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再審の男  作者: 藤澤トオル
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エピローグ

「……以上が、君の再審内容だ」

「……」

男は尋ねる。

「何か申し開きは?」

陽介は即答した。

「何も?」



 男は姿勢を崩して言う。

「正直困るんだよねぇ、なんで俺達の管轄を越えて上司と契約しちゃうかなぁ?しかも死神の野郎が勝手にお前を賭けの対象にしてさ」

陽介は不敵に笑う。

「それで、結果は?なんとなく見えてるけど」


 男は不機嫌そうに答える。

「また一緒だよ。殺人、魂の侮辱……その他諸々の余罪。それと救済、正義の行動、自我の貫徹……その他諸々の善行。俺らを困らせるのが趣味なのか?」

「そんなわけないだろ。たまたまだよ」

「ほんとかぁ?俺は疑り深いからまだまだ掘り下げていくぞ」


 男は分厚い本をペラペラとめくり、最後のページまで読み直してから再び閉じる。

「……マジやん」

「だろ?俺は正真正銘の『人間』だからな。善も悪もひっくるめて俺だ。何が正義か悪かなんてどうでもいい。俺は、俺の生きたいように生きる」


 男は座っていた椅子をグラグラと揺らしながら呟く。

「めんどくせぇんだよなぁ!手続きがなぁ!あーあー!地獄行きなら手続き不要で落下させればいいからなぁ!」

「天国なら?」

「俺がモヤモヤする」

「完全にわがままじゃねぇか!」



 陽介は深呼吸してから言う。

「……まあ、地獄行きでもいいけどさ。一つだけ……いや三つほどお願いがある」

「ほぉ?言ってみろ」

「アリシア達……俺のせいで人生を崩された人達は天国にしてやってくれ」

男は爆笑した。


「させるわけねぇだろ!!お前ひとりの判決は、他の誰にも影響しない!お前が狂わせようと、最終的に決めたのは本人だ!……わかったな?」

陽介はちょっと引き気味になりながら頷いた。男は納得したように頷いたあと頭をかきながら言う。

「……お前はよくやったよ。利己的に生きようとしたのに、結局は生来の利他的な考え、自己犠牲の精神を捨てられなかった。結果、多くの己が死に、多くの他を殺し、多くを無条件に救った」

「それしか道がなかったからな」


 男は即座に反論する。

「それは違う。お前は数多の犠牲を使い、道を固めた。後に続く者達のために、道を通りやすくした。獣道しかなかったあの世界に、『人』の道を作った。まさに開拓者だ」

「お褒めに預かり光栄極まりない。だが結局俺はそれだけの男だ。ありものを使えるようにしただけ」

「十分じゃないか。150年はかかると踏んでいた結末を、お前はわずか数年で成し遂げた。娘が出来てからの人生も、嫌われることはなかった。好きに生きていたのに」



 どことなく現れた死神が言う。

「おいオッサン、そろそろ……」

「わかってるよ。……じゃあ最後の質問だ」




「どうしたい?」




 陽介は寂れた駅舎の待合室でホットミルクティーを飲む。電光掲示板に表示された次の電車はおよそ30分後……外で待つには辛い時間だ。スマホの充電も残り少ない。なんとか移動中の暇潰し分は確保したい。

「……にしても暇だな」


 ひたすら景色を眺める。紛れもなく平和。嘘偽りなく平穏。唯一無二の暇。駄目だ、暇だ。だが寝るな、次を逃したら本格的に帰れなくなる。そもそも他に乗ってる人はいるのか?そんなことを考える暇があるなら、いやまてずっと考えていれば楽じゃないか。よっしゃこのまま周りの目を気にして

「あ……す、すみません」

「え!?あ、はい!」


 美しい金髪の胸のデカイ女性だった。恐らく年はあまり変わらない。

「お隣、いいですか?」

なんで隣?と思ったが対面各3つある席のうち、反対側には謎のゴミがあり、陽介は真ん中に座っていた。誰だってゴミの横には座りたくない。

「あ、いいですよ」

突然の出来事に震える声でそう答えた。



 女性をふとみると、同じ飲み物を持っていた。あと、日本人じゃない。もしくは混血。だが尋ねる気にはなれない。陰キャだからだ。もし方向が同じなら気まずいことこの上ない。

「あの……お好きなんですか?その飲み物」

「え!?あ、はい!」

声が裏返った。こいつ陽キャか。そう思わずにはいられなかった。


「美味しいですよね、これ!私のお母さ……母も大好きで、よく飲んでるんです!」

「へぇ。失礼ながらご出身は?」

「産まれはドイツですが、日本では10年ほど暮らしています。あ、父がドイツで、母が日本です」

感心しながら、チラッと全身を見る。なるほど、通りで日本人離れしたスタイルと顔の良さだ。やはり陽キャか?


 そう疑っていると、やはり向こうから話しかけてきた。

「そういえば、方向はどちらに?」

「ん?あぁ、都心の方へですね。自宅がそっちの方なんで」

「奇遇ですね!私も一緒です!」

半分嬉しい、半分焦った。こんな美女ともう少し長くいられることは嬉しい。だが時間が持つ気がしない。


 だから陽介は適当な笑みを返す。

「そうですか!珍しいこともあったもんだ!」

深く詮索はしない。嫌われたくないから。至って普通の話題を振って時間を持たせる。それが陰キャである自分の必死の抵抗。



 だが虚しくもその抵抗は無意味に終わる。勝手に女性が話を進めるからだ。両親の話、兄弟の話、過去の話……将来の話。そんなことをしていると、アナウンスが鳴り響いた。

「あ、そろそろですね!乗りましょう」

「はい。乗り遅れたら大変ですしね」


 陽介はここであることに気がついた。

「そういえば名前を伺っていませんでしたね。……お伺いしても?」

女性は振り返って答える。

「『アリシア』……『アリシア・シュタインベルク』です!」


 その懐かしい響きを聞き、陽介は全てを思い出した。そして、アリシアに言う。

「ただいま」

アリシアは乗り遅れそうな陽介を引き寄せながら言う。

「おかえり」




 たとえ『元の世界』でも、運命は変わらない。それでも……だからこそ、一人一人の向き合い方で世界はいかようにもなる。そこに力は不要。必要なものは単純明快……『一歩』。


 人類は、未来へ踏み出せる。

 再審の男、これにて完結となります。非常に長い間ご愛読いただき、誠にありがとうございました。もし機会があれば、またどこかのお話で。それでは。

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