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再審の男  作者: 藤澤トオル
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疾走

南方からの異邦人部隊。その技術水準は北の国を遥かに越えた物であった。異邦人より強かったのは、竜騎士団の装備くらいのものである。

しかし、その竜騎士団も数の差で破れさった。

そのお陰でスヴィラホルムの部隊の損耗率は東西に比べて少なく済んでいる。


「侵攻は異邦人に任せ、我々は民衆の救助と東西軍との連絡に人員を割け!民衆からの情報収集も忘れるな!」

スヴィラホルムの前線指揮隊長はそう命令する。

異邦人達の侵攻が始めての土地とは思えないほどスムーズなことと、北の国の民衆からの協力の影響で、王都への侵攻はじきに完了するだろう。これほどまで事がトントン拍子に進んだ事は隊長も始めてであった。

だが、逆にその事が隊長を不安にさせている。

「...このまま何も無ければいいんだが」



戦い、というにはあまりにも一方的であった。数の上では圧倒的に第2竜騎士団が有利。囲んで抵抗する間もなく攻撃を加えれば問題ない。

そのはずであった。大盾を2つ横に並べば通路がほとんど塞がってしまうような場所で、数の暴力などあるようでないのだ。

後方からの援護も、どこからともなく発生した黒い霧のせいで望ましい成果は得られない。それどころか、味方に当たってしまう可能性もある。


しかし、一番決定的だったのは敵が来れるはずもない後方部隊が『後ろから』、文字通り『消えていった』事だろう。

異常に気づいた時には遅く、後方部隊は『何か』によって壊滅し、前衛部隊は普段の動きを封じられ、特殊な状況慣れしている陽介に次々と斬り殺されていった。


ジヤヴォールは再び『どこか』に消えていき、霧も晴れていった。

「終わったぞ。もうすぐ地下への抜け道がある地点、そうだよな?アリシア」

「ええ、速く行きましょう。...イーリス、大丈夫?」

陽介の姿に怯えるイーリスに、アリシアは優しく声をかける。イーリスは震える声でアリシアに質問する。

「消えた騎士団の方は...どこに?」

「...地獄。我欲の為に、ドラゴンの死体を弄んだ報いを受けたの。あなたは...そうならないようにね?」

イーリスは深呼吸をして、龍鱗と鍵爪を発生させてから二人についていく。


この時陽介は気づいていなかったが、周辺の動物や他種族も王都めがけて侵攻を開始した。ジヤヴォールの味方をするために動き出したのだ。

しかし、クラウスの耳には伝わった。

「報告します、領土内で中立を保っていたリザードマンやドワーフ、オーガなどが一斉に王都へ侵攻を始めました。また、農村にいた家畜なども暴れだし非常に混乱した状況となっています」

しかし、クラウスは取り乱さない。秘策があるからだ。

「よい、捨て置け。それよりも、『龍核』はまだ摘出出来ないのか」

「はい。早急に進めていますが、百年以上を生きる龍。その肉体の神秘に阻まれて思うように進みません」

「...そうか、ならばこうしよう。アレを用意しろ」



一行は地下への階段を発見するが、その前には先程とは違う騎士団。

「王の命令だ。通すわけにはいかん」

「うるせぇ!」

陽介が拳銃を撃つが、容易く受け流される。そちらに気を取られた隙に、アリシアが騎士団を数人押しのける。

僅かに道が開けた。

「イーリス!行け!俺らが盾になる!」

「はい!」

イーリスはその僅かな道を突き進む。

「絶対に通すな!」

騎士団はすぐに隊列を直し、道を塞ごうとするが、陽介が切り払いで妨害する。

「ありがとうございます!」

「礼はいい!速く行け!」


途中で邪魔をしてきた相手を蹴散らしながら、イーリスは階段をくだろうとする。しかし、階段には特殊な隊列を組み、龍と乙女の意匠を身につけた騎士団がいた。

「我ら『竜の乙女の騎士』。立ち去ってもらおう」

「それは...私の仲間だ!!」

イーリスは果敢に彼らを鍵爪で斬りつけ、尻尾で打ち払い、蹴りを食らわせる。

最初の一人は倒せたが、次からはそう上手くいかない。

「お願い...!殺させないで!!」

「我らに手加減は不要。こちらもするつもりはない」

イーリスは数の差で防戦一方になってしまう。辛うじてそれで済んでいるのは階段で上にいる故の優位だろう。


陽介は数人倒したタイミングで剣が折れてしまう。皮肉にも、龍骨の装備は既存武器よりも耐久性と威力で遥かに勝っている。倒した騎士から武器は借りればいいとして、イーリスの状況が良くないのがわかる。

アリシアの状況を確認する。今は二人で分配して戦っているからそれなりに善戦しているが、片方がイーリスの援護に行く暇はない。


ジヤヴォールを再び呼び起こすか?この状況でそれをした場合、二人を巻き込みかねない。だが、もっと力が必要だ。再度、覚悟を決めて陽介は龍骨剣を拾って叫ぶ。

「ジヤヴォール!『右目も扉にしていい』!だから俺にもっと力を!」


一瞬陽介を黒い霧が包んだ後、陽介の右目が青黒く変化し、光の線を描く。

そして、気づいた時にはさらに3人の騎士団の首が地面に落ちた。陽介は、自身の『上限無視』した身体能力が『無限に強化』されているのがわかった。

不意に『肉体という枷』という言葉が脳裏をよぎった。ゆっくりとだが、着実に『ジヤヴォール』の影響を受けている。侵食ではない、自らの意思でそちらに進もうとしている。

「...ハハハ。すまねぇ、アリシア。迷惑かけちまう。だが心配はいらないぜ?これでイーリスとアリシアを守れるんだからな」

「気にしないで。それよりも、その目...」



アリシアは自分の目の正体を知る。陽介と同じ様な目。つまり、彼女自身にその記憶は微塵もないが、アリシアは、すでに『何か』に捧げていた。

相違点をあげるとすれば、陽介には文字が書かれていない。黒に混じっている色。そして、陽介の目の効果は身体能力の限定解除と思われるが、アリシアのは...。

物心付いたときにはすでにこうなっていた事を考慮すると、仕込んだのはおそらく両親。2度と会わないと言い放った両親。彼女は尋ねばならない。その権利が、アリシアにはある。



彼女は言いかけた言葉を飲み、続けて言う。

「...陽介、そっちは任せる。私はイーリスの援護に回るから」

「了解!来いよ。得物は同じなんだ、技量がモノを言うぜ?」



イーリスは未だ前に進めない。

しかし、焦っても状況は好転しない。とにかく、相手の粗を探して一転突破。そう教わった。

「...くっ!!」

太腿を軽く斬られる。痛みに慣れていないせいか、陽介とアリシアに比べて隙が大きい。騎士はそれを見逃さず、心臓にめがけて突きを放つ。


死んだ。そう思ったイーリスであったが、刺さるはずの剣はなく、目の前にはアリシア。

「やぁ、肉盾の登場よ」

アリシアの左腿、防具を貫通して深々と剣が刺さっている。

「...そん...な。私の為に...」

騎士が呆気に取られている隙をついて、アリシアは騎士の首を折る。


「速く行け!!死ぬぞ!私も!あなたの父親も!」

アリシアの叫び声を聞き、イーリスは気合いを入れ直す。

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

イーリス、傷口を溶接して治療し、階段を蹴って天井に着地。そこで向きを変え、階段を一気に下る。

騎士団の突破は出来ていないが、それでも大きな前進だ。

「...そう、その顔。そっちの方がかっこいいよ。...あんたらは私の相手でしょ!!」

アリシアは、イーリスに向きを変えた騎士達の関節を容赦なく破壊して戦闘力を奪っていく。



陽介は、獅子奮迅の活躍を見せる。騎士団は確かに強力であった。囲まれればひとたまりもなかっただろう、今までならば。

しかし、騎士団は今の陽介の速度に根本的に追い付けないのだ。


ある者は目で追おうとした、しかし次の瞬間にはその目が潰された。理解するよりも先に身体が反応するものもいた、しかしその反応速度を越える速度で剣が迫ってきて、斬られた。

彼らは必死で陽介を捉えようとする。一度でも隙を見せてそこを突けば、確実に倒せる。それなのに、押されている。隙が無いのではない、隙を突く時間が彼らに与えられていないのだ。

異次元の速度から繰り出される神速の斬撃に、騎士団は恐怖を覚えながらも、勇気で自らを奮い立たせる。



陽介はそんな騎士団の様子を余所に、作業の様に斬り殺していく。半ばトランス状態となっていた陽介にあったのは、『肉体が邪魔』という苛つきの感情と、『リカルドの仕組みがやっと理解できた』という喜びの感情であった。

一方でその異常状態が心地よくもあり、いつ壊れるのかわからないスリルを与えてくれた。多分、駄目だとわかっていながら麻薬などに手を出した後の人はこのような感じなのだろうと思いながら、淡々と倒していく。

目標は出来るだけ速く2人を守ること、それだけだった。



イーリスは下に陣取っている騎士を相手にする。その動きは先程よりも凄まじく、かつ流麗であった。数ヶ月前までただの少女であったと説明しても、誰も信用しないような動きだった。

「こいつ...ガキのクセに!」

「ガキじゃない!私は...『イルザ母さん』と『ファフナー父さん』の娘!イーリスだ!」

「何!?イルザだと!?ぐおっ!!」

イルザの名前に動揺した騎士達は隙をつかれてその隊列を乱し、道を開けてしまう。


上の騎士を殲滅した陽介は階段を跳ぶように下りながら叫ぶ。

「今だ!行け!イーリス!」

「通させん!」

地下空間前に立ちはだかる『竜の乙女の騎士』隊長。その技量は圧巻の一言。イーリスは回避と防御に専念するも、裏を読まれて攻撃を食らってしまう。

しかし、イーリスも引き下がるわけにはいかない。守っても勝てない、攻めなければ。カウンター、回避...何度も練習した動き。自分が敵ならばどうするか。


「...押し通る!」

隊長の振り下ろす手首を打ち、その軌道を反らす。鍵爪による引っ掻きに隊長はカウンター返し。肘と手首を打って再び回避。それに対して隊長の蹴り。

「それなら!!」

蹴りを受け流しつつ顔面を掴む。体格と筋力的に地面に叩きつけは...出来る。私は『龍の娘』なのだから。

顔面を凍結させつつ、尻尾で胴を押し、足払い。

隊長は宙に浮いた状態から地面に叩きつけられ、後頭部で鎧と自分の重みを含めた全ての衝撃を受け、そのまま動かなくなった。

イーリスは謝罪したあと、再び走りだす。背中から斬りつけられた。それでも、走るのを止めない。一刻も速く、父に会わねばならない。



広間。父がイーリスを見つめている。走りながら近寄る。

「父さん!!戻ってき...」




足に衝撃が走った。足がもつれ、地面を転がる。地面に寝転がったまま足を見ると、ナイフが刺さっている。確認した数秒後、さらに肩に刺さった。先程と同じナイフ。

少しずつ大きくなっていく足音。ナイフを投擲した張本人。

「...たとえ身内だとしても、竜の一族ならば許さない。姉をたぶらかし、国をいたずらに混乱させる原因を作った龍。ましてや、その龍と姉の子ならば...俺は許さない」


クラウスは、なおも立ち上がろうとしたイーリスの胸にナイフを投げる。直撃。イーリスの胸元は、鮮血で赤く染まった。

最後の力を振り絞り、イーリスは彼女を見下すように立っているクラウス目掛けて鍵爪を振り上げるが、手首を掴まれ、阻止される。さらに、クラウスはイーリスの頭を地面に踏みつける。


イーリスはクラウスを睨み付ける。それを見て、クラウスは笑いながら言う。

「そうだ、その顔だ!その怒りと哀しみにうち震えた顔だ!」

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