾いていく。アリスの回し蹴りをブリッジのような姿勢で回避しつつ、嫌がらせのようにサマーソルトキック。アリスは側宙し回避。そこにマリーの矢が数発飛来。カルロスは剣を用いて命中面積を出来るだけ減らす。肩に命中。致命的ではないが無視は出来ないダメージだ。


 カルロスは仕切り直すために物陰に身を潜めようとしたが、そこに『鎖』魔術が仕掛けられていた。足を固定される。

「ほう。考えているな」

「独り言の時間なんてあるの?」

アリスは拳を放つが、軽くいなされる。ナイフが飛来。回避。

「いやはや、意外とやるじゃないか」

鎖を溶かして解除し、矢を抜いて治療。

「……そろそろか」



 マリーは残りの数を確認する。わずかしかない。かといって回収出来る数も少なかった。アリスが側に戻ってきた。

「問題なさそう?」

「……そろそろ援護が難しくなります。数が限られるので」

「そっちじゃない。眼の方よ」

「……気づいてましたか」

「当たり前」

「サエキさんには言いましたか?」

「いや?」

マリーは胸を撫で下ろす。もし彼女が話していたら、佐伯はこちらに気を取られて苦戦するに違いない。マリーはアリスの問いに答える。

「あまり良くありません。当てられるのも奇跡みたいなものです」

「……無理はしないで」

「えぇ。気を付けています。……よし、行きましょう!!」

二人はカルロス捜索に飛び出す。




 同時に血反吐を吐く。訳がわからなかった。確かに佐伯の首を消し飛ばした。それなのに彼は生きていていて、あまつさえ攻撃を加えてきたのだ。再び佐伯が瓦礫から這い出てくる。

「……どうした、聞かないのか?」

カリーナは苛つきを覚えながらも尋ねる。

「……わかった?」

「あぁ、あんたより『正確』にな」


 佐伯はショットガンと拳銃を捨て、拳を構える。カリーナは佐伯の言葉を確かめるように電撃を纏ったチョップ突きを放つ。

「わかったなら……耐えてみろ!!」

「その必要はない」

佐伯はカリーナの攻撃を触れる前に止める。いかように止めたのか?……電気だ。カリーナと同様に、佐伯の掌に閃光が散っている。カリーナと佐伯の電気が互いに反発しあい、動きを停止させているのだ。

「お前の攻撃は、当たらない」



 カリーナは間合いを取る。この男は本当に理解している。そうだ、これだ。こういう『殺しあい』がしたかったのだ。これから行われるのは決して『生存本能』ではない。『理性的』かつ、『野性的』なのだ。今まで戦ったものは、全て最後に『理性』を捨てる。先程までの佐伯は『理性』のみで戦いを挑もうとし、死にかけた。だが、『同じこと』が出来るなら、佐伯は確実に『理性』を保ちながら『野生』を全面に押し出すに違いない。


佐伯は追撃。

「逃がすか!!」

青白い閃光がカリーナに迫る。カリーナも先程の佐伯と同じように防御。だが僅かに押されているのがわかった。これでは仕切り直しが出来ない。カリーナは閃光蹴りを繰り出す。佐伯は左腕のガードを滑らせるようにしてさらに接近しアッパー。咄嗟の判断でカリーナはガード。同時に頭突きを繰り出す。閃光を纏わせない、極めて物理的な衝突。互いの頭蓋に大きな衝撃が走り、鼻血が出る。


 だがここで退くわけにはいかない。互いを睨み付けたままの佐伯とカリーナの拳がぶつかり合う。上段蹴り、こちらも同時。佐伯はカリーナの蹴りの勢いを利用して逆方向に回転蹴りを繰り出すが、カリーナはガード。佐伯が無防備になったところに、チョップ突きを放つ。佐伯は敢えて左腕に突き刺させ逆にカリーナの右腕をへし折る。



 同時に距離を取る。一瞬の静寂の後、姿を完全に消した二人は閃光を纏って同時に空中に再出現。拳と拳がぶつかり合った。もう一方の拳が互いの顔面を捉えるが、意識は絶たない。それどころか、さらに攻撃は激しさを増していく。落下しながら超密接状態で繰り広げられる凄まじい数の打撃の応酬。互いに閃光を散らしながら行われるそれは、次第に彼らの周囲の空間を歪めていった。このままいけば共倒れか、パワー勝負か、持久戦のどれかになる。



 カリーナは決着の一手にかける。着地と共に放たれた佐伯の足蹴りを防がず、あえて体勢を崩す。佐伯がそこに追い討ちをかける。それこそがカリーナの狙いであった。佐伯の抉り取るような左腕の突きを脇に抱え込み、動きを固定。下でありながら、有利。あとはいくらでもやりようはあるのだ。


 だが現実はそう上手くいかない。佐伯は左腕に切り込みを入れ、さらに右手でカリーナの顔面を掴み、引き剥がそうとする。が、カリーナは決して離さない。佐伯の左腕から鈍い音が響き、灰色と黒の混じった様な血が噴き出した。

「馬鹿ね!自殺行為よ!!!」

佐伯は意に介さず、カリーナの顔面を押し続ける。やがて左腕は快音と共に引き千切れ、それと同時にカリーナの後頭部は勢い良く地面に叩きつけられ、カリーナの意識が一瞬失われた。


 佐伯は動きを止めるため、カリーナの両膝を破壊。そこから馬乗りになり、顔面を殴り付ける。右手、右手、右手、右手、右手……。何度も繰り出される左側への攻撃により、カリーナの視界が半分だけ異常をきたしていく。


 カリーナは驚愕していた。佐伯の戦争による傷が癒えていない事は知っていたし、その治療にジヤヴォールが使われていることも知っていた。そして、彼の力の源がどこにあるのかも知っていた。ゆえに、その全ての根幹に当たる左腕を犠牲にするとは想像していなかった。わざわざ寿命を削ってまで戦う価値は自分にない。そうカリーナは考えていたのだ。


 なぜ?どうして?常人では動くこともままならないほど疲弊し、いつ崩壊してもおかしくないそんな身体で、どうして自ら壊そうとする?真っ当に生きる道が残されているのに、どうしてその道を潰す?どんな方法を用いても生きようともがいているのに、どうして生命維持装置を自ら外す?わからない。私には理解出来ない。佐伯は『理性』を消し、『野生』を捨て、『怪物』になってしまったのだ。どうして、どうして、どうして……。



 カリーナは思考を止め、再び眼前の敵へと殺意を向ける。脳震盪?不利?歩行不可?

「くそくらえだ」

カリーナは手を伸ばす。左側を執拗に殴られたせいで佐伯が半分だけはっきりしない。それでも『ソレ』はわかる。

「こいつ……!!」

佐伯は殴るのをやめ、伸ばしてきたカリーナの左腕を破壊する。だがそれは餌であった。


 カリーナの右手が、佐伯の右目にねじ込まれた。

「……ハハッ」

カリーナの目玉を引き抜く右手と同時に、佐伯の拳がカリーナの首を破壊した。佐伯はカリーナの意識がないことを確認してから左腕を拾い上げ、再結合する。体内に黒い霧が行き渡る感触があった。ほつれかけた肉体が再び纏まり始める。その場にへたりこみながら、佐伯は呟いた。

「……6秒!!」


 佐伯の肉体は確実に崩壊へと向かっていた。今まさに命を繋いだ6秒も、『右目を犠牲に得た』6秒だった。左腕から供給される黒い霧は、佐伯の肉体を強化するために全身を駆け巡り右目から放出されていた。だがカリーナが右目を破壊することによりその放出がとまり、僅かに体内に黒い霧が残留したのだ。とはいっても、肉体が修復されるわけではない。あくまでも現状維持でしかないのだ。


 佐伯は続いて抜き取られた右目を確認する。あの一瞬で握り潰されていた。諦めるしかない。カリーナの右目を見る。青い目だ。そして、まだ『使える』。罪悪感がないと言えば嘘になるが、これも次に繋げるためである。

「……貰っていくぞ」

佐伯はカリーナの右目に指を突っ込み………。



 後方で爆音が響いた。佐伯は摘出を一時中断し、カリーナを蹴り飛ばす。そして、音のする方に向き直る。煙の中から足音と何かを引きずるが聞こえる。何かを呟いている。その声は男のものだった。

「……やれやれ、苦労したぜ。カリーナ様、ご無事でしょうか!!」

佐伯が返事をする。

「死にかけだ!!助けてやってくれ!!」

「わかった!!こいつらで何とかなりそうか!?」


 カルロスは右手でアリスの首後ろを、左手でマリーの片足を掴んでやって来た。二人の安否は不明であるが、カルロスもそれなりの外傷が見られた。

「よぉ。カリーナ様はどこだ?」




 数分前。アジト内のとある地点。

 カルロスは装備を変更し、拳銃とナイフを装備している。だが、ナイフは決して手で持たず、空中を自在に飛行している。それも数本。そして、唐突た軌道を変えてはアリスやマリー目掛けて飛んでいく。アリスは攻撃を避けながら言う。

「これも魂の抜き出したことにより成せる技ってやつかしら!?」

「ご明察!!ナイフに魂を与え、俺の魂と紐付けし、手綱を引いている!!」

「マリオネットって事ですか!?」

マリーはそう叫びながらナイフをガード。矢は既に尽きた。魔力は十分にあるため、魔術を使っていくしかない。


 カルロスはアリスとマリーに向けて銃撃しながら答える。

「少し違う。ちゃんとナイフは自我を持って行動している。だが、その自我は俺から与えられているものだ!!」

飛来するナイフと銃撃をマリーが盾になりつつ、アリスが答える。

「ナイフの形をしたカルロスってことね!!悪趣味!!死ね!!」


 その言葉と共にアリスは殴りかかり、カルロスは左腕を破壊された。アリスを蹴飛ばすが、マリーに『沸騰』を唱える時間を与えてしまった。カルロスの血液が煮えたぎる様に熱い。拳銃を握る手の温度が上昇し、引き金の金属が溶ける。自殺出来ない。

「終わりです、カルロスさん」


 マリーのその言葉を聞き、カルロスは鼻で笑う。

「……違うぜ、嬢ちゃん」

カルロスの後頭部にナイフが刺さり、うつ伏せに倒れた。自殺。カルロスの肉体情報がリセットされた。アリスが追撃を加えようとするが、カルロスは紙一重で回避。立ち上がり、首をポキポキと鳴らしながら言葉を続ける。

「まだ終わりじゃない。俺の願いが叶うまで、終わらない」


 マリーはカルロスの左腕が落とした拳銃を拾い上げ、構えながら答える。

「なら、あなたは永遠にさ迷い続けてください。あなたは、『願いを願っている』んですから」

カルロスは驚き、思わず尋ねる。

「ほぉ?俺の願いは、俺の本心からの願いじゃないと?」

「えぇ。先ほどの願いはあなたの一族の願いです。『カルロス・ロレンツィーニ』の願いではありません」



 深呼吸し、天を仰ぎ見る。俺の願い。ロレンツィーニ家の願いではなく、カルロスの願い。俺は何のために魔術を磨いた?父の期待に応えるため。何のために兵役を修めた?力を得るため。何のためにこんなことをした?一族の悲願のため。……なんということだ。俺には何もない。産まれた時から、自身の願いと一族の願いをいっしょくたにしていた。俺の意思が一族の意思?それは違う。俺は一族の全てを背負っているわけではない。なぁカルロス、何がしたいんだ?


 

 カルロスはため息をつき、自嘲的に笑う。

「……どうやら、俺は何十年もさ迷い続けていたようだ。自分自身の人生をだいぶ無駄にしちまっていた」

マリーは照準を合わせながら言う。

「無駄は悪いことではありません。無駄な事が出来る時間がある人間というのは、それだけゆとりを持つ人間ですから。……お願いです。もうやめてください」


 カルロスはうつむきながらクスクスと笑ったあと、武器を捨て、ゆっくりとマリーの方へと歩いていく。

「やっとわかったぜ、サエキがあんたと一緒にいる理由が」

カルロスとマリーの間にアリスが割ってはいる。

「それ以上近づくな」

「どけ」

カルロスはアリスに殴りかかる。非常に遅いパンチ。アリスは受け流し……側面の壁へと叩きつけられた。


 カルロスは手をプラプラと振りながら再び近づく。

「嬢ちゃん、あんたは強い。そして、俺らにはない『優しさ』を持っている」

マリーは躊躇いなく引き金をひいた。カルロスの肩を掠める。

「……!!どうして!!」

手が震えていた。銃を握るのは初めてではないうえ、近距離だというのに、外れた。

「怖いか?それでいい。俺を殺してみろ。こんな風にな!!」


 カルロスは自ら銃口を口に突っ込み、マリーを見据える。言い知れない恐怖。そこから逃れるためマリーは引き金を引き……。


 


 カルロスは己の肉体と魂を用いた爆弾で吹っ飛ばしたアリスとマリーをわざと佐伯に見せびらかす。

「ほら、次はお前の番だ」

出来るだけ平静を装いながら佐伯は尋ねる。

「まずマリーとアリスを離してくれないか?」

「そいつは出来ない相談だな。俺はお前を倒すためにこいつらを先に相手したんだからよ」

要するに、マリー達を盾に使うということだ。だが、その戦法は佐伯にも出来る。佐伯は蹴り飛ばしかカリーナを蹴りあげ、首の後ろをつかむ。

「これでおあいこだな?」


 カルロスは満足し、マリーとアリスを手離す。

「ハハハハハハ!!!!やっぱり俺達は似ている!!容姿とか身体能力とかじゃない。心が似ている!……なぁ、サエキ。お前も経験あるんじゃないのか?虚無な日々ってやつを」

佐伯には確かにその日々はあった。だがそれは前の世界での話であり、転生した身である今はそんなことはなかった。故に答えは

「ないね。毎日がエブリディ…失礼、毎日がハッピーだよ」


 カルロスは眼を閉じ、満足そうに頷く。

「そうかそうか。それならそれでいいんだ」

佐伯はカルロスがこちらの考えを見抜いてくると予想していたため、意外な言葉であった。カルロスは続ける。

「お前は産まれてからすぐにやりたいことを見つけられたんだろう。いいよなぁ、見つけられて。人生を浪費しなくて済むんだからよ。……俺は違った。ただ漠然と一族の願いとやらが自分の願いと一緒だと思っていた。だが違った。俺の願いは志半ばで散り、自らを最後の糧として一族の悲願を達成するという夢を叶えることでも、全てをなげうって闘争本能を競い合うことでもなかった」

カルロスはナイフと剣を抜く。それに合わせて佐伯もカリーナを捨て、剣を抜いて構える。

「俺の願いはな……『やりたいことを見つける』ことだったんだ」



 カルロスが突きを放つ。佐伯は受け流しつつ、つばぜり合いに持ち込む。カルロスは顔を近づけ、会話を続ける。

「なんでも良かったんだよ。重要なのは内容じゃなくて、『目標があること』だった」

「そうか。じゃあ今目標はあるのか?」

「さあな?お前を殺してから……考える!!」

カルロスと佐伯は同時に間合いを取る。その直後、ナイフが飛来。佐伯は柄を掴んで投げ返す。ナイフはカルロスの眉間手前で静止した。

「お前の仲間……マリーには感謝しているぜ。なんたって俺の無駄な人生を肯定してくれたんだ。『無駄な事をする人間というのは、余裕のある人間です』ってよ。俺はお前という存在に出会うために50年くらいも無駄な時間を使ったんだ。余裕に満ち溢れている」


 佐伯は尋ねる。

「じゃあ俺と会うのがやりたいことだったんじゃないか?」

「違うね!」

カルロスは再び突き。今度は薙ぎ払いに派生するが、佐伯は回避。カウンターを繰り出すがカルロスはナイフで受け流す。脇腹を抉らんとするカルロスの剣を佐伯は手首を打って反らし、剣を踏んで動きを止める。

「それは『運命』だ。あの集会所での邂逅は偶然なんかじゃない、あれのために一族は数百年も無駄にしたんだ。あれこそが一族の悲願である『世界の終わりの始まり』、すなわち運命!!」


 カルロスは両手の武器を離し、一瞬の隙をついて佐伯の右肩にチョップ突きを放つ。隻眼の影響で反応が遅れ、直撃は避けたもののダメージを負う。

「一族の極めた魂の蓄積がいずれ辿り着くものは……そう、お前の左腕だ!!その左腕を寄越せ!!」

カルロスは空中に固定したナイフを佐伯の左肩に放つ。ナイフを凍結させ、負傷を最小限に抑える。


 佐伯は左手の拳を固める。

「そんなにほしけりゃ……くれてやるよ!!」

カルロスの顔面を殴り飛ばす。絶対零度も使用したが、当たりが浅い。

「対価はあの立方体だ」

佐伯は自らの後ろで回転する装置を指差す。カルロスは凍りついた顔面を確認し、自殺して傷を治してから答える。

「くれてやる。お前が死んだらな!!」

カルロスは剣を飛ばす。どういうアクションを取ろうと次にこちらが不利になるのは明白。ならば

「…グッ!!」

佐伯は左手に剣を突き刺させ、カルロスの接近に備える。


 予想通りカルロスはアッパーを繰り出してきた。その拳に剣を横から突き刺す。カルロスは腕が裂けるのを気にせず佐伯の顔面を殴り飛ばす。顎が砕かれながら斜め後ろに飛ばされる。カルロスの追撃を防ぐように佐伯はサマーソルトキック。今度はカルロスの顎が蹴りあげられた。


 僅かに着地の速かった佐伯がカルロスの股間へと突きを放とうとするが、佐伯の左手が千切れ飛んだ。攻撃をやめ、間合いを仕切り直す。先程まで佐伯の左手があった場所では剣が高速回転していた。

「空中に固定したり、そこから発射できたりするんだ。別になにもおかしくないだろ?」

「あぁ、そうだな」

生き物めいて蠢く左腕が再結合されてから、佐伯は剣を構え直す。



 思えば、カルロスのそれは佐伯が考えていた作戦に似ていた。皮肉なものであった。散々相手の裏をかくために考えた作戦が、『相手の得意とする戦法』であったのだ。カルロスの言う通り、佐伯とカルロスはどこか通ずるものがあった。互いの手の内は知り尽くしていると言っても過言ではない。ならば、自分らしくない作戦を取るだけのこと。


 今度は佐伯から仕掛ける。カルロスは魂一つ分の爆発を以て佐伯の動きを止める。大きな隙が出来た。カルロスは佐伯の右側に回り込み、剣で薙ぎ払い。佐伯は剣を右腕に食い込ませる。今度はカルロスの動きが止められた。しかし今の状況ではカルロスに左腕が僅かに届かない。


 佐伯はもう一本の剣を引き抜き、逆手で振る。カルロスの右腕を切断しながら、脇腹にめり込む。カルロスにとって致命傷にはなり得ない攻撃だった。

「当たりが弱いなぁ!!」

カルロスは蹴り上げで佐伯の右腕を切断しにかかる。……カチッ。




 カルロスの体内に激痛が走る。外に逃げず、体内をひたすら滞留しているようだった。焼けるように熱い。思わずカルロスは剣を離し、その場に転がって悶え苦しむ。佐伯はカルロスを余所目に竜骨剣を仕舞い、大きい方の剣をいじる。カルロスは苦しみながらも佐伯の行動の一部始終を見ていた。


 佐伯は柄と刃の接続部にある場所から、フィルムケースほどの大きさの物体を取り出した。そして、取り出した物体に自分の血を入れて仕舞い、別な同じサイズの物体を剣に入れ直した。訳がわからない。知らない武器であった。銃と剣の混合品という代物でもない。純粋な『新しい武器』であった。


 佐伯はその剣を仕舞い竜骨剣を抜いて構える。



「続けるぞ」

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