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テナちゃんが食堂で働きはじめて、五日が経った。テナちゃんはすっかり騎士団のアイドルになってしまった。
俺としては複雑な気持ちなのは依然変わらない。
テナちゃんは主に注文を取るカウンター周りの仕事と皿洗いや食堂の掃除などが主な業務だ。おかげで飯を食いに来た下種野郎ども、もとい俺の同輩先輩後輩たちもろもろの同僚と関わることが多い。
テナちゃんは早番だから、朝と昼には会える。夕方はセスナさんに診察してもらったり、査問会だったりと、俺の業務の関係もあって会えたり会えなかったりだ。
でもテナちゃんは楽しくやっているみたいで、忙しくしていればウジウジしなくて済むからと笑っていた。
午前中、俺は副隊長について街の巡回をしながら、テナちゃんのことばかり考えていた。すると副隊長も何かを察したのか、俺の顔を見てにやりと笑うと、俺の鼻をいきなり掴んできた。
「キッドお前な、今は仕事中だぞ。確かにあの子は可愛いし、良い子だけどな、あんまりご執心だと後がつらいだけだぞ」
「なっ! べ、別に俺は……!!」
俺が慌てて否定しようとすると、副隊長はパッと手を放して歩き出す。
「監察方の動向は俺も把握しきれない。けど、ヴィーナからの情報で調べは順調らしい」
「それは……」
俺も少し聞いた。
テレンツィエナ=モンタルド。十九歳。十四歳まで普通学校に通い、その後、ブラドワール首都マーゼにほど近いサクゼン州の州立技術学校に入学。機械工学と木材加工について学びながら、町工場でも働いていた。ただ、学校を二年で中退。その後は実家に戻り、父の世話をしていた。ほどなくして、父モンタルド博士の同僚の息子と婚約を結ぶ。
――テナちゃんについて、監察方が調べた情報は今はここまでだ。
そう、これだけ見れば、テナちゃんが家出をした理由は、婚約者から逃げるためとも考えられる。痴話喧嘩か何かの結果そうなった、ともとれる。しかし、彼女を狙う狼の説明はつかない。
それはそうと、テナちゃんが機械をいじってたっていうのは意外なんだけどね。
ヴィーナさんによると、彼女は本当に機械が好きらしい。彼女の手荷物は少なかったが、その中に時計を作るための歯車などが入っていた。ヴィーナさん曰く、今は暇があれば時計を組み立てているらしい。
まだ職人が少ないため、時計は貴族が持つ高級品だ。しかし、ブラドワールでは徐々に普及が始まっているらしい。
俺は活気あふれる人々の明るい声を聞きながら、どこか複雑な気持ちだった。
あと三日で豊穣祭だ。その準備で街は余計賑わっている。浮ついた輩が出て治安が乱れる懸念もあるが、それでもいつも以上に皆が元気になるのも祭というものだ。
この平穏の影に、何か得体の知れないものが潜んでいるのではないか。そんな悪い予感がして、俺は落ち着かない。
昼休憩でテナちゃんの顔をみて少し安心したけど、俺は相変わらず上の空だった。そんな様子を見かねたのか、ケビンが俺の首に手を回してきた。
「お前、ぼーっとし過ぎ」
「そうかな……」
「そうだよ!! ったく、情けない面しやがって。このケビンさんがそんな情けないキッドくんに、良い提案をしてあげよう」
「ケビンの提案とかろくなもんじゃないと相場が決まっているので遠慮しておくよ」
「おいおいちょっとちょっと!! 今回はマジ!! ケビンさん天才大好きちゅっちゅ!! ってなるやつだから!!」
「気色悪っ!! なにがちゅっちゅだよ……」
俺は左肩の上あたりにあるケビンの顔面に裏拳を叩き込んだ。ノーモーションで繰り出された裏拳は我ながら鮮やかだったと思う。同僚から「おおっ」と感嘆の声が漏れたのを俺は聞き逃さなかった。
「ってぇな何すんだよアホ!!」
「アホはどっちだ。人の耳で気色悪い声出しやがって」
「そりゃお前が……って、まぁそれはもういいや。でな、俺は考えた。もうすぐ豊穣祭だ。いいか、もう一度言う。もうすぐ豊穣祭だ。男も女も老いも若いもアホのようにバカ騒ぎ、無礼講とはまさにこれ! 女の手をとりお堅い騎士様も鎧を脱いでいざ行かん!! ……てなわけで、お前、誘え」
「……」
誰を、とは聞くまでもないだろう。
こうして俺はこのアホの口車に乗せられて、テナちゃんを豊穣祭に誘うことにした。




