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再審の男  作者: 藤澤トオル
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親の心、子の心

陽介はすぐに腕に対し『高速学習』を行う。頭に電撃が走る。情報の処理能力の限界を越えているようだった。Sランクのスキル効果を上回るということは、使いこなすのはかなり先になるだろう。

それでも、ある程度はわかった。そして確信する。これがあれば倒す事は不可能でも、先程よりも時間稼ぎが容易になるという事をだ。

そのためにも、目の前に立つ獣に構っている暇はない。


陽介は噛み砕かれた足を無理矢理動かし、踏み出す。熊は両手をあげ、振り下ろす。

「アリシアなら...こうか!!」

目に焼き付いているアリシアの拳...それを思いだしながら陽介はジヤヴォールの拳で殴る。

熊の振り下ろしより先に懐に飛び込んだ。拳が胴体に直撃した。不思議と貫いた感触はない。だが、確かに貫いている。


陽介はそこで新たに理解する。なぜ自分の腕が消し飛ばされたのか。奴と同じことが、今の自分には出来る。陽介は叫ぶ。

「道を開けろ!!」

拳を開くと、熊はその場から跡形もなく消えた。


熊が消失するタイミングで、ジヤヴォールはアリシアを再び投げ飛ばし、陽介の方に向き直した。

「よぉ、待たせたな。本当の2回戦目だ」

拳を握りしめ、構える。アリシアほど洗練されているものではないが、それには確かに一流の人物の風格があった。




紫色に光る正体、それは僅かに開いている棺桶から漏れる光であった。その棺桶の周囲には白骨化した遺体や、肉が腐り落ちた原型を留めていない何かなど、様々な物が散乱していた。

「周辺をもう少し調べてみよう。ここなら、何か手がかりがあるかもしれない」


捜索すること数分、ニーナが白骨化した遺体が手帳の様な物を握りしめていることに気づく。

「...ミーシャ!読めるわよ、これ」

ページをめくってみると、確かにミーシャとニーナが知っている文字で書かれていた。落丁や破損も見られるが、概ねは解読可能である。


読み進めていくと、2人はある事実を知る。

『ジヤヴォール』には確かに本体がいる。だがそれは、この世界には存在せず別な世界に存在している。『ジヤヴォール』を倒す事は事実不可能である。

だが『ジヤヴォール』を追い返すことは可能である。それは『ジヤヴォール』を召喚した場所...つまり、この棺桶を『内側から』閉める必要があった。『外側から』閉めても別な地点に移動するだけであって、根本的な解決にはならないのだ。

そして、最初に『ジヤヴォール』を召喚したのはミーシャ達の先祖であった。


「...なんということだ。俺達は、先祖のツケを払うために見ず知らずの者達を巻き込んでしまったのか」

「...終わりにしましょう。私が閉めるわ。ミーシャは彼らにウッ!!」

ミーシャはそう語りかけるニーナの首を銃のストックで打ち、気絶させた。

「...君にやらせるわけにはいかない。ヨースケ、アリシア。すまない、ニーナを頼む」

ミーシャはニーナを見つかりやすい地点まで移動させてから、棺桶まで戻ってきた。

「一族の汚点は、俺が払う」




ジヤヴォール同士の拳が重なる。互いの腕が砕け散った。陽介は別な腕を拾い、付け直す。残り本数は着けているものも含めて2本。大切に使わねばならない。だが効果はあった。向こうも復活速度が格段に遅くなっている。

もう片方の腕も切り落とせば勝てるのだろうか?

そんな悪魔...『ジヤヴォール』の囁きが聞こえたが、すぐに振り払う。

ジャンプしながらジヤヴォールの顔面目掛けて殴りかかる。命中した、始めてだ。

しかしジヤヴォールは陽介の足を掴み、引きずり込もうとする。ここで飲まれれば、再び消し飛ばされるだろう。陽介は『固定剣』を引き抜き、ジヤヴォールの腕を斬り付ける。


『固定剣』は、戦闘用に造られている物ではない。とは言ってもある程度の切れ味は持っている。そのため、ジヤヴォールに傷をつけることも可能であった。

問題はその後に起こったことである。『固定剣』が、爆発したのだ。ジヤヴォールも流石に離したが、陽介は爆風が直撃し、ふっ飛んだ。さらに、衝撃で片足は完全に使い物にならなくなった。

陽介は爆発の原因を考えたが、すぐにやめた。それよりも、目の前の敵を倒さねばならない。木を背中に当てながら立ち上がる。


ジヤヴォールはゆっくり迫り、チョップを振り下ろした。陽介に回避できるほどのスピードば残されていない。正面から受けるしかなかった。拳を振る。

「ヨースケ!打ち上げるぞ!」

何度も聞いた声に、考えるよりも先に身体が反応した。いつも通り、とはいかないが構えを変える。次の瞬間、陽介はジヤヴォールの方へ打ち上げられた。

何度みたかわからない攻撃、今度は陽介が行う番だ。ジヤヴォールの顔面を掴み、さらに反対の手で抑えて重力に任せて押し付ける。

「消えろ!!!!」

ジヤヴォールの後頭部と思われる場所が地面に叩きつけられる瞬間、周囲の霧が消え去った。


陽介はその場に倒れこむが、それを支える者がいた。雪の様に冷たく、柔らかい手、アリシアだ。

「やぁ、今度は間に合ったわ」

「もうちょい...速くしてくれ」



アリシアに肩を貸されながら陽介はミーシャとニーナを探す。

少し経過してから不思議な場所の手前で倒れているニーナを発見した。アリシアはニーナを揺さぶり、起こす。

「...あなたは。!!!ミーシャ、ミーシャはどこ!?」

「あなた1人よ」

「...そんな!」

青ざめた顔をしてから、ニーナは遺跡らしき場所を奥へと進んでいく。陽介がついていこうとすると、アリシアが静止する。

「あなたはそこで待ってなさい。危険がないとも限らない」


アリシアは先に行ったニーナを追いかける。ニーナは、ある地点で座って泣いていた。その地点には、閉じられた棺桶があり、周囲にには白骨化した遺体や腐り落ちた何かなどが散乱している。その中で、あるものを発見する。比較的新しい銃だ。

「...ミーシャの物ね。ニーナ、あなたは何か知っているのね?」

ニーナは深呼吸してから先程ミーシャと発見した手帳の内容について語った。そしてこう続けた。

「ミーシャは...多分、『ジヤヴォール』を...封印するために...きっと...」

「...そう、ありがとう」



陽介は自分の腕を見る。ジヤヴォールの霧はすでに出ていない。色ももう片方の腕と遜色ない。ただ、手の甲に謎の紋様が浮かび上がっていた。それに関して見覚えがある気がしたが、今の陽介にそれを探るほどの気力は残されていなかった。


しばらくすると、アリシアとニーナが帰って来た。

「ミーシャは?」

陽介が聞くと、アリシアは首を横にふった。陽介はそれ以上聞かなかった。



数日後、ある程度陽介とアリシアが回復したので1度帰還することにした。陽介はニーナに尋ねる。

「ニーナ、本当にいいのか?別に俺達は困らないぞ」

「うん、いいの。ミーシャが...父さんが護ってくれたこの土地を愛し続けるわ」

「...そうか。またな」

陽介とアリシアはビザンティスへ向け、歩いていく。空は晴れ渡り、僅かに残った雪がさらに世界を照らしていた。



「これで良かったのよね、父さん」

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