第3話 偉そうな女に絡まれました!
止まった世界の中で、俺は必死に体を動かそうとした。が、マジで指の一本も動かせない。
くそ、どうすれば——
その時。
「——うおっ!? な、なんだ!?」
間の抜けた声が聞こえた。視界の端にタクヤが映る。止まっているはずなのに意識がある。ただ、動けてはいない。俺と同じ状況のようだ。
なんで?——そういえば、さっき「退がってろ」と言った時、タクヤの肩を押した気がする。顔を動かせんのでよく見えないが、まだ触れている感触もあるような、ないような……
あー! もしかしてアレか! 俺が触れているやつは、止まった世界に入門できる系だ!
「タクヤー! 聞こえるか!」
「ユ、ユウヤか? 聞こえるぞ! てか、なんだこれ!? 体が全く動かんぞ!?」
「俺のスキルだ! 時間停止を使ったら、どうやら俺もろとも止まったらしい」
「はぁ!?」
タクヤが素っ頓狂な声を上げた。
「なんだそのクソスキル!!」
「うるせぇ! 俺も知らなかったんだよ!!」
「時間止めて自分も止まるとかアホなのか? マジで意味ねぇじゃねえか!!」
「仕方ねぇだろ! 俺だって不本意極まりないわボケ!」
「まったく、使えんスキルだな!」
停止した世界の中で、俺たちは不毛な口論を繰り広げた。
「……とりあえず、お前の『言語理解』を試してみろよ。時間停止を解除したら、あのスライムと話してみてくれ。もしかしたら和解できるかもしれん」
「スライムに知性があるとは思えんが……試す価値はあるか。外れスキル持ちのクセに機転が効くじゃないか!」
苛烈にムカつく物言いだが、仕方ない。俺はスキルを解除した。———世界が動き出す。
「タクヤ、今だ!」
「おう!」
タクヤが目を閉じて集中する。
「……聞こえる! あのスライム、なんか言ってるぞ!」
「おおお!! なんだ!? なんて言ってる!?」
「待て、今お前にもかけてやる」
タクヤのおかげで俺にもスライムの声が——
《コロス……コロス……ニンゲン……コロス……ナルベク……イタブル……》
「「…………」」
俺たちは顔を見合わせた。
「なかなかヘヴィな世界だな」
「……ああ」
「和解は……無理そうだな」
「倒すのも、今の俺らじゃ不可能だろうな」
沈黙が落ちる。
「……逃げるか」
「異論ない」
俺たちは、全力で逃げ出した。
「くっそ! なんでスライムごときが、あんなに凶暴なんだよ!!」
「知らねぇよ!! テンプレ通りにいかんこともあるんだろ!!」
「お前のオタク知識、全くあてになんねぇな!!」
「うるせぇ! お前の時間停止も大概だろうが!!」
ギャイギャイと文句を言い合いながら、俺たちは街まで走り続けた。
◇ ◇ ◇
養成所に戻った俺たちは、即座にガロンの元へ突撃した。
「「おい教官! これはどういうことだ!!」」
「なんだ、うるせえなお前ら……」
ガロンの巨体がこちらを向く。
「なんだじゃねぇよ! スライムのやつがバカでかかったんだが!?」
「普通に死にかけたんですけど!? 俺たちを殺す気か!? この外道が!」
筋肉ゴリラが珍しく眉をひそめる。
「でかいって、どのくらいだ?」
「2メートルくらいはあったぞ! 人間よりデカいスライムとか聞いてねぇぞコラ」
「しかも酸吐いてきたんですけどォ! 石、溶けてたんですけどォ!」
「やれやれ、ピーピーとうるさいヤツらだな。だが……2メートルか」
ガロンの表情が変わった。さっきまでの呆れ顔から真剣な顔になる。似合わないから小難しい顔はしないでほしいものだね。
「『変異種』か。通常のスライムはせいぜいスイカ程度の大きさだ。2メートルなんてのは聞いたことがないな」
「はぁ!? じゃあ俺たち、とんでもねぇのと遭遇したってことっすか!?」
「そういうことになる。よく無事だったな、お前ら」
——な、なんて無責任な野郎だ!!
「しかし、外壁付近に変異種が出るとは、調査が必要だな」
「おい、俺たちへの謝罪は!? 危うく死ぬとこだったんだぞ!?」
「死ななかっただろ。それで十分だ」
「「なんだとォ!?」」
俺たちが不満たらたらで部屋に戻った後、ガロンは静かに部下を呼んだ。
「外壁付近のスライム生息域を調査しろ。変異種が出たとなると、放置はできん」
「了解しました」
「あのバカどもには黙っておけ。余計なことに首を突っ込まれては敵わん」
部下が去った後、ガロンは窓の外を見ながら呟いた。
「バカガキどもめ……まあ、生きて帰ってきただけマシか」
その口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。
◇ ◇ ◇
翌日。養成所での授業前に、最悪の事態が起きた。
「あら~?」
聞き覚えのある声に振り返ると、赤髪ポニーテールの女——リーシャが、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら立っていた。
そう。例のしち面倒くさそうな女に絡まれてしまったのだ。最悪である。
「聞いたわよ? あんたたち、スライム相手に逃げ帰ってきたんですって〜?」
——クソっ! どこから情報が漏れた!?
「クソカスファイヤボールの次はクソカス敗走? ほんっと雑魚すぎてもうカワイイ域ね」
——こいつ、煽りスキル高すぎんだろ。いくら寛大さには定評のある俺でも、今のには流石にプッツンしそうだぜ。
「うるせぇ! そんなに言うならお前も来いよ!」
「別にいいわよ?」
リーシャが余裕の表情で髪をかき上げた。
「私の本当の実力、見せてあげるわ!」
◇ ◇ ◇
同じ頃、ギルドの受付。
「ガロンさ〜ん、例の訓練生たちがまた外壁の方に向かっていきましたけどぉ〜?」
受付嬢の報告に、ガロンは書類から顔を上げた。
「……あのバカども、またスライム狩りに行ったんじゃないだろうな?」
「おそらく。今回はリーシャさんも一緒みたいですが〜」
ガロンは深い溜息をついた。
「諦めの悪いガキどもめ。調査部隊の報告もまだ来てねぇってのに……」
「止めなくてよかったんですかぁ〜?」
「止めて聞くような連中か? あれが」
やれやれ、と肩をすくめる。
「一応、ギルドの冒険者にもあいつらを追わせろ!」
「ガロンさんも優しいですねぇ〜」
「……やかましい」
待ってくれえええええ!まだ閉じないでください。今、私は命乞いをしています。
ここまで読んで少しでも「面白い」と感じてくれたソコのあなたッ!
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