Afterstory 1 とある社畜のクリスマス
皆さまご無沙汰しております。
しっかりと休ませてもらっておりますが、せっかくのクリスマスということで私の方からプレゼントとして投稿させていただきます。
久しぶりに書きまして、若干キャラがぶれてしまっているかもしれませんがご了承を。
それと、あとがきの方にお知らせもありますのでぜひとも最後までお読みください。
それでは皆様、メリークリスマス!!
あの激戦が終わって一体どれくらい経っただろうかと、ふと考えることがある。
過去を懐古できるのはなんとなく贅沢だと考えられるくらいに、心に余裕があるのは良いことだが、現実は考えるまでもなくスマホの画面を見ればすぐにわかるという情緒の無さだ。
結婚式を終えてからさらに時間が経ち、俺は平和を謳歌している、
「……結構な時間が経ったなぁ」
わけではない。
過去類を見ないほど、豪華になり、広々とした社長室で俺は現在進行形で高速で手を動かし、目で書類に目を通し、同時進行でモニターに表示されている内容を把握している。
いや、闘いの日々からは解放されたが、代わりに追加されたのが地球とイスアルの折衝役という鬼畜染みた激務が幕を開けてしまった。
前代未聞の異世界との交流だからこそ、文化の違いに人種の違い、おおよそは価値観の違いによるトラブルが大半だが、その大半の所為で折衝役である俺にしわ寄せがきている。
地球の文化を理解でき、さらにイスアル側の事情にも精通し、それ相応の立場も持っている。
そりゃ使いたくなるよな。
結婚式の準備中は、これが終われば少しは暇になると踏んでいたが、時間が経てばたつほど異世界との交流を積極的に行おうとする国が増えて、さらに善意ばかりではなく悪意を持って接触しようとする輩までもが現れて、社長という立場を得た俺は激務の末、時間経過を忘れて働き続けている。
「家族がいなかったら、とっくの昔に逃げる量だぞこれ」
光陰矢の如し、働く時間が長いと時間が経つのも早い。
終戦から結婚式までの期間の方がまだ楽しめた。
今の激務を考えると、新婚の男に与える仕事量じゃない。
神の力という本来であればチートと言えるような力を、会社の仕事を捌く方に割り振るなんて馬鹿げているかもしれないが、神の力を使わないと家族との時間を確保できなかったのだ。
「だが、その甲斐あってようやく、ようやくもぎ取ったぞ!!」
その確保した時間も、夕食を共にしたり子供たちと一時間だけ触れ合ったり、夫婦の夜の営みを確保したりとすべて家族のために捧げた。
「クリスマス休暇!!この前後三日だけは絶対に誰にも邪魔をさせないぞ!!」
その甲斐あって、いろいろな企業、大統領、総理大臣と言った著名人からパーティーの誘いを受けているが、そこを一刀両断する勢いで。
『クリスマスは家族と過ごしたいので』
全てこの一言で断った。
本来であれば、設立してまだ数年のAWCでは人脈はどんなことをしてでも確保すべき事項であるが、幸いにして魔法技術という未知の技術力を持っていることと、地球上に降臨した神々という後見人のおかげでこの休暇をもぎ取ることはできた。
「気合を入れるのは良いが、ハンコを押す速度は緩めるな」
「あ、はい」
その休暇が迫ってうきうきしている俺にそっと差し込むように新たな書類を用意してくるのは妻となったエヴィアだ。
社長就任時、魔王の秘書から俺の秘書へと移ってくれた彼女の手腕は、経営学を本格的に学び始めた俺の拙い部分をしっかりと補佐してくれる。
ルナという一人娘を産んだことによって、衰えるかと思われた美貌は、予想とは裏腹に母性が加わったことでさらに磨きがかかった。
綺麗な赤髪に、崩れるどころか出産前よりも磨きがかかったプロポーション。
鋭い眼光の中に、子供や家族のために頑張って時間を確保しようとしている俺を優しく見守ってくれている暖かさがあった。
「まったく、貴様は変わらないな。地位に名誉、さらに財力と多数の妻。手に入れれば普通の者なら溺れるであろう物を手に入れたというのに、自分の時間よりも私たちや子供のために努力をする」
「庶民感覚がいまだ抜けないっていうのもあるが、年に一度しかない娘たちとのイベントだぞ?それを邪魔するやつがいるなら俺は神にでも喧嘩を売る覚悟がある」
「キサマが言うと冗談に聞こえんな」
高速で書類を捌き、それを転移魔法で各部署に送り付ける。
ペーパーレスなこのご時世であっても、紙の書類というモノが無くならないのは何故だろう。
「さすがは神殺しの英雄だな」
「その中二病チックな二つ名だけはどうにかならんかねぇ。たまに、宗教関連から自分のところの神とは仲がいいですか?なんて質問が飛んでくるんだぞ」
「前にインド神話の神々に喧嘩を吹っ掛けられたな」
「あれは迷惑だった」
いや、必要だから紙で残しているのだ。
問題なのは、この書類の言語だ。
日本語だけじゃない、英語にドイツ語、フランス語、ロシア語、広東語、韓国語、ヒンディー語、ポルトガル語と世界各国の言語で書類が送り付けられている。
ええ、覚えましたよ。
ヴァルスさんに協力してもらって時間を伸ばしてガチで勉強して覚えましたよ。
おかげで今じゃネイティブに会話と読み書きができるようになったよ!
肉体の強化が脳にも及んでいてマジで大助かりだよ!!
「代わりにライドウのやつが行って事なきを得たが」
「いや、エヴィア、インドの一部の土地がひっくり返ったような惨状になっているのを事なきを得たとか言っちゃダメだろ」
数秒間に数十枚の書類を処理し、そのまま新しい書類の山に手をかけてさらに切り崩しにかかるが、それでも追加が転移されてくる。
「今ではあそこが神の祝福を受けて豊作の大地に変わったのだ。事なきを得ただろ」
「結果良ければすべて良しっていう言葉でも、脳筋をカバーできると思ったら大間違いだぞ?」
この書類のすべてが、AWCとの貿易関連と国家間の交流の内容なので一文も見逃すことができない。
「そう言うな、結果インドとはいい貿易条約を結べた。ポーションを卸す先としては上客だぞ?」
「人口の多さはイコールすれば買い手の多さでもあるよな。神の太鼓判が効いて最初に国としてポーションが薬として認可されたのがこっちとしては利益につながった形か」
「魔素という我々にしか認知できない物を神が保証する。ある意味、最高の後ろ盾だな」
「そのおかげで、効果は世界中に認知された。今では不治の病でも効く可能性を秘めたものとして、世界中から注文が殺到だ。おかげで、イスアルナンダの復興物資も仕入れられて、向こう側の復興支援もできている」
戦時復興は一年やそこらじゃできない。
いかに大国である帝国と、魔王軍が手を結んで復興作業をやっていたとしても、禍根が残っている現状ではうまくいかないことも多い。
着実に復興に向かい、魔族と人族の交流も盛んになってきている。
地球側は地球側で問題はあるが、向こうは向こうでも問題はあるんだ。
その問題も一つずつ解決していけているだけまだマシってもんだ。
「……エヴィア」
「なんだ?」
そう思っていた俺の手元にここ最近増えている書類を見つけて、大きくため息を吐いて横に高速で除けてハンコ押しを再開する。
「最近、俺への見合いの話が多くないか?あんな大々的に結婚式をやったのに。俺、既婚者だぞ?」
「一夫多妻であることも同時に周知したからな。お前と縁ができればこっちでもかなりのアドバンテージになる」
「全部断っているのにな」
「立場的に言えば、地球側の権力者と繋がることも理があると言っておこう」
「妻としては?」
除けたのは縁談の話が記載された書状みたいなものだ。
あとで広報の方に回して当たり障りのない文章で断らせる。
「そんなのは決まっている」
迷いなく見合い話の書類を除けた俺の行動を見たエヴィアは、そっとハンコを押す手の上に自身の手を乗せると俺の動きを止めた。
そしてエヴィアを見た俺の顔の前には彼女の顔が迫り、そっと優しく口づけを落とされる。
「気に食わん。お前は私たちの男だ」
「それが聞けるだけで幸せだよ。さて、そうとなれば何が何でも休みを確保しないとな」
「ああ、久しぶりに全員揃う大事な日だ。余計な横やりが入らないようにせねばな」
やる気にさせるのが上手い。
ま、俺が単純な男なだけなのかもしれんが、頑張れと惚れた女に背中を押されればそりゃ気合の一つは入りますかね。
ギアを一つ上げて、さらに書類処理速度を上げて、今日は夕食を一緒にできるかなと淡い期待を抱いた。
クリスマスまで残り五日。
「今日は、ダンジョンの方の視察か。確か、外国人労働者の施設がメインだったな」
「そうね、見回る箇所が多いから時間厳守で頼むわよ。視察にかこつけて話し込もうとする輩が多いんだから」
「わかってるよ」
今日は、ケイリィと一緒にダンジョンの表層。
独立島まで来ている。
この島もずいぶんと賑やかになった。
港が整備され、日本だけではなく様々な国からひっきりなしに船が出入りしているから活気がすごいことになっている。
道路も整備され、クレーンが動き回り、巨大なフォークリフトが必要なコンテナを肩に担いで闊歩する獣人たちに目を丸くする地球人たち。
今回来たのはケイリィが言っていた通り現場の視察だ。
ここは地球で唯一、魔王軍が拠点として独立し統治を許されている。
そして世界中に出回っているポーションの生産地でもある。
世界各国の医学、薬学を学ぶ者たちが我こそはと集ってポーションづくりを学びに来ている。
基本的に労働者として雇っているのはその薬学と医学分野の人だけ。
人命のためと言われれば、秘術以外の分野では門を開け基本的なポーションの作り方や効能などを教えている。
ただ、魔力がないとポーションを作ることはできないため、今では汎用的に使える魔道具で誰でも作れるようにしたり、さらに開発もできるように薬草の栽培方法の確立など研究している。
外国人労働者と言いつつ、実質は研究者の集いみたいな感じだ。
「盛況だな」
「未知の技術っていうのはどこの世界でも興味を引かれるみたいね。中には風呂に入らないでずっと研究室にこもっていた職員もいたそうよ」
「衛生管理的にどうなんだ?」
「そこはさすがに注意したわ」
研究棟は島の一角に少し隔離するように作ってある。
時折すれ違う職員にぎょっとした顔を向けられて苦笑するけど、自分の地位を考えれば仕方ない。
ある意味で地球上で一番有名な人物になってしまった自覚がある分、外からこの施設にやってくる人の大半は俺のことを知っているからなぁ。
そんな俺でもこの施設に入る際は、滅菌はもちろん、衛生管理にも細心の注意を払い、さらに身分の確認なども徹底している。
そしてここにきているのは、きちんと学ぶ意欲がある輩だけ、無駄なエリート意識は邪魔でしかなく、箔をつけるためだけに来ている輩は早々におかえり願った。
勝手知ったるなんとやら、事前通告なしはさすがにしないが責任者以外には極秘裏に入館。
抜き打ちの視察であったために職員たちは驚き、俺たちを見てきているが、気にせず仕事をするようにと言いつつ歩き回れば、薬草の効能に対して研究結果を言い合う研究員がいたり、講義に全集中して俺に気づかぬ研究者がいたりと、やる気と熱意を生で見れる。
基本的には問題はなさそうだ。
「しかし、なんで俺が視察に?こういっちゃなんだが、必要なさそうに見えるが」
そのやる気の具合を見て、堕落しているわけでも変な派閥ができているわけでもないので、わざわざ抜き打ちで視察する必要はないように感じて隣を歩くケイリィを見る。
「……いいじゃない、最近あなた忙しそうだったし。こうでもしないと二人っきりになる時間もないし。子供と一緒にいるのも幸せだけど、たまには二人で過ごしたいの」
そうしたら彼女は頬を染めてそっと視線を逸らし、俺と視察を計画した理由を話した。
いわば、これは彼女なりのデートの誘いというわけか。
職権乱用という言葉が一瞬脳裏をよぎったが、この可愛い理由を前にしてしまえば、仕方ないと納得してしまう自分がいた。
「そうだな、たまにはいいか」
他人の目があるから手を握ったりとかはできないが、いつもよりも少しだけ距離を詰める。
「そうね、妻の特権ということで」
「それなら仕方ないか、今度はミルネと一緒に出掛けたいな」
「そうね。私も最近仕事が忙しすぎて、きちんと母親をできていないから心配よ。ヒミクがいるおかげで子供の世話の手間が少なくて助かってるけど、それはそれでね?」
「俺は父親として忘れられてないか不安だよ」
「その心配はないわよ。あなた、なんだかんだ言って食事とか一緒に取ろうとしたり家族との時間を大事にしてるでしょ?」
「それはケイリィも一緒だろ、疲れてもしっかりと家に帰ると、抱っこしたり一緒に寝たりしてるだろ」
「そこに癒しがあるのよ。ミルネのおかげで元気になっていると言っても過言ではないわ」
「ああ、その気持ちは激しく同意できる」
ケイリィと俺との間に生まれた娘、ミルネ。
俺にとっても彼女にとっても目に入れてもいたくないと豪語できるほどの愛娘だ。
しかし、その娘への愛情とは他に俺もケイリィも父親と母親になっているが互いに異性であるという認識は薄れていない。
むしろ夫婦になってから子供という共通の話題のおかげでさらに会話の幅が広がったとも思える。
「子供のことで思い出したわ。衣装の準備ができてるってメモリアから連絡が来てたわ」
「お、来たか」
視察という仕事は一応こなしつつ、時折プライベートの会話を混ぜる。
最近部屋にこもって書類の決裁か、大統領とか総理とか、王族とか、まぁお偉いさんに会う機会が多いこと多いこと。
だからこそ、こうやってのんびりとできているのは幸せだよ。
「それじゃ、明日メモリアに会うしその時に受け取っておくか」
「それを見越してメモリアも用意したのね」
「メモリアらしい」
微笑む彼女につられて俺の頬も緩み、ついつい笑ってしまう。
激務が続くけど、こういう日があるから頑張れるんだよなぁ。
クリスマスまで残り四日。
さて、いきなりだが、今まで俺が所属していた組織というか会社、MAOCorporationの元本社。
東京都内に構えたビルで一番変化したことは何か。
それは使用用途だな。
今までは勇者に攻略されないダンジョンを作るという名目で、ダンジョンテスターたちが万全の状態で挑めることに特化した施設が大半だった。
エヴィアのダンジョンという特殊な環境を用意し、さらにはほかのダンジョンと接続し、移動時間を短縮、さらに地下施設という買い物をしやすい環境に社宅という名の豪華な部屋。
それが今では、各将軍のうち、鬼王、不死王、竜王、樹王、巨人王、機王の六つのダンジョンが接続を解除し、各々イスアルナンダの治安維持のために自分の領地と渡された領地を繋げるために使っていて。
今現在会社と繋がっているダンジョンは俺のところのポーション工場型のダンジョンだけ。
さらに、ダンジョンテスターたちは意志を確認した後にそれぞれ得意そうな分野の仕事に研修生として再配置されていた。
会社として、そして魔王軍としてもこんなに早く決着がつくとは思っておらず、さらに地球がこんなにあっさりと受け入れ態勢を進めるとは思っていなかったゆえの措置だ。
ダンジョンテスターたちの進路は様々、戦うのが好きな奴は異世界にわたってその方面に、逆に物作りに興味のある奴はうちで引き取ったりしている。
そしてそれ以外でも。
「元テスターさんたちの活躍はトリス商会でも目を見張るものがあります。私たちの目からしたら、売れない物でも地球の方々からしたら絶対に売れるという発想が新鮮なのでしょう」
「そうだよな、管理下の元って言っても向こう側とこっち側じゃ価値観が違うからな」
商売に興味を持つ人もいた。
今日はその手の情報を調べてくれているメモリアに会うためにという名目で、気分転換がてら、完全にどこぞの世界的有名な通販会社の倉庫のように様変わりした地下施設に来ていた。
商店街の名残は残しつつ、そこに隣接する形で拡張された倉庫の管理者として抜擢されたメモリア。
「それにしても、メモリアちゃんと眠れているか?少し顔色が悪いぞ」
「私もクリスマスに休暇を取りたいので少し無理をしているのかもしれません」
「久しぶりに吸うか?」
スーツ姿ではなく、向こうの世界の商人としての正装をして手元にタブレットを持って現場の視察に来ていた。
周りでは作業員が荷物を丁寧かつ迅速に運んでいる。
地球の食料もあれば、イスアルナンダから送られてきている荷物もある。
ここは審査管理をしている場所だからこそ、働いている人も多ければ動く荷物も多い。
戦時中よりも規制をしっかりと施した結果、管理者の仕事量が増えてしまっているというわけだ。
管理者というだけあって、メモリア専用の部屋もあり、俺達はそこにいる。
部屋では二人っきり。
だからこそ、砕けた口調でそんな提案をする。
「では、失礼します」
「ああ、どうぞ」
手を広げ、抱きしめるために迎え入れるような姿勢になった俺の懐にメモリアはあっさりと飛び込み、そして首筋に顔をうずめると。
カプっという可愛い音が聞こえ、わずかに首筋に痛みが走る。
ちゅうと吸う音が聞こえること数秒。
「前よりも上品な味になりましたね」
「毎日ヒミクの手料理を食べて健康だからかな」
「魔力と神の力の親和性も上がっているからかもしれませんね」
「そりゃ、良いことなのかね」
血を吸い終わり、メモリアは首筋を舐めて傷を癒そうとする。
そこに少しくすぐったさを感じつつ、そのまま抱き合ったまま血の味の感想を言われてしまえば俺はなすがままにそのまま離す。
「私からしたら、良いことです」
夜の営みでも時折、こういうことはするけど、俺の血を吸った後の彼女はかなり顔色が良くなる。
「もうすでにあなた以外の血は吸えない体になってしまったのですから」
「そうかぁ」
昔、味見という体で吸血鬼たち用の輸血用のパックを飲んだことがあったらしいが、当たり外れが大きく、さらに魔力が含まれていないから薄味に感じて非常時以外は飲みたくないと言っていた彼女にとって、俺の血は極上の部類らしい。
それをどこで知ったかとある吸血鬼の貴族が言い値で買うと言ってきて、それを撃退したメモリアの顔は般若も裸足で逃げ出すほどの剣幕だったな。
なので、こうやって俺以外の血を飲む気はないというのは吸血鬼である彼女なりの愛情表現なのだ。
それを知っているから、そっと抱きしめる力を強めると彼女も嬉しそうに首に手を回して抱きしめ返してくれる。
「そうだ。頼んでいた衣装は届いているか?」
「はい、人数分しっかりとサイズも問題ないはずです」
数秒か、あるいは数分か。
エヴィアから念話が入らないから、一時間はたっていないだろう。
互いに無言で抱きしめ合ってそっと離れて、今日来た理由を聞くと、彼女は抱き合った姿勢のまま振り返って部屋の隅にある段ボールを指さした。
「お、ありがとう。帰りに持って帰るよ」
「ええ、まぁ、忘れても私が持って帰ればいいだけですから」
「子供たちに見つかるぞ?」
「そんなへまはしませんよ」
「どうかな、ソフィはメモリアに似て鋭いところがある。新しい物となれば確認しに来るぞ?」
「ソフィなら、ありえますか。でしたら忘れず持ち帰ってくださいね」
「ああ、任された」
娘たちのために、用意した衣装だ。
バレてしまえばサプライズ感は薄れてしまう。
まだ幼く、理解できていないとしてもそこら辺はこだわってしまう。
時計を一瞬だけ確認。
あと数分だけ余裕があるな。
その残り時間を確認し、わずかな時間でも大事にして最後はその荷物を持って仕事に戻る。
クリスマスまで残り三日。
クリスマス当日までの慌ただしい中、書類に視察、品物の受け取りといろいろな仕事の中には当然人と会うこともある。
俺自身の立場を考えれば当然なことで……
「だからって、クリスマス前に集まるか普通?」
世界各国の要人、自由の国の大統領に、欧州の各国の首脳、大陸の主席はさすがに来なかったが右腕的な人は来た。
自由の国と仲の悪い国々も人を送ってきて、全員が俺との対談を求めた。
年内最後の機会ということか、それともほかの国よりも一歩先に出たいが故の判断か。
どいつもこいつも、今後世界のためにという名目で好き勝手とまではいかないが言質を取ったらそこをつつくぞという雰囲気を出していて下手なことは言えなかった。
ケイリィとエヴィア、そしてスエラは連れて来ていたけど、本格的に交渉するための各国の人員と協議するために俺からは離れていた。
おかげで、最近では貼り付けることが簡単になった営業スマイルで言質を取られないようにふるまう羽目となり、どこの国にも軋轢を生ませることなく対談を終了させることができた。
「腹減った」
代償として、仕事中はろくに食事をとることができず、空腹感に苛まれることになる。
いかに神の力を手に入れたとて、一応俺はまだ生物の範疇に収まっている。
疲労はないが、空腹感は感じる。
「何か、食べ物を持ってきてもらうか?」
部屋の外には一応連れてきたSPが警護している。
SPに頼めば、サンドイッチくらいは用意されるだろうと思って腰を上げようとしたとき。
「この気配は」
少し離れた位置に感じ慣れた気配を感じ取った。
そしてその気配はドンドン近づいてきて、部屋の前で止まりSPと会話を始め、そのさらに数秒後、ノックも無しに扉は開いた。
「ジィロ、おなかが空いていると思って夕食を持ってきたぞ」
「ヒミク、君は女神か?」
「堕天使だ。いや、ジィロから女神と言われるのは嬉しいがな」
嬉しいのか、黒翼を少し揺らして照れながらバスケットを掲げる。
天の恵みとはこれのことかと、言わんばかりにそっと被せていた布を取り払うといい匂いがする。
「魔法で保温してあるから暖かいぞ。それとスープと、デザートもある」
「やはり、ヒミクは女神か?」
「堕天使だ」
中身はサンドイッチとサラダ、そして魔法瓶に淹れたスープとシンプルなメニューだが、彼女の手料理という事実と、空腹による栄養補給をせねばという体の欲求がスパイスとなり、三ツ星レストランのフルコースにも勝る料理となっている。
テーブルの上に手際よく並べられるのは二人前。
隣り合うように並べて、そのまま彼女は俺の隣に座った。
「いただきます」
「ああ、召し上がれ」
今日は一人で寂しく夕食かと、子供たちの顔も寝顔しか見れないかもと寂しい気持ちが払しょくされる瞬間。
手渡された暖かい布巾で手を拭き、手を合わせてサンドイッチに手を伸ばす。
「……」
「どうだ?」
「生きててよかった」
「大げさな」
しっかりと味合うがゆえに、無言になり、少し不安そうに見つめられてしまった。
素直な気持ちを言えば、ヒミクは苦笑し自分も食べ始める。
「楓たちは大丈夫なのか?スエラたちも今日は忙しかったはずだが」
「ああ、タッテさんが来てくれてな。ジーロが食事をろくにとれないとエヴィアからの伝言を教えてくれた。楓たちの世話は彼女が引き受けてくれた」
「あとで感謝しないとな」
一緒に食べれるという幸せ。
そして、さっきまで大人同士の黒々とした腹の探り合いをしていたから、下心なく純粋に心配して食事を用意してくれた彼女の手料理が身に染みる。
ひとまず一つ、サンドイッチを食べて、腹が落ち着けば自然と娘たちのことが気になる。
うちの家庭のというか子供の面倒を一手に引き受け面倒を見てくれているのがヒミクだ。
執事もいれば家を維持するためのお手伝いさんも雇っているが、子供の世話という面で主力はヒミクだ。
もちろん俺や、母親であるスエラたちも仕事がない日は子供の相手をするけど、メインは間違いなく家にいることが多いヒミクだ。
俺含め、繁忙期に入っている妻たちも家にはいないはず。
だからこそ、こうやって家から出てきて食事を配達してくれるのは少し心配した。
一番上でスエラとの子供のユキエラとサチエラはまだ二歳だ。
その次にエヴィアとの子供でルナだ。
この子は最近一歳になったばかりで最近は立ち上がってゆっくりと歩き始めている。
さらにその下にメモリアの子供のソフィ、そしてさらにケイリィとの子供のミルネと続くが、見ての通りまだまだ母親がいないと不安になる年頃。
「本当は楓も一緒に連れてこようと思ったが」
「ここら辺は外部の人間を招く場だからな。さすがにまだな」
「仕方ないことだが、やはり側にいないと不安だ」
そしてヒミクとの子供の楓、姉妹の中では末っ子で一番の甘え上手でもある。
「だが、最近はユキエラとサチエラがな。お姉さんだという自覚が出てきたのか、楓が泣いていると私に知らせてくれたり、大丈夫だとあやしてくれるのだ」
「子供の成長は早いなぁ」
だからか、姉たちからもずいぶんと好かれて構ってもらっているようだ。
「母親たちの姿を見てマネをしているのだろう。前なんて、ジィロの真似をしようとしてたぞ?」
「俺の?何をした?」
「ほら、楓がぐずって泣いているときに変な顔を披露して笑わせていただろ。アレを見て、ああすれば楓が喜ぶと学んだらしい」
「……次から自重するか」
子供の成長に嬉しさを感じつつも、まだ子供とはいえ、可愛い女の子が変な顔を披露するのは教育上よろしくないと思ってしまった。
子供は親のことをすぐにマネをする。
本当にやるんだな……
中々面白い顔だったというヒミクがクスクスと思い出し笑いをしているのだ。
きっと愉快な顔になったのだろう。
「しなくてもいいのではないか?アレをすると姉妹で面白いのか笑っていてくれて部屋がにぎやかだ」
「父親としてなかなか複雑だ」
「ちなみに、私はこれが気に入っているぞ?」
食事中であるが、スマホで写真を撮ったのだろうユキエラたちの写真を見せてくれる。
元気に頬に手を当てたり、必死に眉間に皺を寄せたり、目を見開いたりと、子供なりの工夫で笑いを誘おうとしている。
「俺は見たことないぞ?」
「ユキエラたちも女の子だ。父親であるジィロには可愛い姿を見せたいのだろう」
「うーん、父親として複雑だ」
そんな顔は見たことがないと溜息を吐くと、またヒミクに笑われてしまった。
さっきまで黒い話ばかりしていたから、こういう会話はなんだかホッとする。
デザートまでしっかりと完食するころには俺の気持ちはずいぶんと軽くなり、体も幾分か軽くなった。
クリスマスまで残り二日。
さて、明日はクリスマスイブ。
今日で仕事のラストスパートをかけたい。
「そんなときにトラブルかよ」
しかし、仕事とは得てして忙しいと思う時ほどミスが起きる。
急ぎ終わらせようとするときに雑になった部分にしわ寄せが来たか。
「状況は?」
「島の沖合で港に入港予定の船三隻が衝突、一隻は自力航行が可能ですが、残り二隻の傾斜がひどくこのままいけば転覆する見込みが強いようです」
「魔法による支援は?」
「島の魔素範囲外での出来事なので、こちらの魔法が届きにくいようです。海上用の救助隊も出動させていますが、イスアルナンダ側にも応援を派遣しているため人手も足りていません。加えてどちらとも大型船のため、魔法の制限がかかった状態では人命救助が限界です」
「それで俺へ出動要請が出たと」
「はい、次郎さんが出れば解決できますので」
転移で港まで移動し、先に状況を把握していたスエラに状況を確認して肩を動かす。
「はぁ、こんな晴天の日に事故か。一応、ムイルさんに連絡を入れて暗部で裏を取っておくように伝えてくれ」
「はい、何かあるとは思いませんがお気をつけて」
「クリスマスという大事な時間にケチをつけないように、全員助けてくるわ」
明らかに意図した事故、その不穏な空気に家族との休暇を邪魔されてたまるかと気合を一つ入れる。
魔素を自力で生成できるようになった俺なら、一気に島の外に飛び出しても平気だ。
スエラに応援されれば、やる気もみなぎるというところ。
もし仮にここで不幸な事故でも起こってみろ。
気分よくクリスマスを過ごせないだろうが。
「はた迷惑な仕事はさっさと片づけるに限る!!」
島を出て、魔素圏外から脱出してすぐに事故現場が見えた。
けっこう離れているな。
「さてと、どこぞの異世界交流反対派の策謀かは知らんが」
だが、この程度の距離なら問題ない。
「力技で解決させてもらう!!」
一歩踏み込むだけで一気に体を加速させ、さらに両手に魔法を展開する。
使うのは基礎魔法。
「全部浮かべ!!」
最近使っていないから鈍っていなければいいけどな。
浮遊魔法という、ただ物を浮かべるためだけに使う魔法だ。
全部で二隻、総重量を考えれば数十万トンクラスの質量を浮かばせ、さらに海に落ちている荷物や人も同時に浮かばせる。
魔力によるごり押し、普通の魔法使いじゃできない力技だ。
「かぁ、デスクワークばかりはだめだな。ちょっと鈍ってる」
久しぶりに広範囲に広がる魔法を使ったが、反応が少し遅かった。
0.001秒以下の減速だったが、このわずかな時間が戦闘では命取りになるんだよな。
「今度教官でも誘って鍛えなおそうっと」
仕事ばかりはよくないなと思いつつ、気配探知を使って誰も救出忘れがないのを確認してそのまま島へ移動し始める。
そして、浮かべた船は島から届く範囲に入れば後は部下任せでいい。
ゆっくりと船を海に下ろして、俺は港に戻る。
「お疲れ様です」
「ああ、ありがとう」
時間にすれば十分もかかっていない。
だけど、真冬の海という事を考えれば、できるだけ早く救助作業に入らないとダメだ。
通達から行動までは最速を目指した。
「結果は?」
「海水に浸り、低体温症の症状が出ている方が数名おりますが、今は魔法で体を温めて命に別状はありません。船が傾いた際に怪我をした方が三名、いずれもポーションで治療済みです。ほか、行方不明者はいません。それと事故原因の調査ですが、なぜこうなったかは船長含め乗組員に確認してそれぞれの国に報告を行う予定です」
「追加で、俺の出動費も請求しておいてくれ、タダで助けたとなるとそれを利用する輩が出るからな」
「そこはもちろん。手を抜かないように通達しておきますね」
物的被害は出たが、人的被害はゼロ。
後味の悪い結果にはならなくて何よりだ。
確認が取れて、ひとまずは安心。
「ああ、本当に無事に終えてよかった。これでクリスマスが潰れるようなことがあったら呪うところだぞ」
「次郎さんが呪うと本当に起こっちゃいますよ?」
「おっと、こういう時は神の力が不便だ。冗談も言えやしない」
「では、私たちとの時間が潰れても何もしないと?」
「それこそ冗談だろ。責任はしっかりと取ってもらう。それが社会ってものだろ?」
おかげで、ちょっとしたブラック混じりのジョークもスエラに飛ばすこともできる。
「さてと、仕事に戻る前にちょっと休憩しないか?」
一仕事というには些か以上に大仕事だった気はするが、人命救助完了、損害確認終了とおおよそすることはしている。
背後関係の洗い出しは別部署担当と、ここにいても仕方ない。
書類仕事から解放されたのなら、コーヒーを飲む時間くらいは確保できる。
「もう、エヴィア様に怒られますよ?」
「大丈夫、この後少し本気になれば巻き返せる程度にするから」
「仕方ありませんね」
大仕事を終えてすぐに仕事に戻るのはさすがに酷と感じてくれたのか、スエラは苦笑しつつ了承してくれた。
「と言っても、自販機でコーヒーを買うくらいの時間しか確保できないがな」
「ですが、こういう風に休むのもいい物ですよ?」
「隣にスエラがいるからか?」
「それを頷いてしまうと私がナルシストみたいになってしまいますので、ノーコメントです」
俺はブラック、彼女は微糖。
普段淹れてもらっているコーヒーとは違う味わい。
たまに飲みたくなる味と言えばいいだろうか。
ゆっくりとちびりちびりと、寒空の下の自販機の前でコーヒーを飲む。
「良いじゃないか、事実俺は幸せだ」
「そう言うなら、私も今一緒にいれて幸せですよ」
「一緒にいられるだけで幸せか……冷静に考えればそれって贅沢な話だよな」
「そうですね。戦争を経験した分そう思ってしまいます」
命の軽さを知ってしまった俺たちにすれば、何気なく一緒にコーヒーを飲める。
こんな何気ない時間も贅沢な部類に入ってしまう。
もうそんなことができなくなってしまっている人だっている。
それを考えればなおのことというやつだ。
さっきの事故も一歩間違えればそういうことが起きている可能性は十分にあった。
「……昔は何のために働いているかわからなかったな、ただただ生きるためだけに働いて金を稼いで、生きているだけと言われるがままの人生だった」
「今は?」
「だいぶ変わったよ。転職して、スエラと出会って、そこからいろいろと経験して、価値観もだいぶ変わって平和が大切だってことは実感できたよ。おかげで家族と一緒に生きるためっていう生きる理由が一番しっくりとくる。誰かと一緒にいたい。その願望が人として一番納得できる」
「私もです。昔は、国のためと世界のためと働いていましたが、こうやってふと立ち止まって考えてみると、誰かのため、いえ、だれかと一緒にいるために生きているのが大切なのだと」
ゆえに、少し感傷的になってしまう空気が流れてしまう。
「「……」」
途切れる会話。
だけど、その静寂も心地よく感じる。
気まずさは感じない。
隣にいてくれる。
それがこんなに贅沢だと感じられるようになったのはいつだっただろうか。
そんなことを考えていると俺のポケットから響く着信音。
「時間切れですね」
「ああ、そうだな」
念話で呼び出さない辺りが情けか。
スマホを取り出して画面を見れば、エヴィアから短く。
『仕事の時間だ』
彼女らしい文章を見て、つい口元が笑みを浮かべ。
「仕事に戻るか」
「あ、次郎さんネクタイが曲がってますよ?」
「あ、さっき動いたときにか?」
「直しますのでこちらに」
仕事モードに戻ろうとする俺をスエラがわずかに引き留める。
だらしない格好はできないのは立場故か、それを素直に受け止め向き直り、スエラの細い指がそっとネクタイに伸び。
「「……」」
掴むことなく俺の首に手を回すと、そっとキスを交わした。
「油断大敵です」
「この油断はしたいところだな。やる気が出る」
「でしたら、続きは明日です」
「ああ、ラストスパートだ」
やる気補充をして互いの仕事に戻る。
なにせ忙しいのは今日まで、終わりが見えれば仕事というのはやる気が出るものだ。
クリスマスイブ。
激務を終えた先、ここからは俺は将軍の田中次郎でも、AWC社長の田中次郎でもない。
田中家の父親であり夫である、個人の田中次郎に戻る。
「似合っているか?」
「エヴィアは赤が似合うが、今回は綺麗というよりもかわいいと言った方がいいか?」
「ふむ、たまにはこういう服を着るのも悪くはないか」
田中家では待ちに待った家族でのクリスマスパーティ当日を迎えることができた。
「あー?」
「ふむ、どうだルナ?」
「マー!」
「可愛いだってさ」
「我が娘ながら、なかなかの審美眼の持ち主のようだな」
メモリアに頼んで用意してもらったのは、家族のクリスマス用のコスプレ衣装だ。
どこから情報を入手したのか、サンタクロースの格好をしてパーティーをするのが面白そうということでわざわざ安っぽい量産品ではなくオーダーメイドで用意してしまったわけ。
子供たちはサンタクロースではなくトナカイの格好をしている。
着ぐるみっぽいパジャマに身を包んだルナが、ミニスカのサンタ衣装に身を包んだエヴィアに拍手を送る。
「ママ~!ケーキ食べていい?」
「ダメですよユキエラ、ケーキはご飯を食べた後です」
「たべたい、です」
「サチエラ、動かないでください。はい、着れましたよ。あと、じっと見てもダメです」
サンタクロースは本当は子供が眠った後に現れる存在なはずなのだが、今、屋敷のロビーには大量に出現している。
エヴィアと同じサンタの衣装に身を包んだスエラがケーキに手を伸ばすユキエラを嗜め、サチエラの着替えを手伝っている。
そのそばからカシャカシャとシャッター音が響く。
「私の娘は世界一可愛いです」
「む、楓も負けていないぞ!」
「「ああー?」」
トナカイの格好をした楓とソフィが並んで寝転んでいて、それに対してメモリアがスマホを構えて激写している。
そしてメモリアの言葉に触発されて、料理を運んでいたヒミクもスマホを取り出して二人を激写し始める。
「二人ともほどほどにね。まぁ、こんなに可愛くなっちゃたら自慢したくなる気持ちもわかるけど。ねぇミルネ」
「あう?」
椅子に座って、トナカイを抱き上げるサンタこと、ケイリィはその気持ちに共感しつつ抱き上げている愛娘に共感を求めていたが、さすがにわからないだろ。
元々は聖人の誕生日だったはずだが、異世界から見れば、面白い行事程度の感覚で始まるクリスマスパーティー。
家族で集まり、ご馳走を囲い、楽しい時間を一緒に過ごす。
屋敷の外を見れば、わざわざ業者を手配し、もみの木を用意して、豪華に飾り付けたクリスマスツリーが輝く。
要はクリスマスという体をなした宴会でしかない。
ここに厳粛さなどなく、気軽さだけが備え付けられ。
「次郎さん、しっかりとプレゼントは用意できました?」
「ああ、なぜか無駄に技術力を結集した袋の中に入れてある」
さらには、サンタのプレゼント袋にはファンタジーが詰め込まれた。
マジックバッグの要領でサンタの袋は魔改造され、子供たちへのプレゼントと妻たちと俺が用意したプレゼントが入っている。
俺もしっかりと例にもれず、サンタの格好をして袋を肩に担いでいるわけで。
「なら、そろそろ始めましょうか。はい、ユキエラ、サチエラこっちですよ」
「ルナ行こうか」
「よいしょ、ミルネも行こうね。二人とも撮影会はそろそろ終わりよ」
「む、わかった。楓」
「ソフィも大きくなりましたね」
ここに、トナカイとサンタが大集合した。
まぁ、妻たちが子供を抱き上げているという面白い光景が出来上がったわけだ。
「それでは、次郎さん始めてください」
「頼むぞ次郎」
「お願いします」
「ジィロ、かっこよくな」
「いや、ヒミクさん掛け声にかっこよくとか……あるわね」
そんな面々の前で、俺は笑いつつ、こういう始め方でいいのかなと内心で首をかしげて、そしてまぁいいかと納得する。
「それじゃ、せーの!」
今夜はきっとこれからの未来のなかで、ありふれた一日になるかもしれない。
「「「「「「メリー・クリスマス!!」」」」」」
だけどいいんだ。
こうやって、平和にみんなで笑顔で楽しめる一日を迎えることができるのだから。
今日の一言
メリークリスマス!!
追加の出来事
「……子供が増えたなぁ」
年を越したとある日に、妻の一人からそう言われ、別の意味での聖夜を頑張りすぎたことによる結果を俺は噛み締めるのであった。
ご愛読ありがとうございます!!
久しぶりに書くかと筆を取ったらまさかここまで長くなるとは、前後編で分けるかとも思いましたが、分けるタイミングが見つからなくて長くなってしまいました。
楽しんでいただけたら幸いです。
このAfterstoryに関してはこんな感じでゆるく、そして不幸は基本的に起こさない方針で書いていきたいと思います。
番外なのでいろいろなキャラにスポットを当てられたらいいと思っております。
さて、最後にお知らせですが、明日の十二月二十五日、クリスマス当日にもう一つ皆様にプレゼントをご用意しております。
本作を完結してから、空いている時間に前々から考えていたプロットに肉付けに着手した結果、単行本一冊分を書き上げましたので、明日から新連載を開始します。
とりあえず、一か月ほどは毎日投稿をしますのでよろしければ読んでください。
タイトルは
俺はこの世界がモブでも【廃人】になれば最強になれることをしっている
です!!
今回は異世転生に挑戦してみました。
一度、シリアスすぎるから読みづらいと言われ、確かにと思って今度はシリアス部分を抑え、できるだけコミカルになるようにイメージしました。
楽しんでいただければ幸いです。




