歪み
「イエーイ!!開拓者イエーイ!!」
「アリシア、慎め」
「うるせぇ!私が払ってるんだからいいでしょ!?」
「...そうだな。すまなかった」
2人は東北方面の開拓の結果人類最北端にたどりついたのと、ジヤヴォールとの戦闘により多大なる被害を被ったため、ビザンティスに帰還していた。
そこではすでに2人の名前は知られており、盛大に歓迎された。それで、こうなっている。
「ねぇ、あなたがえーっと...ヨースケさん?」
バーテンダーと会話しながら飲んでいる陽介に、妖艶な女性が話しかけてきた。服装から判断するに、同じタイプの開拓者だろう。
「あぁ、そうだが...開拓の話でも聞きたいのか?」
「ある意味そうね。ちょっと質問がしたいの」
「構わない」
「その左手の甲...呪いが付与されてるでしょ。ちょっと見せてほしいなーなんて」
左手の甲...『ジヤヴォール』の腕を移植した方だ。現在包帯で隠してあり、アリシアにも説明していない。それをこの女はすぐに『呪い』と判断した。陽介は少し質問をする。
「なんでそう思う?ただの怪我かもしれない」
「ハハハ。それがただの怪我に見えるほど私の魔術ランクは低くない。もしかしてあの子、そんなのも見抜けなかったの?」
「ちょっと訳ありなんだよ。気にしないでくれ」
「その答え、あなたの手の甲に何かあるって事じゃない?」
さりげなく誘導された。陽介は降参し、包帯を外して手の甲を見せる。女はまじまじと見つめたあと、呟く。
「...少なくとも、私の持ってる知識の中では外すことは出来ないわね」
「知っている。俺が知らなかったんだ、あんたが知っているはずが」
「『ヘレナ』。私の名前よ」
「...わかった。話を戻そう、これで満足か?他に何かあるのか?」
ヘレナは詰め寄りながら陽介に尋ねる。
「私と組みましょうよ。アリシアさんよりもきっとそれに関して速くいい手段が見つかると思うんだけど?」
「断る」
「待遇だって、彼女の時より良いものにしてあげるわ。それだけじゃ不満?」
ヘレナは陽介の身体に指をなぞらせてくる。さらっと『魅了』を使ってくるあたり、このヘレナと名乗る女性は相当陽介の事を評価しているようだ。皮肉にも、ジヤヴォールの腕が『魅了』の効果を完全に打ち消していた。
陽介は毅然とした態度で返答する。
「断る」
そこに、アリシアがやってきた。ややムスッとしている。
「...私と組むのは飽きたのかしら?ヨースケ」
「違う」
「彼の言うとおりよ。フラれちゃったわ、私。また会いましょう、ヨースケ」
ヘレナは手を振りながら人混みに紛れていった。
先程まで座っていた席に、今度はアリシアが座る。まだ疑っているようで、陽介の顔を覗いてくる。
「本当に何もなかった。スカウトされたが、断っただけだ」
「...本当に?」
「あぁ」
「...嘘つき」
どうやら左手の事を見られていたようだった。ここは素直に話すしかないと思い、陽介はジヤヴォールの腕の事も関して全てを話した。
「...なるほどなるほど。フンッ!」
アリシアに頭を叩かれた。
「いってぇな。悪かったよ、隠してて」
「心配かけさせないで。何かあった時に対処出来ないじゃない」
アリシアは少し悲しそうな表情をしている。
「...すまない。気をつける」
「はい!辛気くさい話終わり!飲んで飲んで!」
その後も宴は遅くまで続いた。
宿までの帰り道、すっかり暗くなった大通りを陽介はアリシアを背負いながら歩いている。開拓の時の苛烈な姿からは想像出来ないほど、華奢な身体だった。
「うーん...ヨースケ...」
「なんだ?」
「...離れるなよ」
「...わかってる」
たとえ寝言だとしても、その言葉は非常に重く陽介にのし掛かった。
夢の中で、陽介は目を覚ます。見覚えのある光景、見覚えのある男がいた。すぐに場所を確認する。『三 川前』と書かれていた。
「...何の用だ?」
陽介は駅員の男...『死神』に話しかける。
「別に?楽しんでるかなーって」
「問題ない...と、思う」
「それなら良かった。ってそんなことを聞きに呼び出したんじゃねぇや」
「本題あるじゃん...」
死神は笑って誤魔化したあと、真剣な顔になって陽介に語りかける。
「その左手のやつだけどな、すまねぇ。俺らでもどうすることも出来ない。しかも、死後の裁判では確実に評価値が下がる」
「...神でも出来ないことってあるんだな」
「あったりめぇよ!話を戻すぞ。それを外すことの出来ない理由だが、その腕は人を地獄に落とそうとする者が持ってるやつだ。普通の人から無理に引き剥がすにはこちらが直接世界に介入する必要がある。それをした場合、お前の第2の人生...こっちが請求した再審を反故にしちまう」
「つまり、俺が別世界で再審を再審することになると?」
「ああ、手続きは面倒くさいが、面倒事が1つ減る!選んでいいぞ!」
またこの死神は選ばせようとするのだ。『死後の裁判で評価値を下げてまであの世界にしがみつく』か、『全てを忘れて再審を再審する』か。どちらも最悪だ。
陽介は、1つ交渉に出る。
「再審を再審するとき、もう1人連れていけるか?」
死神は驚いた表情をしたあとに、答える。
「可能だが、身の安全は保証できない。向こうが拒否すれば死んで終わりだからな」
少し考えた後に、陽介は答える。
「2日待ってくれ」
死神は快く応じ、陽介は目を覚ます。
早々に着替えを済ませ、アリシアの元へ行く。己のわがままのために。




