プロローグ
『なんで死んじゃってるの? もっと頑張ってよ! もっとやれたよ!!』
そんな言ってる内容の厳しさにそぐわない、可愛らしい声で目が覚める。
ここがどこなのかを確認しようと思い、目を開いて周囲へと向ける。
床は真っ白で、建物は黄金に輝く宮殿。
全く見覚えがない。
目の前には真っ白のローブを着た美少女、身長は145cmほどだろうか、見た感じは俺より年下で、おそらく中学生くらいだと思う。
始めて見る光景にビックリしたが、目の前に人がいるんだ、聞けばここがどこかわかるかもしれない。
「ここはどこだ? ってかあなたは誰?」
テンパってはいるが、横になったまま質問するっていうのは、たとえ年下であっても礼儀に反していると思い、俺はその場に立ち上がって、目の前の少女に質問をしてみた。
『ふふ~ん! 教えてあげるわね! ここは神殿! そして私はそこに住む神様なのだよ!』
腰に手を当てて、無い胸をつきだして答えてくる美少女──
意味がわからない。
可愛い子と話せるのは良い、だけど意味がわからないのはダメだ。
頑張って思い出そう。
ここで一旦、この物語の最初へと戻る。
いわゆるプロローグというやつだ。
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今日も疲れた⋯⋯
定時に帰れると思ったが結局は残業⋯⋯。
この時期は新入社員が入ってきたばかりのため、教える事も多々あり忙しいから仕方ないのかもしれない。
しかし、遅番で、その上残業をすると会社を出るのが22時を軽く回ってしまう。
駅について、電車に乗り込む。
おっ、座席が空いている。
電車で座って帰れるのは珍しいので、今日はツイている、一日の終わりにやっと幸運が来たな、と思った。
仮に座席に座って帰れても、冬の間は電車のドアが開く度に目が覚めていたものだが、今は肌寒さも薄れ、最寄り駅まで睡眠が取れる。
電車のアナウンスで目覚め、最寄り駅で降りてコンビニに向かうが、時刻はすでに二十三時⋯⋯
今日は珍しく、東京の夜だというのに月が大きく見える。今日は半月か、俺は満月のほうが好きなんだけどな。
おっきなまんまる。うん、実に良い響きだ。
そんなことを考えながら、道を歩いていると⋯⋯
帰宅途中の道沿いにある、年末から解体しているビルの屋上から、鉄骨が落ちてきているのが目に写った。
えっ? とその非現実的な光景を受け入れるのに、僅かに時間がかかる。
次に、鉄骨の落下地点に、こんな時間に出歩くには相応しくない、少女の後ろ姿が視界に入った。
ヤバイ!
上から鉄骨が降ってくるなんて、当たり前だが想像もしていないだろう、女の子は呑気に歩いている。
絶対に気づいてねーぞ。
どうする? と、考える間もなく自然に体が動いた。
「あぶない!」
とっさに女の子を、助けるために突き飛ばした────
***
何がいけなかった? 残業か? 半月か? それとも俺の中にある正義感か?
⋯⋯いや正義感は持っていなければダメだろう。
まぁ、何はともあれ、下敷きになって俺はあっけなく死んだんだろう。
電車に座れた程度の幸運の代償としては、酷すぎやしませんかね?
⋯
⋯⋯
⋯⋯⋯
『ねぇ、思い出した?』
「あぁ⋯⋯ってか人助けして死んだんだから、神様ならお褒めの言葉とかないの?」
それを聞いた神様(美少女)は目に見えて動揺しはじめた。
おい! なんで目を背ける。
なんで汗を流している。
『うん! そうだね。普通なら素晴らしい事だね!めちゃくちゃ褒めちゃう! エライ! でも、う~ん⋯⋯うん、でもね⋯⋯』
「でも、なんだ? もう死んでしまっているわけだし、何を言われても気にはしないぞ」
どうやらなにか言葉に詰まっているようだが、そこまで言われちゃ気になって仕方ない。
俺に気を使ってくれているのかもしれない。
『あ、そう! ならいいね、うんとね。助けた女の子いたじゃない? あれね、私なの! だからね、助けなくても死ななかったのよ。なぜならば私は神様なのだから!』
ん? え? はぁ?
はぁ~~~~~~~!!??
「え、意味がわかんねーよ! んじゃなに? 俺は無駄死?」
『そういうことだね!』
そう言って、正解! みたいなテンションでこちらに向かって親指を立ててくる。
⋯⋯なめてるのか?
「そういうことだね! じゃねーよ!
あんた神様だろ? なにしてくれちゃってるの?」
更にウィンクまでしてきやがった。あぁ、なめてるわ、コイツ。
『でもね~、それが原因でね東京の神様に怒られちゃったんだよ! 困っちゃうでしょ?』
美少女は親指を立てていた手を広げて、あちゃーって感じで自分の額にあてた。
随分とボディーランゲージ豊富だな。
「いや、困ってるのは俺だが⋯⋯、まあいい。
一旦落ち着こう。なら俺はどうなるんだ?」
頭を抱えるしかない状況であるのは間違いないが、このままではラチがあかない。
相手はこんなふざけた事を言っていても神様だ。
そして美少女だ。
ならば、せめて話くらいは聞かなきゃならない。
考えるのはそれからでも遅くはないだろう。
それからの神様の話しをまとめると、頭痛がしてきた。
1、私は茨城の神様。
2、暇だったから東京に遊びに行った。
3、やることが無くなって散歩をしていたら突き飛ばされた。
4、鉄骨くらいじゃ神である自分は死なないけど、代わりに俺が死んだ、つまり俺を無駄死にさせた。
信じられるか? コイツはっきり無駄死って言ったんだぜ?
コイツに礼儀とか考えて、わざわざ立って質問したちょっと前の自分をゲンコツしてやりたいわ。
神様って暇になると東京巡回でもするのか?
素直に茨城に閉じこもって納豆食ってろよ⋯⋯
『ってなわけで、私のせいで、人が死んじゃったから、もうめちゃくちゃ怒られたのよ!』
誰にだよ、それをちゃんと言え。
しかも自分は一切悪くないとばかりに、今度は腕を組んで怒りをアピールしてくる。
コイツ反省してないな。
「あぁそうだな。あんたが全面的に悪いからな⋯⋯」
『ってことで、あなたを生き返らせる事にしました! おめでとう!』
おぉ! なんだなんだ。生き返られるなら良しとしよう。
神様って存在も知れたし、可愛いから許そう、俺は寛大な心を持っているんだ。
『でもね、あなたの体はぐちゃぐちゃになっちゃったから、元には戻れないのよ。残念でしょ?』
はぁ~。とため息つきながら喋る。
ってかぐちゃぐちゃって、俺はトマトか? 他に言い方あるだろうよ。
「残念でしょ? じゃねーよ、どーすんのよ?」
やっぱりコイツ反省してないわ。それとも神様はそういうものなのか。
『なので私があなたの魂を使って新しく生命を構築して転生するのだよ! 今までと同じがいいよね。だから年は同じ二十四歳、生活の為に私から三百万円をプレゼントしちゃう! 名前はそうだな⋯⋯うん。【赤城 守】ね』
「はい? 俺は新しい人生をやり直すって事なのか?」
何で勝ち誇った顔が出来るんだろう⋯⋯コイツと喋ってると疲れるな。
『そういうことだね! じゃ~生き返ってみよ~!』
そう言うと俺の体が急に光り始めた。
転生をするんだ。こういう演出があってもおかしくは無いのだろう。
しかし聞きたいことはまだまだ沢山ある。にもかかわらず、この流れを止める事が俺には出来そうもない⋯⋯
俺の意識がどんどんと薄くなっていく。
マジでちゃんと説明してからにしろよ!
そんな意識が薄れていく中で、最後に神様からのとんでもない言葉が耳に残った──
『あ、そうそう。私は茨城の神様だから、茨城にしか転生できないのよ。でね、あなた【茨城から出たら死んじゃう】から出たらダメだからね~。よろしく~~~』
なるほどねぇ、茨城から出ると死ぬのね、やっとちゃんとした説明が⋯⋯って。
⋯⋯おい。
⋯⋯⋯おいっ!
なにさらっと最後に爆弾発言してんだよ!
ってか、茨城県って何があんだよ!? 東北方面に行くのに通り過ぎたこと以外、一度も行ったことねーぞ!?
勝手に名前決めやがって、両親や友達に何て言えばいいんだよ。
『ニューゲームを茨城で始めました』って言えばいいのか!?
よりにもよって何で茨城だ!
俺は東京生まれ東京育ちで、田舎に適正なんてねーんだよ!
しかし、俺のそんな魂の叫びは、声に出すことも、相手に伝わるはずもなく──
俺の意識はそこで途絶えた──




