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再審の男  作者: 藤澤トオル
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ひとりはいつも

 マリー達3人は走る。彼らの勇気を無駄にしてはいけない。そして、同じ様な悲劇を起こしてはいけない。そのためにも、速く戻って報告しなければいけない。

 不意に一迅の風が過ぎ去り、マリーは後ろを振り向いたが何もなかった。そう、リーダー達もいなかった。

「何してるの!?速く行くわよ!」

「す、すみません!」

「速くしないとリーダー達が」

魔術師の頭が弾け飛ぶ。先程のオークと同じだった。


 「…うわあああああああああああ!!!!!」

近くにいたマリーは全身に彼女の血を被ったうえ、一瞬前まで会話していた人物が『モノ』に変わる瞬間を間近で目撃し、狂乱状態になる。

「しっかりしなさい!!」

後衛の女性が声をかけながら肩を揺さぶるがマリーには届かない。そして、抵抗したマリーに突き飛ばされる。

「くっ!あなたいい加減に」


 女は真横に吹き飛ばされ、岩盤に叩きつけられる。オーガの棍棒だ。

「ここは私達の領土だ。逃げられると思っているのか?」

「…ひいっ!」

「…いや、お前には私達を楽しませてもらおう。そこの女もな」

オーガは女の武器を取り上げて両足を破壊する。そして、マリーに近寄り…。

「…いや!いや!助けて!やめて!!」

彼女の意識を奪った。



 マリーは手足を拘束された状態で目を覚ます。そこでは、オーガ達がリーダー達の死体を貪り、装備品を査定していた。また、もう一人の後衛の女性はオーガに犯されていた。暴行の跡が見られる彼女の目は虚ろで、その行為の凄惨さが伝わってくる。

 装備品を査定していたオーガがマリーに気づく。

「…起きたか。抵抗しない者で楽しんでも快感はない。さて、お前は私を楽しませてくれるかな?」

装備品の査定をやめ、オーガがマリーに近寄る。マリーには次に行われる事が容易に想像できた。逃げることも、反撃することも出来ない。マリーに出来ることは一つ、祈ることだけだった。

「神よ…お助けください…!」




 マリーに近寄るオーガの後ろで爆音が響く。オーガはマリーに近寄るのをやめ、すぐに棍棒を手に取る。

 オーガが振り向くと、女性を犯していたオーガが解体されていた。また、犯されていた女性は壁に寝かされていた。

 解体されたオーガの上に立つ血塗れの男は呟く。

「弱い」


 

 弱い。彼はたしかにそう言った。熟練者が束になっても勝てるか怪しいオーガを、弱いの一言で切り捨てた。オーガは男に尋ねる。

「貴様はこいつらの仲間か?」

「違う」

 男はオーガの死体から臓物を抜き出し、捕食しながらそう言った。そのあまりに悲惨な光景にマリーは思わず吐き出す。

「我が同胞を辱しめるのか!!」

「殺したもんを喰って何が悪い。それに、お前らも同じようなことやってるだろ」

男はオーガが食い散らかしたリーダー達の死体を指差した。オーガは意にも介さない。

「許せん!!!」


 オーガは怒りに震え、男に襲いかかる。男はまるで先読みした様にオーガの棍棒を持つ腕を破壊する。

「やめておけ、もう動きは読める」

痛みに悶えたオーガは少し後ずさり、治療する。だが、男は治療する隙を与えずリーダーが持っていた剣をオーガの膝に突き刺した。

「治療してみろ。お前の膝と剣が融合するがな」


 オーガは呪文を唱える。先程オークと女性に繰り出した『対象の頭を破壊する』魔術だ。中枢器官を破壊された生物など生き残れるはずがない。

 だが、男は平然としている。理由がわからなかったが、すぐに頭を切り替え、膝に刺さった剣を引き抜き男に斬りかかる。しかし、男は必要最小限の回避動作をしつつ眼前に接近。そのままオーガの両目をチョップ突きで破壊。

「ぐおおおおおおおお!!!」

のたうちまわるオーガ。男はオーガの首と胴体を他に落ちていた装備品で切り離した。そして、念押しにオーガの心臓と脳天に剣を突き刺す。

「…終了。そこのお嬢さん、一人で街まで歩けますか?…いや、その格好じゃまずいよな」


 男はオーガが集めた装備品の中からローブを探し、拘束を解いてからマリーにかける。

「歩けるようでしたら、これで帰れるでしょう。あと、出来たら報告をお願いします。私は他にいないか探してきますので」

彼は血塗れた笑顔でそう語りかけてきた。その優しい声音が、今のマリーには恐ろしかった。


 男は何かに気づいた様に女性に近寄り、回復薬を飲ませる。そして、マリーの傍に寝かせた。

「彼女もお願いしますね。私が後で運ぶとなると時間がかかるので」

 マリーは尋ねる。

「あの、あなたは…」

男は笑顔で答える。

「新人冒険者の『佐伯陽介』です」



 山岳地帯の麓付近で、マリーと女性は救助隊に確保された。

 若い男性隊員がマリーに尋ねる。

「お怪我はありませんか!?申し訳ありません、依頼側の情報不足でした…ん?5人パーティーと伺っていましたが」

「おい馬鹿、やめておけ。申し訳ありません、彼は新人なもので。私の監督不足です。陳謝します」

熟練隊員が若手隊員を下がらせる。


 状況が掴めないマリーは茫然とした態度で尋ねる。

「あの…これは一体?」

隊員が答える。

「ああ、冒険者集会所から通知が来たんです。『山岳地帯の麓に救助隊を向かわせろ』って。いやはや、まさか本当に要救助者が現れるとは思っていませんでしたよ」

 その時のマリーに、それ以上訊く余裕はなかった。





 数日後の冒険者集会所。身体検査と事情聴取を終えたマリーは待ち続けている、彼女達を助けた男を。あの男には感謝しきれないほどの恩が出来てしまった。礼を言わねばならない。しかし、あれからしばらく経つのに、未だに彼は現れない。死んだ、という可能性はほとんどないだろう。そもそも、あれほどの人間が死ぬという事態ならば、もうこの辺り一帯はおしまいだ。とにかく、彼はまだ生きている。ゆえにマリーは待ち続けるのだ。


「…あ」

 男がやって来た。あまり見かけない顔立ちなうえ、装備があの時と同じだったので見間違えるはずがなかった。

 マリーは受付で話している男に話しかける。

「あの!…先日は命の危機を助けていただきありがとうございました。私は『マリー・デュカス』と申します」

佐伯はマリーに向き直る。

「これはご丁寧にどうも。お元気そうでなによりです。私もたまたま同じ山岳地帯の依頼をこなしに行き、その道すがらでオークとオーガを発見して…まぁ、困った時はお互い様ですよ」


 おそるおそるマリーは尋ねる。

「その依頼とは?」

「これです」

佐伯は白と赤の花を見せる。

「ある父親の依頼ですね。花を摘んできてほしいというものだったんですが…中々見つからなくて。結局あのあとずっと探し回っていました。いやぁ、お恥ずかしい限りです」


 佐伯は嘘を言っていない。だが、何かを隠している。そうマリーは感じた。あえてさらに突っ込んで尋ねる。

「それにしてもお強かったですね。その依頼もかなり難易度が高いものだったんじゃないですか?」

受付の人が言う。

「いえ、その依頼はDランクですね。期限切れギリギリまで残っていた依頼です」

「え!?なぜそんな依頼を?あなたの力ならもっと上のランクもこなせるでしょうに。本当に新人なんですか?」

「ええ、新人ですよ、冒険者となってからはまだ2ヵ月がそこらですし。なので、こうして期限切れ間近の依頼を淡々とこなしているんです。残るのは大抵簡単すぎる依頼かとてつもなく難しい依頼ですから。報酬も上乗せされている場合もありますし、なかなか楽しくやらせていただいています」



 マリーは考える。このサエキと名乗る男、過去に何かあったのだろうか?それにしても異様な強さだった。一流の冒険者を目指すには、彼のような人物から秘訣を学べばいいのではないか。そうすれば自身の目的達成にも大きく前進するだろう。それに助けてもらった恩もある。今度は自分が助ける番になるべきだ。マリーは勇気を振り絞る。

「あの!!…もし今度依頼を受ける様な事があれば、私も同行してよろしいでしょうか?是非ともあなたの技術を後学に活かしたいので!!…駄目ですか?」


佐伯は笑いながら答える。

「構いませんよ。これからよろしくお願いしますね。ああそう、私の名前は」

「サエキ、ヨースケ・サエキさんですよね?ちゃんと覚えていますよ。よろしくお願いします!!」

二人は信頼の証として、握手を交わす。

「よろしくお願いします。あと……敬語じゃなくていい?」

「……はい!構いませんよ!!」

「そっちも別にいいよ」

「あ、すみません!!……ごめん」

佐伯は苦笑いを浮かべる。

「無理にやらなくていいよ」



 こうして、彼らの冒険は幕を開けた。




「まぁ俺は今日は帰って寝るんだけど」

「お疲れ様でした、サエキさん」

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