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14 劇団

 シン達はヴァルズ国の首都へやってきた。

 この街は眠ることを知らないようだ。

 真夜中だというのに、建物の窓から明々と灯かりがもれてくる。

 道にはよっぱらい達が互いの肩に腕をかけ、千鳥足でビールを飲んでいる。

 

 リーザが止まる予定の宿屋もまた、賑やかな声で溢れかえっている。

 一階がバーになっているようで、どんちゃん騒ぎが続いている。


「うるさいわね」とリーザ。

 

 フロントでササっとチェックインを済ませると、「私は3階のB室。シンは4階のC室だから」と鍵を手渡す。


 その時だった。

 ドタドタと慌ただしく小柄な男が宿屋に入ってきた。

 身なりは良く、ちょび髭に蝶ネクタイ、黒いベストをしている。少しばかり寂しくなった頭部をボリボリかきながら、フロントに話しかけた。


「お、おい、あんた。この宿に演劇スキル30以上のベテラン役者はいないか?」

「え?? この宿のスタッフには、演劇スキルを所有している者はいません」


「じゃ、じゃぁ、客にはいないか? この際、贅沢は言わない。旅芸人でも、手品師でもエンターティナーであれば何だっていい。これだけの宿だから一人くらいは、いそうじゃないか?」


「急に言われても……。さすがにお客様のスキルまで把握しておりませんし……」


 リーザはシンをジトっと見た。

 勘づいたシンは一目散に遁走しようとするが、腕をひっ捕まえて、ちょび髭の男に向かって手を上げる。


「はい、はぁーい! ここに役者の卵がいます!!」


「え? ええ??」

 さすがにあれはぜんぶ嘘だったとも言えず、ドギマギしながら言葉を詰まらせるシン。



 男はちょび髭を触りながら、シンをまじまじと見つめた。

 シンの能力を疑っているのだろうか。

 リーザは怯むことなく、猛烈にアピールする。


「しかもね。シャドーマスターっていう漫画……漫画じゃぁ、ここの人分からないよね。えーと。脚本を作ったことがあるのよ!」



 3ページで力尽きたあれか。

 よく覚えていたな、とシンは思った。


 ちょび髭男は、相当焦っているのだろうか。

 早口で応える。


「お嬢ちゃん。気持ちはありがてぇーが、女の役者が欲しいんだ。あ、わしはザザーナ・ガーン劇団の団長。ガーンだ」


 ガーン団長は内ポケットから名刺を取り出して、リーザに手渡す。

 街の情報に疎いリーザでも、その名を知っていた。おそらくかなり有名な劇団なのだろう。


「どうして女性の役者を探しているのですか?」

「実はだな、姫役だった子が、リハーサル中に怪我しちまってね。突貫工事で作った舞台だったみてぇで、突然柱が倒れてきたんだ。幸いなことに命には別状なかったんだけど、とても動ける状態ではないんだ。姫がいなくなってしまっては、どうにもならん。なんとか明日の朝の舞台だけしのげれば、その後は代わりが到着するから何とでもなるんだが……」


「女の役者か……」とリーザは腕組みをする。


「お嬢ちゃん。あんたは無理かい? 見た目も可愛いし、代役が務まると思うよ」


「え? 私?? むむ無理無理無理無理無理無理、無理です!!! セリフとかまったく覚えられないし、あがり症だから絶対に失敗してしまいます」


 ぶんぶん首を振って、全力で拒否するリーザ。


 シンは難を逃れたと確信してか、「残念だよ。本当に残念だ。さすがの俺でも、姫役は難しいな。残念だ。ちょくしょー、残念過ぎるぜ。心底残念だと思う。マジで悔しいよ。俺の名演技を披露できなくてごめんなさい」と、わざとらしく頭をさげる。


 突然、ちょび髭団長は固まった。

 マジマジとシンを見つめる。


「き、君。名前は?」

「え? シンです」


「役者の卵って本当?」


 嘘です。

 シンはチラリとリーザに視線を向ける。

 リーザはこっちを見ている。


「はい。本当です」と頷くしかなかった。


「脚本を書いたことあるってのも本当かい?」


 3ページで力尽きましたが。


「はい。本当です」と頷くしかなかった。


「どんな話だい?」

「えーと……ですね。涙無しでは語れない、愛と感動の冒険活劇」を書くつもりでした。


「その後、その作品をどうしたんだい? 出版社とかに送ったのか?」

「いいえ。折角書いたのでネットで公開してみたら、いっぱい叩かれました」


「ネット?」

「えーとですね……、たくさんの人が見ているところです」


「たくさん? 何人ぐらいの人が見たんだ?」

「アクセス数までハッキリと覚えていませんが、そのサイト自体は確か毎日10万人が見ているみたいです」


「じゅ……10万人も!! すごいな。で、叩かれたってどういう意味なんだい? 面白くなかったということなのか?」

「えーとですね。続きを書けってことだと思います。あらすじの煽り文句だけは気合入れまくって凄そうに書きましたから」


「つまり面白すぎて、続編を読みたいと10万人もの大衆に言われたということなのか!?」

「えーとですね……。よく分かりませんが、『続き、はよ』というメッセージは貰いました」


「すばらしい! 君、採用!」


 ――は?


「えーと。探しているの、お姫様役ですよね? 俺、男ですよ?」


「姫のところを王子に変更することにした」

「はい? ステージは明日の朝なんですよね? 今からストーリーを変更しても大丈夫なんですか!?」


「あぁ、もちろん何も問題ない。だって脚本家兼、役者という二刀流の君がいるじゃないか! 明日までに姫のところを王子に書き直して、いい感じに仕上げてくれ! 頼んだぞ!」


 ちょび髭団長は、大喜びをしてシンの肩をバシバシ叩く。

 そして逃がさんぞと言わんばかりにシンの腕を鷲掴みにして、宿屋の外へと連れ出していった。


「ちょっ、シン。ひとりで大丈夫?」


 シンは何とも情けない顔でリーザの方へ振り返った。

 その弱々しい目は、まるで『リーザさん。たすけて~』と言っているようだった。

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