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再審の男  作者: 藤澤トオル
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風呂上がり、アリシアは鏡の前で自分を見つめる。左目を擦りながら思い出すのは、イーリスの父親の言葉。

『男の護衛。もし彼が道を違えたのなら、君が処理をしなさい。君にはその義務がある』


アリシアは左目を『起動』する。鏡の自分がその乾いた血の様な赤黒い目で見つめていた。

気づいたときにはすでにあったこの『目』。制御が利くようになったのはいつ頃か、もう覚えていない。

人にはあまり見せなかったこの目を受け入れてくれた人が、まさか同じような目を持つとは思いもよらなかった。そのおかげで、新たな発見があったことは言うに及ばない。


鏡の自分に、アリシアは呟く。

「お前はどこから来た」

《それは君が、一番知っているはずさ》

そんな風に、彼女が答えた様に見えた。


「会ってみなくちゃ、いけないのかなぁ」



朝、二人は朝食を食べている。ジヤヴォール戦後と同様に、北部文化圏の開拓は肉体的にも精神的にも大きな傷痕を残していった。休息をとらなければ、開拓に出ても思うような成果は得られないだろう。


いつも通り他愛ない話をしつつ朝食を終え、資料整理と開拓の記録記入で終わる。そんなことを思いながら朝食を食べている陽介に、アリシアは語りかける。

「ねぇ、ヨースケ。お願いがあるの」

「なんだ?」

どうせよくある突発的な思いつきだろうと思い、陽介は軽く応対する。

「私の両親と会ってほしいの」


陽介は口に含んでいた飲み物を吹き出しかけた。

「...考える時間をくれ」

「あ、うん...」

陽介は思考を巡らせる。親しくしてきた女性から言われた『両親に会ってほしい』という言葉。この世界のしきたりがどうであるかはさておき、元いた世界では少なくとも『そういうこと』であった。

たとえ世界が違ったとしても、親しくしてきた異性を両親に紹介するというのは重要な意味を持つに違いない。

陽介は深呼吸してから返答する。

「ちょっと速いんじゃないか?その...大変だろ。俺もお前も」

「そう...だよね。やっぱり、もっと力を知ってからじゃないとね。うん!忘れて!」

「ん?力?」

「え?」


しばらくの沈黙。二人は同時に紅茶を飲む。東側の開拓が大分進行しているおかげで紅茶の価値も以前に比べればかなり下がっていた。

「話を戻そう。両親だっけ?いやー、ちょっとキツいよ。こんな身元不明な男を受け入れてくれるはずないだろ」

「そんなことないよ!そういうのに理解はある人だと思うし、何よりその左腕は興味を引くと思う!」

「え?なんで左腕?」

「は?」


同時に紅茶を飲み干してカップをテーブルに叩きつける。

「「じゃんけんぽん!!」」

陽介の勝ち。

「その、一緒になりたいからそのために挨拶をしたいって事じゃないのか!?」

「...違う」


最悪の勘違い、といって差し支えない。陽介もアリシアも顔を赤くして俯く。もう面と向かっての会話は難しい。しかし、このままでは仕方がない。陽介は勇気を振り絞って言う。

「次、そっちどうぞ」

「はぁ!?状況わかってますか!?ねぇ!!あなたがその...うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

アリシアはトイレに引きこもる。陽介にそれを呼び出す勇気は、ない。



数分後、アリシアが出てくる。陽介も気持ちのクールダウンは済ませた。

「さっきの話題には触れない。おわかりか?」

「わかりました。あなた様の真意をお聞かせくださいアリシア様」

アリシアは椅子に座って、目を『起動』させてから話し出す。

「私の『この目』とあなたの『右目』。文字はともかく、変化の特徴はほぼ一緒。だから、私にこれを仕組んだ両親に問いただしに行きたいの」

「なるほど。その事なんだが、こっちは少し考察してみた」

アリシアは頷き、話させる。


陽介はリカルドの使ったあの力の事を状況も含めて説明したあとに、こう語った。

「結果として、リカルドの力を止めたのは『ジヤヴォール』。知っての通りジヤヴォールは『こっち側』でも『元いた世界』でもない、『どこか』の奴だ。なので、考察としてはリカルドを含めた俺達の力は奴らの住む『何か』から降ろされてきた力。以上」

アリシアは聞き終わったあと、質問する。

「リカルドの力とあなたの力を詳細に教えて」

「ほぼ一緒だと思うが、リカルドは『身体の一方性』。こちらからの干渉は受け付けなかったからそう判断する。もしかしたら、『身体能力強化』かもしれない。そうだとしたら、俺と同じだ」


少し考えたあと、アリシアは言った。

「やっぱり、私の力とは全く異質ね。私のは『時空間操作』。使ってわかってることは、『時間と空間の操作権が与えられる』こと。『使用後に知らない誰かの記憶が流れ込んでくる』こと。隠しててごめんなさい。でも、あなたを信頼していなかったわけじゃないの。それは勘違いしないで」

「了解した。今度は俺から質問だ、その『記憶』ってのを詳細に。キツかったらいい」


アリシアが過去8回使ったうち、話してくれたのは5つ。

・知らない荒野で謎の生物達に食い殺されていく男の記憶。

・両手両足を縛られた状態で目隠しをされ、射殺される女の記憶。

・何かに取り込まれていく女性に向かって満身創痍の身体を動かしながら叫び続ける男の記憶。

・真っ白い何もない空間に閉じ込められ、平衡感覚などのあらゆる感覚を失っていく男の記憶。

・男性の肉体を解体して理想の男性を作ろうとする、男の記憶。


「以上よ。残り3つは...ごめん。吐きそうになるし、震えが止まらなくなる」

「こちらこそ悲惨な記憶を尋ねてすまない。しかし、その記憶は『何か』のではなさそうだな。...アリシア以前の使用者のいつかの記憶か?時空間を無理矢理ねじ曲げたことで、前の使用者と繋がった」

「ヤダヤダヤダ気持ち悪い。それこそ吐きそう」

「じゃあやめる」

「とは言っても、あってるかもね。その...彼らも何かに苦しんでいた感じがしたし」


議論はその後も続いたが、結論には至らなかった。

アリシアが唐突に話す。

「やっぱ、あれね!あそこに行こう!」

「どこ?」

「『魔術協会』!!」


魔術協会。この世界特有の魔術、それの協会。実態は...陽介はよく知らない。魔術と魔法に関してほとんどの事は取り扱っていると聞いた。だが、それだけだ。


「なんで?アリシアの両親の所じゃないのか?」

「それは...最終手段!ほら!速く速く!」

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