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2 異世界でニート?

 そして3ヵ月の月日が流れた。

 希代の英雄とまで噂が飛び交い、神格化されたシンだったが……

 あれからどうなったかというと……



 彼は、とある町はずれにある小さな家で暮らしていた。

 そこは小高い丘にある、赤い屋根が可愛らしいレンガ造りの建物だった。

 室内には小ぶりの鉢に植物が植えられており、棚にはたくさんの小瓶がならべてある。

 だが果たして、暮らしているという単語が適切なのだろうか。とにかく彼は、この家のどこかで息を潜めている。

 


 建物に入ってすぐのところにはカウンターがあり、少し腰の曲がった老婆が、少女に向かって丁寧にお辞儀をしていた。


「この前頂いたクスリのおかげで腰の痛みがとれたわ。ありがとう、かわいい魔女さん」


「おばあちゃん。何度言ったら分かるの? 私、魔女じゃないわよ。ア、ル、ケ、ミ、ス、ト! 錬金術師よ」


「アル……ケ……、レン?? まぁ、魔女みたいなものでしょ?」


「全然違うよ! アルケミストはね……」と言いかけた少女だったが、気を取り直して話題を変えた。


「そういえばお孫さんが風邪なんだってね。これを飲ませてあげて」


 そう言って、少女は老婆に小瓶を手渡す。


「何から何までありがとうね。魔女さんがこの村に来てから、みんな助かっているって言っているわ。今度、うちでとれたキャベツを持ってくるわね」


 魔女として認識されているのがちょっぴり面白くないのか「わー、ありがとう、おばーちゃん」の口調が棒読み。


 

 老婆が去ったと同時に、少女の目がやや尖る。


「いるんでしょ? シン、今日はどこに隠れているの?」



 少しばかりの沈黙が過ぎ、どこともなくボソボソと声がした。


「……魔女さん……」



「魔女じゃない! アルケミストのリーザよ!」

「ごめんなさい。リーザさん」


「あんたさぁー、どうでもいいけど、なんであんたは、いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも、いっつもぉー、家の中でかくれんぼしているのよぉ? 何とか言いなさいよ! 言いたいことがあるんでしょ? 聞いてあげるからちゃんと出てきて、私の目を見て、はっきり言い返しなさいよ!」



 だが、返事はない。


 リーザは長い嘆息を吐いて腰に手を添えた。


「まぁ、いいわ。

 出てこなくてもいいから、ちゃんと聞いて。

 シンの気持ちは分かるよ。英雄だと言いくるめられて、ふらふらついて行ったら、やっぱいらないって言われて、そんでもってポイって捨てられたら、そりゃー誰だって人間不信に陥るわ。まぁー分かるよ、うん。転生者すべてが、スキルに恵まれているなんて都合が良すぎると思うし。そりゃぁ、私だって英雄とは程遠いスキルだし、でも現実をちゃんと直視して前を見て、出来ることを見つけて……」



 その後、リーザの説教は30分続いた。



 シンは思った。

 まるで妹にされていた説教の続編のようだ。

 あんたは俺の妹か?


 だがシンは、リーザに物申すことなどできない。

 むしろ感謝すべき人物であった。

 シンには『ニートスキル』働いたら負けがあった。業務を遂行するとHPが削られてしまうのだ。故に、まったく役に立たなかった。


 ヴァルズでは散々だった。

 具体的に説明すると――

 

 ヴァルズに招かれ、会食時。

 その場にはヴァルズ帝国の重鎮、そしてレイズの姿があった。彼らは親しみを込めてシンに話しかけるのだが、なかなか共通の話題を見いだせずにいた。

 それにしてもシンは食事のマナーがなっていないし、ぽとぽと落とすし、好き嫌いが多い。

 異世界人だから文化も違うし、当然なのかもしれない。だから微笑ましい笑みでシンの姿を見ていた。

 翌日は数人のメンバーでパーティーを組んで、冒険に出たのだが、雑魚中の雑魚モンスターである捕獲済みのスライムベイビーすら倒せない。それ以前に剣を持ち上げることすらできなかった。

 戦闘以外においてもどうしようもない。

 シンはちょっとした用事すら嫌がる。本当は仕事をすればHPが削られてしまう為、やりたくてもできないだけだが、周りの者達にそれを理解できるはずもなく、皆は次第によそよそしくなっていった。

 異世界の地でもシンは孤立してしまい、遂にシンは家出、いや、国出をしたのだが、ひとりで生きていく力もなく、野垂れ死にそうなところリーザと出会い現在に至っている。



 ――こんな俺をリーザは拾ってくれた……




 シンは勇気を奮い、天井裏から飛び降りた。


「あんた! どっからそんなところに侵入したのよ!? まぁいいわ。今日は出て来ただけでも偉いわ。ところで、ちゃんとごはん食べた?」


 シンの手にはお皿がある。今朝、シンの為に作ってくれたクリームシチューだ。

 ちゃんと食べてくれていて少し安心したリーザだったが、すぐに星の形をした赤い個体が皿の端に取り分けられていることに気付く。


「またニンジン残して!」

「ニンジン食べたら、HPが減るんだ……。俺、HP6しかないから、6つ食べたら死んでしまう!」

「うそつけ!」

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