復活
ぶぶぶっ。ぶぶぶっ。ぶぶぶっ⋯⋯。
と、スマホの振動で目が覚めた。
⋯⋯ここはどこだ?
どうやらアパートの一室のようだが、見覚えがない。
白い壁にフローリングの床。入居前なのか、部屋には家具すらなにも無く、大きな窓がひとつあるだけだ。その窓から差し込む太陽の光が部屋に射し込んでいるってことは、時間は昼頃か?
窓とは反対の方を見ると扉が空いており、その先には廊下とちっちゃなキッチンが見える。
ここがどこなのかを探ろうと立ち上がると再度、
ぶぶぶっ。ぶぶぶっ。とスマホが震えた―――
なんだ?
普段スマホなんてアラーム以外は鳴りもしなのに。床に転がっているスマホを手に取り見てみると、ディプレイには【茨城神】の文字が。
あいつか⋯⋯。あいつしかいないよな⋯⋯。
頭の中でさっきまで一緒にいた美少女を思い出した。
何が茨城神だよ。もっと名前のクオリティに頑張れよ。
あまり良い予感はしないが、この状況じゃ出るしかないだろう。仕方なしに通話ボタンを押す。
ピッ。
「⋯⋯はい、もしもし」
『さっさと出てよね! ってか、さっき聞いてた? 茨城県から出たら死ぬからね~⋯⋯』
うるせー! ピッ。
⋯⋯思わず電話を切ってしまった。何かちゃんと聞くべきだったのだろうか? いや、でも寝起きにあのふざけた発言を言われたら切ってしまう。
ぶぶぶっ。ぶぶぶっ。ぶぶぶっ。
画面には再度【茨城神】の文字が表示されている。
⋯⋯だろうな。再度かけてくるだろうよ。あいつなら。
さっきまで会ってた感想としては、アイツは言いたいこと喋らなきゃ気が済まないタイプだろうし。仕方ないので今度は切らないように心に決めて通話ボタンを再度押す。
ピッ。
「⋯⋯なんだよ」
『ちょっとあんたなんで切るのよ! 何も切らずに電話は切っちゃダメなんだよ。常識よ、常識。』
本当にうるさい。そしてなにより、受話口から聞こえるバリボリという音。俺をこんな状況にしといて呑気にポテチ食ってるなコイツ⋯⋯。
「――なに味だ?」
『コンソメ一択でしょ?』
あ~マジうるせー。コイツ。
茨城なら納豆味でも食ってろよ。何が「コンソメ一択でしょ?」だ。顔が見えなくてもドヤ顔しているのが、手に取るようにわかる。
「つーか。神様が関与していいのかよ?」
『え~、知らないよ。でもそれ言われちゃったら私の95%は否定されちゃうよ』
残りの5%なんだよ。神様の仕事ってそんなに楽なの? 俺の仕事と替われよ。残業続きでこっちはクタクタなんだぞ。
『とりあえずちゃんと説明しておくね! 準備は良いかい?』
「あぁ、いいよ」
とは言ったものの、何処かの部屋だというのはわかったが、目の届くところにはメモ帳もペンもなにもない。通話をスピーカーにして、メモ帳アプリを立ち上げる。
『んとね、ちょっと待ってね~』
ガザガザ音がするから多分なんかの紙を探してるんだろう。説明する内容くらいは覚えておけよ。
ってか、準備してから電話かけてこいよ。コイツは人の命をなんだと思ってやがるんだ⋯⋯
『あった。え~とね、免許証も今いるその部屋も用意したから、まずは仕事をして生活してね。で、茨城から出たら死ぬから出ないでね』
⋯⋯それくらいのこと覚えとけよ。どんだけ物覚えが悪いんだよ。ってか、覚える気すらなかったんだろうな⋯⋯
『そうそう。なんか困ったことあったら言ってね~』
ウキウキした声で喋り続ける茨城神。
「どうしたら茨城から出れるようになる? それが一番困っていることだけど」
『ん~。見つからない⋯⋯。方法を書いた紙がここら辺にあったはずなんだけどな~⋯⋯。まぁ見つからないから頑張って!』
しばらくガザゴソと独り言を言いながら探していたのだろうけど、見つからないから諦めたんだろうな。
「適当すぎるだろ!」
「も~仕方ないな。わかったら連絡するよ。生活するための物はジョイフル○新で揃えるといいよ。あそこ安いし」
⋯⋯ジョイフル山○?
「ジョイフル本○じゃねーのか? ジョイフル山○って聞いたことないぞ」
コイツは店の名前も覚えられない子なのか?
「ジョイフル○新の方が近いからそっちにいきなよ。茨城の人はそこで大概の物は揃えてるから。週末は家族総出で行く定番場所だから混むのよね。だから行くのはら平日がオススメだよ。じゃ~ね~」
プッ。
電話が切られた。
あぁ舐めてるんだなコイツ。間違いなく悪いと思ってないパターンだ。とんでねーやつだわ。
にしても、週末に家族総出で行くジョイフル山○ってなんだよ。
にしてもどうするか? あいつが思い出すことを期待して待機するか⋯⋯。
いや、絶対に思い出そうとはしないだろ。ならば自分で探すのか? んなもんネットで検索したって出てきやしないだろうしな。
色々と考えてみたが、とりあえず生活の為にと貰った300万ある事だし、社畜から解放されたんだ。しばらく休んだってバチは当たらないだろう。普通にしていたら金も使わないだろうから一年は働かなくても余裕だと思うしな。
とは言ってもだ。にわかに信じられない状況ではあるのは間違いない⋯⋯。となれば、現状を確認するのが第一優先だろう。
自分がどこにいるのかを確認するためにも窓を開けてみた。目に飛び込んできたのは、
⋯⋯山! そして田んぼ!
体感温度からして季節は春だろうか、死ぬ前と時期は同じだなと感じながらスマホの画面をみると、日付は俺が死んでしまった日から一日しか経っていなかった。
信じたくない気持ちはあったが、さらに窓から顔を出して左右を確認したが、高い建物は一切見えなかった。ザ田舎風景。
ははっ⋯⋯、本当に茨城に来ちまったのかよ⋯⋯。
見渡す限り大抵が田んぼ。遠くに見えるは山。なんだあの山? 頂上が二つって見方によっちゃお山じゃなくてお胸だな。
しょーもな⋯⋯。
はぁ~⋯⋯と、外を見ながらため息をつくしかできなかった。