16 ニートの劇1(★)
街の中央に位置する劇場に、突き刺さるような勢いで馬車が到着した。
到着するや否や、リーザは「はい、お金」と金貨の入った袋をジャラリと手渡すと、「あの、おつりは?」という御者の声を無視して敷地内へ突っ込んでいった。
そこにはたくさんの人でごった返していた。
リーザの視界には、赤い大きなテントが映る。
きっとあの中で劇が催されているのだろう。
入り口付近には長蛇の列ができており、ゆっくりと進んでいる。
どうやら間に合ったみたいだ。
その周りには机が並べられており、スイーツやジュースが売られている。
「よく冷えたレモンティーがあるよ!」「クッキーはいかが?」と商品を手に取り、観客達に勧めてくる。
んなものに興味はないと、リーザはずかずか売り子をかき分けと列の最後部に並ぶ。
「お姉ちゃん。ポップコーン買ってよ!」
小さな男の子がにんまり笑って、ポップコーンのカップを差し出す。
「悪いけどいらないわ」
「あーん、あーん、あーん。買ってよ!! 全部売らなきゃ怒られちゃんだよ!」
あきらかにウソ泣き。
なによ、この子。
いや、仕事をしているだけシンよりマシか。
「分かった。ひとつだけ買うわ」
男の子はにんまり笑うと、
「ジュースも買って」と新たな商品を売り込もうとする。
なによ、この子。
まぁ、仕事をしているだけシンよりマシか。
押しに弱いリーザは、男の子に言われるがまま、ポップコーンとチキン、ホットドッグ、ジュースまで買わされた。
商品の袋を持ったまま列を進んでいく。
運よくまだ席が残っていた。
立ち見覚悟だったのでラッキーな気持ちになったリーザは、席に座るとポップコーンのカップに手を突っ込んで、ポンポン口に投げ込む。
自分でもイライラしているのが分かる。
そりゃそうだ。
あれから考え抜いた末、リーザはひとつの回答を導きだしていたのだ。
――きっとシンは嘘をついている。
俳優が云々というのは、仕事から逃げるための口実に違いない。
だってどう考えても、シンに役者ができるとは思えないのだ。
そしてそんなのがシナリオを変更して、これから王子役を演じようとしているのである。
――大変だ!
すぐさまボロが出て、とんでもないことになるに違いない。
この劇を楽しみにして来場した、この場にいるすべてを敵に回してしまう。
もはや野次や物が飛んでくる程度では、済まされないぞ。
凶器まで投げつけてくるやもしれない。
どうすんのよ、シン!
どうせ泣いて謝るんでしょ?
まぁ、いつものことじゃない。こんな展開になるだろうって思っていたわ。
だけど今回はシンの嘘を見破れなかった自分にも責任がある。
だから一緒に謝ってあげるから……。
一緒に土下座して、泣いて謝れば、大衆だって人の子だ。
さすがに殺しまではしないだろう。
――まったくもう!
なんなのよ、あんたは!
そんな気持ちでバクバクお菓子を食べていた。
舞台にちょび髭の団長が現れる。
開幕の挨拶を済ませると、照明が消え、舞台は暗くなる。
そしてゆっくりと幕が上がっていく。
リーザはイライラしながらも、それでもバクバクお菓子をつまんでは口に突っ込んでいた。
幕が上がり切ると同時に、リーザは手に持っていたポップコーンのカップを地面に落としてしまった。
――あ、あれが……シン……なの……。うそでしょ!?
舞台中央に設置された、お城のバルコニーにシンが手を組んで立っているではないか。
それはあまりにも美しすぎた。
まるでそれは幻想的な絵画から飛び出してきたかのような、完成された美しい王女だった。頭には宝石を散りばめられたティアラに白いドレス。長く美しい金色のかつらを風になびかせて、やや上を向き、手を組み涙目になっている。
今まで太陽から守り続けた――もとい、ほぼ太陽から逃げてきた白い肌は、とても化粧映えしていた。ニートゆえんの色白の四肢が、ライトに照らされ美しく輝いている。
「……きれい……」と感嘆の声まで聞こえてくる。
それはリーザの耳にも入ってくる。
てっきり泣きべそをかいていると思っていた。
へなちょこ王子の姿をした彼が、舞台中央でわんわん泣いていると信じていた。
それがなんかすごいことになっているのだ。
リーザの目は点と化す。
「あ、あんた。王子になるじゃなかったの!? なんで王女様になっちゃってんのよ??」
毎日のようにシンを見ているリーザだからこそ、王女の中身が男だと分かったのだが、周りの観客たちの目にはそのように映っていない。
観客の視線は、シンに集まっている。
絶世の美女がこれからどのような演技をするのか、皆は言葉すら発せず、ただただ固唾を飲んで見守っていた。




