784 やっちまったとしか思わなかった
これにて今章は終わりとなります。
「人間を辞めるとはよく言っていたけどなぁ、神か、神かぁ」
「実感はできませんよね」
「そりゃ、そうだよ。これで俺の属性が、人間に竜族、それに神……なんだこりゃ」
スエラから聞かされた事実に思わず指折りで自分の中身に入ってしまったモノを勘定してしまう。
人であるという自覚を持ちつつ、竜の血をもって人外になり、さらに魂に神の要素が加わって、最早こんな俺を人と区切っていいのかも怪しくなってきた。
「あと」
「まだあるの?」
「はい、どうも次郎さんの魂に混じった神の力なんですが……太陽神の力ではないようでして」
「……」
自分の存在そのものが人と呼べるのかと疑問符が付属されそうな現状に、申し訳なさそうにスエラがさらに情報を加えてくる。
「もしかして……アイワ?」
そして太陽神の力ではないのなら、それ以外の神の力が混じっているということでそこに限って言えば悪いことに心当たりがあったりする。
「……はい、これはスサノオ神の診断なので間違いないかと」
「違う世界とはいえ、神様が見間違えるはずがないかぁ」
太陽神の力はあの場で霧散し、どこかに散っていった。
その散った内の何パーセントかが俺に入り込んだと最初は思ったが、俺の手で直接倒し、あの時の祝福染みたアイワの台詞を思い返せば、そうではないのは明白。
「俺が目覚めなかったのは……もしかしてそれが原因だったりする?」
「はい、医師と神官様はそのような見解を示していました。最悪は、次郎さんが一生目覚めることはないかもと」
そしてほかの将軍と比べて一番寝坊をした原因を指摘する。
そうすると、不安が帰ってきてしまったのか、スエラの瞳に涙があふれてきた。
「おっと、すまん。不安にさせるつもりはなかったんだ」
「い、いえ。大丈夫です。こうして目覚めてくれたのですから」
手で涙をぬぐうスエラを見て、本当に心配をかけたのだともう一度実感して申し訳ないと思った。
「その、な。このまま聞くのも何なんだけど俺の体ってどうなってる?健康とかそっち方面で」
「あ、そうですね。そっちの方もお伝えしないと」
しかし、これで終わりというわけにもいかないんだよなぁ。
さすがに神の力、この場合はアイワの前世の戦いの神の力と言えばいいのか?そこら辺が混じりこんでいる状態で健康であると断言はできなかった。
「肉体的健康面は問題ありません。左腕も正常に接合できましたし、神経も繋がっています。傷つけられた内臓の方も修復して正常に動いていますし」
「肉体的というと、ほかの面で?」
「はい、次郎さん。いま思ったよりも力が出ないと感じませんでした?」
「ああ、そういえば、そうだな。てっきり何か後遺症が残ったのかと、そう思ってたんだがその言い方だと違うんだな」
となれば、そこを確認しないわけにはいかなかった。
闘った結果、あの激闘の末俺の体に変化が起きたんだ。
そこを知らずに今後の生活ができるわけがない。
「はい、現在次郎さんの体には魔力の封印措置が行われています」
「封印措置?」
「そうです。何故と理由を説明するよりも見てもらった方が早いですね」
それを教えてもらうために、スエラは俺の上からどいて、そっと背中に手を差し込むと俺の体を起こしてくれた。
「次郎さん、私がこれから一部分だけ封印措置を解除します。その際に全力で魔力制御を行ってください」
「その言葉の時点で俺の体に何が起きているかが察せてしまったんだが……」
「知ると体感するとでは認識が違いますからね。では、いいですね?」
「久しぶりだなぁ、こうやってスエラが強引に進めるのは」
そして右腕を上げさせ、そっと俺の右手を両手で包み込んだ。
やるやらないではなく、やらないといけないと決行するスエラの強引さに従って、握りこまれた右手に集中する。
「いきます」
「おう」
そのまま流れるように、俺の右手に施されている封印措置だけを解除した瞬間。
俺は初めて自分の魔力で背筋が凍るという経験をした。
スエラに言われて真剣に魔力制御をするという気構えがなければ、大惨事を引き越していただろう。
「これが、神の力」
「その一部ですよ」
以前の俺の持つ魔力の数十倍の魔力が一気に封印措置を解除した右手からあふれてきた。
思わず必死にそれをとどめることで、この部屋が高濃度の魔力汚染室にならなくてホッとする。
右手を見れば、そこには徐々に魔石化し始めている魔力の塊が存在している。
魔力を物質化するには、膨大な魔力が必要とされ、それは誰よりも魔法の得意なフシオ教官でも難しいと昔聞いたことがあった。
その現象を、魔力を制御するだけで成し遂げてしまうバカみたいな俺の魔力には苦笑するしかない。
「はははは、マジか」
「はい、見ての通り次郎さんの魔力は現状魔王軍でも最高峰、それこそ今は魔王様すら上回りました」
「うわぁ、それって知られたら派閥争いとか面倒なことが起こりそうな予感」
「現在は療養との名目で、面会謝絶をして情報規制を敷いていますので問題ありませんよ。ですが、今後のことを考えればそうならないようにしないといけませんね」
改めて封印措置を施され、魔力制御をしなくていい状態になってようやく一息をつけたけど、退院したあとの面倒事を思いため息を吐きそうになる。
「今後かぁ、三か月も眠ってたらさすがに戦争は終わったんだよな?」
その厄介ごとを想像するのもいいが、寝起きの頭がどんどん覚醒していくと現状を把握したくなる。
「終わっていますよ」
どう終わったかは気になるが、とにもかくにも戦争自体が終わったというのなら一安心だ。
「先月に帝国と魔王軍の間で終戦協定が結ばれました。これによって戦争が終わり、魔族とイスアルの住人との交流を進めるためにいろいろと動いてますよ」
「そうか、だけど騒動とか起きそうだよな。さっき樹王とか竜王が治安維持活動しているとか言っていたし」
「そうですね、現状一番の問題は活動を停止した天使ですね」
「天使?」
しかし、ここまで盛大にやらかした戦争の戦後処理をするとなれば、一年や二年では復興は終わらないだろうな。
甚大な人命の損失、戦争による都市の壊滅、太陽神やアイワがやらかした戦争の傷などなど、指折りで数えるだけで頭が痛くなりそうなほど問題は山積みだ。
しかし、スエラが挙げた問題は俺の想像の斜め上を行った。
天使と言えば兵隊として戦ったあの天使だろうが……
「天使は次郎さんがアイワを倒した後すぐに動きを止めましたが、問題はその数なんですよ。力のある天使の中でも階位が高い個体は自立で活動するケースもありまして……中には暴走する個体が群れとなって破壊活動をすることも……並みの兵士では立ち向かうことができませんので、魔王軍と帝国主導で天使の回収作業と並行で旧王国とトライスの残党処理がなされています」
「ヒミクのことを考えると、天使が災害の象徴とかにならなければいいんだけどなぁ」
「魔王軍としては、災厄から民を守るという構図を描けますので交流の地盤が作れると喜んでいますけどね」
「政治家は怖いなぁ」
世界中に散らばった天使の数が多すぎて、回収しきれていない様子。
話を聞けば、農作業をしている農夫の妻となった天使もいるとか、山賊の最終兵器になっている天使もいたり、中にはシンプルに教会の象徴として存在していたりといろいろな話を聞いてあきれて何も言えなくなる。
「ですが、間違いなく私たち魔族の悲願は達成されそうです」
「それって……」
「ええ、大陸とイスアルの統合、それが私たちの魔族の悲願。太陽神の権能をルイーナ様が取り込み彼の方が統合神となりました」
世界は変革の時が来た。
そうスエラは語る。
「時間はかかりますが、徐々に大陸をイスアルに移す計画が進行しています。十年先か二十年先か、あるいは百年先かはわかりません。ですが、いずれはその時が来ることが確定したことは紛れもない進歩ですよ」
嬉しそうに、誇らしそうに、そして未来を楽しみにできる。
そんな笑顔で、この戦争で手にした結果を喜んだ。
悲しいこともたくさんあった、つらいこともたくさんあった。
予想外のこともあれば、ふざけるなと憤ることもあった。
だけど、それを越えた先にこの笑顔があれば。
「そうか、それなら頑張った甲斐はあったな」
「そうですけど、次郎さんは頑張りすぎです。あんなにぼろぼろになるまで戦って、なかなか起きなくて、本当に皆で心配したんですよ!!退院したらみんなでお説教ですよ!」
仕事を頑張った甲斐があると思える。
過去の仕事は何のために頑張っているかわからなかったが、この愛しい人が笑ってくれるための世界を作れる一助になれたと実感できたと思えるとついついつい口元が笑ってしまう程度にはうれしくなる。
「もう!笑わないでください!!本当に心配したんですよ!!」
「悪い悪い、いや、なんだか、生きてるっていいなっていきなり思ってな。こうやって心配されるのも生きているからこそだと喜べるんだよな」
言葉にするには少し気恥しくなり、誤魔化すが、誤魔化し切れないほどに嬉しさがこみ上げ本音の半分くらいは吐き出してしまった。
スエラ、メモリア、ヒミク、エヴィア、ケイリィ、彼女たちからの説教なら喜んで受けるとしよう。
だけどその前に俺はスエラの手をそっと取る。
「さすがにしばらくはあんな殺し合いはこりごりだ。社長に有休の申請すれば通るかね?ざっと一か月分くらい一気に申請して皆でのんびりしたいよ」
「もう、またそうやって誤魔化しても、騙されませんよ」
握った手をそっと握り返してくれ、そして寄り添うように体を寄せ合う。
この温もりを感じ取れる。
これが勝って生き残ったからこそ感じ取れる特権。
諦めた先には何もない。
諦めなかったからこそ手に入れられた未来。
「本心だよ。俺って、ここ最近働きすぎじゃない?」
「三か月眠っていたので、働いていませんよ?むしろ仕事が溜まりに溜まっています。ケイリィやおじいさまが代理で処理をしていますけど、それでも次郎さんが決裁しないといけないこともたくさんありますし。戦後処理のことと地球との交流のことを考えれば、この先一年は有給申請は通らないでしょうね」
「マジか」
「はい、次郎さんがやらないといけないことはまだまだたくさんありますよ」
優しく微笑むスエラの笑顔が隣にある。
「そっかぁ、戦争が終わったからスエラたちとの結婚式もやりたいんだけどなぁ」
「それなんですけど」
さすがにこれだけ苦労したんだ。
「エヴィア様から通達がありまして、私たちの結婚式はイスアルと地球の国交を繋げるための場になると言われまして、このまま封印措置を施された状態で結婚式を迎えるのはさすがに危険なので、次郎さんには早急に徹底した魔力制御をマスターするようにだそうです」
「え?」
ここから先は少しくらい良いことがあってもいいんじゃないかと思うんだ。
具体的に言えば、少しのんびりと家族団らんを楽しむ時間くらいは確保してもいいと思うんだ。
だけど、世界は社畜の俺にのんびりするということを許してはくれず。
「次郎さん」
「はい」
「私は、いえ、メモリアも、ヒミクも、エヴィア様も、ケイリィも次郎さんとの結婚を待ち望んでいます」
「はい」
愛しい人の笑顔はまぶしく。
そしてその愛しい笑顔に惚れた男は逆らうことはできず。
「リハビリと訓練を並行しながらお仕事頑張りましょうね」
「わかりました」
俺はこれからの未来に奔走するのであった。
今日の一言
やるしかない。そんな時もあるんだよ!!
まずは長年のご愛読を感謝いたします。
執筆しもうすでに九年目という長い月日が過ぎました。
ここまで書き続けられたのは様々な読者の方々が呼んでいただいたからだと思っております。
次章からエピローグに入ります。
終わりまで残りわずかとなりましたが最後まで完走しきりますのでどうかよろしくお願いいたします。
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
現在、もう1作品
パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




