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「はぁーい、はじめまして。あなたがテナちゃんね。あたしはヴィルヘルミーナ。気軽にヴィーナさんって呼んでね」
事情聴取の直後、バァーン、と医務室の扉を開けて入ってきたのは、とんでもなく綺麗なお姉さんでした。
「こらヴィーナ、入るならノックぐらいせんか!!」
セスナさんがクワッとした顔で然るも、その、ヴィーナさんという女性はどこ吹く風といった様子だ。
「いいじゃないのセスナ先生。今日からあたしの同室になる子だもの。気軽に挨拶ぐらいさせてよ」
「問題なのは挨拶をする前のところなんじゃが……」
まぁいいか、とセスナさんは諦めたように項垂れた。
ヴィーナさんというとんでもない美人さんは、窓際に座っている私のところに来ると、まじまじと全身を見つめて来た。それにしても、おっぱいの谷間ががっつり見えているし、ローブの上からでも分かるナイスバディだ。羨ましい。
「改めて、よろしくね。あたしはヴィルヘルミーナ。騎士団所属で、まぁ召喚士っていう仕事をしている者よ」
「テレンツィエナといいます。私も、テナと呼んで頂けたら嬉しいです。しばらくお世話になります」
ぺこりと頭を下げる。ヴィーナさんはよしよし、と笑いながら私の手を取った。
「さて、と。色々話したいことも聞きたいこともお互いあるでしょうけど、まずは出かけるわよ」
「えっ?」
「だってあなた、服も下着も化粧品もないでしょ。さすがに着の身着のままってわけにもいかないじゃない」
「そ、そうですけど……」
私が戸惑っていると、ヴィーナさんがにやりと笑った。
「大丈夫、外出許可ならあたしが取ったし、軍資金もあるのよ~。キッドったら、日用品買うのに使ってくれって、太っ腹なんだから」
「えっ、えっ……?」
キッドさんが、なんで私のためにお金を?
申し訳ないと思った気持ちが顔に出たのだろうか、すかさずヴィーナさんが私の眉間に触れてきた。
「今申し訳ないとか思ったわね? いいのよあんたが気にすることなんてないんだから。これはキッドが勝手にしたこと。男からの善意は下心もあるけど、まぁ、あいつの場合は大丈夫だから安心しなさい。さぁさぁ、さっさと行くわよ。買い物して、部屋の準備まで今日のうちにやらないといけないんだから」
もう何がなんだか分からないままヴィーナさんに腕を引かれて歩き出す。セスナさんも止める気配はない。一体どうなってしまうのか、と思っているうちにいつの間にか城下町にいた。
「さて、あんたはどんな服が好み? って言っても、食堂で動けるような服じゃないとダメよねぇ」
私より楽しそうなヴィーナさんに連れられて、大通りを歩く。街は活気で溢れていて、客を呼び込む店主の声が響いている。遠くに見える広場の噴水では、大道芸を披露しているようだ。
「すごい……」
思わず呟くと、ヴィーナさんが嬉しそうに「でしょー。ナルダンは騎士の国なんて呼ばれてるけど、ちゃんと商業だって発展してるのよ」と道行く人々の顔を見回した。
ヴィーナさんはとびきりの美人だけど、会話しているうちにとても気さくな人だということが分かって、私はすごく安心した。たとえ少しの間でも、優しい人に囲まれるのが嫌な人なんていないだろう。
「そういえば、テナは普段はどんな格好をよくしてたの?」
「そうですね、"つなぎ"とかよく着てました」
「……は?」
服を選びながら、何の気なしに聞かれた質問に、私も深く考えずに答えた。
「え? ……あ」
答えてから、ヴィーナさんの反応でしまったと反省する。
「つなぎって、作業着の!?」
ぐっと美しい顔を近づけられ、私はたじろぐ。
「は、はい。そのつなぎです。私、技術師になりたくて、よく機械とか木材とか工具とか触っていたので……」
「えぇ!? あ、あんた重い物とか持てなさそうな見た目じゃない!! 驚いたわ」
「よ、よく言われます……」
学生時代にも、初めて知り合う人には驚かれたのを思い出す。
「ふーん、ほんと、人は見かけによらないってやつね。じゃあ、つなぎとまでは行かなくても、そういう感じの服も買いましょうか」
「……え?」
「だってテナ、そういうの好きなんでしょ。なら息抜きにいいんじゃない? あたしらの部屋でどこまで出来るか分からないけど、騒音出さなきゃ大丈夫でしょ」
「ヴィーナさん……」
「ほら、さっさと選ぶわよ。まだ日用品で買うものは色々あるんだから」
「はいっ!」
こうしてヴィーナさんとの買い物はあっという間に終わり、私は召喚士の女子寮に案内された。騎士団の宿舎から歩いて五分ほどのところにあり、同じくお城の敷地内だ。石造りの三階建てで、女性の数はあまり多くないらしい。隣にある倍以上の大きさの建物が男子寮らしいのだが、色々と規模が違う。
「あたしたちの部屋は三階の一番のここよ」
ドアを開くと、十五メートルほどの正方形のような部屋で、正面には窓がある。左手には二段ベッドがあり、下の段は薔薇模様のカーテンが取り付けられて見えないようにしてあった。
「ベッドは上がテナね。あたしは仕事柄、夜勤もあって変な時間に帰ってくるから、起こしたらごめんなさいね」
「い、いえ! 本当に部屋を貸してくださるだけでも十分なのに……」
ヴィーナさんは部屋の真ん中にあるテーブルとソファに荷物を広げながら、てきぱきと整理していく。
「お風呂とトイレは一階に共用のがあるから、そこを使って。あ、お風呂は夜の六時から十二時までだから気を付けてね」
「は、はい……ッ!」
次から次へと色々な情報が飛び込んできて、もう何がなんだか分からなくなってきた。
とにかく、私は身の潔白が証明されるまではヴィーナさんと一緒にここに住む。朝六時から夕方五時まで食堂で働く。それが私の当分の動きだ。それ以上もそれ以下でもない。
忙しくしていれば、今みたいにうじうじしている暇なんてなくなるだろう。
よし、頑張ろう。私は小さくガッツポーズを作り、明日からの仕事に気合を入れた。
ガールズトーク(?)
珍しく日常な感じです。




